亡霊、彼の地にて斯く祟れり   作:餓龍

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yelm01 さま、244 さま、誤字報告ありがとうございます!

炎龍戦までもう少し!

あと今回予約投稿初挑戦です。
うまくいくかなー?


疲弊した守り人と祟り神

「本当にもう、どういうことなんだよっ……!?」

 

 休憩スペースにおいてある長椅子に腰掛けた柳田は頭を掻き毟り、呻き声を上げた。

 特地における資源探索とダークエルフのヤオの炎龍討伐要請(巨大ダイヤモンド付き)を組み合わせ、テュカの仇討ちという動機を伊丹に与えて偵察隊の部下を率いて向かわせる。

 伊丹であれば、少人数の偵察隊でも特地での人脈や八眼童の協力も得易いだろうから、炎龍を相手にしても十分な勝算があるだろうとふんでいたのだ。

 その為に色々手を回して根回しをしていたし、二科長の今津一等陸佐には『数人の幹部自衛官と現地協力者を雇った護衛を一チームとした資源探索チーム』という構想も受け取っている。

 あとは特地に妙に人脈のある伊丹に前例を作らせ、複数チームを編成して特地における資源探索に乗り出す。 はずだったのだが。

 

「なんなんだよっ、伊丹にはなにかあるのか!? なんであいつはこうっ、あぁもう!!」

 

 何故か自衛隊の診療施設に入院していた、エルベ藩王国の国王が自衛隊に炎龍討伐の協力と、現在エルベ藩王国を支配している王子から実権を取り戻す支援を要請してきたのだ。

 これに対し自衛隊側は、自衛隊の国境通過および各種地下資源の採掘権に免税特権を引き替えに提示し、同意を得られている。

 これによって伊丹には正式に『自衛隊本隊の到着までに現地での各種資源の事前調査、及び現地住民への可能な限りの各種支援』という名目の、現地住人の避難支援が命令されることになった。

 ちなみに伊丹の直属の部下である第三偵察小隊は現在帝都への物資輸送任務に就いており。

 資源探索チームという名の炎龍偵察班の現地協力者の護衛を募ったところ、見事にロゥリィ、テュカ、レレイ、ヤオと実力的に申し分ない(むしろ賊などの人間相手には過剰戦力)が女性ばかりというハーレム状態になっている。

 そこに八眼童が一体人形を同行させたので、炎龍相手ですら積極的に交戦しようとせずに逃げに徹すれば確実に逃走可能。 場合によっては撃退も可能という、もはや強行偵察部隊と化していた。

 そしてそんな彼らを送り出そうとしたその場に、切羽詰まった様子のヴォーリアバニーのデリラが登場。 錯乱した様子であり、伊丹に押しつけられたこともあり、とりあえず落ち着かせる為に静かな場所で話を聞かれないアルヌスの街にある八眼童の神社に向かい。

 『フォルマル伯爵家からの紀子暗殺指令』なんて爆弾を告白されたのであった。

 

 つまり、こういうことである。

 伊丹には命の危険の高い場所に自分からついてきてくれる人(しかも美人で能力も高い)が複数おり、しかもどうしようもなくなった時に伊丹ならと頼られ(しかも美人でry)、組織の上層部にも『伊丹ならしょうがない』といわれてなんだかんだで色々な支援や便宜を図ってくれ、護国の祟り神とその麾下の英霊や亡霊達のお気に入り(これはあまり羨ましくない)と。

 どこの小説の主人公だ、という話だ。

 

 とにかくデリラを駐屯地に連れて行き、然るべき部署に任せ(行かないでくれとごねられたのでまた後で来ると言ってしまった)、伊丹の資源探索チームとエルベ藩王国の国王実権回復とその他諸々の書類仕事を済ませ、紀子暗殺指令についてを報告し、そのことについての対策会議の資料をとりあえずで作成し、デリラに会いに行き、調書を取り、フォルマル伯爵家に確認の手紙を作成し、明日からアルヌスの街での各種調査の為の書類を作成し……。

 ようやく一段落つき、もう今日は寝ようと時計を見れば大分前に今日は昨日になっていた。

 

「もう本当になんなんだよ。なんなんだよもう。なんなんだよ……」

 

 もはや眠気やらなにやらで意識も朦朧としてきた柳田は最後に空き缶をゴミ箱へシュート(弾かれた)し、そのままベンチへ倒れ込んで寝息を立て始めた。

 ころころと転がる空き缶を拾い上げる手も、そっとシーツをかける手も知らないままに。

 

 

 

 

 

 がたごとと揺れる高機動車の車内で、ロゥリィに抱き抱えられつつ思う。

 

 どうしてこうなった、と。

 

 いや、呪詛で炎龍を殺し切れてなかった自分が原因なんだけども。

 土地にかけたなら街が一つ地図から消えるレベルの結構やばい呪詛をかけていたし、これで十分だろうなんて油断していたので気づくのが遅れてしまった。

 炎龍との縁が綺麗さっぱり消失していることに。

 こうして今も探っているのだが、欠片も縁が見あたらない。

 それこそ今も同胞が食われているヤオに、襲撃されて多数の同胞や仲間を失ったテュカとレレイ。 そして炎龍の一部として自衛隊に借りてきた鱗(以前作った『腕』は汚物と一緒に埋めていたので放置)。

 すべて、炎龍との縁だけが綺麗に消えているのである。

 

 まるで、異なる世界に隔離されているかのように。

 

 これは面倒なことになったものである。

 こんな単純だがまず不可能な対策をしてくるあたり、炎龍に加護を与えていたハーディとは随分と大雑把な神なのだろう。

 縁を遮るとか、自然に生え替わって剥がれ落ちた鱗に誘導するとか、もっと簡単で楽な方法がいくらでもあるのにも拘らず『物質的には現世に存在するが、魂などの縁が繋がる先を異界に隔離する』とかいう頭悪い方法を選ぶセンスには苦笑も出ない。

 ロゥリィ曰く、自分の力を見せつける為なのではないかという話だが。

 正直、それならそれでもっと他に方法があると思う。

 何故こんな無駄に遠回りで面倒くさい方法を選んだのか……。

 

「イタミぃ、そろそろ野営の準備をした方が良いんじゃなぁぃ?」

「んー、そうだな。 ならあそこの広くなったところに止めよう。 テュカとレレイは水と火の用意をお願いな」

「はーい」

「了解した」

「こっ、此の身にもできることはないだろうか!?」

「あー、なら荷物下ろすの手伝ってくれる?」

「承知したっ!!」

 

 街道沿いの休憩所らしき広くなっている場所に高機動車を乗り入れ、野営の準備を始める皆の邪魔にならないように端に寄る。

 伊丹にまとわりつくようにしながら手伝っている(まとわりついているのに邪魔になっていないのはすごいと思う)ロゥリィ。 テュカとレレイはきびきびと湯を沸かす準備をし、積極的に重い物を運ぶなどして働くヤオ。

 実にハーレム系ファンタジーの主人公パーティーの図であった。

 そこに祟り神の宿る人形を加えるのはどうなのだろう? 最近のラノベでは神様がハーレムの一員なんてのは珍しくもないらしいし、ありなのだろうか?

 祟り神の自分もハーレムの一員なら、伊丹の死後の魂狙いなんて設定になっていそうだが、実際にはロゥリィが持っていくことになりそうだ。

 出発前にロゥリィから伊丹と『眷属の契り』という契約をしていいかと聞かれたので、伊丹がそれを望むならいいよと答えたからである。

 まぁ、伊丹が望まないのに無理矢理契約したりしたら亜神だろうとその魂ごと喰ってやると釘を刺しておいたし、ひどいことにはならないだろう。

 

「どうしたの? 薪ならまだあるけど」

「あーいや、携帯燃料あったんだけどなー、と。 まぁ、節約できるとこは節約すれば良いか」

「節制は大事」

 

 ヤオが集めてきた薪に、レレイが魔法で火をつける。

 ゆらゆら揺れる火をみて、ふとあっちこっちへ思考が飛んでいくのをあらためて自覚した。

 ここ最近、恨みや呪いなどの負の感情や縁を大量に回収して呪詛に変え、神酒としてため込んでいるからか思考が安定しないのである。

 もう少し神酒として安定させれば問題ないのだろうけども、これだけ膨大な呪詛を扱うのは初めてなのだ。 時折揺らいでしまうのは仕方がないと言えると思う。

 ちなみに日本で挨拶まわりをしている市松人形の自分は、呪詛の扱いについて先輩方に教えをもらうのも担当していたりする。

 習うより慣れろな神も居れば、しっかりと教えて頂ける神も居たり、よっしゃ見本を見せてやろうと張り切る神を宥める羽目になったりと大変ではあるが。

 

「ヤツメワラシ様への供物などは良いのであろうか? 神であられるならば、用意をせねば……」

「あの方は大丈夫よぉ? 求める者に対価は求めてもぉ、必要以上の崇拝は求めていらっしゃらないようだからぁ」

「八眼様はなぁ、正直何を供物として求めているのかわからないんだよなぁ。 結構俗な人形を好んで使ってるみたいだし、梨紗の趣味にも付き合って下さってるみたいだし」

 

 おっとまたどっか飛んでいっていた。

 なにやら伊丹達は食事の用意が済んだみたいだし、自分も一応手は合わせておくか。

 

 いタだきます、ってね。




いろいろため込んでます。
いっぱい、いっぱい。

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