さらに試験内容を少し増量しておりますのでご了承ください。
それでは、どぞ!
1 VSランク ① [試験前の夜は徹夜だよな]
俺は二宮金次郎になった。
手に持つ参考書を睨みつけながら、朝の心地いい道を歩く。その目は周りの目線など気にせず、ただ参考書にだけ視線を注ぐ。
少しの時間も無駄にはしない。その姿はまるで薪を背負っての道中に本を読んで勉強する二宮金次郎の様。
まさに学生の鏡、今の俺チョーかっこよくない?
実際周りから見られてるかどうかなど問題ではない。俺の中で今モテてんじゃねと思い嬉しくなることが重要なのだ。
そう、例え現実と真逆の考え方でもだ!
…余計なことを考えてしまい、慌ててまた本を凝視した。他のことには全く気にせずに勉強しなければならない
だって
「…弾が詰まることが…ジャム?回転式拳銃が…リボ、リボルバー?…は?」
今日は2年生になって初めてのランク考査の日、つまりは定期テストの日なのだ。
かなり自信がない。
前日から頑張って教科書と睨めっこしているのだが頭に入ってこない。一つ覚えたと思ったらその一個前をすでに忘れていたりすることばかりだ。
どうして銃一つ一つで名前違うんだ。弾入れて撃てたら全部一緒だろうが。
頭の中でムガー!!とパニックになることも数回あった。それでも結局やらないといけないと気づき取り組むの繰り返し。…なんなんだこのループ。どうしたら抜け出せるの?
「ピースメーカーは別名コ、ルト?SAA?…もう別名じゃん。…あーもー無理だってぇ〜どらえーー」
思わず青だぬきを呼ぼうとしてしまうほど、俺は限界だった。
もう嫌だ。1年時は一般高校に行こうと思っていたからだから五教科などの武偵高ではあまり評価されない部分の勉強を真剣にしていた。その分こちらの勉強は0と言っていいほどにしていない。1年時には覚えることすら全く記憶になかった。例えるなら英単語のような感覚だ。マズイ、本気でマズイ…
だが、避けては通れぬ道。
今日一番にあるのが記述式試験だ。実技が先にあればその間間に一個でも覚えられるものを…!
教師陣の考えが甘いよな。
もっと俺たちに抗う術ってやつを…ああいかんいかん。また余計なことを考えてしまった。
少しの時間も無駄にしないように俺はまた、二宮金次郎としての姿勢を貫く。そう、こういう時こそ周りに無関心に、ただ集中してーー
「あ、おっはよーしゅーちゃーん!!」
「……。」
ただ、無関心に…集中してぇ。
思わずこめかみを抑えた。
「朝に会うって久々だよね!まー理子が時間ギリギリに走ってばっかだからなんだけどさ!いやー昨日も『オオカミ少女と黒王子』見てたら寝るの遅くなっちゃって〜!もー恭也カッコよすぎてさー!ドSの中にある優しさがもうサイコーでーー」
突然やってきた金髪ビッチアホオタクギャルが俺の横で俺の知らないアニメをベラベラと話し始めた。
いや、いつもならいい。いつもは俺もその話聞くし。その後に見せに来るアニメに俺もハマってしまうことが多かったから、いつもなら、いつもなら俺も聞き耳を立てるのだが…
今日は勘弁してほしい。
「悪い理子、今日は俺はニノキンなんだ。少しの時間も割くわけにはいかないんだよ」
「ニノキン?」
あざとく首を傾げる(顔のいい奴がやると本当に可愛く見えるのがつらい)理子を俺は驚いて見た。
こいつ、まさかあの二宮金次郎を知らないのか?
「にのっちゃんだよにのっちゃん、よくいるだろ?」
「にのっ、ちゃん?ねえしゅーちゃん。それ誰?友達?」
…マジかよ。
「おま、二宮金次郎知らないのかよ。歴史の偉大なお方だぞ」
「あ、二宮金次郎ね。略し方独特過ぎて分からなかったよ」
こいつあの偉大なお方にのさんのこと知らないのかよ。俺としては考えられないことだな。…まあ俺もテスト前くらいにか思い出さないが。っとそんなこと考えてる時間も勿体ない。
「とにかくだ。俺は今忙しいんだからアニメの話しは後な後。隣で歩いてていいから黙ってろ」
「あそっか、今日ランク考査の日だっけ。しゅーちゃん受けるんだ」
「おう、だから今余裕ないの。いいから、黙って隣歩いてろって」
「…ほーい」
つまんなそうに唇を尖らせる(あひる口という奴か?)理子だが、まあ、いつも聞いてるし今日くらい我慢してもらうとしよう。こちらも余裕は無いのだ。アニメの話ならいつでもできるだろ?
俺はまた本を開いて格闘を開始した。
えっと、なになに?コルト…デネクティブクス…いや、デネクティブスペシャルか。んで次が…コルト、パイソン?
あ?どっちも似てるじゃんもう一緒でよくね? ダメかそっか。
「はあ、わけわかめ」
「……ねえねえしゅーちゃんしゅーちゃん」
「あ?今お前に構ってる暇はないって」
ちょんちょんと袖を引っ張ってくる理子。
「しゅーちゃんさ、銃の名前覚えてるけど、それって今回の試験にほとんど出ないんだよ?」
「……え?」
俺はニノキンモードを解いて(かっこいいだろ?違うか、違うな)理子を見る。
まさか、昨日から覚えていたのがほぼ出ない、だと?
「名前って一年生の項目だし。2年のしゅーちゃんはもっと難しい問題じゃないかな?このへんとか」
理子が俺の持っていた教科書をパラパラとめくり、あるページで渡してきた。
「…『コルトM1911のマガジンサイズは?』『シグザウエル P226の特徴は?』…」
俺は、天を仰ぎ、目を細めて、笑った。
うん、無理。
出題範囲間違えてたとか…ニノキンモード、カスだな。
そもそも、コルトなんてらとシなんてらって…どれ?俺の教科書には書いてないよん?俺が無駄に覚えた知識にそんなものは無かったはずだ。
…あ、あった。
「しゅーちゃん、それ7。あと下は水につけてもある程度は大丈夫ってこと」
「…すげーな」
「いや、覚えてないしゅーちゃんがおかしい。これ習ったよ?」
「嘘つけ」
「本当だって。…あそっか、しゅーちゃん授業寝てたもんね。それならそうなっても仕方ないか」
くふっと笑う理子。
うぐ、見られてたか。確かに2年から頑張ろうとは思っていたのだが、そもそも言っている意味がわからない授業は眠さとの格闘なのだ。
ほとんど負けてる、というか勝った覚えないか。…って、あり?
「なんでお前、俺が寝てるの知ってるわけ?俺お前の左後ろだぞ?」
「…あー。えっと、それは〜」
そう、授業中俺を見るってのはつまり理子はわざわざ後ろを見たことになる。…なんで?
「しゅ、しゅーちゃんのアホな寝顔を撮ってたんだよ!そんなことよりさ、理子が重要そうなとこ教えてあげよっか!?」
なぜか慌て出す理子に本気で首を傾げつつ、最後の言葉に飛びついた。…撮ってたという部分はあとで尋問だ。最悪削除するまで家から出さんぞ。
「マジで!?お、教えて教えて!」
「くふ♬えっとねーまずここで〜♬」
上機嫌になった理子が饒舌に話す中、俺はその一つ一つを丁寧に聞き、できる限り頭に叩き込んだ。いける、いけるかもしれんぞ今回は!!
そうして結局、黙ってろという言いつけを俺自身が破らせる形で俺は理子の教えを聞きながら学校へと向かったのだった。
ーーーーーーーーーー
「289番…289番っとここか」
俺は記述試験の会場に入り、手渡された紙に書かれた番号の場所に向かう。
武偵高校の記述式試験は普段の教室ではなく、専用の場所で行われる。
教室にある机一つ一つには、カンニング防止用の壁が取り付けられており、番号が振られている。
まあカンニングに関しては俺の場合、見てもその意味がわからないからしょうがないんだけどな。
そして、この試験には普通と違うことがもう一つある。
「・・やっぱパソコンかよ」
俺は椅子に座りため息をついた。
そう、ここの試験は紙とペンを持ち、解いていくわけではない。
パソコンを使う。
しかも
「・・電源、どこ?」
俺は機械がかなりの苦手分野だったりするわけで。
1年時は基本リサとしか電話しないし、他に機械を使うことがない。日頃もテレビをつけるくらいのことしかやっていないため、機械そのものに触れることが少ないのだ。
確かに去年の定期テストでも同じようなパソコンを使ったはずだが・・あー、やっぱ覚えてない。
去年は試験を説明に来た先生を呼び止めてなんとかしてもらったが・・あれは無駄に目立つから嫌なのだ。
周りからクスクス笑われることは、何度やられても慣れることはない。
それからしばらく適当にボタンを押すが起動しない。どこだ?
先ほど別れた理子のことを思い出す。あいつは俺と違って無駄に機械に強い。というか強すぎる。セグウェイもどきを1から作ったというとだし、どういう頭してんの?いつもあんなアホなのに。
それから10分、とにかく適当にポチポチポチカタカタ押すが、反応がない。周りの生徒が次々と立ち上げるのをチラと見て焦り始めていた。
この試験では天井からカメラで生徒を確認している。つまり、このままだといつもと同じように、説明に来た先生を止めないといけない。
そのときのことを考えて顔が少し熱くなった。
あー嫌だ。目立ちたくねぇ・・。
「あれ、岡崎先輩」
「あ?」
俺が頭を抱えていると、横から声をかけられた。
「・・あぁ。チビアリアか」
「だから間宮あかりだよ!」
いや、児嶋だよ!みたいに言われてもな。
アリアの戦妹である間宮あかりが立っていた。間宮もテスト受けるんだな。
「なんでここにいんの?一年も一緒のクラスな訳?」
「そう、みたいですね。・・岡崎先輩、そこなんですか」
どうやら教室で学年を分けているわけではないらしい。
・・というかどうしてそう嫌そうな顔をする。別に俺がここだからって・・あ。
俺は右の空いた机を見る。そこはまだ誰も座っていない。
「お前もしかして、そこ?」
「はい、そうです。・・・。」
少しブスッとした表情をした間宮。こいつの中で俺は夾竹桃の仲間だもんな。実際そうだし、反論ないけど。
敵として見ててもおかしくないか。まあ、しょうがないよな。俺だって間宮の立場ならそうする。理子や夾竹桃を殴った相手と仲良くできないのと同じだろう。本人がいいといっても許せるものじゃないし。
そう思い俺も間宮から顔をそらす。こういう敵対関係も武偵高ではよくあることだ。俺たちみたいに任務で敵同士になったりすることもある。決して珍しくはないが、
ちょっと嫌だなこの関係。
そう考えていると、説明の先生がやって来た。
・・・あ
「なあ、間宮」
俺はつい忘れていた
「え?あ、はい、なんですか?」
目の前にある、最悪の事態に
「その・・このパソコン、どうつけるの?」
「・・・」
や、やめて!そんな目で俺を見ないで!!
間宮はため息をつきながらも、起動ボタンの場所とシャットダウンの仕方まで丁寧に教えてくれた。
意外と、優しかった。
ーーーーーーーーーー
『けっこう出来たよ!』
近くからドヤっている間宮の声が聞こえる。間宮のいつメン達がわーっと集まっていくのを見つつ、俺はため息をついた。
愛されてるなあいつ・・いいな。俺と同じEランクなのにすげえなぁ。
いつもは別に気にしないことを、やけに気にしてしまう。
それはいまの俺の感情がだだ下がりしているからか。試験室を出た俺は意味無くキョロキョロと辺りを見渡し、ため息をひとつ。
完全敗退だ。
惨敗した。点数はまだ出ていないが、そもそも意味がわからない問題ばっかりだった。
とりあえず答えもどきを書きまくり、一応全て埋めることは出来たが、期待が全くない。
肩を落としながら歩く俺を不審な目で見ている間宮達女子陣。流石に嫌っている相手でもこう落ち込んでると心配してくれるのかね。
などと考えていると、
「あら?修一じゃない。あんたも受けてたのね」
「・・・おーデカアリア」
その女子の中にアリアもいた。間宮の声援に来たのだろう。ちゃんとお姉ちゃんやってるんだな。同級生として鼻が高いぜ。・・なんて
「デカ?ってそんなことよりどうしてそうも落ち込んでるのよ」
「・・話すのもツライ」
「・・・あー」
どうやらアリアでも察したらしい。アリアも日本に慣れてきたなと感じる。
そうそう、そういう察せるところが日本人のいいところ。
・・徹夜でなんとかなるさと思うのは日本人の悪いところだけどな。
俺だけ?嘘つけ。
「ま、まあ結果出るまでわからないじゃない、落ち込むのは早いわよ」
「・・全部埋めはしたけどよ」
アリアらしい前向きな言葉。だが、いまの俺には少ししか響かない。なにせ埋めたと言っても『いいと思います』とか『感覚で』とかそんな感じだからなあ。
ポンポンと肩を優しく叩かれるのはちょっと嬉しかったが、睨んでくる間宮が怖い。これでもダメなのかよ嘘だろ。
いまさら間宮に怖がってもしょうがないかとアリアと話し始めようとした時
部屋にある大きな液晶画面から結果を発表するアナウンスが流れた。
「あ、ほら!結果出たみたいよ!行きましょ!」
「おい、引っ張るなっての」
アリアは俺の手を引いてその液晶画面が見やすい場所へ移動する。アリアが俺と一緒にいるので間宮達も同じ場所に集まった。
俺の中でなぜかワクワクする自分がいた。確かに点数は最悪だろうと予想できるが、それでももしかしたらテキトーに書いた部分が合っていて結構いい点を取れてたりするかもなんて期待してしまう。
そして、点数が表示された。
どうやら点数順に並んでいるらしい。可能性として1番上はない。まず無い、あるとしたら真ん中から下辺り・・・あり?ない・・・ない
・
・
・
290 間宮 あかり 28点 Eランク
289 岡崎 修一 8点 Eランク
以上
「な、なんでえええ!?」
「・・・oh」
俺と間宮はガックリと膝を落とした。以上って、俺最低点かよ。というか、間宮が一個上かよ。こいつ頭悪いな。・・俺が言うなってか。せやな。
俺たちの結果に頭を抱える一同。そして、間宮の持っていたメモ用紙を確認しだした。
「第33問 オートマチック拳銃の命中精度に関わる問題を書け」
「価格」
「才能・・あ、なるほどそっちか」
アリアが読んだ問題に間宮と俺がそれぞれの答えを出す。しかし俺は自分のミスに気付いた。そうだ価格だよ価格。すごいな間宮。
「ケアレスミスだな」
「どこがよ・・どっちも間違い!」
「「ええええ!?」」
アリアの返しに特大リアクションで返しつつ、俺はもう一度結果を見た。
289 岡崎 修一 8点 Eランク
以上
ここまで『以上』という言葉に苛立ちを覚えたのは初めてだ。何度確認しても、俺の下は『以上』。・・最下位かよ。
「・・・はあ、んじゃなアリア、俺もう行くわ」
「え、うん。あ!午前の実技試験応援に行くから頑張りなさいよ!修一なら実技で取り返せるわ!」
「・・お前、絶対来るなよ」
「え、なんでよ!?」
「なんででもだ。絶対に来るな」
俺はアリアに念を押して辞めさせる。次は実技試験、しかも一対一の接近戦だ。もちろん、得意分野とも言える。というかそれ以外はカスだし。
・・だけど、どうしても知り合いには見られたくない試合なんだ。
12時50分 実技試験開始
ーーーーーーーーーーーーー
Riko side
「ふふ〜んふーん♬」
昼休み。ようやく普通の授業が終わり、修一の元へ行くことができるとウキウキしながら廊下を歩く。
修一も酷いものだ。あれだけ教えてあげたのに『お前いると気が散るから授業に行ってろ』なんて。
まあ確かに試験場にいてもすることはなかったけど、気が散るってのは酷くない?ま、どうせ点数低いんだし、慰めてあげよっと。
まあその後『教えてくれた礼に今日帰りなんか奢るわ。うまい棒でいい?』と言ってくれたから気が散る発言はよしとしよう。うまい棒発言は無視してパフェ奢ってもーらお。
というか、さりげなく一緒に帰ることを決定する辺り、修一もデキル男って奴だね!イケてる行動!さっすがー!
ま、本人はそんなこと全く考えてないだろうけど。アホだし。
上機嫌の私は『もう行っていい?』というLINEに返ってきた『今から実技だからダメ』という文をもう一度眺め、修一の元へ急いだ。くふ、ダメダメ言われたら行きたくなるのが理子なんだっていい加減気づくべきだね!
場所は第一体育館だ。
それほど大きくはない、普通の体育館の半分くらいの大きさの建物で、いつもなら卓球をやっているようだが、今は実技試験場となっているため全て片付けられている。
「うっわ〜凄い人」
そこに収まりきらないくらいの人が集まっていた。まあ武偵高の生徒はかなり多いからこれでも10分の1くらいだろうが、それでも体育館を埋め尽くすには十分だった。
え、なんでなんで?どうしてこうなってるの?
「あ、理子お姉様〜!!」
「ぬお?」
とりあえず人ごみの中に入ってみるかとしたとき、後ろから声をかけられた。
振り返るとそこには、元戦妹である島 麒麟と現戦姉の火野ライカが立っていた。
「おお〜りんりん!どーしてここにいるの〜??」
「ライカお姉様がどうしても岡崎修一の試験を見たいっておっしゃったので、麒麟もついてきたんですの〜!」
ブスッと頬を膨らませる麒麟。なるほどなるほど。麒麟は本当にお姉ちゃんが好きなんだね〜、でも修一は嫌いなのか~残念。
そう思っていると麒麟の後ろに立っている火野ライカが話しかけてきた。
「峰先輩こんにちは。これみんな岡崎先輩のテストを見に来たんですかね?」
「うん、多分そうだろうね。試験を受けてる人の大半が見に来てるみたい」
近くを通る生徒を確認してみれば、今日試験を受けている生徒ばかりだった。・・でも、その理由が分からない。1年時の修一の実技試験を見たことがないからなんとも言えないが、岡崎は参考になる戦い方をするのだろうか。
そもそも、修一をEランクだという要素が一つも見当たらない。
私の作ったセグウェイにも、この火野ライカも、アリアですら倒す、もしくは逃げ出すことに成功した男がEランク?全くわからない。
以前気になって調べてみたが、確かにデータだけならEランクで間違いはなかった。・・どうなっている?
「とりあえず、見れる場所まで行こうか」
「わかりました!」
まあ今から見れば分かることだと考え、2人を連れて人混みの中へ突入しようする。
「・・麒麟、人ごみは苦手ですの。食堂で席取りして待っていますの!」
心底嫌そうな麒麟。まあ、わざわざ入って嫌いな人を見るのは確かに嫌かもしれない。
「そっか。頼んだ麒麟」
「はいですの!!」
ライカに麒麟は元気よく答えて走って行った。
それを見届けた後、私たちは人混みの中を進む。
人をかき分け何とか進み続け、ようやく見える場所までついた。
まだ試験は始まっていないようで、会場もガヤガヤと騒がしい。
「そういえばさ、どうして見に来たの?」
火野ライカと修一の関係と言えば、夾竹桃の手伝い時に一戦交えたくらいだろう。となると、火野ライカが負けたことが悔しくて見に来たのだろうか。
「いえ、岡崎先輩とは任務中にトラブルになったんです。・・先輩は私をあの重症の中で倒しました。そんな先輩がEランクってどう考えてもおかしいです。だからその理由を見に」
なるほど、私と同じということか。
「くふ。そっかそっか。もしかして人が多いのも、しゅーちゃんの本当の実力を見に来たからなのかもしれないね」
「そうかもですね」
私たちはワクワクしながら試験が始まるのを待った。何だろう、ちょっとだけ私も緊張している。他人のことのはずなのに、ドキドキしてちょっと興奮していた。修一、頑張れ!
12時50分。試験を受ける2人がやって来た。
「・・・」
「くへへ」
ただぼーっと指定の位置に立つ修一と、ニヤニヤと嫌な笑い方をする坊主頭の
そのとき、ある違和感を感じた。
修一の様子がおかしい。
何かと聞かれてもわからないが、変だ。
隣の火野ライカを見るが、特に何も感じていないようでワクワクしている様子。
ということは、私の気のせい?
『うわあ、私もこんな感じで試験するのかな?人多い〜』
『そんなわけ、今回だけだって。お前知らないの?この試合は俺たちの「救済戦」って言われてんだぞ』
『・・それいまいち分かってないんだけど、どーゆこと?』
『ま、見てりゃ分かるって。安心できるぜ』
周りの生徒の会話が聞こえてくる。救済戦?一体どういうこと?
疑問だけが増えていく中、意識すると他の方からも『救済戦』という単語が飛んでいた。
・・・?
「ねーねー、救済戦って何か知ってる?」
「え?いえ、全く」
とりあえず火野ライカに聞いてみるも知らないらしい。
この観客は、いったい何を期待している・・?
不安が募っていくが、だからと言ってどうしようもなかった。
そして・・
「両者、前へ」
試験官が笛を鳴らし、ザワザワしていた室内が静かになった。
「相手はDランクですか。岡崎先輩なら簡単に勝てちゃいますよね」
「・・・うん、理子も、そー思う」
火野ライカの言葉に同意はするが、なんだろうこのモヤモヤした感覚は。
「それでは岡崎 修一 対 問武 敗過の試験を始めます」
試験官の話を聞きな流しながら、ある疑問を思い出していた。
修一の中学時代の剣道成績で、不審に思った点が一つある。どうしても答えを見つけきれなかった謎。
「それでは、始め!!」
修一は県大会決勝戦で
ドカッ!
1発KOで負けていた。
「・・岡崎修一ダウン!勝者、
「「・・・え??」」
あまりに突然の結果に2人して顔を見合わせる。そしてもう一度確認する。
突っ込んできた問武に一瞬怯んだ岡崎は、何故か一歩足を引いてしまい、その瞬間、修一の顔に蹴りが思いっきり突き刺さった。モロに受けた修一はその反動を殺せず、地面に倒れ、一発KO・・。
試合時間わずか1秒。あまりに早すぎる終わりに、しんと静まり返る会場。・・・そして
ワッ!と大きな笑いが会場を包んだ。
それはまるで漫才を見ている観客のように、ただただうるさい笑い声がノイズとして耳に入る。
あの蹴りは遅くもないが、速すぎる訳でもない、私やアリアの方が何倍も速いと断言できる。アリアと闘った修一なら避けられないなんてことはないはず、なのに・・。
『うっわー、弱っ。本当に弱いんだね岡崎って』
『だから言ってるだろー!ここは俺たち受験者の「救済場」だってよ!』
『あっはは、なるほどね!確かにあいつより恥ずい負け方なんてしないわww』
『そーそー!でもまさか1発KOとは思わなかったわ。弱すぎ』
『あいつなんで2年も強襲科やってんの!?まじ弱いんですけどww』
『ザーコ、ザーコ!!』
周りからは徐々に笑い声ではない、罵声が飛び始めた。試験官が止めに入るが観客からの笑い声が、絶えることは無かった。
そうか。
ここにきてようやく生徒の言っていた『救済戦』の意味が理解できた。
『自分は負けたけど岡崎修一よりはマシな負け方をしたから次は大丈夫』と思える試合を見に来たということか。見下して生きる生物が人間だとは知っていたが、まさかここまでなんて・・
・・なにがザコだ。本当の修一ならお前らくらい楽勝で勝てんだよ!
周りの笑い声を聞きながら怒りがふつふつと湧き出る。
「な、なんで1発KOなんて・・!?峰先輩!岡崎先輩今日体調悪いんですか!?」
観客の声に耐えきれなくなった火野が私の肩を掴んで叫ぶ。
「いや、朝も体調悪そうにはしてなかったし」
「じゃあなんで!?」
「・・分からない」
本当に分からなかった。どうして修一はほとんど動かず負けてしまったのか。
むくりと、立ち上がり、顔を伏せて会場を出て行く修一。
私達はまだ笑い続けているバカ生徒共に苛立ちを覚えつつ、修一を追った。
本当に、どうして。
ーーーーーーーーーーーー
「「はぁ!?極度のあがり症!?」」
「ああ」
体育館の隅で座り、空を眺めていると、理子と火野が走ってきた。その様子に少し驚いたが、どうやら試験を見ていたらしい。・・たく、だから来るなって言ったのに。
しつこく理由を聞いてくる2人に、俺は正直に答えた。
「ま、普通のあがり症とはちょっと違うんだけどな。なんか病院の先生が長ったらしい名前言っていたんだけど忘れた。…昔の話になるし、長くなるんだけど、聞きたい?」
俺の聞き返しに二人は頷く。…あまり話して面白い話じゃないんだが…。
俺は一度座り直した後、ゆっくりと話始めた。
「昔…中学生の頃、俺は中学校の問題児でよ。事あるごとにその辺の不良に悪絡みして喧嘩してたんだ。暇つぶしに、自分試しにとかテキトーに理由つけて正当化してな。
ぶっちゃけ楽しかったよ、センスがあったのかあの辺りが弱かったのかは知らんが勝ててたからな。
…ま、そんなことしていい生活なんて送れるわけがないんだけど。
ある日、20人くらいが俺に復讐するために学校に乗り込んできたんだ。全校生徒が帰ろうとしている下校時間に校庭に集まりやがって「岡崎出せ!」なんて叫びやがるんだよ。
…アニメみたいなこと本当にあんなぁなんて、そん時は軽く思っててさ、自分に才能があると思ってたから追い返してやろうって校庭に出て行ったんだ。
ま、結論を言うと勝てたよ。リーダー格の奴が強かっただけで他は弱かったからな。……。
…それが、一番問題だったんだ。
リーダー格の奴は俺より何倍も強かった。勝てないとすら思った。こんな奴が世の中にいるのかって驚くくらいに強かった。
こいつに勝ちたいーーそう、思ったんだ。
気づいたら、周りは血の海だった。俺はリーダー格の男の上に馬乗りになって顔面を何度も殴りつけていたよ。その日は雨が降っててさ、俺の手や顔についた血が下に流れてったよ。
そんで、その雨の音が周りの音をかき消していたことに遅れて気づいたんだ。
全校生徒がその様子を見ながらひそひそ話してたんだ。教室から、廊下から、校庭の隅から…みんなが俺を見ていたよ。
…蔑みとか侮辱的な目じゃなく…俺に恐怖する目でな。まるで化け物を見るような目で俺を見ていたんだ。もちろん俺と友達だった奴らも皆…俺のことをそんな目で見ていたよ。
そっからだ。俺は人前で戦えなくなっちまった。
戦う俺を見る観客の目線が、どうしてもあの時の目と重なる。それが怖くて…体が動かなくなっちまう。この拳を動かせば、これを見ている友達が、皆いなくなってしまう。…そう思っちまって…
俺はあがり症になっちまったってわけだ」
俺は長々と話して…空を見た。こんなこと話したのはこいつらが初めてだ。
「…しゅーちゃんさ、中学校の県大会でも1発KOだったよね?」
理子が俺の横に座りながらそんなことを聞いてくる。
「ああ、あん時か。剣道の顧問がどうしてもと言うから出たんだがま、結果は知っての通りだ」
「…そっか納得」
「怖くないのか?俺のこと」
話をし終えた後に横に座った理子にそう問いかけると、理子ははんと笑った。
「そんなことで怖いと思うのはパンチューだけだよ。そんな武勇伝なんてここのほとんどが待ってても不思議じゃないし」
「はい、私もそう思います。むしろ先輩のわけが知れて納得しました」
「…そっか」
こいつら、優しい奴らだな。火野に至っては殴り合いの喧嘩した仲だぞ?
「ま、もうこの話はやめよっか!それよりしゅーちゃんお腹空いてない?もー理子ペコペコなんですけど。ライちゃんは?」
「あ、はい。それなら麒麟が席を取ってくれているはずですからそちらで…」
話を逸らしたことに気づかれてはいるようだが、乗ってくれる辺り本当にいい奴だなこいつ。もっと違う出会い方をしたかったもんだ。
「しゅーちゃん、もう大丈夫なんでしょ?」
「………。おう、大丈夫だ!」
「そっか。わかった」
そう確認する理子。その言葉は色々な意味が込められているのだろう。
そう思い、俺は強く頷いて返した。
理解してくれる…。そう思った瞬間、心がすっと軽くなった気がした。
ーーーーーーー
「ど、どうして岡崎先輩まで来てるんですの!?」
「いやまあ成り行きでな。気にすんなって端っこでジッとしてるからよ」
「ダメダメしゅーちゃん。しゅーちゃんは理子とお喋りするの」
「もう暗記系ないから話なら聞くけどよ。・・チビ理子が怖いんだよ。ほら、今も噛みつきそうに・・」
島麒麟は理子と火野を見ると、座っていた席から立ち上がりてててと走って来た。そして、大喜びで火野に飛びつく。そこまではよかったのだが、俺の顔を見た瞬間、幸せそうだった顔が一瞬にして般若に。
やっぱりな、やっぱりな。ごめんね、俺も一緒で。
「ライカお姉様!どうして自分を傷つけた相手と仲良くしてるんですの!?」
「え?いや、別に仲良くしてるわけじゃないんだけど・・」
「理子お姉様だけに飽き足らず、ライカお姉様にまで手をつけようって言うなら麒麟が相手になりますわよ!」
ガルルルル・・!と睨みつけてくる島。というか手をつけるって言い方やめて欲しいんだけど。たらしみたいだし。
「やめてくれ。俺ボコられるの嫌い」
「しゅーちゃん、りんりんには勝とうよ・・・」
理子が本気で呆れながらそんなことを言うが、ばっか、俺は年下にだって負ける自信があるね。
島はその理子の反応が面白くなかったのだろう。顔を真っ赤にして俺の前に来る。
「大体岡崎先輩はーーー」
『痛ってえええええ!』
その時
島が何か言おうとしたのと同時に、遠くから悲鳴が聞こえた。
食堂ににいたほぼ全ての生徒がその生徒の方を見る。
そいつは髪をオールバックにして、アクセサリーをつけ、the 不良の格好をした2人と一緒に先ほど島麒麟が座っていた席に座っている。
しかし、なぜか足を押さえて痛みを堪えている様子。何かぶつかったか?と考えていると・・
その近くにぬいぐるみが落ちていた。
・・ああ、なるほど。理解できた。
どうやら麒麟が席取りとして机に置いておいたぬいぐるみを、あいつらが座った拍子に落としてしまい、それが彼の足に不時着したということらしい。
ゴトンと音を立てて彼の足に打つかったぬいぐるみはどう考えても普通じゃない。おそらく鉄かなにかを仕込んで鈍器として使っていたのだろう。普通のぬいぐるみにあんな音はでない。
「おい!誰だ!こんなクソぬいぐるみを机に置いといたバカは!!出てきやがれ!女子だろうが殴り殺してやる!!」
叫び散らしながら近くの椅子を蹴り飛ばす男。さすがヤンキーだ。怒り方が分かってるなと感心しながら見つつ、周りも見渡す。
ザワザワとし始めたが、彼らを止めるようなことはない。ま、あのぬいぐるみの持ち主でもない限り、こんなことに関わろうなんて思わないよな。俺も端っこでジッとして隠れていよう。
なんて、普通なら思うんだがーー
「・・・。」
そのぬいぐるみの持ち主は、火野の後ろに隠れぎゅっと袖を握っているこの島 麒麟なんだ。
もちろんそれだけで何かしようとは思わない。知り合いだろうが変なことに首をつっこむのはゴメンだと思う。というか、あいつらに俺が挑んでも勝てるとは思えない。
ただ、そう思わない奴が1人いた。
火野ライカ
強襲科Bランク、かつ島麒麟の戦姉だ。普通に考えて、妹の為に動くだろうな。
あの男達程度なら勝てない相手じゃないだろうし、ここでぶっ飛ばしてお姉様カッコいい!ってオチになるだろう。
「安心しろ麒麟。あいつら少し黙らせてくるから」
首を鳴らし軽く準備運動を始める火野。
やっぱりかと思いつつ、カッコいい火野も見てみたいなとも思った。
・・・が、
「待て火野。ちょっと落ち着け」
ここは、漫画の世界じゃない。現実なんだ。
「は?岡崎先輩なに言ってんですか?あんなやつらすぐにでも黙らせて・・」
現実では、殴り倒した後も物語が続くーー
「んなこた分かってるって。ただ、今回は任せろ」
「え?」
「んで理子、絶対に動くな。いいな」
「・・・ほーい」
恨みは、その人の心でずっと生きる。そう、例えば
『大勢の人の前で女子に負けた。ならあいつを大勢の前でボコボコにしてやる』
なんて、思う奴もいるわけだ。
そんなクズを俺はさんざん見てきた。というより
中学時代の俺だな。
ちょっと本気、見せてやりますか
未だ暴れ続ける3人に近づく。3人がこちらを向いたのを確認し、口を開いた。
「いやーごめんなさい、ごめんなさい!それ俺の何だけど、席取りに置いといたんだよ!鈍器入れてるから落とすと痛いんだよね!悪い悪い」
俺はあくまで下から目線で言葉をかける。こういう奴らは短気だから上から物を言うのはタブーだ。できる限り舐められた方が、後々楽になる。
「ああ!?これどー見ても女用だろうが!!バカか!」
不良の1人が顔を近づけてくる。・・唾が飛んでくるんだけど。
「あ?男だってそういうぬいぐるみに癒されることあんだよ。俺はこいつがお気に入りなの。試しに買ってみろって安眠できるぞ?」
「それ、本気で言ってんのか?これが、お前の??」
ちょっとだけ信じ始めた不良達、よし、ここで決めゼリフ!
「おう、どんちゃん3号だ可愛いだろ」
「「ギャハハハハ!!!」」
ドン!と仁王立ちしてハッキリという俺に、とうとう信じた不良たちは腹を抱えて笑い出す。
「お前マジかよ!キんモッ!まじきめぇ!」
「高校生にもなって、ぬいぐるみ趣味とかマジないわ!」
「というかこいつ、岡崎修一じゃね!?あの2年のクズEランク!」
「ああそうだ!間違いねえ!ぶっは!あのクズEランク岡崎はお人形遊びが好きなんでちゅねー!!」
3人が俺を囲んで罵倒を繰り返す。・・そんな罵倒にはもう慣れているので気にはしない。それよりもー
「・・・そーそ。俺ことクズEランク岡崎君はお人形遊びが好きなんです。ってことでそれ返してくんない?」
俺は1人の不良がもつぬいぐるみの方へ手を伸ばす。しかし、
「はぁ??お前、分かってんの?お前のお人形ちゃんが俺の足に傷負わせちゃったんだぞ??償えよ」
俺より身長の高い不良はぬいぐるみを高く持ち上げる。おかげで全く届かない。・・ちっ、身長ほしいな。・・というか償えだと?
「償うって、何すりゃいいんだよ?」
「ど、げ、ざ!!」
「・・・・。」
調子に乗った不良は俺を押しながら、そんなことを言う。
土下座・・か。
・・・。
俺は後ろで見ている理子と火野を見る。心配そうな目で見るあいつらの前でするのは正直嫌だが・・
「・・わーった。それでチャラだな」
周りの観衆が俺に視線を向け、ザワザワとし始めた。
もちろん俺たちの会話は聞こえているだろう。まあ、助けに来ようなんて奴はいないよな。
俺はその時不思議なことに気づく。
試合とか、試験とか、緊張するもので視線が集中するとあんなにもパニックになるのに・・
こんなことは全く大丈夫らしい。
俺は、本気を、見せる。
地面に正座し、
頭を
地面につける。
「悪かった。本当に悪かったから、そのぬいぐるみ、返してほしい」
『!?』
本当にするとは思ってなかったのだろう。不良だけでなく周りの生徒も騒ぎ始める。それでもやめる気はない。
「あっは、本当にしやがったよこい、つ!!」
「・・っ!?」
俺が頭を完全に地面につけた瞬間、不良の1人が俺の顔を蹴り飛ばした。頭を伏せていて見ていなかった俺は受け身も出来ずゴロゴロと転がる。
「修一!?」「先輩!」
遠くから理子と火野の声が聞こえる。・・そして
「おら!約束通り、ぬいぐるみだ!」
「・・がっ!?」
上半身だけを起こした俺の腹にぬいぐるみが投げ込まれた。鈍器の入ったぬいぐるみはまるでボーリングの球のように重く俺の腹に当たる。肺から全ての酸素が吐き出されたように息が上手く出来なくなり、咳がしばらく止まらなくなった。
「修一、大丈夫!?お前ら、何やってんだ!!」
駆け寄ってきた理子が素の性格をむき出しにしてキレる。今にも暴れだしそうな理子。俺は苦しみながらも腕を掴んだ。
「や、やめろ・・!これでいいんだって」
「で、でも・・」
「いいから・・・!!」
まだ何かしようとする理子にもう一度強く言うと、大人しくなった。
「もういい、行くぞお前ら」
不良3人は理子に支えられる俺を見て唾を吐き捨てると、食堂から出て行った。
おいおい、今普通に歩いてたじゃねーか。なんて思いつつ、ようやく落ち着いた体で息を整える。
俺は制服についた埃をパンパンと叩きながら理子の手を借りて起き上がった。
『え?まじ?まじで岡崎って人形趣味なの?』
『うわぁ、ドン引きなんだけど。成績最下位でキモい趣味とかないわ』
『Twitterに書こっと、「2年Eランク岡崎は人形遊びが趣味の変態っと」』
『あ、それいい。俺リツイートするわww』
「・・おい何やってーー!」
「理子。いいから、気にすんな」
「でも!」
「しつこいぞ理子、俺がいいって言ったらいいんだよ。もうこれ以上争いごとはゴメンだ」
「・・・!」
周りから聞こえる声が騒がしい。理子がマジギレするの見るって初めてだな。・・こっわ。逆らわないようにしよ。・・それはともかく本当、人のことなのにそんな怒れるとかお前は友達の鏡だな。
なんて思いつつ、落ち着いた様子の理子と、近くまで来ていた火野に耳打ちする。
「お前ら本当のことは黙ってろよ。変態との約束な」
「え!?でも先輩ー」
「・・・うん、わかった。しゅーちゃんがそれでいいなら」
「ちょ、峰先輩!?」
先ほどと違ってかなり物分りのいい理子に驚く火野。この反応には俺も少し驚いたが、素直に嬉しかった。
俺は立ち上がると近くに落ちていたぬいぐるみの埃を払う。
って重っ!?・・訂正。確かにこれ足に落ちたら結構痛いかも。
俺はそんなことを考えながら未だにぼーっと立っている島麒麟の元へ向かう。
「あーあっ!せっかく大切にしてたぼんさんが汚れちゃったよ!もーこんなんいらねぇし、どーしよっかな!!・・ああ!お前絶対このぬいぐるみ似合うって!やるよやるよ!受け取らないとか無しな!こいつお前がいいって言ってるんだからよ!」
「え?あ・・・」
「大切にしろよな!じょーさんだ!」
声を張り上げながら島に近づき、ぬいぐるみを渡す。島は訳わからずといった顔をしていたが、こいつに全てを言う気は、ない。
これが俺の求めた解決策だ。
誰1人傷つかず、誰もなにも失わず。
仮に火野ライカがあのまま暴れて不良を倒し、麒麟のヒーローになったとしよう。
もちろん物語としては最高の締めだ。ヒロインの女の子の好感度も上がるし、主人公が強いってのをみんなに見せつけれる。
・・物語は、そこで終わるからそういう行動ができるのだ。
だがこれは現実。倒して終わりとはならない。あの不良達はここの生徒で、またいつ出会ってしまうかわからないんだ。
殴って倒して。それが本当に解決になるケースも多くあるが、今回はそれですむ問題じゃないんだ。
「じゃ、悪いなお前ら。ぬいぐるみ汚れて飯食う気も失せたからよ、3人だけで食べてくれ!んじゃな!」
俺は三人を置いて食堂から出て行った。
これが、最善策、なんだ。
「・・ッ」
《14時20分 射撃審査
15時20分 CQC検査
16時20分 模擬戦検査》
『・・バカなやつ』
あーあ修一やちゃったな。ドンマイ。
ということで後書きです。
いやー、先週は修一好きですという感想がいっぱいでビックリしました。
好かれないだろうなと思って書いたキャラが好かれるってこうもうれしいものなんですね!
・・まあでも今回で少し下がるかなと思ってます。修一君ろくな事してないし(笑)
本当に批判とか思わないので自分の意見を感想欄に書いてもらえたら、とても嬉しく思います。
それでは!
最後のセリフは誰だろう?