*次話からは前話のあらすじが入ります
(1)サイカイのレッテル
人生ってのはひどく理不尽なものだ。
ある人には世界一になれるほどの才能を与え、ある人にはいくら努力しても全く成果を出させない。
何が「天才は1%の閃きと99%の努力からできている」だよ。その1%がなけりゃいくら努力しても水の泡だろうが。「努力が必ずしも自分に成果を出すとは限らない」ってのが心に響くね。
努力した人間ってのは結局、天才には勝てない。
それが俺が東京武偵高校で学んだ最初の教訓だった。
東京武偵高校。増加する凶悪犯罪に対抗するため、武力を行使する探偵・通称武偵を育成する教育機関である。
その武力を行使という部分が、自分に酔っていた俺にはかなり響いた。
それが大きな間違いだった。
入学式に行われた新入生を試す試験にて、俺はものの一分で地面に寝ッ転がっていた。
それをやったのが教官ではなく俺と同じ新入生だったこと、それが今まで勘違いしていた自分を物の見事に撃ち壊す。
自分が最強だと思っていた分、何もすることができなかった自分が信じられなかった。そして…
俺のランクは強襲科のE。ランク最下位だった。この日初めて本当の意味で敗北を味わった。
俺に才能なんてないのか…とこの時から考え始めていた。
そして半年。クラスメイトが次々とランクを上げる中、一人だけ最下位のまま月日だけが流れていった。
人間の反射神経じゃ銃弾は回避するなんて出来ないし、剣術は敵との間合いを詰めることによって真価を発揮する。少しだけ自信のあった剣術すら無駄だ。
ただ、銃を扱うこともできなかった。
一般中学から来た俺が銃の扱いに慣れているわけがないというのもあるが、そんな生徒なんて俺だけじゃないし、ある程度は教えてくれはするのだが俺にはさっぱり理解できなかった。
引き金を引いても望んだ場所には当たらない。教官も頭を抱えて「そもそもセンスがない」と諦めたような口調で言われた。
長々と話してしまってが、要は天才であると勘違いしていたただの一般人が一年で現実を見たって話だ。
一年間特に変化なく終わり、このまま残りの学園生活も隅っこで何もせずに終わり、俺は普通の仕事について普通に死んでいくんだろう。
もう努力はした、武偵としての才能もなく、銃も無理だ。
もういいだろ?疲れたんだよ。
…そう、思っていたんだ。
『私は嫌いな言葉が三つあるわ。無理、つかれた、めんどくさい。この三つは人間のもつ可能性を押しとどめるよくない言葉。私の前では二度と言わないこと!』
あの天才に会うまでは。
つまりはダメ人間の誕生です。それだけです。