サイカイのやりかた【38話完結】   作:あまやけ

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「1話のあらすじ」
銃も特技もなくEランクのまま一年を終えた岡崎修一は他の一般高に転入するかどうか悩んでいた。
その時一人の女子武偵がある言葉を伝える。その言葉は修一の考え方とは真逆の言葉だった。



(2)金が欲しくてやった。後悔は…

始業式のある今日、俺は寝坊した。というよりわざと遅く起きた。

 

理由は単純、始業式に出たくなかったからである。無駄に長い校長の話や校歌斉唱なんてめんどくさいと思うのは誰だって思うはずだ。

 

…というのは建前で、本音を言えばただ『笑われるのが嫌だから』。Eランクというのはつまり出来損ないの武偵もどきってことで、将来の可能性のない人間のことを指す言葉だ。

 

つまり2年でEランクというのは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のことを言う。

 

例外もあるが、俺はその部類に値すると他人は見るだろう。

 

だからこそ、始業式には出たくない。出てしまえば辺りからクスクスと笑われてしまうのはもう分かりきっている。馬鹿にされに行くようなもんだ。

 

(…ま、武偵はやめないから結局行かないといけないんだけど)

 

始業式が終わった後に新クラスでのHRがあるのだが、それには必ず参加しなければならない。そうしないと後々の授業が受けられなくなるという決まりがある。…くそ、どうしてそんな決まりを作ったのかと校長を問いただしたい、本気で。

 

などと愚痴を言っても仕方ないので俺は身支度をはじめた。

 

校則で所持義務のある、ほぼ使わない小型銃をホルスターに収め、一応いつも携帯している竹刀を袋に入れる。

 

パンを食べながらテレビから流れる爆弾魔事件のニュースを適当に聞き流し、予習した化学、数学、そしてこの学校ならではの授業で俺が専攻しているモールス信号についての教科書をしまった。

 

勉強はちゃんとしないといけない。

 

東京武偵高校も一応普通の教育課程を行っているがあまり重視されていない。

 

武偵としての基礎体力や技量の向上の方が優先されているのだが、俺は才能がない。この世界で生き残るためには学力も必要なのだ。

 

ほとんどのクラスメイトが適当に受けている授業だって俺は真剣に聞く必要があった。…真面目に受けているだけでクスクスと笑われることもあるが、それはもう気にしないようにしている。

 

「よし、行くか」

 

身支度を整えた俺は学校へと向かった。これから始まる学校生活に大きく胸を膨らませ…ようとしたが出来なかったので、嘆息しながら。

 

 

 

 

しかしこの時の俺は思ってもみなかったのだ。

 

 

 

これから起こる事件を引き金に、俺の人生がガラッと変わり色づき始めるということを…。

 

 

 

 

 

 

ーーーー

 

ドンッ!!

 

それは俺が自転車に乗って軽く鼻歌を歌いながら走っていた時だった。

 

俺の耳に激しい爆発音が響き、足を止めさせる。もう武偵校の敷地内に入っていた俺の周りには人はいない。

 

そんな中で爆発音が聞こえれば誰でも足を止めるだろう。

 

「な、なんだ…?」

 

今の時間は始業式の最中で他の生徒や教師も出席しているはずであり、爆発音が聞こえるのはおかしい。

 

その後、その爆発音が聞こえた先で銃撃音が激しく鳴り始めた。

 

これに興味を示さない人はいない。もちろん俺もその1人である。

野次馬になってやろうとその音のする方へと自転車を進めた。

 

ーーー

 

「なんだよ、この状況…??」

 

俺がその場所にたどり着いて初めて発した言葉は疑問だった。

 

満開の桜の木が並んでいる場所にある倉庫。どうやら体育で使う物を収納する倉庫のようだが、そこへセグウェイに銃を取り付けた機械兵器がその体育倉庫の中に向かって弾をぶちまけているという異様な光景を目にしたのだ、そりゃ疑問にも思うだろう?

 

俺はとりあえず自転車を安全な場所に置いて近くの桜の木に登り、状況を理解しようと試みた。どうやら倉庫の中にある防弾跳び箱に向かって集中砲火しているようだが、それ以上は煙が邪魔でよく見えない。

 

ただ一言言えることがあるとすれば…

 

(あれだけの弾を買う金あるなら…鍋できるな)

 

どうやらあのセグウェイはマシンガンを備えているようで今も無数の弾を倉庫内に発射している。あの弾を全て金に変えることが出来れば俺の生活もかなり潤うのに…。

 

なんてセコイことを考えていると、セグウェイどもは体育倉庫への発砲をやめてこちらのほうの壁の方へ身を寄せてきた。どうやら中の様子を確認するために一度距離を取ったようだ。

 

まだ木に登った俺を感知してはいないようだが…

 

(…ん、待てよ?)

 

そこでふと、セコイ頭が思いついてしまった。

 

あのセグウェイもどきを売れば、高く売れるんじゃないかと。

 

男子高校生の一人暮らしにはお金がいくらあっても足りない。バイトをすることが禁止のこの学校では親の仕送り以外にお金を稼ぐ方法がないのだ。…いや、ないということはないのだが。武偵生徒に対しての依頼をこなすことで報酬をもらうというものがあるが、なにもできない俺はこなせる依頼が相当少なく、家計を保っていけるほどではないのだ。

 

まあつまり簡単に言えば…

 

()()()()()()()()()()()()()()()ということである。

 

 

「よっ」

 

金が稼げると理解した俺の行動は早かった。

俺は竹刀を袋から取り出し竹刀をその辺に置いておいて、袋だけ持ち下に降りる。感知されるかとひやっとしたが、問題なさそうなのでセグウェイどもは倉庫の方へその銃器を向けたまま動かない。

 

俺は近くにいたセグウェイの一つに近づきサッと袋をタイヤにひっかけ、ただ待つ。

そしてー

 

ギュイイイイイ!!

 

セグウェイもどきが再び動こうとしたその瞬間、その引っ掛けておいたセグウェイもどきのみが、その足元に突然現れた遮蔽物に重心を取られ横滑りしてしまう。もともと上の方が重かったのか簡単に倒れてしまった。

 

「よっし成功!!」

 

俺はその思った通りの結果にガッツポーズしながらその転がっていったセグウェイへと近づく。このまま銃器を外し、軽く壊して持ち帰ることが出来れば今日は鍋にしよう。

 

 

なんて考えて目の前のセグウェイに手が触れるその矢先ーー

 

 

ダンッ!と音を立てセグウェイもどきが立ち上がった。

 

 

そう、俺の方にその銃器を向けて…

 

 

 

「……あ、ども…こんちは?」

 

俺はまるでジーっと見ているかのようなそのセグウェイもどきに思わず軽く挨拶をしてしまったーー

 

その瞬間、

 

ダダダダダダダッ!!

 

セグウェイもどきは俺に発砲を開始した。

 

「おわわわわっ!?」

 

俺は突然のことに思わず袋を右方向に投げてしまいながら、しかしそれを拾う暇などなく桜の木の裏に隠れる。

 

なんとか一発も当たらなかったことをラッキーと思いつつ、今も後ろから聞こえる激しい発砲音にうんうんと頷く。

 

「…ふう、これは、あれだな…無理だな」

 

桜の木が振動で揺れ始め桜を撒き散らし始める中、そう思い直す。

 

うん、普通機械って足崩されるともろいって思ってたんだけどやっぱセグウェイすげぇな。ハワイに行ったら買おう買おう。

 

なんてことを考えながら脱出の道を探している中で

 

気づいた。

 

(…あ、あり?なんか聞こえる銃声が一つじゃないんですけど…?)

 

後ろから聞こえる音が一つのマシンガンからの音にしては大きく聞こえた。

 

頬を流れる冷や汗が嫌な想像を醸し出しつつも、そーっと覗いてみると…

 

セグウェイどもの半分がこちらを射撃していた。

 

 

(うそん…やめときゃよかった。…お金欲しいけどこりゃ()()だろ…)

 

 

後悔した。余計な欲を出さず、余計な好奇心を出さず、ただまっすぐに教室へと向かっていればよかったと。

 

無理なことをしなければよかったと…。

 

 

「…なんて、昨日の俺ならここで逃げ出せたんだよなぁ」

 

後らからの轟音を聞きながらも、俺は自分の考えを打ち消した。

 

 

俺は昨日とある女子武偵にある言葉を言われた。その言葉は俺の一年の生活を思いっきり否定して、思いっきり叱咤したのだ。

 

彼女に会わなければ、こんなこと思わなかったんだろうが…出会ってしまったものは仕方ない。

 

言われてしまった言葉によって俺が普段とは違う行動をしても仕方ない。

 

そう自分に言い訳をした俺は、木の陰で座ると目を閉じ、辺りの状況を整理し始めた。

 

《右にはコンクリートの壁、

 

後ろは桜の木、

 

その後ろは発砲中のセグウェイが4機、あの程度の大きさなら持ち上げることはできそうだ

 

前には普通の路地と俺の自転車、

 

左にはある程度幅のある道路、そしてそこに落ちている俺の竹刀と穴の開いた竹刀の袋。

 

持っているのは小さな小型銃とティッシュ、携帯、カバン

 

俺の竹刀が有効に使える距離は約10メートル、

 

俺とセグウェイの距離は約15メートルほど、

 

竹刀での破壊は不可能、

 

小型銃の弾は6発、リロードは無理、俺の腕では確実に狙うことは不可能、

セグウェイの様子、竹刀の袋が破けていたところから、どうやらある程度の大きさの動くものを追尾して発砲するように設定されているようだ》

 

 

「…よ、よし、やってみるか」

 

そうして俺は行動を開始した。

 

ーーー

 

マシンガンの音が鳴り止み静まり返ったその瞬間、俺は桜の木の陰から自転車のサドルをひょいっと投げた。

 

突然投げられたその物体に対し、セグウェイは銃弾を放つ。これにより銃口が桜の木から遠ざかった。

 

その隙に飛び出した俺は、竹刀を手に取ると一番近くのセグウェイに近づき小型銃を銃口の中へと押し込んだ後引き金を引いた。

 

射撃が苦手な俺でも、距離が0ならば俺でも命中させることはできる。

 

パン!!と乾いた音とともにセグウェイについていた銃の破壊に成功する。銃器のなくなったセグウェイはぐわんぐわんと動くのみ、敵ではなくなった。

 

しかし、破壊できたのはその一機のみ。その間に他の三機はすでにこちらにその銃口を向けていた。俺は素早く一機の銃器を竹刀で払い、銃口を逸らしたが、残り二つの銃器からの発砲は避けられない。

 

ババババババッ!!

 

「……って!?」

 

避けきれなかった俺の体に数発当たってしまう。

防弾制服のおかげで貫通することはなかったが痛みはある。

グラッと体が揺れ、視界が少しかすんでしまったが、ここで終わるわけにもいかない。

 

次が発砲されるより早く、俺はその残り三機の間に入り込むと、竹刀でよそに向けていたセグウェイの銃口をもう片手で掴み、俺の方に向かせないようにしつつ、竹刀を左の方向へ投げる。

 

大きく動くものを追尾する他二機のセグウェイが竹刀の方に銃口を向け弾丸を放つ間に、手で押さえておいたセグウェイの銃口に小型銃を入れて、同じように引き金を引く。

 

バン!と音を立てて壊れるセグウェイ確認した俺はそのセグウェイを持ち上げ残りの二機へと投げる。

 

竹刀を撃ち抜いたそのセグウェイ達は俺が投げた物を察知することは出来なかった。撃ち落とすことも出来ず、二機共に当たり地面に倒すことに成功した。

 

しかし倒しても意味がないぞと言うように立ち上がろうとするセグウェイ二機。

 

そこへ、最初に壊したセグウェイを振り落とす。

 

立つことに意識を向けてしまったセグウェイへ思い切り鈍器をぶつける。その力に敵わなかった二機についた銃器は、簡単に砕け散った。

 

 

そしてついに…

 

 

「…はぁ…終わっ…たーー!!勝ったぞこんちきしょー!!」

 

勝ったと自分に言い聞かせるように俺は大声で叫んだ。

 

手に持ったセグウェイの残骸を捨て、手にした勝利に優越感を味わう。

 

久しぶりの感覚に思わずにやけてしまう。一年の時の勝敗はほとんどが負けで終わっていたのだから仕方ないのである。

 

意味のわからない敵ではあったが、勝ちは勝ち。戦利品を取って帰りましょ。

 

少し痛む体を動かし、近くに落ちた竹刀やら袋やらを回収する。急遽考えた案でここまでやれたのって奇跡だわなどと思いながら回収していると…ふと思った。

 

(…そういや残りってどうなったんだ?ここで倒したのは四機だが最初見たときはもっといたような…)

 

 

そう、最初より数が減っていたのだ。おそらくこちらを排除する組と最初の目的を達成する組に分かれたのだろう。

 

そう考え、体育倉庫の方を確認するためにチラッと陰から覗いてみた…

 

そして俺は、衝撃のシーンを目撃する。

 

 

 

ある男子生徒が倉庫から出て来た。そしてゆっくりと歩きながらセグウェイに近づくと、その銃口全てに向けて発砲。一瞬にして四機を爆破させた。

 

 

「んなアホな…」

 

 

俺はそのたった数秒の戦闘に思わず見惚れてしまった。あまりにも簡単そうに倒されてしまったセグウェイもどきに、再び自分の無力さを実感してしまう。

 

あんなに苦労して倒したのに…他の人にとっては簡単。それを証明されてしまったのだ…。

 

(いや…こんなこと最初から分かりきってたことだろ…!!んなことで今更落ち込んでんじゃねーよ修一!これから俺もあっち側に行けるようにまた努力するんだ…焦るな!)

 

しかし、今の俺はずっと落ち込んでたりはしない。もうそうやってうじうじするのはやめたんだ。

 

そう気持ちを切り替え、できればあっちの破片もいくつかほしいななんて思いながらもう一度倉庫の方を見ると、なぜかその男子生徒が体育倉庫の中から投げ出されてきた。

 

…再び、俺の目が点になった。

 

再び意味のわからない状況を理解しようと見ていると、倉庫の中から、ピンク髪のツインテール少女が出てきた。怒りマークを額に乗せ、今にもその手に持つ銃を発砲しようとしている。

 

……って

 

「……あ、あの子だ」

 

俺はその子を知っていた。というか昨日ぶりなのだ。

 

そのピンク髪のツインテール少女こそ昨日俺に変なことを吹き込みやがった張本人、強襲科Sランク武偵、神崎・H・アリアだった。

 

「なにしてんだ、こんなとこで…?」

 

なぜかアリアと男子生徒が対立しているようだが…何か中であったのだろうか??

 

相変わらず状況は読めないが、とりあえず様子を見ることにした。

 

「逃がさないわよ!あたしは犯人を逃したことは一度もない!!…あれれ!?」

 

喧嘩の理由はわからないがものすごくお怒りのアリアは男子武偵に銃を向けながらマガジンを取り出…そうとしていたようだが突然気の抜けた声を出した。どうやらあるはずのマガジンが見当たらないらしい。

 

「ふふっ、ごめんよ」

 

対して男子武偵は、おそらくアリアのであろうマガジンを持ち不敵な笑み(うぇ…ちょっと気持ち悪い…)を浮かべながら、そのマガジンを俺のいる方に投げ捨てた。

 

(…お、ラッキラッキ!売ろう売ろう!!)

 

俺にとっては弾も金になる。…と飛びついてみたものの、なぜかマガジンの中は空だった。…あれ?

 

「もう許さない!!…わきゃあ!?」

 

首をかしげる俺の先で、アリアが半泣きのまま背中から刀を二本(を取り出し男子生徒に飛びかかろうと…したがスッテンコロリン。地面に撒かれた弾を踏んで転んでしまう。

 

おお、知り合いの面白いとこ見れた。カメラ用意しておけばよかったぜ…。

 

「ごめん撒かせてもらった」

 

どうやらアリアの弾を周囲にばらまいておいたらしい。完全に遊ばれているSランク武偵。俺はその様子を興味深く見ていた。

 

この男子武偵…何者なんだよ…??

 

まだぎゃあぎゃあ叫んでいるアリアをよそにその男子生徒は俺の元へやって来た。ってしまった!?よくわからん強敵に見てたのバレたっ!?

 

「おや?見られてたんだね」

 

「ま、まぁ、たまたまな…な、なんだ…俺ともやる気か?」

 

こいつの性格がまだ理解していない俺は、少しビビりながらも小型銃を構えた。もしこいつがただ戦いたいだけのやつだとしたら俺もう病院送り決定かもな…などと思っていると。

 

「いやいや、何もしないよ。それより、早く行かないと次の授業に遅れるよ」

 

男子武偵はそのイケメン顔をふっと緩ませ両手を挙げた。どうやら俺の勘違いだったようだ。

 

「あ、ああそうだな。……っとそうだ、なぁ、あのガラクタ達俺がもらってもいいよな?」

 

とりあえず俺の安全は確保されたと安心しつつ、先に転がる戦利品たちを見た。

 

一応こいつが倒したんだし、許可もらっとかないと。

 

男子生徒は一瞬キョトンとしたが、すぐに頷いてくれた。

 

「ああ、もしかして装備科(アムド)の人かな。大丈夫、あれはもともと武偵殺しの模倣犯の物だから…それじゃあね」

 

なんか勘違いされたが、どうやらもらってもいいらしい。

 

去っていく男子武偵より目先の戦利品に興味が移った俺は、セグウェイもどきの周りに散らばっている弾をせっせと拾い始めた。

 

よしよし…これは今日の夜鍋確定だな…久々の肉は中々楽しみーー

 

「あ、あんた昨日の」

 

「…そういやいたのな」

 

弾を拾いながら進んでいた俺はいつの間にかアリアの目の前まで歩を進めていた。

 

 

(…忘れてた、アリアがまだ転んでたんだっけ…まぁ、どうでもいいや。それより弾、弾…肉、肉…!)

 

 

アリアを無視し弾を拾うことに専念することにした。

 

「何してんのよこんなところで」

 

「…ふふ〜ん、肉、肉、おっ肉〜♫」

 

「…っ!何してんのよこんなところ、で!!」

 

「ふぐわっ!?」

 

専念しすぎてアリアを無視してしまっていたようだ。再び怒りマークを出したアリアの蹴りが思い切り俺のケツに突き刺さる。

 

「痛ってーな!なにすんだ!」

 

「あんたがあたしを無視するのが悪い!!」

 

「…っ!…ああもうわかった」

 

理不尽にもほどがあるが、これ以上言い合ってもしょうがない。俺は弾をマガジンに入れながらアリアの方を向いた。

 

「で、なに?」

 

「だから何してんのかって聞いてるの!」

 

「…資源確保、かな?」

 

「なにそれ?」

 

「あのな、昨日も言ったろ?Eランクのダメなやつは仕事がないんだよ。こうやってこつこつと資金集めにいそしむのが俺の日課だ」

 

「………ふーん。変な日課ね」

 

うるさいよ。好きで日課にしてるわけじゃないんだよ。

 

「ところで今の男子、知ってる?」

 

落ち込む俺にもう興味はなくなったのか、アリアは話を変えた。先ほどの男子とは…あのイケメンのことか。

 

「ん?いや、初めてみたな」

 

「そう。じゃあいいわ」

 

そういうとアリアは立ち上がって、俺が弾を集め周っていたマガジンを取った。…え?

 

「弾回収ありがとう。じゃあね」

 

どうやらアリアのために集めたと思っているらしい。軽くお礼を言うと背を向けた。

 

…それも資金にしようと思ってたんだが…まあそもそもアリアのものだったわけだからしょうがないか。他の破片でも鍋は出来るし。

 

俺はその後ろ姿に手を振りつつ残った戦利品を回収し始める。うんうん、いい感じだな。

 

「あれ?そういえばなんで隠れた後に出てきたのが四機だけだったのかしら…」

 

ふと立ち止まったアリアが俺の集めている戦利品、もといセグウェイもどきを数えて首をかしげた。

 

「もしかしてあんた、なにかしたの?」

 

「…あ〜…い、いや〜、別に?」

 

「したのね。見てくるわ」

 

…え?待って。もしかして手柄少しとっちまったから怒ってたりする?

 

そうビクビクしながら待っていると、ふーんと言いながらアリアが戻って来た。

 

「あれ、あんたがやったの?」

 

「ま、まあたまたまな…」

 

「そ、わかったわ」

 

あれ、意外と普通だ。よかった。破片よこせとか言われたらどうしようかと…

 

「あたし、あんたの名前聞いてなかったわね」

 

「そうだっけ?俺は岡崎修一。強襲科Eランク武偵だ、よろ」

 

「そう修一ね。もしかしたら任務を一緒にしてもらうかもしれないから。その時はよろしく」

 

「は?お前何言ってんの?」

 

Sランク武偵がEランク武偵と任務って俺死ぬの確定じゃんか。

 

「お前ってなによ!アリアよアリア!ちゃんと名前で呼びなさい!!」

 

しかも変なとこでキレとるし。

 

「わ、わかったよアリア。でもなんで俺なんだよ。今日の飲み物も買うかどうか悩むくらいの貧乏武偵だぞ?」

 

「あの機械兵器の残骸見たらわかるわよ。あんた、あの機械兵器の弱点を突いて倒したでしょ?中々の洞察力と見たわ。あんた結構強いじゃない?」

 

「…は?」

 

一年間なにもできなかった俺が、結構強い?…アホか。

 

「たく、人をからかうのも大概にしとけよ?あんまり弱いものいじめするやつって好かれないぞ」

 

「はぁ?あんた何言って…」

 

「んじゃ、またなアリア。さっきのはその場の空気を読んだアリアなりのギャグってことにしとくからよ」

 

「ちょっと!待ちなさい修一!あたしはギャグなんてーー」

 

「いいんだってそういうのは!」

 

俺は思わず叫んでしまった。そう、これは俺の一年間を全てなかったことにしようとするアリアに対しての些細な抵抗だったのかもしれない。

 

「俺には才能なんてのはない。だから努力してんだ。実力なんてのはないってのは俺自身が一番よく知ってるんだからよ。だからあんまり期待させるようなこというな」

 

 

そういって俺は学校の方へ穴の開いたサドルをつけた自転車に乗って走った。

 

いてて…やっぱ銃弾は受けると痛いな…教室の前に保健室行くか。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

『へぇ………岡崎修一か。キンジはともかくあいつに4機もやられるとは思わなかったな。くふ。面白い人材見つけたか、も♡』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




くふ



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