東方末妹録   作:えんどう豆TW

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会話を増やしていきたい・・・
フランの一人称を変えることにしました


馬鹿と試験と召喚術

「まずは、自分が何を創るのかをイメージしてください。曖昧なイメージじゃ脆くなってしまうので確固たるものを頭に浮かべてください」

 

 私は昨日中止となった投影魔法教室の講師をしていた。お姉さま達は私の話を真剣に聞いている。二人に資料を渡す、といっても伝記や絵巻、神話と呼ばれるもので要は武器のイメージをしやすくなるものだ。英雄の使っていた武器は当然奉られている武器など様々なものを資料とすることで最終的に自分の作りたいものをイメージしやすくさせるのだ。

 現に私はブリテンの英雄が使っていたとされる槍を気に入りその投影を練習している。練習しているといってもほぼ完成している、がその性質を創るのに苦労しているのだ。

 突き刺した相手を死に追いやる因果逆転の呪槍、もちろんそんな大層なものは創れないので呪術をコーティングする。強度を最高まで高めた槍に呪いをコーティングする、そんな高度な魔術を如何に魔力消費を抑えながら持続させるか。私の大きな課題の一つだった。それに投影魔法しか使えないのでは意味がない。色んな種類の魔術に手を出さなければならない、その高い壁は私を絶望させるのではなくむしろ何かに火がついたようだった。未知への探求、越えるべき壁、生きているといいう実感、すべてが私にとって新鮮で輝いて見えたのだ。

 どんどん自分の内部に思考が偏りかけていたところで我に返った。今はお姉さま達の教師役を全うしなければ。今も目を開ければイメージ通りに行かずに困り果て私に助けを求めるお姉さま達の姿が・・・・・・あれ?

 

「リリィ、こんなものでどうかしら?」

「あたしも出来たよ~」

 

 見るからにしっかりとした槍と剣を手に持つ彼女たちに暫し唖然としながらもなんとか倒れそうな体を支える。

 

「え、ええ・・・この短時間によくこんなに立派なものを創れましたね・・・」

「そ、そうかしら?」

「えへへ~」

 

 嬉しそうな二人に気付かれずにため息をつく。いったい私は半年も何を・・・いや、お姉さま達が特別才能にあふれているのだ、そうに違いない、だって私のお姉さまだもの。しかしあくまで普通の強度だ、妖怪との戦いではへし折られてしまうだろう。

 

「では次は強度を上げてみましょう。構造はしっかりしてるみたいですし、内部の魔力密度を上げながらこの形を維持してください」

 

 どうやらこちらの方が難しかったらしく、数週間武器を創っては破裂させるという作業を繰り返すこととなった。

 結局お姉さま達は3か月かかって十分な武器を創れるようになった。十分早い完成だ、もっとも私も同じようなものだったがお姉さま達に並べたことを誇るべきだろう。

 

「やっとまともに作れるようになったわ・・・」

「疲れたよ~・・・」

「おめでとうございます、二人とも早い完成でしたね」

「リリィの教え方がよかったのよ」

「えへへ~」

 

 謙遜するレミリアお姉さまと抱きついてくるフランお姉さま、この後の喧嘩はもはや日常茶飯事だ。

 

「じゃあ試験をしましょう」

 

 私が言うと取っ組み合いをはじめかけている二人は同時にこちらを向いた。

 

「試験?」

「はい、私も試したいことがあるので。つまり二人の試験とかねて新しい魔法を試したいってことです」

「いいけど・・・手加減してよ?あなたの魔法は高度すぎてたまについて行けないもの」

「大丈夫です、私が戦うわけではないので。じゃあ広間まで行きましょう」

「え?それってどういう・・・」

 

 レミリアお姉さまの言葉が終わる前に私は部屋を飛び出した。早く試したかったのだ。

 広間の中心に大きめな魔法陣を描く。後から続いてきたお姉さま達の顔色が悪いが今の私の眼には留まらなかった。

 

「リリィ!それちょっとやば・・・」

 

 レミリアお姉さまが言い終わる前に魔方陣が輝き出す。これが私が最近研究していた高等魔法術、その名も『召喚魔法』だ。異界から魔物の類を召喚するこの魔法は今まで試したことがなかったがいい機会だ、魔法とは常に思考と試行を繰り返し結果をみて考察をし改良を重ねて次の研究、実験へとつなげていくものであって研究の日々だけでどうにかなるわけではないむしろ研究よりもいろいろと実験することの方が大切だというのにこの頃は頭の中で組み立てるだけで何も行動を起こさなかったのだああこの数か月が悔やまれ―――――。

 

「リリィ!前!前!」

 

 思考の沼にハマりかけていた私を現実に引き戻したのは慌てたフランお姉さまの声だった。8歳にして悟りを開きかけていた私の目の前にいたのは、端的に言えば怪物だった。どれが手でどれが足かもわからない、禍々しい鱗と大きな口に4つの眼。途中から裂けるように別れた長い尾。

 私は興奮のあまり何を召喚するかもわからないまま陣を敷いたのだった。

 

「リリィ、これはなに?」

「・・・・・・・・・・・・」

「リリィ、これ失敗じゃ・・・」

「さぁ!試験開始です!」

 

 無理やり二人を誤魔化して右手を上げる。さあ行けよくわからない召喚獣よ。

 開始の合図とともに怪物は私に尻尾を叩きつけてきた。なるほど言うことを聞いてくれない。慌てて回避して怪物から距離をとった。そもそも試験なので私が手を出してはいけない。幸いにも動きは緩慢ででかいのは体だけだ。これならお姉さま達が苦戦することもないだろうし、武器を使った戦いのいい経験になるだろう。無理やり自分を説得した。

 ちなみにお姉さま達も非常事態とはいえ律儀に武器を使って戦っていた。この怪物の実力が自分たちより下だと判断したのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてリリィ、何か言うことはないかしら?」

「ごめんなさい・・・」

「よろしい」

 

 怪物の処理が終わった後にレミリアお姉さまの部屋で反省会が行われた、主に私の。

 

「まあ私たちもいい運動になったわ、ねえフラン?」

「うん、魔法を維持しながら戦うのは難しかったけどね」

 

 もっとも二人ともそこまで気にしていないようだ、それぞれ投影魔法を使った感想を言い合っていた。

 

「リリィみたいに同時に色んな武器を創って飛ばしたりするのは難しいわね・・・」

「あたしもー・・・一つくらいならできそうなんだけどなぁ」

「なら一つに絞って投影するのはどうでしょうか?その方が使い古すことも出来て練度も上がりますし」

「そうねぇ・・・確かにそれなら改良もしやすいし色々と考えてみようかしら」

 

 実際に私もバリエーションを増やしているが主に使うのはお気に入りの槍だけだ。フランお姉さまは剣のほうが気に入ったみたいだけどレミリアお姉さまは槍だったようだ。

 

「だって吸血鬼といえば槍でしょう?」

 

 わからなかった。

 

「もっと炎とか出せたらいいのに」

「だったら焔の魔法を纏わせるというのはどうでしょう?私も実際にそうやって強化を施しています」

「そっか!でも難しそうだなぁ」

「何事も挑戦ですよ、時間と努力は絶対に裏切りませんから」

「・・うん、やってみる!」

 

 魔力や妖力を纏わせることで強化を施すことも出来る、もっとも本体が脆くては元も子もないので二人には先に内側の強化だけを教えたのだ。

 

「それに投影するものの材質によって相性もあります、私の場合は呪術ですが魔力となると素材を合わせた方が相乗効果も期待できるでしょう。それに炎となるとより強力な炎を生み出す素材もあるでしょうし」

「難しいのね・・・」

 

 途中から目を回す二人だった。そんな二人を見て小さく微笑むと笑い返してくれる。ああ、今日もいい一日だった・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ちなみに私には召喚魔法禁止令が敷かれた。

 




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