東方末妹録   作:えんどう豆TW

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日常回と邂逅といった感じに進めていきたいですかね


吸血鬼たちの日常と幻想への誘い
狙うは楕円、穿つはその中心


 ここは地下の一室、見回せばには見慣れた家具や置物が目に映る。ここは私の自室だ。しかしそこにはいつもの日記を書くときの穏やかの雰囲気はない。

 

「―――――――投影魔法、展開」

 

 手に魔方陣を展開して先の尖った小さめの矢のようなものを創る。それを軽く回したり放り投げたりして強度を確かめる。

 

「よし」

 

 十分に満足できる出来になるまで少し時間がかかった、何せ初めて創るものだったのだ。

 廊下に出て壁に木を輪切りにした円形の的をかける。的には網のように線が描かれていて中心で収束している。的から十分に離れると向き直って矢を構える。ピリピリとした空気が廊下に流れ出す、ここには私一人しかいないが。

 

「フッ!」

 

 狙いをつけて短く息を吐きながら片手で矢を放つ。矢は寸分の狂いもなく直線を描き円の中心を貫いた。思わず口の端が吊り上った。

 

 

 

 

 

 

 

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 時は数日前に遡る。

 私たちの生活は基本的に配下を通して送られる人間からの貢物によって成り立っている、人間達で言うところの税金というやつだ。基本的に食料と血だがそれ以外に色んなものが混じったりしている。例えばレミリアお姉さまがよく使っている羽ペン、これは消耗品なので多く送られてくる。他にも紙、糊などの日用品が多くを占める。その中にたまに変なものが含まれているのだ。そして今回は・・・。

 

「可愛い!お姉さまこのぬいぐるみどこにあったの?」

「人間たちの貢物の中に混じってたのよ、熊かしらこれは」

「はいはい!あたしそれ欲しい!」

「ダーメ、私これ気に入ったから部屋に置くことにしたの」

「何それ!ずるいじゃん!いつもお姉さまばっかり~!」

「何よ、文句あるの?いつも仕事を頑張ってるのは私だもの、これくらいの権利はあるはずよ」

 

 姉二人の喧嘩が始まってしまった、いつもなら止めるところなのだが・・・。

 

「レミリアお姉さま、私もその、ぬいぐるみ欲しいなー・・・なんて、あはは」

「うーん、リリィも欲しいの?困ったわね・・・結構気に入っていたのだけど・・・」

「お姉さま!?」

「ダ、ダメでしょうか」

「うーん、うーん・・・リリィの頼みは聞いてあげたいのだけれども・・・」

「お姉さま、リリィに甘すぎない?あたしは?ねぇあたしは?」

「じゃあ、3人で勝負して勝った人がこのぬいぐるみを貰えるというのはどうですか?もちろんズルは無しで」

「そうね、それなら文句はないわ」

「ねえ無視しないでよ、おかしくない?最近こういうの多くない?ねえお願いだから聞いて」

「無難にじゃんけんとかでしょうか」

「それだと面白くないわね、最近退屈だし何か暇つぶしになるものでもないかしら」

「いやあたし本当に泣くよ?結構傷ついてるんだけど、ねえちょっとリリィもなんか言ってよ」

「私はフランお姉さま大好きですよ?」

「へ?あ、えと・・・あ、ありがと」

 

 さっきまで泣きそうな顔になっていたフランお姉さまは急に顔を赤らめて俯いた。レミリアお姉さまに「ちょろいわね」と言われて再び喧嘩になるのはすぐのことだった。

 

 

 

 

 喧嘩が一息ついたところでレミリアお姉さまからそういえば、と提案があった。

 

「最近街の方でこういう遊びが流行ってるらしいわ」

 

 そういってレミリアお姉さまは空になったワインの瓶目掛けて針状の弾幕を飛ばした。ワインの瓶は激しい音を立てて粉々に割れた。

 

「・・・なにこれ?」

「本来は木を輪切りにした円状の的を使うらしいわ、小さな矢のようなものを投げて刺さったところによって得点を競うの。得点は中心に近くなるほど上がるわ、一番得点の高い人が勝ちよ」

「えー・・・こんなの真ん中を外す方が難しいんじゃない?」

「人間と私たちの身体能力を同じに考えちゃダメよ、でも確かにフランの言う通りね・・・じゃあ少しルールを変えましょう」

 

 そこから吸血鬼用にルールが変更された。ルールは以下の通りだ。

 

・距離は大広間の端から端まで

・的を壊したら負け

・的は一回ごとに取り換える

・ひとり2回投げる

 

 勝負は3日後、それまでは各自練習だ。

 

 

 

 

 

 

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「2人とも、準備はいいかしら?」

「ばっちりだよ」

「絶対に負けません」

「ふふっ、いいわね、それでこそ我が妹達だわ」

 

 不敵な笑みを浮かべる吸血鬼姉妹、人間が見たらこの世の終わりにでも感じるかもしれないが今から行われるのはぬいぐるみ争奪戦だ。

 

「じゃあ一番手はあたし!」

「いいわよ、リリィはどっちがいい?」

「じゃあ一番最後で」

「わかったわ、私は二番手」

 

 木の板を大広間の壁にかけ終わるとゲームスタート、ちなみに取り替えは2番後の人の役割だ。

 

「それっ!」

 

 フランお姉さまは腕をしならせて矢を投げる。放物線を描いて矢は中心の少し下に刺さった。

 

「30点です」

「あーんおしい」

 

 ちなみに中心が50、その周りが30、そのさらに周りが20、その他は10といったところだ。

 

「やるじゃないフラン」

「これでも練習は頑張った方なんだよ」

 

 胸を張るフランお姉さま、それを見て柔らかな微笑みを浮かべるレミリアお姉さま。なんだ、ちょっと本気で心配してたけどいつもフランお姉さまのことをからかってるだけのようだ。

 

「じゃあ次は私の番ね」

 

 そういって無言で矢を投げるレミリアお姉さま。直線に近い軌道を描いて矢は中心に刺さった。

 

「どう?」

「ぐぬぬ・・・」

 

 胸を張るレミリアお姉さまと悔しがるフランお姉さま、笑顔で見守るのは私の番だ。

 さて、私も的を用意して・・・

 

「あらリリィ、その矢から中心に伸びている魔力を感じる糸は何かしら?」

「リリィ、ズルしようなんて考えてないよね?」

 

 笑顔で近づいてくる二人、その眼にハイライトはない。

 

「あ、あはは、何のことでしょうか?」

 

 慌てて魔力の糸を引っ込める、私まで的になるつもりはない。

 

「まったく、あなたは油断も隙もないんだから・・・」

「リリィって結構狡猾だよね・・・」

 

 ため息をつきながら的を用意するレミリアお姉さまと私の後ろにつくフランお姉さま。さて真剣にやろう。

 

「後でオシオキね」

 

 後ろから突き付けられた死刑宣告、許されなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「いきます」

 

 目を細めて狙いを定める。息を小さく吐いて矢を投げる。イメトレは完璧。

 

「うぐっ・・・」

「あー残念」

 

 だが直線を描いて放たれた矢は中心から少し右に逸れて的に刺さった。ぐぬぬ練習ではうまくいったのに。

 

「じゃあ次はあたしの番だね」

 

 フランお姉さまはキッと的を睨むときれいなフォームで矢を放った。次は的の中心を貫く。

 

「やったぁ!」

「あら、この勝負私がもらっちゃうけど?」

「ふん!お姉さまはプレッシャーに弱いもんねぇ」

「う、うるさいわね!私の辞書に失敗の二文字はないのよ!」

 

 フランお姉さまの思惑通りといったところか、レミリアお姉さまの矢は中心を僅か逸れたに。

 

「・・・そう、これくらいじゃにと面白くないわよね、わざとよわざと」

「レミリアお姉さま、まだわかりませんよ」

「そんな普通に慰めないで、余計につらくなるわ」

 

 見栄をはったレミリアお姉さまは顔を赤くして逃げるように的を換えに行く。途中ですれ違ったフランお姉さまにからかわれて怒っていた。

 

「魔力の糸はダメだよ」

「ズルはしないのでその顔やめてください」

 

 フランお姉さまの笑顔が最近少し怖い、太陽のようなあの眩しい笑顔はどこへ行ってしまったのか。

 長く息を吐いて集中力を高める。ここで成功すれば勝負はおそらくサドンデス、まだ私にもチャンスはある。狙いを定める。イメージするのは常に中心を射止める私だ。

 

「はぁぁぁっ!!」

 

 投擲。しかしここで私が考えていたのは中心を貫くことだけだ、つまり―――――――。

 

「・・・・・・・・」

「あー・・・」

「えーと・・・」

 

 私たちの前には粉々になった木の的があった。力加減のことを考えずに投げたのだから当然なのだが。

 大丈夫、私はつらくない。ほらだってこんなにも涙が。

 

「・・・お姉さま」

「まあどうせあなたもそのつもりだったんでしょ?私も一緒よ」

 

 そういうと二人は私にぬいぐるみを手渡した。

 

「へ?これって・・・」

「元々あなたにあげるつもりだったのよ、二人ともね」

「結局リリィに甘いのはあたしもだったねぇ」

 

 なんだかこうなると申し訳ない。でもそれ以上に嬉しかった。

 

「あ、ありがとうございます!」

「ほら涙拭いて、ね?」

 

 フランお姉さまからハンカチを渡された。笑い泣きなので別に目尻に溜まっている程度だから自分でも拭えるのに、なんだか優しい。

 

「でも、本当にいいんですか?」

「当然じゃない、私はあなたの笑顔より欲しいものなんてないんだから」

「そうやっていいところ持っていこうとするよねぇお姉さまは」

「な、なによ!本心じゃない!」

「そうだけどさぁ・・・」

 

 不満そうなフランお姉さま。大丈夫ですよ、どっちも同じくらい大好きですから。

 

 こうしてぬいぐるみ争奪戦は幕を閉じた。ちなみにその晩はフランお姉さまの部屋にお呼ばれした。

 

 

 

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 

「今日は一緒に寝ようね、リリィ」

「それは嬉しいですけど、なんで馬乗りになってるんですか?」

「リリィが逃げないようにするために決まってるじゃない、弱いのは脇かしら?それとも首筋?足の裏?」

「ひゃっ!ひゃめっ!ひぃぃぃぃぃ!」

「オシオキだもの、逃げちゃダメでしょ?ここ?ここが弱いのかしら?」

「ひっ!くすぐったひぅ!や、やめっ!やらぁ!」

 

 私を待っていたのはオシオキだった。愉しそうな表情で私をくすぐるフランお姉さまと嬌声を上げる私。勘違いしたレミリアお姉さまがものすごい勢いで部屋に入ってきたことは言うまでもなかった。

 

 

 

 ついでにオシオキにはレミリアお姉さまも加わった。

 




ダーツって結構最近の呼び名なんですね・・・知りませんでした
誤字報告等いつもありがとうございます

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