依頼が終わらないことに不満が募りながらも、新しいご主人夾竹桃の命令に従う。
全てはお金のために
「ぐええ…お、重てぇ…」
俺はなぜか青いトランクを必死にホテルから出していた。雨が止んでくれたのはうれしいが、地面がぬかるんでいて気持ちが悪い。…な、なんでこんなことさせられてんの俺。
『それ運んだらあとから送るデータの場所を調べなさい。そこが私の部屋からの死角で最も人の少ない場所。多分拠点をおくはずよ』
夾竹桃は電話越しでゆっくりと喋ってやがる。なにしてんのかと聞くとお風呂に入っているらしい。…待遇の差が激しいな。
「…おい、なんでプールの場所だけ赤線引いてあんの?」
『そこに落ちたら終わりだからよ。私、泳げないもの』
「へえ意外な弱点…でもないか。お前運動神経悪そうだし」
『あなた、クライアントに失礼じゃない?本音を言い過ぎよ』
「そういうもんか。すまんね、まだそういうことは学習中なんだよ」
『…まあ、私としてもただ従ってもらってるだけじゃつまんないし、いいけど。どうせ間宮あかりが来るまで暇だもの』
「…それならこれ運ぶの手伝ってくれませんかね?結構重いんですけど」
『女の子に重たい物運ばせる気?レディに対して失礼だと思うけど』
「クライアントになったりレディになったり忙しいやつだな…っと」
俺は指定されたゴミ捨て場。夾竹桃のホテルから1kmほど離れた距離に置いておいた。中身は聞いてないが、まあ知らない方がいいんだろう。
「なあところでさ」
『なぁに?暇だから聞いてあげる』
「理子もいる『イ・ウー』ってのはどんな組織なんだよ」
『そうね…あまり部外者に話すことじゃないけど、まあ簡単に言うなら数多くの超人的人材を擁する戦闘集団ってとこかしら。超人たちの集まりとも言うかも』
「ふーん。犯罪組織ってわけじゃないのか?」
『結構自由だから犯罪犯しても「イ・ウー」としては問題ないわね。まあ自分が捕まらなければいい話よ』
なるほどね。それで武偵殺しも所属できるってわけか。
それから俺たちは暇になった(夾竹桃だけ。俺は拠点の捜索隊)時間を使って適当な会話を続けた。こいつ意外とノリはいいのか?話したらちゃんと返してくれるし。
…俺の寒いギャグ以外ね。
そんなことを考えながら、作業を進めた。
ーーーーーーーーーーー
Akari side
夾竹桃に言われ、私たちはあるホテルにたどり着いていた。豪華な内装のなかを私と友人の
仲間はみんな、それぞれの位置についてくれた。もう包囲網は完璧だろう。
私は警戒しつつ一階の援護を志乃ちゃんに任せエレベーターに乗る。そして夾竹桃の部屋、401号室にたどり着いた。
「夾竹桃の部屋に到着。今から中に入るよ。おそらく戦闘になるからみんな、気をつけて」
耳につけたインカムから本部であるワゴン車へと状況を報告する。…が
『ガーーーーーピピーー!』
反応先からはノイズ音だけが聞こえてきた。なにかのトラブルだろうか?
「…麒麟ちゃん!?どうしたの、聞こえる!?」
本部にいるはずの
私はバンッ!と勢いよく扉を開けて中に飛び込む。もしかしたら私をここに連れてきておいてその間に麒麟ちゃんを襲ってしまったのか!?
その不安に煽られながら、花や蝶の舞う部屋に転がり込む。そして
裸で水の滴る夾竹桃を目撃した。
「…えっち」
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「…間宮さま…気を…つけ…」
「すまんね。まあ殺傷能力はないってさ。睡眠ガスみたいなもんだってよ」
俺はワゴン車の空気を入れ替えつつ壁についたコードを適当に引き千切る。
夾竹桃の言った通り、マークのついた部分に拠点を置いてやがった。そこに夾竹桃からもらった睡眠ガスを投げ込んだのだ。中にいたのが一人だけだったのにはビックリしたが、まあ結果オーライだろう。
もし他にいて起きてられたら面倒だったろうし。
「相手の人数が多い場合、最初に絶つのは通信ってのは基本だよな」
俺はそういいつつ金髪の(またかよ)ちっこい女の子を椅子に寝かせる。すげーな。こんな子でも夾竹桃の絡む事件に関われるのか。…それに比べて俺は…ちょっと情けなくなってきた。
「っと。こんなことしてる場合じゃないな…えっと」
俺は先ほど撮っておいた残り部隊員7名のGPSの場所を夾竹桃に送る。これであいつも動きやすくなるだろう。俺はやることはやったのでワゴン車から出て湿った地面を踏む。
…そして
「そんでもって、俺また戦うのね」
「おいお前!麒麟に何しやがった!?」
インカムがおかしくなったことにもう気づきやがった。身長が俺と同じくらいの金髪(もういいよ)ポニーテール女子武偵が拠点確認のためにやって来た。どうやら一人だけらしいな。
先ほどの少女に強く思い入れがあるようで、俺の姿を見ただけでかなり殺気立っている。
「いや、何もしてないって。ちょっと眠ってもらってるだけだから、大丈夫」
「なにが大丈夫だ!麒麟に手だしやがって!ぜってぇ許さねぇ!!」
彼女は怒りに任せてトンファーを構える。懐かしい武器にちょっと驚きつつ
こ、怖っ!?コイツ目が完全に見開いてるんですけど!?
と余裕な表情を作った裏で怯えていた。正直敵にしたくないタイプだ。
(やばい…俺、最初に攻めるべき場所ミスった??)
俺は内心でかなりの冷や汗をかきつつ、今日ようやく送られてきた木刀を片手で構える。
そして、
「「━━ッ!!」」
お互いが急接近し、それぞれの武器が交差する。
ギンッと音を立てお互いの接触点から火花が散る。
かなり重たい一撃だった。性別的にはこちらが有利のはずなのに、全く押せない。まあ片手片足に力が入らないのも原因の一つだろうが。
それから4、5回ほどそれぞれの武器を混じり合わせ一旦距離を置く。
「いいね、頭使わない方がやりやすくてい━━」
俺がそう言い終える前に、すでに接近してきていた金髪ポニテに、もう一度武器を交差し合う。
が、
「あんまり、舐めんな!!」
金髪ポニーは力を入れている俺の木刀を軸にしてくるりと一回転すると、すっと上半身を下げ俺の懐に潜り込む。
(…しまっ!?)
俺が距離を取るより速く、金髪ポニーのトンファーが俺のなにも持っていない右腕に突き刺さる。
「━━━━ッッ!?!?」
目を見開き口から空気が漏れ出る。いままでの右腕に来ていた痛みが、一気に脳の伝達を遅らせる。右腕にもう、感覚は残されてなかった。
そして
「おおおおおおおおおお!!!」
金髪ポニーのトンファーがそのまま俺の顔面を殴り飛ばす。もう息を吐く余裕すらなかった。
思いっきり殴られた体がアーチを描くようにぐにゃりと曲がる。そして、地面から足が離れ、体が浮いた。
勢いで吹っ飛ばされ後方にあった木に激突してしまう。そして力なくずるずると落ちていく俺。
薄れゆく意識のなかで俺は、これが本当の殺し合いであることをようやく理解した。
ルールなんてない、卑怯姑息なんて言葉は言っているときには死んでいる。そんな、殺し合い。
目の前がチカチカと点滅し、焦点が合わない。
そして、思いだされる過去の記憶。
自分に自意識過剰で、なんでもできると思っていた時期。
手当たり次第悪そうなやつを見ては竹刀で殴り飛ばしていた日々。
もちろん無傷で全勝できるわけはない。このように顔面を強打されたり足折られるたりは日常茶飯事だった。
今にして思えば、生傷はその時のほうが多かったのかもしれない。いまは教室の隅っこでただ言われ続ける罵倒をただ受け流していたくらいだったから。
こんなことは、一年ぶりだった。
いままでの戦いでは相手が銃を使う遠距離戦。
一発が重たすぎて当たってはいけなかった。
…が今回はただの殴り合い。喧嘩と呼んでもいいかもしれない。
だが、それが無性にうれしかった。
━━ドクン
一度、鼓動が大きく聞こえた。
昨日のアリアとの一戦。
忘れもしない。Sランク武偵の武術の腕。アレを見たときもワクワクした。足や腕の痛みなんてどおってことない。
ワクワクするものを前にして、自分のことなど二の次だ。
「……鼻血、でちまったなぁ」
どこかと連絡を取っている金髪ポニー。その目はまだ、俺を見ている。
鼻をティッシュで拭きとり、ゆっくりと立ち上がる。・・相手は強敵。全快でも勝つのは難しだろう。
しかし
俺は、
岡崎修一という一人の男は
考えることを止め、ただ目の前の敵を倒すことだけに全神経を注ぎ込んだ。
ゾクッと、何かを感じたのか金髪ポニーが一歩後ろへ下がる。
俺は落としてしまった木刀を拾いながら、夾竹桃にさりげない感謝をしていた。
(…お前のおかげで、俺はまた強くなれそうだ)
そして、低くトンファーを構え直す金髪ポニーに
「行くぞ女。テメェが地べた寝転んで何も言わなくなるまで殴るから覚悟しろよ?」
「━━っ!!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
Kyouthikutou side
「どう?見られちゃってるわよ?」
「----くッ、ああ!!」
間宮あかりと対話するも交渉は決裂。
私は外に張ったワイヤーを伝ってほかの仲間を一人ひとり毒に犯していくことにした。
この子もその仲間の一人、
彼女は高名な相模の忍者の末裔らしいが、実際は大したことなかった。持っていた毒一つで何とかなるようなやつに興味はない。私は暇つぶしついでにその末裔の者が最も嫌う素顔を見てやりつつ、右手に仕込んだ毒を彼女の体内に送り込む。これでこの子はもう動けない。
GPSの場所を確認すると、ここからはもう少し歩かないといけないようだ。
「暇ね。…岡崎のほうはどうなったかしら?」
暇つぶしがてら岡崎に電話する。あいつは話が上手いわけでもないのにずっと話せるから便利だ。
まあ、あっちもあっちで誰かと戦ってるのかもしれないし、もしかしたらもうやられてしまったかもしれない。
「ま、それならそれで、別にいいのだけど」
正直、岡崎の手伝いは予定になかったことだ。実際私の負担を軽くすることが目的だったが、実際軽くならなくても全く問題もない。いま岡崎が生きてようが死んでいようがどっちでもよかった。
『…あいよ。夾竹桃、か…?』
しかし、彼は思った以上に早く電話にでた。もしかしたら誰とも戦っていないのかもしれない。息切れをしているところを見るに、逃げ出したのか?
「あら。ずいぶんと疲れた様子だけど、一年武偵が怖くて逃げだしたのかしら」
『一年だっつっても実力が違う訳じゃねーし…というか俺のほうが弱いっての』
「あら?そうなの?」
『万年Eランク舐めんなって…。そっちはどうなってる?間宮は?』
「ちょっと交渉に失敗したわ。だからあの子と一対一になって、鷹捲りだけでももらって行くことにしたの」
『鷹捲り?なんだそりゃ』
そうか、確か岡崎には何も伝えてなかっわね。それで手伝ってくれるところは良いところね。
「間宮一族に伝わる伝統の毒よ。私ってこの世に自分の知らない毒が存在することが許せないから」
『ふーん。んじゃとりあえず今近くを通った間宮と黒髪の女は無視していいよな』
「ああ、そっちに行ったのね」
『まあ、通信施設がやられたら確認にはくるだろ。戦いの場所はどーすんだ?ここでいいのか?』
「そうね。どうせなら景色がきれいな場所がいいわ。…そうね、橋とかどうかしら」
『おいおい、こっから一番近い橋つーと、こっからもう一km先だぞ。…ほかの場所にしね?俺結構もうギリなんだけど』
「なんであなたのことまで考えないとダメなのよ。さ、あのトランクを橋まで持ってきて頂戴ね」
『…へーへー。従いますよ』
不満そうにしながらも従ってくれる岡崎。命令する側ながらちょっと同情するわね。ただのEランク武偵がこんなことに巻き込まれるなんて
「ついでにあと二人くらい人数を減らしといてくれるかしら。私が一人無力化したけど、まだあと7人もいるし、まだ人数が多いわ」
『いやあと5人だ』
どうやら2人無力化したようだ。計算違いだが、嬉しい誤算だ。
「あら、あなたなんだかんだ言いながらやることはやってるじゃない」
『たまたまだっての。相手が接近戦で来てなかったら負けてた』
「ならそうね、あの間宮あかりの近くにいる佐々木志乃って子は私がやるわ。」
『んじゃ俺は残り三人を近づけないようにしたらいいんだな。・・無理だったらよろしく』
「無理だったら報酬はなしよ」
『…全力でがんばります』
「よろしい」
通話を終えた後、私はゆっくりと橋に向かって歩き出していた。
…あ
「そういえば橋にどうやって間宮あかりを呼び出そうかしら…通信は壊しちゃったから私のいる場所も知らないんじゃ…」
「ようやく見つけましたわよ夾竹桃!あかりたちにはもう伝えましたわ!あなたも終わりですわよ!」
「…グッド」
頭に包帯を巻いた高千穂のおかげで何とかなりそうね。あと二人、頼んだわよ、岡崎。
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Akari side
「ひどい…ライカが…」
志乃ちゃんと拠点に戻ってみると、その近くでライカが倒れていた。先に来ていた、
「体中に打撲痕…夾竹桃じゃない…誰がこんなことを…!!」
志乃ちゃんがライカの状態を確認して奥歯を噛む。打撲痕…ってことはまさか!?
「まあ、その、なんだ。その子には悪い事したな」
「…岡崎、修一!!」
「いやそんな敵の強キャラが来たみたいに叫ばんでも…俺Eランクだってのに。ほら、この子も看病してやってくれ」
突然現れた岡崎修一が、肩に乗せた
「な、なんなんですかあなたは!!あなたも夾竹桃が言っていた『イ・ウー』の仲間なんですか!?」
「聞いたとこだと『イ・ウー』ってのは超人的人材を擁する戦闘集団らしいぞ。俺なんて無理む━━」
岡崎修一が話してる中、志乃ちゃんが思いっきり彼の顔を殴り飛ばした。ただ殴られてしまった岡崎は頭から地面に倒れ込む。私はただ驚いて口を手で塞ぐことしかできなかった。
「ライカちゃんの代わりに私があなたを殴っておきます。構いませんね」
「…ああ」
だがこれで少しは気が晴れたのも事実だ。やっぱり私も心の中では岡崎を許す気はない。殴られて当然とも思ってしまった。
「行きましょうあかりさん。先ほど高千穂さんから連絡のあった橋へ。
「え!?でもそうなると」
「夾竹桃とはお二人で…!?」
高千穂産の傍にいることの多い双子の武偵、
「確かにキツイ…とは思うけど、この人も放っておけないよ」
「そうです。仮にもライカを倒した男ですし、油断できません。あなたたち二人なら任せられます」
「動くこともうないんだけど…」
「あなたは黙っていてください!」
挟んでなにかを言っている岡崎の言葉を強く断ち切る志乃ちゃん。ちょっと怖い…。
「…わかりました!」
「お二人も頑張ってください!」
湯湯ちゃんと夜夜ちゃんがそれぞれ頷いてくれる。よし!あとは夾竹桃だ!
「行きましょう、あかりさん!」
「うん!よろしくね」
そして私たちは夾竹桃の待つ場所へと向かった。
ーーーーーーーーーーーーー
「なあおふたりさん」
俺は殴られた部分を押さえながら残った二人に声をかける。
「なんですか?」
「あ、あなたになに言われても動じませんよ!?」
あれ、俺もしかして無茶苦茶怖がられてないか…?初めての経験だぜ。だけどまあ、夾竹桃の言う通り二人は抑えきれた。
…でもあと一人、誰か残ってる。そいつもここにいればよかったんだが…そいつを探さないと…報酬が…!!
やって、みるか。
「あのさー、そもそもなんで俺がライカ、だっけ?その子を倒したって思ってるわけ?俺何もしてないんだけど」
「は!?なにいきなり言ってんですか!?そんなわけ」
「いやお前ら俺の評判聞いたことないの?すごいぞ、悪い意味で」
「…た、確かに…岡崎の射撃訓練は一度見た事ありますけど」
「0点を取った人を見たのは初めてだったのでよく覚えてます…」
「そんな人が」
「あの
うるさいよ。…本当のことだけどさ。
で、でもまあ、いい感じになったな。プライド的にはズタボロだが。
「だろ?そもそも俺は夾竹桃に脅されて手伝ってただけで、実際やったことは催眠ガスを投げて通信機を壊しただけなんだよ。そう考えたら、どうして夾竹桃はライカって子をわざわざ打撃で倒したと思う?」
「…岡崎修一が倒したと認識して、岡崎修一を強者にするため?」
「でも、どうして?」
「こうやって、お前ら二人を俺の監視役にして人員を減らすためだな」
「「なっ!?」」
よし。上手くいきそうだな。
「あーあーすごかったぞライカを殴る夾竹桃。あの2人まじでやばいかもな。あいつサディストだからさ、2人ともやられたとしてもその後からボッコボッコ殴り始めるかもなぁ。その子もそんな感じだったし、気絶した上からボッコボッコボッコボッコ」
「「!!??」」
…これ夾竹桃に聞かれたら俺がボッコボッコなんじゃなかろうか。…どうか耳に入りませんように。
「早く助けに行った方がいいんじゃないか?」
「あ、あわわわわ…!」
「ま、まって!そもそもどうしてそういうこと教えるんだ!?言わないほうがいいはず!」
お、頭いいじゃん。…どっちかわからないから名前はわからないが。
「まあそれもそうなんだけどな。実際俺も夾竹桃の最後を見に行きたいってのが願望で。それにはお前らに信用してもらわないといけないだろ?ってことで情報提供」
まあ実際は最後の一人をこっちに来させるためだが
「…い、一理ある…」
「で、でもそうなるとあなたが夾竹桃に手伝えるじゃないですか!」
「あのなーお前ら、さっきも言ったけどEランクだぞ。戦闘に紛れるとか無理だ無理」
「…ど、どうする?」
「…い、いいんじゃないか?岡崎の言ってること理屈通ってるし」
……よし。だいぶ俺の発言力が強くなってきたな。
「じゃあ行こうぜ。…あ、全員で挑んだほうがいいんじゃないか?まだいるんだろ?人」
「あ、麗様!!」「は、早く連絡を!」
「「………。」」
「ん?どうした?」
二人がなぜか俺の方をみて口を開けているが、よくわからん。・・まあいい、連絡をとってくれるなら高千穂も俺の方に置いとけば、夾竹桃の言うことは守れるし。
「さて、行こうぜ。なんなら手錠でもしていくか?」
「いや、そんなことしない」
「麗様のことを慕ってる人に、そんなことはしません」
「…そう、なん?」
どうしたいきなり…なんつーかさっきまでの殺気みたいなやつがないんだが…。というか別に慕ってないぞ?どっちかつーと多分あっちに恨まれてる。
「んじゃ行こうぜ。結果だけを確認しに」
「「はい!!」」
「…ほんとどうしたのお前ら…」
なぜか俺が先頭に立って進む形になった。…こいつらの中でなにがあったんだ??
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
Kyouthikutou side
「志乃ちゃあああああん!?」
あら、やっぱり橋の下に隠れてたのね。
私の前で、倒れた
コレ、意外と高性能ね。武偵高の制服って防弾だったはずなんだけど。
両手で持つガトリングガンを持ち直す。岡崎に持ってきてもらった箱の中身はこれだ。友人から譲りうけたものだが、あってよかったわね。
「あら残念。本当は毒に苦しむ姿を見たかったのだけど…」
…それにしてもあの男意外とやるわね。橋を通行止めにしろなんて言った覚えないのに、より戦いやすくさせるなんて。
間宮あかりが佐々木志乃をゆっくり地面に寝かす。…そして、よくわからない構えを取る。
「なにそれ?」
「
「……!!」
キタ、キタキタキタキタキタキタ!!鷹捲り!!千本の矢をすり抜け一筆で死を撃ち込み死体に傷が残らないという技…!!一体どんなの!??
私は期待に胸を躍らせながら二ヤッと笑ってしまう。
「どうしたの?早く鷹捲りを見せてちょうだい?…来ないなら、私が千本の矢を、放ってあげるわ!!!」
ガトリングから無数の弾が間宮あかりに飛んで行く
さあ、鷹捲りを見せて!!
彼女はその無数の弾の中を、こちらに走り出し
━━そして
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「思ったより遠かったな。1kmってのも」
俺はなぜか手を貸してくれる二人と共に橋までやって来た。高千穂は来る途中の道で気を失っていた。あちゃあ間に合わなかったかと思ったが仕方ない。こうなったら半額でももらってやるとここまで来た次第だ。橋の周囲は通行止めにしてしまったことで警察が駆けつけているが、爆弾情報を流しておいたためうかつに近づけないようだ。…まあさっきから聞こえるガトリングの音でも近づけないってのもあると思うが。…ていうかあれガトリングだったんか。重いと思ったもんなアレ。
「こ…これは!?」
「岡崎先輩、どうなってるんですか?」
「ああ、多分夾竹桃とあの二人が戦ってるんだろうな。結果は俺にもわからん」
なぜか途中から敬語を使ってくれるお二人。…本当にわからないがまあ悪い気はしないのでそのままにしておく。
それからしばらく、決着は
突然だった。
「きゃああああ!!」
突然響いた叫び声、そして橋の上でピカッと光るなにか、そして
「夾竹桃!?━━━━ッ!!」
「「岡崎先輩!?」」
なぜか下着姿になって橋から下の川に落ちた夾竹桃。俺は体が反射的に動いて川へ飛び込んだ。
《
『…おい、なんでプールの場所だけ赤線引いてあんの?』
『そこに落ちたら終わりだからよ。私、泳げないもの』
》
(やばい!!溺れさせたら━━!!)
報酬がなくなる。そう、別にあいつのために飛び込んだわけじゃない。
俺は思った以上に泳げたらしい。ものの数秒で夾竹桃を見つけることができた。
俺の金愛無敵か。
だが夾竹桃自身はバタ足もせず、ただどんどん海中に沈んでいく。あいつ、マジもんで泳げないのかよ!!
大きく息を吸い、勢いよく潜り、夾竹桃の腕をつかむことに成功した。
「━━━ぷはっ!!おい!意識あるか!!おい!!」
顔を海水から出して頬を叩く。夾竹桃は目をうっすらと開ける。
「…あなた。なんで…?」
「お前泳げないくせになんでこの場所選んだんだよバカか」
「…バカって…なによ…失礼、ね、ゲホッ、ゲホッ!」
「わーったって。んで?鷹捲りは入手できたのか?」
「…鷹捲り、毒じゃなかったわ。私の勘違い…はあ、一体何のためにここまでしたのかしら」
本当に残念そうな夾竹桃。確かに、目的のものが本当は全然違がったらヤだよな。
「あそう。ま、しょうがねって世の中そんなもんだ。お、間宮が来たぞ」
「…あら」
橋から落ちてきた間宮がこちらに泳いでくる。
「きょ、夾竹桃!!あなた泳げなかったの!?」
「まあね」
「いやなんでそこでドヤってんだよ」
なぜか俺の腕の中でドヤる夾竹桃。…どこにもドヤる要素ないが。
「んー!!そんなことより、夾竹桃!逮捕するよ!!」
そう言って、間宮は夾竹桃の腕に手錠を付けた。これにより夾竹桃の完全敗北である。…さんざんだな夾竹桃。
「あら、これじゃ完全に泳げないわね。連れて行ってくれるのが岡崎ってことには不満だけど、運んでくれるかしら…私の顔を一度も水につけないように」
「おまえな、助けてもらっといてそりゃねーぞ。ちょっとくらいしょうがないだろ?俺お前を片手で支えてんのよ?」
「お金は払うわ」
「仕方ねぇな」
「ええ!?できるの!?」
俺と夾竹桃の会話に間宮が驚く。おお、こいつもしかして久しぶりに見るツッコミ役か?
「さて、んなことより早く陸に戻ろうぜ…さすがに疲れた」
「あ、はい」
「よろしくね」
そう言って夾竹桃は俺の首に腕を回す(手錠がついてるから俺の頭を包むようにしてきた)。
おおう…夾竹桃いま下着だからその、いろいろと近いんだが…。と顔を赤らめていると、それに気づいた夾竹桃がくすっと笑う。
「あら、岡崎。もしかして照れてる?」
「ま、まあな。お前顔だけは俺のタイプドストライクだから、そんな奴にこんな密着されると男はうれしいもんだ」
そういうもんだ男ってのは
そう言うと夾竹桃は驚いた表情をしたあとなぜか爆笑し始めた。
「くすくす。あんたを理子が気に入るのがわかったわ。そう、あなた、私みたいな顔がタイプなのね?」
「…まあな」
やっべ。これ弱み握られたか?
「ちょ、岡崎さん!行きますよーー!!」
先に泳いでいた間宮がこちらを向いて叫んでいる。いくか。
「ああー!悪い、今行く!!」
「…ふふ」
なぜか笑っている夾竹桃を抱いてさあ泳ごうとした…その時
「じゃあ、あとで報酬替わりにイイコトしてあげましょっか?」
ふーっと夾竹桃が俺の耳に息を吹きかけながらとんでもないことをおおおおおおおお…!?!?!?
「ちょ、おま、なにいっ━━!!」
「わ」
俺は思わず反射で離れようとしてしまい、そして
スッ
「「…あ」」
俺の首に夾竹桃の右手の爪がこすれた。…ただこすれたのならよかった。…だが
コイツの右手の爪には、毒が塗ってあ………る………。
「……………」
「ちょ、ちょっと待って岡崎!?今気を失われたら・・!!ま、間宮あかり!!た、助けて!!」
「え?ええええ!?!?どうして岡崎先輩沈んでるんですかあああ!?!?」
初めてみた夾竹桃の慌てる顔を見れないのを残念に思いつつ、俺は意識を失った。
こうして、夾竹桃の手伝いも終結した。
PS,俺の毒は陸にあがってすぐ夾竹桃が解毒してくれたからなんとかなりました。
【第4章 「VS アリアAA」 終】
実は修一「ああ、もしかしてあの最初に路地裏で会った高千穂 麗のことか。・・よかった、大けがにはならなかったみたいで。」の部分、声にだしちゃってます
タグの「何も才能がない」とは、
①「何も才能がない」と岡崎修一自身が感じているということ
②『他人から見たEランク岡崎修一』のことを指しています。