YT-3の種子保管庫。   作:YT-3

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——制作経緯——

①朴念仁オブ朴念仁ズ、織斑一夏。ヒロインはチョロイン。そんな評価を受けているISに、恋愛マスター落とし神を入れたらどうなるか。
②『意識があって自己進化する機械』に対してどう説明をつけられるか。
③神のみクロスの新しいテンプレ展開の提唱をしてみたい。
④タイトルの響きが似ている。

執筆実験
①セリフをどれだけ抑えて書けるか。
②各場面ごとに順番をつけて、時間軸を分かりやすく描写できるか。


003個目『Infinite Stratosphere God Only Knows』【連載予定!】

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さわさわと、冷たい風が木々を撫でる。

 

微かに風に混じる潮の匂いが、ここが海沿いの土地だということを教えてくれた。

 

確かめるように風上へと視線を向けると、昇ったばかりの太陽が、闇色の空を少しずつ紫に、そして青へと染め始めていた。

 

ふと気付く。思っていたよりも海面が遠くにある。

そう思ったのも束の間、払われていく闇の中から、街が姿を現した。

それと同時に、位置関係と足元の斜面から、自分が山の中にいることを察する。

 

眼下に広がる街も、ポツポツと光があったことから人が居ることは分かっていたが、予想よりも大きな街だった。

影絵のように海沿いに存在を刻む塔が、この街の文明が進んでいることを如実に語っている。…いや、あれがあるのは島で、線路で繋いでいるのか。評価をさらに上方修正する。

 

そこまで確認して、桂木(かつらぎ)桂馬(けいま)は一つ息を吸い込み。

 

「なんだこのクソゲーーーーー?!」

 

天に届くように。欲を言えば、そこからセカイを超えて某六人の駄女神へと届くように。

大きく。心の底からの叫びを発した。

 

 

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さて。ここに至るまでの順序を説明しよう。

 

まず、桂木桂馬という少年についてだ。

 

桂木桂馬。

6月6日11時29分35秒生まれの17歳。舞島高校二年B組在籍。血液型はA型。身長174cm体重53kg。家族構成は実の母と父(出張でよく居ない)…と、最近妹が出来た。嫌いなものは現実(リアル)(緩和されてきている)と甘いもので、好きなものは女子(ただし二次元に限る)……それとゲーム。

特に、このゲームというのが彼最大の特徴と言ってもいい。ほぼ四六時中(授業中含む)美少女ゲーム、いわゆるギャルゲーをプレイし、攻略したヒロインの人数は一万人以上。その圧倒的ノウハウと攻略スピード、そして個々のゲームに対する的確な評価と指摘は、ネット上はおろか多くの業界人にまで『落とし神』と崇拝されるほどである。

 

そして、そこに目をつけたものがいた。いや、正確には自分で目をつけられるように動いたのだが、それはもう少し後で語ることとして。

彼女らは地獄の悪魔。正しくは新悪魔と呼ばれる存在であり、かつて冥界で大きな戦争が起きたさい古悪魔(ヴァイス)に勝利し、今現在、魂の浄化を担当する者たちである。

では何故、そのような者が桂木に目をつけたのか。それは、封印が破られ、古悪魔(ヴァイス)が大脱走し人間界へと逃げたためだ。

封印の間に力を削がれた古悪魔(ヴァイス)たちは、駆け魂という存在にまで格を落とした。そこで彼らは、力を取り戻し、あわよくば転生を果たすため、母胎となる人間の女性の心のスキマへと潜り込んだ。感情がもたらす負のエネルギーを吸収するために。

当然、それを黙って見過ごす新悪魔ではない。駆け魂隊という部隊を編成し、彼らと契約した人間のバディーを作り協力して、駆け魂が潜り込んだ女性の心のスキマを埋め、古悪魔(ヴァイス)を追い出し捕獲する体制を作り上げた。桂木桂馬は、そのバディーの一人として選ばれたのだ。

 

その後、桂木桂馬は自分の元へとやってきたバディー、エリュシア・デ・ルート・イーマ(通称エルシィ)と協力し、己の深いギャルゲー知識を生かした『攻略』によって、多くの少女たちを救い出した。

 

ノンストップのミサイル元気娘、高原(たかはら)歩美(あゆみ)

派手な鎧で繊細(ピュア)(ハート)を守るツンデレキャラ、青山(あおやま)美生(みお)

顔良し、歌良し、性格良しのスーパーアイドル、中川(なかがわ)かのん。

本がなにより好きな文学少女、汐宮(しおみや)(しおり)

武の道に身を捧げた武闘派少女、春日(かすが)(くすのき)

「その他大勢の女の子」代表、小阪(こさか)ちひろ。

理想を追い求める熱血先生、長瀬(ながせ)(じゅん)

美しいものしか認めないツンツンキャラ、九条(くじょう)月夜(つきよ)

中等部水泳部のがんばりやさん、生駒(いこま)みなみ。

 

最初は脅されて渋々ではあったが、それでも彼は一切の手を抜かず、少女たちの心のスキマを満たしたのだ。

 

そして、十人目。桂木の幼馴染、鮎川(あゆかわ)天理(てんり)の攻略。ここから、セカイは音を立てて変わり始めた。

なんと、天理の中に居たのは古悪魔(ヴァイス)だけでなく、その古悪魔(ヴァイス)を封印したという女神の一人、ディアナもだったのだ。古悪魔(ヴァイス)と同様に力を失った彼女は、天理の心の『愛』の中に住み、自身の糧である愛の力を浴びることで力を取り戻そうとしていた。

古悪魔(ヴァイス)でないのなら、宿主の『子』として転生したり、宿主に悪影響を与えるわけでもない。力が戻れば再封印出来るかもしれないという考えにもどかしさを感じながら、桂木はとりあえず、再び駆け魂狩りを再開する。

 

墓場で一人寂しく遊ぶ少女、日永(ひなが)梨枝子(りえこ)

激甘ラーメンに命をかける、上本(うえもと)スミレ。

プロ棋士をめざして奨励会入りを狙う、榛原(はいばら)七香(ななか)

自由を求める深窓の令嬢、五位堂(ごいどう)(ゆい)

ビッグをめざすパワフルおねーさん、春日(かすが)(ひのき)

ゲームキャラみたいな不思議少女、倉川(くらかわ)(あかり)

 

最後の一人は微妙だったが、それを除いても十五人。僅か数ヶ月としては実に驚異的な数値なのだが、彼の記録はここで途切れることとなる。

 

彼は、ディアナからある一つの可能性を聞かされていた。もしかしたら彼女の姉妹も、彼女同様に古悪魔(ヴァイス)を纏わされて人間界へと来ているかもしれないと。その女神たちが、桂木の攻略した少女たちの中にいるかもしれないと。

実は、桂木はそれを聞いても、あまり信じてはいなかった。ディアナの話を、ではなく、自分の攻略した少女たちの中に居る、という部分である。何せ、脱走した駆け魂は六万匹以上。多めに見てもたった十六人の中に揃っているはずがない、と。

 

だが、その考えは裏切られることとなった。

 

まず、かのんの中に女神の一人、アポロが居た。何者かに付け狙われていると言う彼女は、桂木を巻き込まないよう自ら離れ……女神の命を狙う者の刃に倒れた。

幸いにも即死は免れたが、その刃に付与された呪いを解くにはディアナだけの力では足りない。早急に他の女神を見つけ出す必要があった。

 

桂木は自分を責めた。ディアナの言葉を信じなかった自分を。積極的に動かなかった自分を。そのせいで、かのんを傷つけてしまったことを。

故に彼は、自分の命であるとまで公言するゲームを封印した。かのんを助けるため、そして命を狙われている他の女神を助けるため。彼は、持てる力の全てを女神探しへと注ぎ込んだ。

 

その結果、紆余曲折を経りながらも、さらに三人の女神を見つけ出した。

月夜の中に、長女ウルカヌス。

結の中に、五女マルス。

栞の中に、四女ミネルヴァ。

ここに三女ディアナと次女アポロを加え、六人いるユピテルの姉妹も、残すは六女メルクリウスのみとなった。候補者も、歩美とちひろのみに絞り込んだ。

 

だが、ここで桂木は選択肢を間違えてしまう。

ちひろにいると思い込み、ちひろに近づいて、ちひろとキスをする直前までいって。そこで、ちひろの中に女神がいないことに気がついてしまった。

まだ、そこで適切なフォローをしていれば、彼は後悔しなかっただろう。必要なことだったのだ、と。

だが、何故かいつものように最適な行動を取れず、桂木はちひろを傷つけてしまった。

 

……結論から言えば、歩美の中の女神は出せた。手順(ルート)を踏み、キスに至って、歩美の愛を増やして。より力のある状態にできた。

六人が揃った姉妹はさらに自分たちの力を増幅させ、人間界に地獄を再誕させようとしていた組織の野望を止め、再度古悪魔(ヴァイス)の封印を行った。

 

その後の顛末を語るのは憚られる。

言えるのは、彼は自分の始まりをつくったこと。エルシィが『桂木えり』として正式に妹となったこと。

そして、女神たちの宿主を恋の鎖から解き放つため、なによりも自分の感情に従って、桂木がちひろに告白したことだけだ。

 

そこで話は終わり(エンディング)

胸に愛を宿す少女たちは、そして少女を落とすことで救ってきた落とし神は、それぞれの人生を歩み始める……はずだった。

 

告白から半月後の深夜。

桂木が、自宅のゲームライブラリにて、円を作る六人の女神を見るまでは。

 

 

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果たして、届いたのか。はたまたただの偶然か。

慟哭を叫ぶ桂木に、声が聞こえた。

 

《……(木さん)、桂木さん!聞こえますか!?》

 

耳からではない。頭の中に直接届くような、少女の声。

このタイミング、この状況、この方法。そして何より、『桂木さん』という呼称。桂木はすぐに声の主を特定した。

 

「ディアナか?!」

 

声に出して初めて、それで良かったのか思い悩む。

向こうは宿主である天理の口を借りず、テレパシー的な何かで声を掛けてきた。ならそれは、そうせざるを得ない状況ということであり、事実幼馴染の姿はこの場にない。果たして口に出して届くのかという不安があった。

もっとも、それは杞憂だったようだ。声ではない、安堵の息のような音が頭に届く。

 

《良かった、無事なんですね》

 

ズキリと、胸が痛む。

自分は、彼女たちの宿主を『振った』のだ。それも、こちらから恋に落としておいて、一方的に。

それ以外に方法がなかったという言い訳もある。だが、それでも許されることではないと思っているし、殺されたって文句は言えない。もちろん、死んでやるつもりもないが。

だが、それでも彼女たちは自分を責めなかった。その内に宿る女神たちは、こうして心配までしてくれる始末だ。これでは、ただ自分の罪悪感のみが嵩んでいく。

 

それはそれとして。

 

「おい!これはどういう状況だ!手っ取り早くキリキリ吐けっ!」

 

まず間違いなく、この状況には女神たちが関わっている。

桂木の知る限りにおいて、気がついたら別の場所にいたなんてことが出来るのは……女神以外にも居ないこともないが、部屋に女神が揃っている光景を最後に記憶が途絶えている以上、十中八九彼女たちが原因のはずだ。文句の一つとて言ってもバチは当たらないだろう。

 

《え、えーと……エルシィさんから聞いていないのですか?》

 

……訂正。女神がトドメの何かをしたにしても、そもそもの原因は情報伝達もできないポンコツコアクマ(元)にあったようだ。

 

「え〜る〜しぃ〜〜っ!!」

 

今はえりですよ〜、とかいう空耳が聞こえた気がしたが、そんなことはどうでもいい。とりあえず家に戻ったら埋める、とだけ決めてディアナに話を促す。

 

《まず、私たちが古悪魔(ヴァイス)を再封印したのは知っていますよね?》

 

当然だ、と返答をする。ある意味、そのおかげで首輪が外れたのだから。

 

《ですが、封印しているだけでは、また悪用しようとする者達が現れるかもしれない。なので、私たち姉妹で協議した結果、どこか人の居ない異世界へ飛ばしてしまおう、ということになったのです》

 

それも分かる。サテュロスとかいう地獄の裏組織が、尻尾を切ってまだ生き残っているという話も聞いた。そう考えるのも自然だと理解できる。

 

《そこで、桂木さんの家に陣を引いて候補地の選定をしていたら、桂木さんが陣の中に入ってしまって……》

「待て待て待て!」

 

そう、分からないのはそこだ。

 

「なんでボクの家でやる必要がある?!」

《広いですし》

 

返答はシンプルだった。

確かに、桂木家は広い。母親の仕事場であるカフェを併設していることを除いても、一般家庭よりも広いのは間違いないだろう。だが。

 

「ちょっと待て!結の家の方が広いだろ!」

《マルスの宿主は、今家族と喧嘩中だということですので、全員が知っていて、スペースが取れるのは桂木さんの家だけだったんです》

 

うぐっ、と言葉に詰まる。自分は全く覚えていないが、どうやら結は自分を未来の旦那だと家族に紹介したらしく、一時は尼寺に押し込まれる直前まで行っていたらしいのだ。その責任の一端は自分にある。

 

「が、学校はどうなんだよ!舞島学園!天文部は月夜だけだろ!」

《それは私から話をしよう》

 

響く口調と声が変わる。この、妙に婆臭い喋り方は、ウルカヌスだ。

 

《今、妙に馬鹿にされた気がしたが……まあいい。確かに、学園、特に天文部は候補地に挙がった。だが、異世界を覗くというのは不確定要素も多い。万が一ナニカが飛び出てくる可能性も考え、人に迷惑をかけないよう除外したのだ》

 

異世界からの侵略者、というのもゲームではよくあることだ。人の多い舞島学園を避けるのは分からなくもない。あとは、一人だけ学校の違う天理(ディアナ)が入るのは不自然というのもあるだろう。

それに対して、桂木家に幼馴染の天理がやってきても不思議はないし、エルシィの友達だと言えば残り五人が通いつめても不自然ではない。桂木以外にほぼ人の寄り付かないゲームライブラリに四六時中怪しげな魔法陣があっても誰も咎めないし、そして何より、桂木は彼女たちに対して負い目がある。

この巧妙に仕組まれた感がある言い訳は三女の仕業だと直感し呪いを送るが、ツーンとそっぽを向かれるイメージがすぐに付いたため諦める。

 

「はぁ。ま、過ぎたことを話していても仕方がない。それで。どうやったら帰れるんだ?」

《すぐに帰れる、とは考えないのか?》

 

いつ帰れる、ではなく、どうやったら帰れる。似ているようで違う言葉だ。前者は時間を気にしている、つまりは焦っているのに対し、後者は冷静に手段を検討している。そして桂木の頭脳は、既におおよその見当をつけていた。

 

「そんな甘いことはないだろ。すぐに帰れるのならディアナがあそこまで動揺することはなかったし、こうして話す前に引き戻すはずだ。どうせお前らの力じゃ無理だとか、何かアイテム持ってこいだとか、もしくは時を待てってとこだろ?」

 

ゲームじゃ常識だ、と肩を竦める。

この男、修羅場を潜った数は多く、今更異世界転移だとかで動転するような性格はしていなかった。

 

《流石は結の婿殿。肝が据わっている》

《さ、最後のが、そう。予想外の転移で世界流が乱れてて…》

《これじゃあ、無理やり引っ張ったら、下手すればどっちの世界も崩れるな》

 

口を開いたのはマルス、ミネルヴァ、メルクリウスの順。

予想通りの内容に、桂木はほれみろと言わんばかりに溜息を吐く。というか結はまだ諦めてなかったのかと、頭を抱えた。

 

「はぁ、まあいい。戻るまでどれぐらいかかるんだ?」

《それは、今アポロ姉様が占ってて…》

《…出たぞい》

 

次女のアポロは芸術の女神の末裔であり、巫女だという。悪魔や女神などはこの目で見たため信じざるを得ないが、運というものは信じていない桂木にとって、正直胡散臭いタイプの相手だ。

しかし、この状況では頼らざるを得ない。頭の回転は速くとも特別な力のない桂木には、世界流なるものの予測などできるはずもないのだから。

 

《一番近くて半年後じゃな》

「半年後か……半年っ?!」

 

とはいえ、流石にこの答えは予想外だった。

 

「半年なんて無理だろ! この世界、どう見ても文明社会だぞ!? 金もない、住むとこもない、オマケに戸籍もない不審者が生きてけるわけないだろ!」

《そういうゲームもあるのではなかったのですか?》

「たいてい異世界ものは非文明社会なんだよ! もしくは転生!文明社会で戸籍もない男が半年も生きられるかっ!」

 

何もない人間が文明社会で生きていく為には、ばったり超金持ちのヒロインに拾われるか、もしくはホームレスが居てそのための炊き出しをしていることが条件だ。社会制度がしっかりしていてホームレスが居ない、なんて可能性すらある以上、後者には期待できない。前者は一旦除外する。

 

「ああああ…せいぜい3日とか一週間ぐらいだと思ってたのに、半年だって? 一体どこのクソゲーだ!」

 

本気で頭を抱え、しゃがみ込む桂木。割と真面目に命の危機だった。

 

「ま、いいか」

 

だが、それでもすぐにケロッと出来るのが落とし神たる所以。命の危機など、つい最近まで二十四時間いつでも首元についていたのだ、今更どうということはない。そう思い込む。

 

《い、いいのですか?》

「ああ。よく考えたらこの世界だけのギャルゲーがあるかも知れないしな!」

《か、桂木さんらしい……》

 

ディアナの呆れ声を聞き流しつつ、周囲を見渡して道がないことを確認すると斜面を下り始める。足の向かう先は、眼下に広がる街だ。

 

《音から察すると山を降りてるようじゃが、どうするつもりじゃ?》

「よく分からん異世界に着いて、まず最初にすることは決まってるだろ」

 

六人が首を傾ける姿を幻視しながら、桂木は自信満々に言い切った。

 

「まずは情報収集。何もかもそこからだ!」

 

 

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桂木が山を降り、市街地の中心付近に着いた時には日も高くなっていて、まばらだった人影も少しずつ増え始めていた。

幸いにも休日だったらしく私服の中高生も多く見られ、私服の桂木が見咎められることはない。

 

「いや、スーツ姿の大人も多いな。これは長期休暇中、気温と服装的に春休みか」

 

体感的にもまだ肌寒い季節。桂木のように冬物の服装をしている人間もチラホラいた。とりあえず服装で目立つことはなくて良かった、と心の中で胸をなでおろす。

 

《桂木、どこに向かっているんだ?》

 

頭に声が届く。これはメルクリウスか。そう判断しながら、首に感じる硬質な感触を撫でる。

気付いたら外したばかりの首輪がまた付いていたのは心外だが、会話をしたり元の世界に戻るために必要だと言われたら仕方がないと割り切れる。チョンパされる心配がないのは、精神的に大きい変化だ。

 

「ゲームにおいて、コンスタントに情報収集できる場所というのは限られている。学校で親友ポジションの男に聞くか、役所に行くか、図書館に行くかといったところだな」

《図書館!》

 

宿主ともども本の虫のミネルヴァが何やら声を高めるが、桂木にはそんなところに行くつもりはない。

 

「とはいえ、今ボクが所属している場所はないから男友達からパターンは使えない」

《こっちの世界でも友人はいないでしょうに》

「何百人も居るさ!……ゲームの中でなら。

それはそれとして、戸籍もないから役所も無理だ。かといって、図書館はそこまで効率がいいわけじゃない。だからボクは、『ボク()のや()り方()』を貫く!」

 

桂木が足を止めたのは、ある店の前だった。

ゲームショップ。落とし神と言われる桂木にとって、家を除けば最大のホームグラウンドだ。

 

《こんな時にまでゲームですか? 大体、お金もないでしょう》

「うるさいぞディアナ。こんな時だからこそ、だ」

 

今は買う必要はないしな、と返して、桂木は店に足を踏み入れた。

普段ならギャルゲーコーナーを探して直行するところを、今回ばかりはじっくりと、すべてのコーナーを見て回る。時折、二つ三つゲームをとっては、そのパックに書かれている説明を読み込んでいく。

 

「……なるほど、どうりでな」

《何か分かったのか?》

「ああ。ただ、まだ確証が欲しい」

 

そんなことを30分ほど続け、最後、桂木がまだ入れないR-18コーナーを除き、店の最も奥にそのコーナーはあった。

ギャルゲー。桂木が最も得意とし、桂木の異名と知識の源でもあるそれを、今まで以上のスピードで、全て確認していく。

 

「……やっぱりか。これはまた面倒な現実(リアル)だな」

《なにか、わかったの?》

「ああ。まずここは日本語が通じる、というか日本だ。そして通貨の単位は円。魔法や超能力の類はないだろうな、ここまでの道にそれに関係する店がなかった」

 

街を歩けば分かる、割と基本的だが同時に最も重要な情報だ。読み書き会話が通じなければコミュニケーションが取れない。半年を生き抜くことの前に、取れる選択肢が0.1%未満になるのだ。

ちなみに、金券換金所の看板に書いてあったお札の肖像が違うことは確認済みだ。硬貨は幸いにも同じデザインだったので使えるだろうが、それでも桂木のポケットには千円を越すぐらいしか入っていない。半年の生活をするには不十分すぎる。

 

「もう一つ。この世界は女性優遇社会だ。男は奴隷、というほどではないと思うが、表向きは平等という看板を立てておいて実際には差があるだろう」

《どうしてそう思ったんだ?》

 

普通、ただ街を歩き、ゲームショップに入った程度でそれを見破るのは不可能に近い。桂木の言っている通りなら建前上は平等となっているのだから、表立って権力を振りかざす場面になどそうそう遭遇するものでもないはずだ。実際、女神たちの耳にもそのような声は届いていない。

 

「まず気になったのは、道の歩き方だ。よく見れば、露骨なまでに女が道の中央を歩いて、男は端に寄っていた。何人か現実(リアル)女に気に入られやすそうな男は堂々と中央を歩いていたから、ルールによるものではないはず。

そこから先は簡単だった。道の中央は権力者の歩く場所というのは、大体どこの世界、どこの国にも共通して言えることだからな」

 

しかし、桂木の観察眼は普通ではない。その目は少女たちの心の機微を見抜き、卓越した知能はそこから今の状況を推測する。そうして十人以上もの現実(リアル)女子を恋に落としただけの力は、この世界の現状を浮き彫りにしていく。

 

「あとはゲームが教えてくれた」

《ゲームが?》

「ギャルゲーよりも乙女ゲーの方が扉に近い、ということは、それだけ女子の力が強いということ。他には設定もそうだな。学園モノの純愛系が多いのは、それだけ社会に理不尽が蔓延し、純愛が少なくなっている証拠だ。ギャルゲーのヒロインは『理想の女子』だからな」

 

もしかしたら、学園モノが多いのは『あの頃は良かった』的な製作陣の懐古性があるのかもしれないが、それは断言するまでには至らない。元々、学園モノというのはギャルゲーに多い設定なのだから、なんとなく多めに感じてもタイミングによってはそういうこともあり得る。

 

《さすが桂木さんですね。ゲームを見るだけでそこまで分かるなんて》

「ふん。一流のギャルゲーマーとして当然のことだ。それに、こうなった原因も大体予想がつく」

 

ギャルゲーの棚を離れ、別の棚へと移動する。そこのタイトルには、こう書かれていた。

『アクション』、と。

 

「原因はこれだな」

《と言われても、私たちには何も見えないのですが》

 

桂木は、一つのゲームを手に取る。そこには、妙に露出の多い機械のようなものを身につけて戦う女性の絵が描かれていた。

 

「『I (インフィニ)S(ット・) / (ストラトス/ヴ)V(ァース) S(ト・スカイ)』、いわゆる3Dバトルアクションゲーだな。あまりボクがやらないタイプのゲームだ」

 

この手のゲームは対戦相手が必須レベルな上にエンディングがないからな、と呟く。友人のいない桂木にとって、これ以上やっててつまらないゲームはないのだろう。未練なくゲームを棚に戻す。

 

「このゲームに登場する『I S(インフィニット・ストラトス)』とかいう機械、いわゆるパワードスーツだろうが、こいつはギャルゲーも含めて幾つか他のゲームでも登場しているようだ。最初はガ○ダム的な物かとも思ったが、それにしては女性しか扱えないだのと書かれているのは不自然。これがこの世界のキー設定だろう」

《別におかしくはないのではないか? そういう設定なのだろう》

 

実際に指摘したウルカヌスのみならず、他の女神も理解が追いついていない雰囲気が伝わってきた。

桂木は理解が遅い彼女たちに少し苛立ちながらも、説明を補足する。

 

「普通のゲームならそれでいいかもしれないが、ギャルゲーにそれは通用しない。『何故か唯一使える男』というキャラを主人公に仕立てあげれば、簡単に、強烈で多種多様なイベントを起こせるからな。

それをしないということは、現実に存在するもので下手な設定を付け加えられないということ。強い圧力が掛かっているにしても、二次元の創作物にそこまで強い規制をかけるのはおかしいからな」

 

実際、女性のスキマにしか住み着かない駆け魂という存在もいる。勝手のわからない他所の世界に、女性にしか扱えないパワードスーツがあっても不思議はない。よくゲームでも見かける設定だ。

 

《それでは……》

「ああ。十中八九、女性優遇社会はこいつの影響だろう。

しかもこの兵器、レトロゲーのカゴを見る限り七、八年前から突然登場している。ゲームの開発期間が平均十六ヶ月だと考えて情報の確認の手間だとかを加味すれば、現実(リアル)で開発、もしくは認知されたのが約十年前といったところか」

 

ただゲームを見て回っただけでそれだけの情報を集め、桂木は店を後にする。人の増えた歩道を周囲の男と同じように道の端に寄り、真ん中を堂々と歩く女を横目で見ながら次の目的地へ向かう。

 

《どこに向かっているんだ?》

「この世界の基本的な情報(せってい)は集まった。あとはイベントを起こすだけだが、ボクにできるのは恋愛だけだ。まずはセレブの女の子を探す。そして速攻でフラグを立てる!」

《ま、また女性に手を出すつもりですか!》

 

ディアナのみならず、女神全員の声が頭の中を席巻する。もはや音の洪水となって判別のつかないそれを、桂木は一喝することで黙らせた。目立たないよう小声でだったが。

 

「だーっ!もーうるさい!生きてくためには必要なことなの!ボクにのたれ死ねって言うのか!?」

《そ、それは、そうじゃないですけど》

 

流石に死ねとは言えない女神たち。宿主をまとめて振ったことには不満を感じているが、あの状況では同情の余地はあるし、何より、男としてはともかく人としては信用している桂木が死んでも何も感じないわけではない。

 

「とにかく!女の子に気に入られて、住み込みで働ける場所を手に入れる!基本方針は『いのちをだいじに』だ!」

《わ、わかりましたよ!ええ、今回だけは見逃してあげます!》

《それで、どこに向かってるんだ?》

 

再度の末娘からの問いかけ。そういえば答えてなかったな、と桂木はそれに対する回答をした。

 

「駅前、いや駅も含めた大型ショッピングモール『レゾナンス』。案内板を見る限り、この街で最大の商店施設だ」

 

 

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とはいえ、そう簡単に『お金持ちの女の子』など見つかるはずもなく。

 

《やっぱり、桂木さんの計画は無理があるんじゃないですか? もう二時間ですよ》

「いや、出来る!美生や結と遭遇したボクは金持ちに縁のある人間のはずだ!」

《また頑固になって……》

 

ディアナの呆れた声が頭に響くが、かといって他に手段を思いつくわけでもないのだろう。小言をネチネチと言われるだけだ。

ちなみに、今通信ができるのはディアナ、それとマラソン大会の振り替え休日だとかで学校が休みの天理だけだ。他の女神たちは、向こうが朝になったため一旦帰宅している。なんでも、転移直後が一番鎖が不安定になるだとかなんとかで、少なくとも二十四時間は一人は女神がいないといけないらしい。そういう意味では都合が良かった。

 

「だけど、確かにそろそろ疲れてきたな……いったん休憩せざるを得ないか」

 

壁にかかる案内図を女子高生らしき少女たちの後ろから覗き見て、最適な場所を探す。

金はないから座れるだけでいい。あまり目立たなくて、なおかつ人を探せるとなると、人通りの多いエスカレーターホールがいい。店の広さや売ってる物の内容から、金持ちが現れるとしたらこの付近。

というわけで、一番近い(ちなみにショッピングモールで一番大きな)エスカレーターホールへと移動する。

 

「ん? アレは……」

 

ふと壁のガラスからモール中央の広間を覗いた桂木の目に、元の世界では見覚えのないものが映った。

 

《何かあったんですか?》

「ISだ、あの機動兵器モドキの。しかも男が列を作って触ってる」

 

普通、女性の特権の元となっている物を男なんかには触らせないはず。これは何かあると睨み、急遽向かう先を変えた。

 

《……あの、少し席を外していいですか?》

「ボクは別にいいが、どうかしたのか?」

《き、聞かないでください!デリカシーに欠けますよ!》

 

トイレか、と思いつつあえて口にするようなことはしない。鎖とやらはどうなんだとも考えたが、仮にも女神のディアナが大丈夫だと判断したのなら平気なのだろう。どんなに長くとも10分15分の話なのだし。

 

《し、失礼します!》

「おーい……もういないか」

 

陣とやらから離れたのだろう。反応がなくなる。

とはいえ、今の状況でディアナがいるメリットは殆どない。精々、精神的に余裕が少しできるだけだ。

とりあえずコッチはイベントを進めておこうと、周囲を見渡して適当そうな人を決め、後ろから声をかけた。

 

「ちょっと良いか?」

「ん?どうかしましたか?」

 

振り向いたのは中学生から高校生ぐらいの少年。日本人としては珍しい赤髪、それもおそらく地毛。顔立ちは間違いなくイケメンだが、全身からモテたいオーラが溢れ出している。

桂木の目から見て、これ以上ないくらいに典型的な親友ポジションの条件を満たしている。そして、この手の男は、話しかけると意外と重要な情報を簡単に教えてくれることを、桂木は経験で知っていた。ゲームでは鉄則だ。

 

「敬語はなしで良い。聞きたいのは、なんでISがここにあって、男が触れているかってことだけだ」

「えーと、そりゃあれだ。この前初の男性操縦者が見つかったせいだな」

 

桂木の目が鋭くなる。やはり、このポジションのキャラクターがいると話が早い。

 

「男性操縦者?」

「えっ? 知らねーのかよ。あれだけニュースになってたのに」

「今、家にテレビがなくてな。ここ最近のニュースは見れてないんだ」

 

嘘は言っていない。真実も言っていないが。

 

「じゃあ仕方ねーか。ほんの二週間前、どこかの朴念仁が受験会場を間違えるなんてポカをやらかして、たまたまISに触っちまったんだと。で、これまた偶然にも起動に成功したというわけ」

「となると、この『ISに触ってみよう!』的なイベントも、新たな男性操縦者発掘のための企画か」

「表向きは色々書いてあるけど、結局はそういうわけだな」

 

人の流れに従って、二人はISへ続く列へ並ぶ。と、ここで桂木の脳裏に引っかかるものがあった。

 

「ん? さっきの口ぶりからすると、その男性操縦者と知り合いなのか?」

「おうよ!幼なじみにして男の中では一番の親友だぜ。五反田(ごたんだ)(だん)ってんだ、よろしくな!」

「桂木桂馬だ」

 

なんという。もはや『親友ポジションの男』確定じゃないか、と桂木は内心黙祷する。こうして話していてもいい奴なのは分かるから、その男性()()縦者()と早く別れていい出会いを見つけろよ、と不謹慎な念を送った。

 

「まあ、他の奴なんて見つかんねーとは思うけどな」

「どうしてだ?」

一夏(いちか)、ああその男性操縦者の名前な。織斑(おりむら)一夏。で、一夏なんだけどよ、ISのサラブレッドみたいなもんなんだよ」

 

アレ、と弾が指差す方向を見てみると、ISの近くに立って腕を組む女性の姿が目に入った。凛とした、というよりもまるで刀のような鋭いオーラと切れ長の目は、()()()や空手()主将を彷彿とさせた。

 

「アレが一夏の実の姉、千冬(ちふゆ)さん。さすがに知ってるだろ? 第一回モンドグロッソ総合優勝、ブリュンヒルデの織斑千冬だよ」

「え、あ、ああ」

 

言われれば思い出した。先ほど手に取ったゲームのパッケージに描かれていた女性キャラにそっくりなのだ。いや、逆か。ゲームのキャラが、あの女性をモデルに作られてるのだ。

 

「しかもIS開発者の篠ノ之(しののの)(たばね)とも昔馴染みだっていうし、一夏が動かせたのもそのせいだろ。他の奴がいくら触ったところで何も起きねーと思うぜ」

 

また重要な名前だ。篠ノ之束、ISの開発者。この世界のキーパーソンと思われる人物だ、後で詳しく調べておこう。

どこまでも冷静に情報を記憶に刻みつつ、表面上はさらなる情報を聞き出すべく適度な会話に勤しむ。

 

「ならなんで列に並んだんだ?」

「ああ、俺は別にISはどうでもよくて、千冬さん目当て。と言っても変な意味じゃなくてな!一夏がISを動かしてから連絡も取れねーから、あの人なら何か知ってんじゃないかと思ってよ」

「そうか」

 

どうやら男性操縦者は拘束、もしくは軟禁されているようだ。流石にそこまで多方面に影響のある人間の身内を解剖したりはしないだろうが、各種装置で全身みっちり解析されていることだろう。

 

「ん?おーい!千冬さーん!」

 

顔も知らない男に合掌していると、どうやらその姉がこちらに気づいたようだ。他の係員(という名の警備員兼拘束係だろう)に一言二言声をかけてから、こちらに向かってきた。

 

「五反田兄か。久しいな。どうした今日は?」

「いえ、一夏の奴は元気かなーと。千冬さんなら知ってますよね?」

「ああ。ホテルで軟禁中だが、体の調子に問題はないそうだ。頭の方は知恵熱を出してるかもしれないがな」

 

ところで、と桂木を見る。

 

「知り合いか?」

「いや、さっきそこで声を掛けられたのが初対面です。もう友達ですけど」

 

友達じゃない、と言おうとしたが、嫌な予感がして口を閉ざした。この女、攻略女子と同じ匂いがする。下手な口出しは命を縮めかねない。

 

「そうか。名前は?」

「……桂木桂馬、です」

「知っているかもしれないが、織斑千冬だ。ところで、学校はどこだ?」

 

ぞわりと背筋が泡立つ。この女、ボクのことを疑っている……! なぜだか知らないが、ここは適度に真実を織り交ぜつつ切り抜けるのみ!

 

「舞島学園です」

「……聞いたことがないな。何故ここにいる?」

「今度、彼女へ贈ろうと思っているプレゼントがここでしか買えなかったので。片道六時間かけて来ました!」

 

山の中から、と心の中で付け足す。人間、嘘をつくと何かしらの反応は出る。抑え込む術は知っているが、嘘は極力減らしてリスクを避ける!

と思っていたら、唯一混ぜ込まれた嘘に隣の男が食いついた。

 

「プレゼント、って彼女持ちかよ!? 裏切られたわ! なあ、どうやって作ったんだよ!教えてくれ!」

「あ、ああ。まずはがっつくのを抑えるのから始めろ」

 

肩を掴まれブンブン揺らされる姿に毒気を抜かれたのか。世界最強らしい女は表情を緩めると、必死の形相の赤毛の非モテ男を引き剥がした。

 

「落ち着け五反田兄。桂木も悪かったな、一夏の話では彼女の話題が絡むといつもこうらしい。悪く思わないでやってくれ」

「は、はあ」

 

手際の良さ、というよりも馬鹿力で強引に振りほどいたように見えたのは、うん、気のせいだ。そういうことにしておこう。

 

「ほら、もうすぐお前達の番だ。生のコア付きISに触れる機会なんて滅多にないからな、好きなだけ触っていけ」

 

促されて見ると、思っていたよりも近くにその姿があった。話しながらも歩いていたのだから当然だが、気がついたらもう目の前とか、どれだけこの女性にビビってたかという話である。

 

「……デカイな」

 

近くで見てみると、改めてその大きさが分かる。流石に駆け魂の影響で巨大化した檜ほどではないが、それでもまざまざと兵器ということをその風貌で示している。

 

「だ・か・ら!何でISに男が触るわけ?!そんなこと許されていいわけないでしょ!!」

「……どうやらまた女尊男卑に染まったバカが現れたようだ。すまんが行ってくる」

 

係員に捕まえられている女の元に向かう千冬を見送り、桂木はISの足元に設置されているパネルを見る。

どうやら、このISの名前は『(うち)(がね)』というらしい。日本の第二世代量産型と書かれている。量産型、ということは某赤い人のように専用機やカスタムタイプもあるのかもしれない。また、『日本の』を強調して書いているあたり、各国が開発に鎬を削っているようだ。

 

「大体、見つかったっていう男性操縦者も本当なのか怪しいもんだわ! ホントにいるならここに連れてきなさいよ!」

 

遠くの方から結構な音量で聞こえてくる醜い現実(リアル)女の(わめ)きを背に、順番が回ってきた桂木が打鉄に触れる。その行動に、特に理由なんてない。強いて挙げるなら『この世界のキーに触れてみたかった』程度のものだ。

 

「なっ、っ?!?!」

 

だから。その手が触れた部分から突如として光を放ったことには、さすがの桂木といえども驚いた。

基本動作、操縦方法、性能、特性、現在装備、活動可能時間、行動範囲、センサー精度にレーダーレベル、アーマー残量と出力限界、その他多くの情報が、掌から伝わってくる。

いや、それだけではない。感じたことのないような、どこかで感じたような……

 

……猛烈な不快感と、甘い脱力感。

 

「っ!!」

 

その記憶を思い出した瞬間、咄嗟に桂木は打鉄から手を離した。そして、そのままの勢いで走り出し、驚愕で固まる人々の間をすり抜けていく。

背は低く。速度を落とさぬよう、しかし壁となるよう人混みを駆ける。今は少しでも時間が欲しい。

 

「ディアナ!聞こえるかディアナ!!」

 

捕まれば自由を制限される。それはまだ良い方で、下手をすれば即解剖なんて事にもなりかねない。

それでは困る。せめて、この情報だけは伝えなくては。

 

《桂木さん!何があったんです?!》

「良かった!戻ってたか……っ!」

 

中庭から建物へと繋がる扉に差し掛かったところで、その両脇に佇んでいた二人の女性が飛びかかってきた。青髪の少女と眼鏡の少女、どちらも私服で同い年ぐらい。

だが、私服警備員ぐらいいると予想を立てていた桂木の不意を突くには至らない。その上、桂木は身体能力こそ平均より少し下ぐらいだが、目は悪魔だの女神だのの動きに慣れていた。半ば本能的に前転を判断し、それが功を奏したのか少女の間をすり抜ける。

折り重なる少女たちを背に、カモフラージュとして繋がらない携帯を耳に当て、再び走り出す。

 

《今の音は?!どういう状況ですか?!》

「ボクがISを動かせたせいで追われてるんだよ!」

 

大声で叫びながらモール内を駆ける。目指すは正面出口、人が最もいるであろう場所だ。

 

《そっちの世界の兵器をですか? だけど、女性しか動かせないはずじゃ……》

「ああそうだよ!女にしか動かせないのも当然だ!」

 

後半部分は少し声のトーンを落とす。これは、こっちの世界の人間に聞かせていい話じゃない。

背後から聞こえてくる複数の足音が、段々と近づいてくる。追いつかれるのも時間の問題、早く必要な情報を伝えなくては。

 

「いいかよく聞け!あのISとかいう兵器、とんでもないものを中に入れてやがった!」

 

小声で叫ぶ桂木の先に、正面玄関が見えた。

もう少し、もう少しでルートを固定できる。

 

 

古悪魔(ヴァイス)だ!あれは古悪魔(ヴァイス)を利用してるんだよ!」

 

 

光の元へ飛び出す。そこには、何事かとこちらを振り向く客の姿。

 

「……悪いが、逃がさんぞ桂木」

 

それと、木刀らしきものを握りしめ、立ち塞がるように構える千冬が居た。

 

 

[To Be Continued...?]




落とし神「ISコアは駆け魂で出来ているんだ!」
Ω<ナ、ナンダッテー!!
檜「というかどこからストラトスなんて言葉が出てきたんだろう?(ハリウッド感)」

——ボツ理由——

予想外三部作二作目。
テーマは「難聴系ハーレムラノベの代表、ISにガチの恋愛マスターを突っ込む」

設定は割りと綿密に作れて、筆は進む。
ギャグもシリアスも入れやすい。
次の話やそこからのおおよその展開も考えてある。
神のみらしい恋愛展開を考えるのは難しそうだが、まだ乗り越えがいのあるレベル。

では何故ボツなのか。原因を簡単に言えば、神にーさまの専用機です。
男性操縦者ならまず間違いなく専用機が来る。かといって古悪魔(ヴァイス)が入っていることに気がついた神にーさまが乗るとは思えない。
また、性能もどうなるんだと。神にーさまにバトルは似合わない。だからといって電脳ダイブ特化にするとゲーム世界に引きこも、ゲフンゲフン、福音事件とかに絡ませづらい。

逆に言えば問題点はそれだけなので、案外すぐ乗り越えて連載行きになりそうな気もしますね。個人的には三部作三作目の『錬鉄のアイドル』よりも書きやすいです。

※P.S.
天啓が舞い降りて、神にーさまの専用機が決まりました!
ということで、連載に向けて正式なプロットを作成中です。連載開始まで今しばらくお待ちください。

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