サイカイのやりかた【38話完結】   作:あまやけ

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「16話のあらすじ」
流石に体が限界になり、おとなしくなる修一。なぜか雰囲気の違う理子に首を傾げながらも安静にする修一の元へ、アリキンが現れる。理子の居場所を探す二人に修一は修一なりのやり方で2人を止めることに成功する。


6章 VS感情
17 事件の前準備 感情偏


「……死ぬ」

 

肩と肩がぶつかるほどの人だかりの中、思わず呟いて空を見る。手が震え、足が進まない。折れた左足が唸るように痛む。本能が先に進むなと言っているように、俺の体は動かなかった。

 

夜なのにワイワイと騒がしいなか、空には七色に輝く光が次々と出ては消え、出ては消える。周りの叫び声も様々だ。俺には悲鳴にしか聞こえなかった。

 

俺の横を通った子供連れの母親が俺をチラッと見るが、すぐに興味がないように別の方へと子供ごと視線を変える。その顔は両方共楽しそうに笑っていた。俺なんて元からいないように、不自然に目線を変えるんだ。

 

怖い

 

こんな感情久しぶりだった。体がゾクッと震え、考えがまとまらない。

どうしてここまでの悲劇を起こせるのか、一体どうしたらここまでの被害を生み出せるのか。

俺は心の中で絶句し、手の上にあった袋を思わず地面に落としてしまう。

音を立て落ちたその中から残った金銭が少しだけ出てきた。……いや、もういまさらそんなことはもうどうでもいい。

 

どうしてこうなった?何度も自分に問いかけた。なぜ、どうして俺はあいつの提案にすぐ乗ってしまったのかと後悔した。

 

裏切られた。そう思い奥歯を噛みしめる。もし受け入れなければ、失うものは何もなかったのに。どうして━━

 

先の方で俺を呼ぶ影が見える。それは俺にとって死を呼ぶ声と同じだ。体がビクッと震え、ゆっくりとそちらに歩き出す。行きたくないという気持ちをぐっと堪え、一歩、また一歩と進んでいく。

 

そこには3人の手練れが銃を持って集まっていた。それぞれがそれぞれの構えを取っている。俺も手渡された銃を受け取り構える。

額の汗を拭うことも出来ず、ただ標的に狙いをつける。

 

バクバクと心臓が音を立て、呼吸が荒くなる。目の前の標的に標準が合わない。

 

 

そして━━

 

 

 

 

 

 

「はい、またしゅーちゃんの負け!今度は焼きそば奢ってよね!」

 

「私は甘いものがいいわ、ごちそうさま」

 

「うむ、私はわたあめがいいぞ。よろしく頼む」

 

「お前ら……悪魔だ」

 

俺は人の家系事情を無視して命令しだすバカ共3人に向けて本気で殺意を放ちながら、涙を流した。

 

 

話はこの日の1日前に遡る。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「花火大会?」

 

「そ!明日あるんだって!行こうよしゅーちゃん!」

 

「……」

 

アリアとキンジがやってきた日からさらに二日ほど経った今日、もういつものテンションに戻った理子が花火大会のチラシを持ってやって来た。

 

ちなみに、最後の無言は夾竹桃だ。今もせっせと原稿作成に勤しんでいる。

 

俺は書いていた原稿から筆を離し(また新しい仕事を任されたのだ)理子の持ってきたチラシを見る。

 

「こんな時期に花火大会ね。珍しいこともするもんだな」

 

「だよねー、でもほら見てみて!屋台とかもいっぱいあるみたいだよ!楽しいって絶対!きょーちゃんも一緒に、ね!?」

 

もうすでにテンションだだ上がりの理子。病室内をくるくると馳け廻る姿を見ながら、俺は、いや、俺と夾竹桃は首を横に振った

 

「「いやだ(よ)」」

 

「えぇー!?なんでー!?」

 

俺たちが断るとは思ってなかったのだろう。理子が身を乗り出して俺と目を合わせてきた。ち、近い近い。

 

「あのな、お祭り行ったら買うものといえば?」

 

「え?焼きそばとかたこ焼きとか、あ、あとわたがし?」

 

「値段は?」

 

「えっと、多分だいたい400円くらいかな」

 

理子の反応に俺はうんうんと頷く。そして理子の両肩を強く握った。

 

「ひゃっ!?」

 

「理子いいか!!あの屋台の焼きそばは普通に買えば50円なんだ!たこ焼きなんてあの値段なら家でその倍は食えるわ!」

 

「……私はただ騒がしい場所が嫌いなだけよ。こんなセコイことは考えてないから」

 

なぜかビクッとした理子に俺は真剣に叫んだ。

そう、お祭りなどで買う食材や物は原価の何倍にしても許されるというダメな掟がある。中には宝くじのくせに一位の入ってないものさえある。そのくせに、一回500円だと!?ふざけんな!

 

「しゅーちゃんもきょーちゃんも。祭り行こうよって言ってその返しはない!…はぁ、理子、時々自分のことバカなんじゃないかって本当に思うよ」

 

先ほどまで少し顔を紅くしていたくせに、一気に真顔になる理子。あ、あれ?なんか今日がいままでで一番引かれてないか?

というかどうして自分なんだ?…え、さっぱりわからん。

 

「あのねーしゅーちゃん!お祭りの時は、お金のことなんて一切気にしないものなんだよ!しゅーちゃんのセコさは知ってるけど、ここまでくると引く!」

 

「う、だ、だけどよ、俺今本当に金なくてだな…」

 

「きょーちゃんからもらってるんじゃないの?」

 

「そうね。一応依頼を完了するたびに払ってるけど」

 

夾竹桃の言う通り、たしかに貰ってはいるのよ。

いるんだが、俺の手元に、金はないんだ。

ちなみにバスジャック事件の借金はきちんと理子が代わりに払ってくれているから問題ない。なので夾竹桃からの報酬は全てもらっている…のだが

 

「じ、実はさ、俺ここの病院抜け出しまくってるだろ?だから特別に半月分の入院費先払いでって言われた。…報酬、スッカラカン」

 

「「……はぁ」」

 

つい先日言われ、問答無用のオーラを出した先生に、俺は抵抗することもできず(というより俺が悪いから文句も言えないのだ)、サインを書いた。後日きちんとお金は下されていたのだが、通帳を確認して度肝を抜いたものだ。入院費……高っけ。

 

「本当に不幸ね。同情するわ」

 

「しゅーちゃんはどうしてそうお金の縁がないの?」

 

「俺が聞きたい」

 

がっくりと項垂れる俺に理子はうーんと、夾竹桃はため息をついた。しかしこれで理子もわかってくれるだろう。こいつはなんだかんだで優しい奴だからきっと俺のことも考えて━━

 

「ね、しゅーちゃん。理子、お祭りに行ったらすっごく綺麗な浴衣着るよ!ちょーレアだよ!しゅーちゃんにしか見せたことないすっごい浴衣着てくるんだよ!」

 

「行きましょう」

 

「……。」

 

即答だった。夾竹桃の冷たい目線がキツイがそんなことは関係ない!理子の浴衣?みたいに決まってんだろこんちくしょう!あの理子だぞ?金髪の女の子の浴衣なんてレアじゃないか!素晴らしいじゃないか!なんだったらATMからお金引き出して理子にあげてもいいくらいさ!なんせ美人だし!

 

「……しゅーちゃんってこれでも即答してくれるんだ」

 

「あったり前だのクラッカーだぞ。お前顔は良いはスタイルはいいわの完璧女子高生なんだぞ?そんな奴が浴衣着るなんてモデルかなんかと勘違い━━」

 

「わ、わかった!わかったからそれ以上言わないで!」

 

理子は俺の褒め倒しに真っ赤になってブンブンと手を振り回した。

あれ?いつもの理子ならてっきりノッてくるかドヤると思ったんだが…

 

「と、とにかくしゅーちゃんは決定ね!きょーちゃんはどうする?」

 

夾竹桃はすぐには答えず、筆を片手に少し考えると、こちらを向いた。

 

「ねえ岡崎、私の浴衣も見たい?」

 

「見たい」

 

「そう」

 

これも即答だった。だって夾竹桃だぞ?和風美人の夾竹桃だぞ?それが浴衣なんて最高の合わせ技だろうが!!そりゃ見たいに決まってる!

 

「ちょっとしゅーちゃん……そこに即答はどうかと思う」

 

「あら?私はうれしいけど?」

 

「……ちっ」

 

夾竹桃と理子がにらみ合っている。なぜだろう、ちょっと険悪なムード?

俺が正直な事言ったのはそこまでのことなのか……??

 

 

 

はっ!もしかして、どっちも褒めたからお互いに嫉妬とか?

 

……あっはっは、んなバカな。

こいつらが俺に好意を持ってるなんてどんだけ頭イッってるってんだよ。

そこまで自分のこと高く評価なんてできないわ。

 

 

というか理子には告白以前にフラれてるし。

 

 

女として一人の男子に同じ褒められ方したのが気に食わなかったんだな。……勉強になるなこれ。

 

 

「じゃあ私も参加するわ。いいわよね、理子?」

 

「……うー!どんと来い!!じゃあしゅーちゃんもきょーちゃんも参加決定ね!」

 

そうして俺と夾竹桃、そして理子の三人で花火大会に行くことが決まった。……おお!すごくないかコレ!?一年次にはここまでの役得がもらえるなんて思ってなかったぞ!?

 

最初は嫌だった祭りがいまは待ちきれないほど楽しみになっていることに自分で驚きつつ俺は笑った。

 

「でも原稿終わらなかったら、私と作業してもらうから。ちゃんと終わらせなさい」

 

「あ、はい」

 

この頃、夾竹桃がお母さんに見えてきたなんて、本人の前には言えなかった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ある事件が急速に加速するのはその夜のことだった。

 

俺はその時間、二人が帰った後も夾竹桃の原稿を書き進めていた。手元の明かりをつけただ黙々と作業を進める。

 

作業もなかなか手馴れて、今では最初の半分ほどの時間で目的のものを書き上げることに成功していた。

 

だが、夾竹桃もそれを見越して、枚数をかなり増やしている。祭りに間に合うかはギリギリか。

 

こんなことで行けないなんてことになったら俺は一生後悔するだろう。なにせ金髪美少女と和風美人の浴衣デートもどきだぞ!?男として、これは頑張らなければいけない。

 

意気込みさらに書く速度を上げた、その時だった。

 

『お前が岡崎 修一で間違いないな』

 

「…あ?」

 

俺以外誰もいないはずの俺の病室になぜか響く透き通ったきれいな女性声。不審に思いつつ辺りを見渡すが、誰もいる様子はない。そもそもこの時間はナース以外誰もいないはずだ。…ならナースさんか。

 

「別にナースコール押してないですよ。それか間違って押しました、ごめんなさい」

 

どこにいるのかわからなかったのでとりあえずドア元を見てそう言った。もし間違えて押していたらとても迷惑だっただろう。しまったかな。

 

『ほう。あまり驚かないのだな。夾竹桃から聞いていたか?』

 

「あ?もしかしてそっちの人?…『イ・ウー』だったか?」

 

夾竹桃の名前が出た瞬間、俺の中でその選択肢しか生まれなかった。おそらく『イ・ウー』の手先かなにかが俺のことを聞きつけて来たのだろう。…手伝いすぎて、税金もどきでもせびりに来たか?なら今夜から逃亡劇の始まりだな。などと考えていると。

 

『なるほど。なかなか頭の回りは速いみたいだな。なら、私がここに来た意味はわかるか?』

 

「……原稿の手伝い?」

 

『……お前もやらされているのか』

 

なぜか同情するような返事がきた。

二人でやれば完全に祭りに間に合う。・・だが、そんなわけはない。それは理解していた。

理子あたりから聞いてヘルプを頼みにきたか、もしくは本当に税金せびりか。

だが夾竹桃の名前が出たし、呼び捨てにしてたってことはおそらく夾竹桃と対等の立場のやつだろう。とすると手伝いが妥当か。・・だが、そう決めるにもヒントが少なすぎる。

 

 

「……わからん、さっぱりだ」

 

『そうか。いやなに、ただ理子と夾竹桃が気に入る男子というものを見て見たくなったのだ』

 

「おいおい。それを推理しろってのは無理難題すぎるわ。お前Sかよ」

 

『……S?Sとはなんだ?』

 

おう、こいつSMを知らなかったか。……んー

 

「今度理子にでも聞いてみろ『ぜひ体験してみたい』とでもいえばすぐにでも教えてくれるさ」

 

『そうなのか?わかった。聞いてみよう』

 

かなり話がずれていることに全く気付いてない様子の声だけの奴。もしかしたらこいつは結構単純なのだろうか。結構簡単に話を反らせたぞ。

 

これからテキトーに話しながらこいつの正体でも暴いてみるか、理子みたいに。などと思っていると俺の携帯が震えた。……おお。

 

俺の携帯が動作するなんて久々のことで大げさに反応してしまう。あ、いや、この頃は理子からよくわからんLINE(はよー♬やらおやすみーノシなど)が飛んでくるから正確に言うと理子以外からメールが送られてことが久々なんだ。

 

本当は来賓さんがいる中で携帯を弄るのはマナー違反だとは思うが、相手が見えない以上隠れてなんてできない。仕方なく内容を開いて確認してみる。

 

 

そして、

 

 

思わず、笑ってしまった

 

 

「……タイミング、ばっちしだな。」

 

 

頭の中で全てが繋がった。

 

俺は携帯から目を離し、ドア辺りに携帯画面を見せ、声をかけた。

 

 

 

 

送り主は

 

 

『遠山キンジ』

 

 

内容は

 

 

『今調べている内容』

 

 

 

つまり

 

 

 

 

「なあ、お前がここに書いてある『魔剣デュランダル』ってのなんだろ?星伽 白雪ってのを追ってるっていう」

 

 

キンジのメールの内容を簡単にまとめると、今2人は星伽白雪の護衛の任務に就いているらしい。理由は『魔剣 デュランダル』の狙う力を星伽が持っているからということだった。もしかすると理子の事件の黒幕の可能性もあるので厳重注意。とのことだった。

 

つまり

 

目の前のこいつが、黒幕の可能性ありってわけだ。

 

 

 

だが、これである程度の疑問がすっきりした。

 

 

「なるほどな。お前は星伽白雪を尾行してる最中に、理子と繋がりのある俺の病室に来たのを見たと。んで、その後から、理子が頻繁に俺の病室に行くから、自分の邪魔をしようとしてないか確認に来たってとこだろ?」

 

 

『……ほう、本当に冴えてるようだ』

 

確かに魔剣側からしたら焦るだろうと思った。

星伽を尾行してすぐに昔の仲間がいたなら邪魔しないか心配になって確認したくなるのは当然だ、俺だってそうする。しかもあの敵に回すと面倒そうな理子だぞ。うわぁ…。

それで理子より本当のことを言いやすそうな俺のところに来たと。

 

 

『その情報も理子からか?』

 

「いや、遠山キンジってやつだ。なんかお前狙ってるらしいぞ。キンジがってのはSランクのアリアも来るだろうしマズイだろうな」

 

『ああ、それは私も確認した。何度か神崎を無力化しようとはしてみたのだが、失敗している。今は離れているようだが、いつ来てもおかしくはない状況だ。……しかし遠山キンジからそれを送られてくるということは私の考えは間違っていなかったのか』

 

どうやら魔剣側では俺がキンジと協力していることになっているようだ。

 

「バカ言え。俺の足は見た通り折れてんの。それを治療するために星伽のやつが理子に頼まれて来たってだけだ。なんなら夾竹桃にでも聞けばいいさ。あいつはそのあたりのこと知ってるし、お前も信用できるだろ?」

 

『……そうか』

 

コレが実際すべてだ。俺は星伽白雪のことを顔だけしか知らない。生徒会長として活動しているのを見たことがあるだけだ。さて、ここからどうしたもんかね。どうにかして理子との関係について知りたいところだけど。……原稿作成とかに興味ないかな?

 

と策を考えていると

 

『貴様に聞くが……理子のことをどう思っている?』

 

「は?」

 

突然魔剣から質問が飛んできた。……もし仮にコイツが黒幕ならこの質問はつまり「手下の手下としてこき使う」という前振りか。だが、もし黒幕でないなら……。

 

俺は正直な気持ちを伝えた。

 

 

「わがまま」

 

『それだけか?』

 

「金を大事にしない」

 

『……そ、それだけか?』

 

「お菓子のゴミを捨てない、口悪い、時々アホみたいなこと言う、人をからかう……」

 

考えると出るわ出るわ。入院中にほぼ毎来てて、ゴミを残していくあの金髪ギャル。夾竹桃にさんざん愚痴ったのにまだ出て来るとは・・俺って意外と根に持つタイプらしい。今ならこのまま10分は話せる。

 

そして、

 

 

『理子のこと嫌いなのか?』

 

俺の望んだ返答を返してきてくれた。

 

 

まるで心配したような声。そこに嘘は見えなかった。

 

 

 

……なるほどね。

 

 

 

「アホ言え。俺の高校生活初めてのダチだぞ。ダメな部分があるからって嫌いになるかよ。言い換えれば一番親しいダチってことだ。あっちがどう思ってるかはわからんが、ま、悪友ってとこだろうな」

 

そう、いままであいつといた時間に『楽しくない』という気持ちは一回もなかった。あいつとの時間だけは無くしたくない。そう、心から思えた。

 

もちろん言葉には出せないが。恥ずいし。

 

『……。わかった。お前の言うことを信じよう。岡崎』

 

 

コツコツと扉の方から足音が聞こえる。おそらく魔剣だろう。どうやら正体を明かしてくれるらしいな。さて、どんな女か……あ、実は理子だったらどうしよ。さっきの悪口怒られてしまうかもな……。このアホー!とか言って蹴り入れてきそう……。

 

などと内心ビクビクしていると

 

 

そんな気持ちが一瞬で吹き飛んだ。

 

 

 

「ワーオ、ファンタスティック、ギンパツオネーサーン」

 

 

 

「……どうしてカタコトになった?岡崎は帰国子女か?」

 

 

驚きました。そこには甲冑のコスプレをしていますがとても美人なお姉さんがいたのです。おそらくですが脳内年齢は勝ってるでしょうがおそらく年上です。俺の話し方がおかしくなるくらい、それほど綺麗な方でした。甲冑のコスプレしてるけど。

 

「……どうした?」

 

「いや、なんでコスプレしてんの?と、質問していいのかどうか悩んでたんだ」

 

「コスプレ?コスプレとはなんだ?」

 

 

「オーマイガ、私服トシテ使ッテタノーネ!」

 

 

「さっきからなんだそのカタコトは?今の日本の流行りか?」

 

また銀髪天然が訳のわからないことを言っているなか、俺はわざとらしく両手を挙げる。この子、美人のくせに、外国特有の天然が入ってるな。理子といい夾竹桃といいこいつといい、『イ・ウー』って変人の集まりか?

 

そんなことを考えていることなど全くわかってない銀髪天然は自分の手を胸元に当て一礼してきた。

 

「挨拶が遅れたな。私はジャンヌ・ダルク。外での呼ばれ方は『魔剣 デュランダル』傍にある私の愛刀の名前だ」

 

銀髪天然もといジャンヌは手元の大剣を前に出してきた。ジャンヌ・ダルク?昔聞いたことあったような名前なんだが。昔の人物にいなかったか?…あ、偽名か。

 

「おう、俺は岡崎修一。外での呼ばれ方は『最低ランクEランク』です。よろしく」

 

ペコリと一礼して、改めて考えた。ジャンヌは黒幕ではない。理子に人を殺させようとするやつが、俺が悪口を言っただけで心配するはずがない。

おそらく、その逆。ジャンヌと理子はかなり仲良しだ。

 

疑ってしまったことに少し罪悪感が湧いてしまう。

 

「で?お前は━━」

 

「ジャンヌでいい。理子たちからもそう呼ばれている」

 

「お、おう。じゃあジャンヌ、星伽をどうやって捕まえる予定なのか教えてくれよ。俺はこの通り動けないけど、少しなら力になれるかもしれん」

 

協力したい。素直にそう思った。まあ星伽の方に感謝の気持ちがないわけではないのだが、まあこいつならひどいことはしないだろうさ・・多分。

 

「わかった……まず━━」

 

ジャンヌも頷いてくれて、近くの椅子に座り話してくれた。

 

 

 

 

 

「━━倉庫はもう確保している。あとは星伽をおびき寄せるためのメールアドレスと先ほどの遠山キンジ、神崎・H・アリアの対処を考えるだけだ。星伽とは1対1でやりたいからな」

 

 

 

「……へぇ」

 

『魔剣 デュランダル』としてのジャンヌのやり方は、前日にメールで果たし状を渡し、サシで対決するというものだった。

今回もそれを実行したいらしい。

 

星伽だけを倉庫呼び出して勝負し、

勝てば『イ・ウー』に連れていき、負ければ自分が捕まる。

 

……悪くない。

武士道精神が出てる。……ジャンヌは武士道って知らないかもしれないが。

 

聞いてさらに手伝いたくなった。

 

「作戦はわかったが、難しいとこが残ったな」

 

「……メールアドレスに関しては理子に頼もうと思っている。あいつの内容は信頼できる」

 

「そこはそれでいいと思うが、問題はアリアだな」

 

「流石に私も神崎を相手にするのは一苦労だ」

 

ジャンヌの言っているのは正直に言えば綺麗事だ。現実的に言えば、背後からや寝てる間に襲ってしまうのが一番手っ取り早い。勝負なんてして運悪く殺してしまうことだって無いとは言えないだろう。

 

だが、それでも対等な決闘をしようとするジャンヌには好感が持てる。……犯罪に好感が持てるとか普通に言えてしまうってことは、俺の考え方もおかしくなったようだな。

 

「うっし。わかった。足がこんなんだからあまり長い間止められないだろうが、できる限りのことはやってやる」

 

「本当か!ありがとう!」

 

俺の言葉に本当に嬉しそうに手を握ってくるジャンヌ。素直な奴だなと思いつつ、対アリア用の作戦を2人で考えることにする。

 

「あ、その代わりコレ手伝って。あと金もくれ」

 

「こ、これはやはり夾竹桃の原稿……!?」

 

「まあな。頼むわ」

 

「……わかった。手伝おう」

 

どうやら手伝ったことがあるみたいだ。近くの筆を持ち、教えていないのにすらすらと書き始めた。夾竹桃すげえと思いながら終わりそうな原稿に満足する俺。

 

 

さて、こっから忙しくなるぞ。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「で?なんでしゅーちゃんが、星伽白雪のメールアドレス欲しがっちゃうわけ?ね?なんで?」

 

「だから俺の足を治療してくれたそのお礼を言いたいってさっきから言ってるだろ?何怒ってんだよ?」

 

「べっつにー??理子全然怒ってないよー?しゅーちゃんがどんな女の子とイチャイチャしてよーが、関係無いですよー」

 

そして祭当日の昼。昨日伝えた件について、理子が問いただしてきた。本当はジャンヌのためなのだが、俺の理由はおかしかっただろうか?

 

ジャンヌが聞くより俺がさっさと聞いた方が早いと思ったが、逆だったらしい。

 

 

「……ほらしゅーちゃん、送っといたよメアド」

 

なぜか不機嫌な理子なのだが、ちゃんと調べておいてはくれたようだ。

 

携帯を開いて確認するとメールアドレスが書かれていた。……なぜかその横にアカンベーしてるマークがついてるが、気にしないことにしよう。

 

「お、さんくす!よっしゃ!」

 

とりあえず第一段階は成功。あとはジャンヌがあのあと言っていた「キンジと2人きりの星伽にメールを送る」という部分だが。どうしたもんかね。キンジのメールによるとアリアとキンジの2人で守ってるらしいし、どうにかしてアリアを離さないと……

 

「でもでも、星伽さん狙っても無理だと思うよしゅーちゃん。あの人キンジにゾッコンラブラブ♡なんだから」

 

「あ?キンジと?キンジって星伽と付き合ってるわけ?」

 

「んにゃ、んにゃ、付き合ってはないよ。ただ星伽さんが一方的にアタックしてるみたい」

 

へえ、キンジってモテるんだな。まあ確かに身長高いし顔も悪く無いし、モテない要素の方が少ないか。……羨ましい。

 

「そんなことよりさ、しゅーちゃん!理子昨日ね、浴衣見に行ったんだー!」

 

「へー」

 

理子の話を小耳に聞きながら、俺はどうやるかを考えていた。さて、どうするか。アリアだけをここに呼び出すか?いやそれだと後から俺が疑われてしまうな。……うーん

 

「…………。━━━━で、すっごいえっちぃ浴衣買ったの!もうね、胸元すっごく開けててねー」

 

「その話詳しく!」

 

小耳なんて滅相もない。両耳で聞きますよもちろんです。男の子はそういう話を欲してるんです。理子が若干引きながらもその話を続けてくれた。

 

 

「━━ってことで、祭の時にしゅーちゃんが襲ってきてもこっちは全く問題ナッシングなわけであります!」

 

 

 

 

「そっか、祭りか」

 

敬礼している理子の横で、思わずつぶやく。そっか。

 

 

 

 

「なあ理子」

 

「どしたのしゅーちゃん?」

 

「祭さ、俺と夾竹桃以外にもう1人連れてきていいか?」

 

「いいけど?誰?キーくん?」

 

「いや、ジャンヌだ」

 

「え、ジャンヌって、もしかしてジャンヌ・ダルクのこと!?」

 

そうすればなにもかも解決だ。キンジと星伽に祭があることをうまく知らせられれば、きっと星伽は2人で行きたくなるだろう。そのまま行ってくれれば、ジャンヌが見つからないようにしつつ様子を見つつ、メールを送れる。

 

だが、俺がジャンヌのことを言うと、急に理子の目つきが変わった。

 

「おい、いつコンタクトされた?昨日の夜か?」

 

「お、おう。それがどうした?」

 

「……。」

 

理子はそれだけ聞くと、考え事を始め、舌打ちする。

 

「星伽のメアド、ジャンヌに頼まれたんだろ?あいつが星伽を狙っているのは知ってる。変装に手貸したし」

 

「……ま、そんなとこだ。お礼が言いたいってのも本当だけどな」

 

結局、バレてしまった。これなら最初から本当のことを言ったほうがよかったかもしれない。と思っていると

 

「はあ、わかったよしゅーちゃん。ジャンヌも参加ね。きょーちゃんにも伝えとくから」

 

「おう。頼むぜ」

 

「ちなみに、ジャンヌに他のこと頼まれてたりしない?例えばアリアと戦ってくれとか」

 

理子は頭のいいやつだ。やはりそこに感づいてきた。しかし

 

「いや、そんなことは言われてないな。俺が頼まれたのは 星伽のメアドとそれを送る状況を作ってくれ。ただそれだけだ」

 

本当のことは言わない方が良さそうだ。まあ実際アリアと正面切って闘うつもりはない。罠を揃えて影から無力化する予定だ。

 

 

「そっか。そっーかそっか!ごめんねしゅーちゃん変なこと聞いて!」

 

急にまたハイテンションに戻った理子は持っていたトッポを俺の元に渡して

 

「じゃ、しゅーちゃん今日の午後6時に病院の下にいてね!理子着替えに行ってくるよ!」

 

「おう、楽しみにしてるぞー」

 

「あーいあーいさー!!」

 

理子はそう言って出て行った。それを見送った後、ジャンヌに星伽のメアドと祭のことを話す。キンジと星伽の方はジャンヌに頼もう。

 

メールはすぐに返事がきて「了解した。6時に病院へ向かう」とだけ書いてあった。業務連絡かよ。

 

「あとは、祭を楽しむだけだな。…理子のエロ浴衣、楽しみじゃのう…ジュルリ」

 

鼻の下を伸ばしながら、俺は残り作業を開始した。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

とある場所、とある通路にて

 

 

『おいジャンヌ。話がある』

 

 

『どうした理子?もう手伝いはしてくれないのではなかったか?』

 

 

『どうしたじゃない。なに勝手に修一とコンタクト取ってやがる。しかも今回の星伽の件手伝わせようとしてるだろうが!』

 

 

『……そのつもりだったのだが、ダメなのか?岡崎自身から協力すると言ってきたのだぞ?』

 

 

『ちっ、あのバカ男……女ならすぐに助けようとしやがって…。ダメだ、修一をこれ以上私たちのことに首突っ込ませるな』

 

 

『なんだ?理子らしくないじゃないか。私はただ道具を借りたいと言っているだけだ。それだけで━━』

 

 

『おいテメェ!なに修一を道具扱いしてんだよ!爆破されたいのか!!』

 

 

『……!……悪かった。だがどうしてそこまで本気で怒っているんだ?らしくないぞ?』

 

 

『修一の怪我見ただろ。あの状態でまた危険な目に合わせるわけにはいかないの。もしこれ以上修一に無理させようってんなら、今から理子がジャンヌを潰す』

 

 

『……、お前にとってそこまでする価値のある男なのか、岡崎修一は』

 

 

『あいつは理子の本当の理解者だ。もうあいつの苦しむ顔は、絶対に見たくない。だから━━』

 

 

 

『わかった。そこまで言うなら、これ以上岡崎を使……いや、岡崎に頼るのはやめよう。ただ、今日の祭りでの作戦だけは協力してもらうぞ。岡崎の合図が重要だからな』

 

 

『……それで、修一が傷つくことはないんだな?』

 

 

『ああ。ただメールを送るタイミングを聞くだけ。それだけだ』

 

 

『…………わかった。だけどもし修一が危険な目にあったら作戦ぶち壊してでも止めるよ。いいね』

 

 

 

『問題ない』

 

 

 

 

 

 

(ここまで人の心を動かすか岡崎修一。今の理子は今までで一番いい顔をしていた。……本当にすごい男だ、お前は)

 

 

 

 

 




あとがきですみません、今までで物語に関しての質問が寄せられたことが何度かあったのでまとめてみました。
このような感想もどしどし応募しておりますので、気軽に質問してくださいね!


(1)
 (質問) みず  さんより

  一年組に顔割れてるけど平気……なの?

 (返答)

 事件の内容として、修一は夾竹桃に脅されて仕方なく手伝ったとい
うことになっています。なので容疑としては無罪です。あかり達が 捕まえに来ることはないです。これから修一たちと一年組の関係がどうなっていくのかお楽しみに!


(3)
 (質問)ベルク@チョモランマ さんより 
  
  脳内麻薬(修一が壊れた時のこと)含めると近接限定ならAとSの 間くらいは有りそう……
  他の技能が壊滅的過ぎるのだろうか……
  タグの『何の才能もない』ってには首を捻るレベルの戦闘技能だと思うのですが……
  才能=遺伝とかそんな感じですか? 

 (返答)
 
  タグの「何も才能がない」とは、

  ①「何も才能がない」と岡崎修一自身が感じているということ

  ②『他人から見たEランク岡崎修一』のことを指しています。

  岡崎修一自身の性能に関しては指していないと解釈してください。

接近戦の実力は良いほうだとしています。中学大会良いとこいってますし。


みなさん、ありがとうございました!引き続き「サイカイのやり方」をよろしくお願いします!

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