そして ワンコ派 さまより挿絵を頂きました!!
いい意味で閲覧注意かもしれませんw
主人公八眼童の憑依した絡繰り人形だそうで、実に雰囲気がいいです!
これは負けられない!w
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部族総出での見送りをうけ、身の回りの世話係として年の離れた妹のユタをつれて、主神ヤツメワラシの神殿があるアルヌスの丘へ向かうジエイタイの鋼の天馬内にて。
席に座りベルトを締め、窓から外を眺めているナユはゆっくりとこれまでとこれからについて考えていた。
あのときヤツメワラシに全てを捧げて願い、意識が暗転したときにはこのようなことになるとは思っても見なかった。
再び目覚めたときは此の身を神に受け取ってもらえなかったのかと勘違いしてひどく落ち込んだものだ。
此の身が目覚めるのを待たれていたヤツメ様に対価は受け取り、願いは叶えようと告げられた際に感動のあまり泣いてしまったのは恥ずかしい思い出である。
「……やはり動かせないか。 戴いた腕だというのに使いこなせないとは情けない」
無意識のうちに左手で撫でていた『炎龍の左腕』に力を入れようとし、動くどころか感覚すらないことに落ち込む。
たとえ動かせる物ではないと言われていたとしても、神に預けられた物を十全に扱えないというのはやはり悔しいものである。
現在のナユは、身体も魂も命も全てをヤツメワラシに捧げている。
その影響か全身の感覚は鈍いし、思考もどこかおぼろげでなかなかまとまらない。
ヤツメワラシが降りている間の記憶もなく、まるで自分の身体ではなく他人の身体を服のように着込んでいるようだった。
そしてナユにはわからないが、すでにナユの身体は神殺しを為すための神器と化しているらしい。
神の存在を否定する神呪に満たされたナユの身体を維持するため、必要なとき以外はその身体の維持と管理のために一時的にナユに貸し出されている状態だった。
「……痛むの?」
「いや、大丈夫だ。 おまえは休んでいなさい」
落ち込んでいたのが痛みを耐えているように見えたのだろう。
隣に座る妹のユタが見上げてくるのを頭を左手で撫でてあやしつつ、ナユは再び窓の外を眺める。
イタミを初めとした他の炎龍討伐に参加した皆にはすでにアルヌスの街や、ヤツメワラシの話をおおまかにだが聞いている。
新天地でのこれからの生活に期待している自分を恥じつつも、ナユはガラスに映る自分に微笑んだ。
アルヌスの街、その食堂にて。
フォルマル伯爵家のジエイタイへの全面協力により、一時帰還を許可されたデリラが部屋へ荷物を取りに行き、食堂の職員に挨拶をしようと顔を出し。
「うぅー、いきたくなぁぃ……」
「そんなこといってもエムロイ様からの神託なんでしょ? むしろ早く終わらせた方がいいんじゃないかねぇ?」
酒をあおりつつ管を巻くロゥリィに捕まっていた。
なんでも主神エムロイからの神託を受け取り、異界の神ヤツメワラシに伝えることがあるが今のヤツメワラシには近づきたくないのだそうだ。
理由を聞けば、今のヤツメワラシは冥府の神ハーディーとの全面衝突に備えておりピリピリしているのだそう。
そしてその神がこの世界で初めてとなる明確な神殺しの力を持つ神であることから、ヤツメワラシの神域には神を威圧する力が満ちているらしい。
未だ真の神ではないが神格を持つ亜神であるロゥリィには、神域に踏み込むことすら難しいことなんだそうな。
「そういえばアルヌスの丘周辺に足下をぎりぎり覆うぐらいの薄い霧がでてるって聞いたけど、ヤツメ様の仕業なんかねぇ。 隊商のおっちゃんが気にしてたよ」
「たぶんハーディーの『門』を封じる霧でしょぅ。 おかげで息苦しいったらないわぁ……。 ただの人にはなんの効果もないから安心なさぁい」
「おかげで走り回るこっちの身にもなってほしいですけどねー。 見つけましたよお姉さま!」
デリラの質問に憂鬱に答えたロゥリィは、コップの底に残った酒を一息にあおり。
後方から聞こえてきたジゼルの声に思いっきりむせた。
「ぇほっ、ちょっ、ジゼルぅ!? よくもこれたわねぇ!?」
「ちょまっ! 待ってくれ、いや待ってくださいお姉さま!? オレは主上さんに書状の配達と異界の神への神託を任されただけで戦うつもりはないって! ないです!!」
「問答ぉ無用ぉ!!」
「だから嫌だったんだ主上さんー!?」
ロゥリィはむせながらもカウンターに立てかけていたハルバードをとりあげ、振り向きざまの振り下ろしの一撃をジゼルは鎌刃のついていない大鎌の長柄で防ぐ。
そのまま押し合いになり硬直状態になったジゼルは必死になって弁解する。
ぐいぐいと押し込まれるハルバードの刃にかすめた前髪が数本切れ、皮膚も薄く切れて血がたらりと流れていく。
ジゼルの腰の翼が中途から途切れて布をまかれ、額の傷口が塞がらずに血が流れ続けているのをみたロゥリィはハルバードを滑らせてジゼルの体勢を崩させると、前蹴りの一撃で食堂前の道まで蹴り飛ばした。
「ねぇ、翼はどうしたのぉ? それにぃ傷の治りも遅いみたいだしぃ」
「げほっ、あの神の呪いのせいだっつの! 亜神の不死性を流し込まれた呪詛が邪魔しているせいで回復しないんだよっ、主上さんは呪詛を取り出してくんねぇしっ!」
追撃をせずに食堂入り口に立ったまま聞いてくるロゥリィに答えると、ジゼルは長柄を地面に突き立ててどっかりとその場にあぐらをかいた。
「だから早くお務め終わらせて主上さんに呪詛を取り除いてもらわないといけねぇんだ。 お姉さま、取り次ぎをしてくれねぇ、いやしていただけないでしょうか? オレ独りだとどうなるかわかったもんじゃないっ」
「そうねぇ……」
そのままぐいと頭を下げるジゼルにロゥリィは頬を押さえて考え込む。
しばらく考えていたが、やがてにんまりとした笑顔を浮かべると一つうなずき。
「いいわよぉ。 わたしぃも主神エムロイからの神託を伝えなきゃいけなかったしぃ、一緒にいきましょうかぁ」
「ありがてぇっ! 恩に着るぜお姉さま!!」
「(あっ、道連れにする気だ)」
にっこり笑ってジゼルに手を差し出すロゥリィの姿に、カウンターの影に飛び込んだデリラは察するのだった。
「((どうしてこうなった!)のよぉ!)」
アルヌスの街にある神社にてアポを取ろうとした亜神二人組は、そのまま本殿へと通され。
八眼童IN 紅い和傘を携える人形とのスピード会談へと挑む羽目になっていた。
ロゥリィのエムロイからの神託は口頭で伝えられ、ジゼルが差し出したハーディーから八眼童への書状はその場で開封されて読まれている。
そして読み進めるごとに強まる圧力に、いまだ神ではない亜神二人組は屈しかけていた。
「えーと、ロゥリィ聖下。 戦いの神エムロイからの宣言、理解したとお伝えくださいだそうです。 ジゼル猊下。 冥府の神ハーディーの主張は理解した、故に……神殺しは遂行されるとお伝えください、だそうです……」
「わかったわぁ」
「わかった。 ……なに書いてたんだよ主上さんはっ!?(小声)」
巫女装束のミューティを経由して伝えられる八眼童の言葉にロゥリィはほっとした表情でうなずき、ジゼルは絶望の表情でうつむいた。
戦いの神エムロイが神々の戦いを認め、世界に大きな悪影響がない限り中立を保つと宣言したのに対し。
冥府の神ハーディーの、特地での死者の魂は例外なく特地の物であるという主張にはさもありなんという反応であった。
日本に攻め込んできた特地の生命が日本で死んだ際の魂は亡霊だったころの八眼童が特地へ返還しているのだが、ハーディーは日本で死したのなら特地の魂だろうが日本で管理しろといってきている。
ある意味一貫しているが日本の宗教観的にはわりとアウトである。
なお、ハーディーの書状では炎龍の被害者や、ハーディー信徒の暴走による自衛隊隊員傷害未遂についてはいっさい触れられていなかった。
本殿より退出する亜神二人組を見送りつつ、八眼童はハーディーからの書状に別途付加された招待状をみる。
危険とわかっていながらも自らの本拠地であるベルナーゴ神殿へ『招いて』まで直接話し合う必要があることとはなんなのか。
薄々感づいていながらも、八眼童は話し合う前に一発ぶちかますのを撤回する気はなかった。
なぜならばその身は祟り神にして死者の最後の願いを叶える神。
たかが世界の危機でその行動を縛れるわけがないのだから。