東方末妹録   作:えんどう豆TW

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戦闘シーンなどは慣れませんが頑張ります・・・


罪は苛み蝕む

「人間、ですか?」

「ええ、最近彼らの動きが不穏だって下のやつらが言ってるの。お父様の一件でかなりビビってるのか随分と頻繁に報告してくるの。鬱陶しいったらありゃしないわ」

「しかし流石に無視することはできませんね・・・離れの大きな街でしょうか?」

「ええそうよ、でも私たちが怯えるようなことはないと思うのだけれど・・・」

「いえ、やはり警戒するに越したことはないでしょう。お父様の一件もありますし」

「あたしもリリィに賛成かな、もしものことがあったら嫌だもの」

 

 私は数週間前に16回目の誕生日を迎えた。この話が出てきたのはそれから少し経った時だった。

 2,3週間前から配下の妖怪からレミリアお姉さまに頻繁に報告が入るようになったらしい。曰く、人間の動きが怪しい、と。隠れてこそこそと会議のようなものを開いているらしい。この一帯の町はスカーレット家の支配下に置かれているようなものだ、監視の目をかいくぐるためにと考えればその考えにたどり着かなくもない。

 以前現れた退魔師はお父様と同等の力を持っていたらしい、この先そんな人間が生まれないとも限らない。いや既に街に潜んでいる可能性があるのだ。少しでも危険な可能性は潰しておきたい。

 

「レミリアお姉さまが忙しいというのでしたら私が行きましょう。夜の隠密行動には自信がありますし」

「ダメに決まっているでしょう、それこそあなたを危険な目に遭わせるわけにはいかないもの」

「ですが・・・」

「はぁ・・・わかったわよ。でも今は配下の動員数を増やすってことで我慢してくれない?むやみに動かすことは避けたいの」

「・・・わかりました」

 

 とりあえず今は監視を増やす、ということで納得した。なるべく事を大きくしたくないのだろう。しかし、本当に力のある退魔師を隠しているのだとしたら見過ごすことはできない。お姉さま達の脅威になり得るものは早めに消しておくべきだ。

 しかし、しばらくは様子を見ることにした。レミリアお姉さまがそういうということは多少対処が遅れてもあまり問題はないのだろう。私たちは配下の報告を待つしかなかった。私はもしもの時のために少しでも研鑚を重ねよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「人間側がどうやら元当主様の死亡を聞きつけたようです。他の者の報告によると次の新月の夜に侵攻を開始するようです」

「・・・そう、わかったわ。でも人間側の動機が分からない・・・いったいなぜ今更・・・」

「計画自体は数年前からあったみたいですが・・・動機は吸血鬼への怨恨、長年の支配への復讐のようです」

「なるほどね・・・ありがとう、下がっていいわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「というわけで侵攻は次の新月、一番力の弱い時期を狙ったんでしょうね」

「つまり、それまでに迎え撃つ準備をしなければならないということですね」

「そうよ」

 

 レミリアお姉さまはため息交じりに肯定した。やはり思い過ごしではなかった、とはいえレミリアお姉さまも可能性を十分に考慮したうえで見送ったのだろう。

 

「でもなんで今更?あたしは新月を何回も見た気がするけど」

「そこがわからないのよねぇ・・・なぜ今なのか、私は穏便な支配を続けてきたつもりだったのだけれど」

「あー吸血鬼への恨みだっけ?確かに前の一件からさほど時間も経ってないのにねぇ」

「力を持った退魔師が現れた・・・とかじゃないでしょうか」

 

 原因の究明は大切だ。策を練る前に大元を考えなければこの侵攻は長年に渡り永遠に繰り返されるだろう。

 

「まあその線は捨てきれないわね。各自で戦闘に備えておいて、といってもフランには必要ないかしら?」

「少しくらい心配してくれてもいいんじゃない?」

「あら、心配もしてるけどそれ以上に信頼が大きいのよ。自慢の妹ですもの」

「むぅ・・・」

 

 フランお姉さまには生まれつき圧倒的な破壊の能力が備わっている。それに加え吸血鬼としてもトップクラスの才能と実力を持っているのだ、レミリアお姉さまは心から信頼しているのだろう。顔を赤らめて俯くフランお姉さまは可愛かった。

 

「リリィ、一応あなたも大丈夫だと思うけど・・・その・・・」

「どうかしましたか?」

「あなたの能力についていまいち理解できていないというか・・・『罪悪感を操る程度の能力』だっけ?」

「あぁ・・・」

 

 レミリアお姉さまの疑問は私の能力についてだった。

 『罪悪感を操る程度の能力』、それがお姉さま達に教えた私の能力の名前だった。フランお姉さまの能力とは違い攻撃的に聞こえないから心配だったのだろう。あいてが退魔師ともなると魔力攻撃や妖力が効かない場合がある、そういった時にフランお姉さまのように能力で強引に突破することができないと心配しているのだ。

 

「うーん、あまりお姉さま達に使いたくはないのですが・・・そうですね、先週レミリアお姉さまが私のプリンを食べたじゃないですか」

「うぎっ・・・あ、あれはわざとじゃなくて、それに本当に悪いと思って・・・っ!」

 

 困った顔になったレミリアお姉さまが突然顔を顰める。

 

「なるほどね・・・あなたが『妖怪殺し』と称した理由がわかったわ」

「え、ちょっと、あたしを置いていかないでよ。どういうことなの?」

 

 妖怪は外側からの衝撃には他の生物より強い、反対に内側への攻撃、つまり精神攻撃に弱いのだ。私のこの能力は対象の過去に抱いた罪悪感を呼び起こし増幅、減少させることができる。悪い言い方をすれば相手の良心を利用して内側から食い破る能力だ。当然精神の衰弱は肉体に多大な影響を及ぼす。つまり一種の防衛にもなり得るということだ。もっとも相手が今までに罪悪感を一度も抱かないような狂人であれば通じない手段だが。

 

「まあ、リリィの方も心配はなさそうね」

 

 顔色の優れないレミリアお姉さまがため息をつく。ちょっとやりすぎたかもしれない、だけど私だって楽しみにしてたのだ、プリン。

 

「じゃあ、作戦を練りましょうか」

 

 

 

 

 

 

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 私は提案した作戦の全容を説明し、お姉さま達のほうを見た。

 

「ということです、どうでしょうか」

「・・・あなた、私がそれを返事ひとつで了承すると思ったの?」

「え?どこかダメでしたか?」

「どこも何も最初の配置からよ!どうしてあなたが街の出口付近で奇襲をかけることになってるの!?そんな危ない役をさせるわけないでしょう!」

 

 すごい剣幕でまくしたてるレミリアお姉さまに気おされつつも反論する。

 

「で、ですがこの奇襲は成功する可能性が高いです。人間も無警戒ではないでしょうけど、出たすぐに奇襲をかけてせめて退魔師だけでも・・・」

「それであなたが怪我をしたらどうするのよ!姉として認められないわ!」

「ぐぅ・・・お気持ちはありがたいですが、それでも退きませんよ。フランお姉さまも何か・・・」

「うーん、あたしもリリィが危険な目に遭うのは反対だな。だって一人でやりたがるんでしょ?」

「そ、そうですけど・・・」

「ほら、じゃあダメ」

「そ、そんなぁ・・・」

 

 結構この作戦には自信があったのだ、こうも否定されては悲しい。

 

「無理はしませんから!お願いします!」

「はぁ・・・・・・わかったわよ・・・ただし絶対に無理はしないこと、目的を達成したらすぐに離脱して帰ってくること、いいわね」

「!はい!ありがとうございます!」

 

 結局私の泣きそうな顔に耐えられなかったレミリアお姉さまの負けだった。どうしても私は妹として二人の役に立ちたかった。傲慢かもしれないが二人を守るものでありたいと思ったのだ。その意思を曲げることはできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

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 月明かりが照らすことのない闇。風だけが少し騒がしく吹いている街の門前。そこから少し離れた高い家の屋根に私は座っていた。やがて街の門を多くの人間がくぐっていく。

 

「数は・・・30ってところですか」

 

 人間たちの中に一人守られるように何人かに囲まれた男がいた。なるほど、あれが腕の立つ退魔師とやらだろう。狙いはアレだ。

 

「そろそろ行きますか」

 

 私は黒い霧を纏い始めると屋根を小さく蹴った。これは魔術の一種で闇、影といった視覚で認知できないものを操る魔法だ。操るといっても自由自在というわけではなく精々このように纏う程度。しかし新月の闇の中この魔法は隠密行動を完全なものにするほどの効果を発揮する。もともと吸血鬼が持っている霧状になる能力と合わせて妖霧をコーティングするように黒い霧で隠す。ほぼ無制限に周りにある闇を使うのでほとんど消費はない。

 人間の群れに速やかに近づいてその間を通り抜けていく。狙いは真ん中の人間だけ。背後で手だけ霧状化を解いて退魔師に向かって手を伸ばす。

 直前で気づいた退魔師はその場から飛び退こうとした。しかし周りには囲うように並ぶ人間達。逃げ場がない退魔師はかろうじて体を捻ったが私の手は彼の腹部を貫いた。隙を逃さず投影魔法で長剣を創り倒れこむ退魔師の元へ降り注がせる。体の数か所を貫かれた退魔師は成す術もなく地面へ磔にされた。間髪入れずに私は妖力弾を作って退魔師へと放った。

 わずか数秒間の出来事で私の足元には人間の下半身と血だまりが広がっていた。奇襲は成功だ。

 

「な、何者だお前は」

 

 低い男の声が暗闇に響く。状況は私を中心に円状に人が包囲している。彼らが構えているものは銃というものだろう。いつかレミリアお姉さまから銃からは銀弾が撃ち出されるから注意するようにと言われた覚えがある。

 

「答えろ!」

 

 考える時間が長すぎたようだ、痺れを切らしたさっきの男が怒鳴った。

 

「私は吸血鬼のリリィ・スカーレット、スカーレット家の名のもとあなたたちに然るべき罰を与えに来ました」

 

 そういって口の端を釣り上げる。

 

「・・・何がそんなにおかしい」

 

 不気味なものを見るように男が呟く。おかしいも何もこんなに嬉しいことはない。だって私がスカーレットを名乗ってスカーレット家の吸血鬼として仕事をするのだ、これ以上のことはない。お姉さま達の役に立てるのだから。

 

「怯むな!奴は負傷している、銀弾を一斉に浴びせてやれ!」

 

 負傷?いったい私のどこに傷があるのだろうと男の目線の先を探って気づいた。なるほど、彼は生まれつき片翼だけの私を見て負傷していると勘違いしたらしい。軽くため息をついて魔法障壁を展開した。

 

「撃てぇッッ!!」

 

 男が叫ぶと同時に一斉に射撃が始まった。しかしその銀弾が私に届くことはない。

 私はリリィ・スカーレット、自分の中で名前を何度も反芻して小さく微笑む。地面を蹴って空に浮かぶと同時に投影魔法を展開した。

 

「今宵はわたくし、リリィ・スカーレットが皆様の相手をさせていただきます。どうかお手柔らかに―――――――」

 

 お姉さま達から教わった動作も忘れない。スカートの裾を指で摘まんで膝を折り腰を曲げる。スカーレット家の末女たる者如何なる時も礼儀を弁えなければならない。

 

 

 

 

 

 

 明かりのない暗闇に私の眼の光を反射した剣が緋色に輝いた。




少し長くなりました、長い文章にも慣れていきたいですね
誤字報告等これからもよろしくお願いします

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