YT-3の種子保管庫。   作:YT-3

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——制作経緯——

ハリポタ熱に浮かされて作った執筆期間2時間弱の作品。目的も何もない、ただ思いついただけのショートストーリー。


死の秘宝のラストバトル。ネビルがナギニ(ヴォルデモートのペットの蛇)を斬った瞬間からどうぞ。


006個目 『ハリー・ポッターと氷の女王』

——やった、やったんだ!

 

思わず口に出てしまいそうなほどの達成感が、ハリーの胸から湧き上がってくる。

一度でも繋がっていたからか、それとも本能的な何かか。最後の分霊箱が(こわ)されたのを、確かに感じ取った。ロンか、ハーマイオニーか、いやグリフィンドールの剣を持っていたネビルかもしれない。とにかく誰かが、闇の帝王(ヴォルデモート)をこの世に留める最後の鎖を破壊したのだ。

崩壊を待つばかりのヴォルデモートの目は、困惑したような光を宿している。だが、これは当然の結果なんだ。力と恐怖で支配しようとしたお前に、今戦っている皆が、そして死んでいった仲間たちが力を合わせて立ち向かった必然だったんだ!

杖にさらなる力が篭る。達成感は希望へ、そして勇気へと変じ、魔法の力を押し上げて、

 

爆発的に膨れ上がった敵の魔法に、呆気なく吹き飛ばされた。

 

「くくく、ははははっ!!」

 

追い詰められた、いや終わったはずのヴォルデモートが、天を見上げ哄笑を叫ぶ。自暴自棄になって狂ったのとは違うそれに、背筋が凍りついた。

 

「何がおかしい!?」

「おかしいとも!ああ滑稽だとも!! ははは!これほどまでに道化が似合う男はお前をおいて他にはおらんぞポッター!!」

 

もはや予感は全身を這い回り、確信に近い最悪を告げている。まさか、まさかまさかまさか?!

 

「貴様も気づいたか。そうだ!分霊箱はもう一つある!!」

「嘘だ! 僕はお前の心を見た!あの焦りは本物だったはずだ!」

「そうだとも、私はナギニを最後の分霊箱だと思って焦っていた。ナギニの中に、最後の一つの記憶を隠していたのにも関わらずな!」

 

息が止まる。告げられた真実を受け入れたくなくて、だが頭がその可能性を肯定してしまう。現実にヴォルデモートが消滅しないことが、それが本当のことだと証明してしまう。

ハリーが分霊箱を見つけられたのも、声を聞けたのも、すべてはヴォルデモートとの間に"繋がり"があったからだ。その繋がりを通してヴォルデモートの見ている景色を見て、聞こえた音を聞いていただけ。ヴォルデモートも忘れていたことを、知れるわけがない。

 

「そんな、そんな嘘だ!!」

「子供のように泣き喚くのはよせポッター。お前は私をここまで追い詰めた。認めてやろう、お前こそが予言の子だ。だが、運命の女神は私に微笑んだようだな」

 

もう既に、決戦は始まってしまっている。今からどこかに隠された分霊箱を探し出して破壊することが間に合うわけがないし、そもそも"繋がり"が断たれてしまっている今では手掛かりすら存在していない。場所も、形も、ヒントすら知るすべがないのだ。

 

「ふははは! 無様よなポッター! お前のために友が死に、学友が死に、教師が死ぬ。だというのにお前は私を殺すことも叶わん役立たずだ!」

「くっ…」

 

立ち上がろうとする腕から、力が抜ける。絶望しかないこの状況に、あれほど湧き上がっていた勇気が奪われてゆく。

 

「さて。あの時も、先ほども殺すことが叶わなかったが、今度こそ貴様を私の手で殺してやろう。念入りに、じっくりと、確実にな。それが終わったら、次は貴様の後ろで無駄な足掻きをしているハエどもだ。魔法族の血が流れるのには心が痛むが、私に従わない者など新たな世界には必要ない!」

 

ニワトコの杖が振り上げられる。(アバ)(ダ・)(ケタ)(ブラ)か、それとも他の魔法か。とにかく自分を殺すのには充分な魔法が使われるのだろうということは、ただ呆然と映る世界でも理解できた。

ゆっくりと進む時間の中、最後の情けかヴォルデモートの口から手向けの言葉が告げられ、

 

「ではなポッター、予言の子よ。恨むなら、最後の分霊箱を見つけられなかった自分自身を——」

「その"最後の分霊箱"とやらは、コレのことか?」

 

——まるで氷のように透き通った声が、ヴォルデモートで隠れている橋の方から聞こえてきた。

ぼやけ始めた視界の中、水を差されたヴォルデモートはイラただしげに振り返り、その顔を驚愕で染めた。

 

「貴様!! それをどうやって手に入れた小娘!?誰を贄にした!? それを手に入れるには致死性のトラップを七度踏まなければ、ガハッ?!」

 

あのヴォルデモートが、闇の帝王と恐れられ名前を言ってはいけないとまで言われたあのヴォルデモートが、なす術なく吹き飛ばされた。

そして、視界に映ったのは、まるで人形のように愛らしく、しかし纏う雰囲気がまるで悪い賢者のような、小さな少女だった。

 

「口の利き方に気を付けろよ小僧。私を小娘呼ばわりしたければ500年ぐらいは生きてからにしてみせろ、その頃は私はさらに歳を食ってるわけだがな。

それに、誰を贄にしただと? 馬鹿馬鹿しい、あの程度のトラップで周りを巻き込むものか。すべてこの身で受け止めてやったわ」

 

ザリザリと瓦礫に覆われた道を歩き、少女はうつ伏せで倒れる僕の前で足を止める。そして、まるでいらないゴミでも捨てるかのように、僕の目の前にカードケースのような何かを落とした。

 

「ふん、ポッターとか呼ばれていたな。貴様がアルバスの小僧が言っていた予言の子か。…なるほど、いい眼をしている、が、まだまだ青二才と言ったところか。そら、いつまでもそんなところで寝てないでさっさと立ち上がったらどうだ?」

「…貴女は?」

 

腕に力を込め、分霊箱と思われるカードケースを手にとって、なんとか立ち上がる。こうして見るとなおのこと、少女の見た目の若さが際立っていた。おおよそ10歳かそこらではないだろうか。

 

「む。そうだな、アルバス・ダンブルドアの小僧の…友人ではないな。知人といったところか」

「ダンブルドアの…」

 

どこか、納得できるものがあった。彼女があの老成した魔法使いであるダンブルドアを小僧と呼ぶのも、そんな彼女の知り合いがダンブルドアだということも。

 

「もっとも、会ったのは片手で数えられるほど、手紙を交わしたことすらなかったがな。だが、あいつは私との約束を果たした。しかも自分の弟子入りの件を捨ててまで、そのくだらんガラクタを探し出して貴様に渡してくれと頼み込んできやがった。飛んだ面倒な願いだったぞ」

 

あのダンブルドアが、弟子入りを頼み込む。この少女は、それほどの魔法使いということなのか。いや、本当に少女なのかも怪しい。何百年も生きてきたような、達観したオーラを身にまとっている。

 

「ダンブルドアの小僧に感謝しろよ。私は世捨て人だったからな。小僧の頼みがなければ、世界が滅ぼうが何しようが関係なく、誰も来ない山奥でのんびりと暮らしていただろうさ」

 

すっと、彼女の手が何かを撫でた。視線を落とせば、懐中時計のようなものが二つ、彼女の腰にぶら下がっていた。それがダンブルドアとの"約束"に関わるものなのかも知れない。

 

その瞬間、横から瓦礫が崩れる音が聞こえた。

 

「アバダ・ケタブラ!!」

 

ヴォルデモートの声が聞こえた瞬間、少女に突き飛ばされた。背後に流れる視界、真横から飛んできた光の線が、一瞬前まで僕がいた場所で手を突き出す少女に突き刺さる。

 

「あ——」

 

死んだ。僕も、そしてヴォルデモートもそれを確信した。

アバダ・ケタブラは死の呪い。発動に成功し、当たりさえすれば、抵抗する術なく立ち所に死の運命に誘われる。絶対にして最強の魔法。

 

 

「——ふん。なんだ、この程度か」

 

 

——だが、それでも少女は立っていた。

何事もなかったかのように、まるで死ななかったことを残念がるような顔すらして、ただ静かにヴォルデモートの方を見つめている。

 

「な、なぜだ!? アバダ・ケタブラを受けて生きていられる人間がいるはずがない!! まさか、貴様も分霊箱を?!」

「ハッ、この私が、そんな腐った魔法に手を染めるとでも? 馬鹿にするのもいい加減にしろよ小僧。闇の魔法使いだか闇の帝王だか知らんが、誇りある悪であるこの私が、そんな三文芝居に手を染めるとでも思っているのか!?」

 

ドウッ、と。少女を中心に風が吹き荒れる。瓦礫も、そして転んでいた僕も風に舞う木の葉のように吹き飛ばされた。ヴォルデモートも、飛ばされてこそいないものの抵抗するだけで精一杯といった表情だ。

 

「オイそこの瓦礫に埋もれかかってるガキ。その手のガラクタを持ってさっさと城に戻れ」

 

それが僕を指しているということは、すぐに気付けた。だからこそ、その言葉が示す意味が分からなかった。

 

「でも、ヴォルデモートは僕じゃなきゃ倒せない!」

「貴様はバカか?だからそれを壊せと言っている。それを壊せば奴は死ぬんだ、それが貴様の予言とやらだろう」

 

それに、と少女は嘲笑う。ヴォルデモートが放った、迫り来る焔の大蛇に手を翳し、

 

「倒せなくとも封じる手はある。私は不死だ、同じ不死者の相手の仕方は心得てるさ。

 

()()()()()()。詠唱もなく、杖すら使わずに。

 

 

「——第一、こんな中途半端な小僧に負けるわけがないだろう。この闇の福音(ダーク・エヴァンジェル)ともあろう者が」

 

 

圧倒的すぎる実力差。あのダンブルドアですら両手を上げざるを得ないだろう程の、絶対的な隔り。あのヴォルデモートの顔に驚愕と絶望を宿らせる程の、異次元の力。

 

「——お願いします!」

 

それを見て、心配など欠片もなくなった。倒すべき敵から背を向け、振り返ることなく走り出す。

そうはさせまいとヴォルデモートの詠唱が聞こえるが、その余波すら届かない。魔法で狙われているということを気にすることすらなく、城の入り口へと飛び込んだ。




——ボツ理由?——

美味しいところだけ掻っ攫っていくエヴァ様。実に悪の魔法使いらしい。
設定としては、ネギま本編終了後、余ったナギ探しに平行世界に旅立った方のエヴァ様です。

以下あらすじ。
面倒くさくなってカシオペアと渡界機を同時に使ったらバグを起こして、ハリポタ世界に不時着したはいいもののどちらも壊れて使えなくなったエヴァ様。
で、諦めて始めた放浪の旅の道中、誇りのない悪を懲らしめていたところで、強い力を求めていた昔のダンブルドアに遭遇。(力に)惚れられて弟子入りを志願されるも、「面倒くさくてやってられるか」という理由で即断。それでも行く先々でまとわりついてウザったらしかったので、「この壊れて使い物にならなくなった二つを直したら考えてやる」とカシオペアと渡界機の残骸(ガラクタ)を押し付けて、自分は人里離れた山奥で隠居生活を送る。
そこから月日は流れ、ヴォルデモートの分霊箱を知ったダンブルドアは「ヴォルデモートが予備の策を講じていないはずがない」と考え、なんとか持てる力を絞り出してカシオペアと渡界機の修理に成功。その対価として、エヴァ様にその予備の調査とハリーの手助けを求めた。
ちなみに残り一つの分霊箱は写真ケース。

……と、そんな感じのを今考えました。写真ケースの中身はご想像にお任せします。
連載向きな設定じゃないのが一応のボツ理由ですかね。ま、ショートショートですのでこれで良いんですけどね。

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