亡霊、彼の地にて斯く祟れり   作:餓龍

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zeke01 さま、ブルーフレーム さま。
誤字報告ありがとうございます!

盆休み? なぁにそれぇ……。


少々加筆しました。
まぁ、ダークエルフたちがこの時点で炎龍にハーディーがかかわっていると知る程度ですが。

修正しました。
ダークエルフは9人でした……。


荒神と朱杯と神格

 高機動車のそば、揺れる大きな焚き火の『炎の上端』に立ちつつ思う。

 行き着くとこまで来てる感があるなぁと。

 

「ヤツメぇ? そろそろこっちみなさいよぉ」

「…………(振り向く)」

「っ!? わるかったわよぅ……。 ……そろそろいぃかしらぁ?」

「…………(首を振る)」

「うぅ、ごめんなさぁぃ……」

 

 ロゥリィ正座(足の上にハルバード)で反省中である。

 どうやら喰おうとしたのに感づいたらしく、いささか説明不足の状態で伊丹と契約したのでお仕置き中なのだ。

 というより伊丹と契約することで喰いづらくするより、率直に喰われたくないと言えばよかったのに。

 そんなに信用ならないのだろうか、自分は。

 

「うぇっ!? ちょっ、無理無理無理! こっちはまともな装備無いんですよ!? 缶詰投げつけてどうにかなるとでも!?」

 

 そして神域をとおして電波を届かせている無線機で自衛隊本隊と連絡を取っている伊丹には悪いが、伊丹には炎龍のところまで自身を送り届けてもらわねばならないのである。

 必死に抗議していらっしゃるところ悪いが、そういう運命だとあきらめてくれ。

 大丈夫、姿だけを『隠す』ぐらいなら苦もなくできるようになったから。

 まだ物質を神域に『隠す』のは、多くの人間に認識されている状態だと厳しいけども。

 いけるいける、レンジャーだろ?

 それに自衛隊が炎龍を確殺できる布陣を敷くまで、ハーディーに自衛隊から注意を逸らさせる必要があるんだ。

 いきなり自衛隊の目の前と太陽表面をゲートでつないでジュッ! とかやられる可能性は限界まで下げないと。

 そのためには少数精鋭での龍殺しとかいう英雄的行動()をするのが一番なんだよ。

 神様は英雄が大好きだからね。 いろんな意味でね。

 

 君は英雄になろうとすることを! 強いられているんだ!!(集中線)

 

「動きを止める威力を持たせると当てられない。 当てられるようにすれば威力がない。 むぅ……」

「うぅ、怖い、けど皆の仇。 がんばらなくっちゃ。 お父さんにも……あれ? お父さんなんでいないの? お父さん、どこ? お父さんにあわなくっちゃ。 お父さん、どこ? お父さんと一緒に戦わないと。 皆が燃えちゃう。 お父さん……」

「うぉっ、大丈夫か!? ……寝ている、のだろうか?」

 

 なんて伊丹煽ってたら、ジレンマに悩むレレイと一緒に焚き火にあたっていたテュカがヤバい感じになり始めたのでちょいと眠ってもらった。

 とりあえず幸せな夢を見て心の平静を取り戻してもらおう。

 ちょうどヤオがこっち来てたし、こてんと倒れ込むテュカを任せる。

 てかマジテュカの父親ギルティ。 なにやってんのだよマジで。

 支配領域に捉えたら絶対になにかしら天罰下してやる。

 具体的にはそう、

 

 槍を二度と使えなくする感じで。

 

 あぁそうそう、ダークエルフ達には完全にハーディーと敵対する異界の神として崇められちゃいました。

 なんかダークエルフ達が信仰していたのがハーディーだったらしくて、炎龍討伐を阻んでいるのがハーディーだって言われて超動揺してた。

 

 まぁ、信仰しているダークエルフ達には加護の欠片も存在してなかったんですけどね!

 

 てかこの世界の神様、信仰に対する見返りとしての加護を与えてる神様の方が少ないんじゃね?

 明確な加護を得てるヒトをみるの超少ないんですけど。

 

 んでまぁ炎龍への対応を願われたんで、炎龍の鱗渡して『炎龍に恨みを持つ者すべてに少しずつ削らせ、酒杯を作れ』って指示を出したらとんでもなく時間かかっている件について。

 てか今様子を覗いてみたら、大人の頭ぐらいのサイズがあった鱗が手のひらより少し大きいぐらいのサイズになってるし。

 鱗は超頑丈だから呪を込めて爪で削れるぐらいにしてるんだけど、どんな勘違いしたのか皆さん爪で削っていらっしゃる。

 爪割れて血が出てる? いや、指先を切って血を付けたうえで爪で削ってるのか。

 しかもこめられてる怨嗟がすでにやばい。

 まだまだ順番待ち(なんかほかの種族混じってね?)がいるし、これ最終的には単体で龍殺しの可能な呪詛を湛えた神器になりかねんぞ。 使用者ごと滅ぼす道連れタイプの。

 亡霊仲間が集めている怨嗟や呪詛も、すでに以前炎龍への呪詛に使用したのとほぼ同等の規模になってるし。

 呪詛の対象を炎龍のみに絞って、なおかつ煮詰めて練り上げて一つの純粋な呪にまとめ上げないと。 これじゃ溢れた余波だけで山一つ分の命が無くなりかねん。

 焚き火の上に立っているのも、呪を酒に変えて神酒にする際に溢れる微量な呪(触れるだけで皮膚が爛れる)を炎という浄化の象徴で周囲に拡散しないようにして回収するためだしね。

 

 まさか纏う呪の層だけで炎に引火しないどころか熱も通さないとは思いもしなかったけども。

 

 なんの方向性も与えられていない呪にもかかわらず、浄化の象徴である炎を寄せ付けないレベルとか。

 これ、本格的にシールドみたいに纏えば炎龍のブレスぐらいなら耐えられるんじゃなかろうか。

 いやさすがに試したくはないけども。

 なんて考えてたら亡霊仲間がお代わりを持ってきた件について。

 え、まだあるん?

 遠出してたのが戻ってくる?

 マジかー。

 炎龍、どんだけヒト種を狙って襲ってんのよ。

 

 なイわー。

 

 ほんとナいわー。

 

 

 

 

 

 炎龍の襲来から数日後。

 

 ロルドム渓谷の入り口に集まった種族も様々な人々は、炎龍の巣へと旅立つ者達を見送りに来ていた。

 ジエイタイの鋼の天馬によって運ばれてきた『鉄の逸物』を一人一つずつ持ち、大きめのバックパックを背負い整列するのは九人のダークエルフの戦士達。

 彼らの前に並ぶのはエルフのテュカ、魔導師の少女レレイ、亜神のロゥリィ。

 異界の神の神官にして、単独での行動を認められた兵士であるイタミ。

 

 そして。

 

「酒杯はここに。 現在ここに集まることのできた者すべてにより整形しましてございます。 どうか、お願い申しあげまするっ……!」

 

 異界の神を宿す、異様な雰囲気を纏う白面を被った人形が、くるりと木と紙でできた紅い傘を回して立っていた。

 人形は代表してダークエルフの長老が差し出した酒杯を受け取ると、軽く太陽へかざして吟味するように眺める。

 やがて満足のいく出来だったのか一つうなずき、酒杯を掲げ。

 

「おぉっ……!」

「色が、変わっていく」

「これは……なんというっ……!!」

 

 ざわり。 とうごめくような何かの気配とともに、酒杯が変化を始めた。

 拳ほどのサイズであった灰色の酒杯は直径を広げ、手のひらほどの皿のような形状に。

 さらに色はまるで内側からにじみ出るような鮮紅色へと。

 やがて変化を終えた酒杯は装飾らしい装飾もない、しかしそんなものはなんの関係もない美しさがあった。

 そう、まるでこの世の物ではないかのような……。

 

  よきかな

 

 変化が終わり、艶やかに光を照り返す酒杯をもう一度眺めた神は酒杯を懐へ入れる。

 同時にその場にいた全員の脳裏に響いた声に、柏手を打ち、祝詞をあげるイタミ以外の全員が膝を突いて祈りを捧げた。

 それは特地において初めて。 異界の神が神として信仰され、部族単位の特地の人間に祈りを捧げられた瞬間だった。

 

 そう。

 

 そしてそれは、異界の神がこの世界における神としての神格を得た瞬間でもあった。




とうとう、特地での神格手に入れちゃいました。

世界間のありようの差で出せなかった(本人気づいてなかった)本気、出せるようになっちゃいました。

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