東方末妹録   作:えんどう豆TW

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悪魔巣食う宿命

 

 

 

「んで、オレのところに来たわけだ」

「そういうこと。貴女の素は初めて見たけどね」

 

 ここは妖怪の山の頂上に位置する天魔の屋敷。私が来たのは他でもないリリィの情報を集めるためだ。リリィは天魔や一部の大天狗とも交流が合ったらしく(と言ってもほんの一部天魔の側近程度らしい、彼女から聞いた話なので真相はわからないが)尋ねる価値があると判断したからだ。

 

「残念ながらここ数日でこちらに立ち寄った形跡も目撃情報もない。すまないな力になれなくて」

「天魔ってもっと頭が固いんだと思ってたわ、ご協力ありがとう」

「先代くらいだろう、オレは堅苦しいのは嫌いなんだ。会議やらなんやらと疲れるばかりだな、まったく」

 

 ふうとため息を吐く天魔。相当お疲れらしい、早いところ退散することにしよう。

 

「邪魔したわね、情報があったらまたお願い」

「ああ・・・いや、待てレミリア殿」

 

 私が部屋から出ようとしたとき、ふいに天魔が呼び止めた。随分と協力的なあたりリリィにそれなりに恩を感じているらしい。我が妹ながら吸血鬼らしくないといえばその通りだ。尤もそこがまた可愛らしくも愛おしくもあるのだが。

 

「もしかしたら一人探せる奴がいるかもしれない。ちょっとばかり面倒くさがり屋だが、現在の状況くらいはわかるぞ」

「それは本当!?」

 

 天魔の言葉に思わず声を荒げてしまった。もしも本当のことならば願ったり叶ったりだ。

 

「射命丸、頼んだぞ」

「はっ!・・・って、え?」

「何を呆けてるんだ、ご案内しろ」

「いやいや、今の説明で私にわかると思ってるんですか?」

「ほら、姫海棠だよ」

「ああ、はたてですか・・・」

 

 要領を得ないような顔が面倒くさそうな顔へと変わる。射命丸と天魔のやり取りの後、射命丸がこちらによって耳打ちしてきた。

 

「気の弱い奴ですから、脅せばすぐにビビッていうこと聞くと思います」

「そう、なら大丈夫そうね」

 

 そして射命丸に連れられるままに私はその能力の主の下へと向かうのだった。

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 私、パチュリー・ノーレッジは実はというとそこまで焦っていなかった。リリィも私も小悪魔から言わせれば唐突に何でもしでかすようなタイプだからだ。自分と通ずるものがあるため、結局周りの取り越し苦労で終わることだろうと楽観視していた。

 一応顔見知った者に尋ねたりはしたものの、出来ればこの騒動が早く終わって落ち着いた環境を取り戻したいというのが本音だった。

 

「小悪魔、探知魔法の魔導書を取ってきて頂戴」

「探しに行くのでしたらお供します」

「外に出るつもりはないわよ、喘息の調子も悪いし」

 

 ゴホゴホと咳が出る。少し喋っただけでこれだ、今日は無理しない方が身のためだろう。それにレミィすらも出向いているのだから、わざわざ館を空にすることもない。

 

「あ、誰か来たみたいですよ。この魔力は・・・アリスさん?凄いスピードで走ってきますよ」

「アリスが?そういえば彼女、やけに焦っていたけれどどうしたのかしらね」

 

 言い終わる前に大図書館の扉が勢いよく開け放たれた。そちらを見ると肩で息をするアリスが開けた時のポーズで固まっていた。

 

「いらっしゃいアリス。とりあえず図書館では静かにね」

「そんなこと言ってる場合じゃないわよ!」

 

 私とは対象的にアリスは忙しなく落ち着きがない。私に事情を説明しようとしているようだがあーでもないこーでもないと四苦八苦している。滑稽というにはあまりに必死すぎる。

 

「一度落ち着きなさい。何事も焦ってはダメでしょう?貴女らしくないわ」

「ええ、そう・・・そうね。ごめんなさい」

「構わないわ。それで、リリィの居場所はわかったの?」

 

 私の質問にアリスは首を横に振った。どうやら結局見つからずに私に相談しに来たらしい。

 

「本当はリリィから止められてるんだけどね、これ以上は危険だと考えたから貴女にも話すわ」

「何を?」

「リリィの能力・・・いえ、スカーレット家のことについて」

 

 アリスの言葉に思わず怪訝な顔になってしまう。何故アリスが?とかなぜ今こんな時に?とか質問が山ほど発生したが、今はアリスの話を聞くことに専念しよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「最初に気が付いたのは私の方よ、あの子が扱える罪の力に制限があることにね」

「制限ってそれは当たり前でしょう?何でもできる万能神じゃないんだから」

「違うわ、私が言っているのは種類の方」

 

 アリスがようやく落ち着きを取り戻して話し始めた。スカーレット家のことは後回しということだろうか、はたまた話がつながるのだろうか。彼女の話ぶりからして二つの事柄は繋がっているのだろう。

 

「パチュリー、八つの枢要罪についてはどこまで知ってる?」

「人間の宗教関係はあまり興味がないけれど、確かに聞いたことあるわ」

「なら話は早いわ。ここでスカーレット家の話、これはリリィが持ってきた本よ」

 

 アリスが取り出した本は題名も何も書かれていない紅色の本だった。こんなモノ図書館でも見たことがない、一体リリィはどこでこれを見つけてきたのだろうか。

 

「ここに書いてあるのは最初の吸血鬼・・・ヴラド公の話よ」

「レミィ達の先祖ってこと?」

「そういうこと」

 

 アリスがパラパラとページを捲っていく。ところどころに写真?絵?どちらかわからないが挿絵が見える、日記だろう。

 

「この日からが吸血鬼としての彼、ここを見てほしいんだけど・・・」

 

 アリスが指差す部分、私は言語には疎い方なので完全な翻訳は出来ないが、ようやく位は出来る。その内容は次の通りだ。

 

『吸血鬼になるために悪魔との契約を交わした。その内容は子孫共々末子は悪魔に魂を預けなければならないというものだ。しかしそれがどうした、私はこの力を得るためならばどんな代償でも払おう。私自身の魂など軽いものだ。我が子孫もこの力を得られるのだ、文句などありもしないだろう』

 

 ・・・ふざけている、と言いたいところだが実際にその力のおかげで今の私も今の紅魔館もあるのだ。こいつのおかげと言えばその通りなので文句も言えない、ありもしないではなく黙らざるを得ないの間違いだろう。

 

「全くふざけた野郎よね、こいつのせいでリリィが苦しんでるってのに」

「・・・貴女すごいわね」

「え、何が?」

 

 アリスはスイッチのオンオフが激しすぎる。普段はポンコツ呼ばわりされてもおかしくないほどに抜けているが、戦いや魔法のことになると冷静な思考と鋭い判断力へと切り替わる。まったく恐れ入る。

 

「とにかく、リリィは悪魔に魂を蝕まれているということよ。しかもかなり力の強い奴らにね。それこそ罪の象徴となるほどの悪魔よ」

「で、解決策はあるの?」

「・・・未完成だけどね」

 

 アリスは手袋をすると一つの人形を鞄から取り出した。いつもの人形と違って顔もない、服もない、細かい指も付いていない、まるで型作りしかしていないようなものだった。

 

「これは?」

「触っちゃダメ!」

 

 私が人形に触れようとするとアリスは子供からおもちゃを取り上げるように頭上に掲げた。私は身長がアリスより低いので当然届かない。

 

「どうして?」

「これは魔力に反応して吸い取る人形・・・もとい憑代なの。リリィの力を移すために作ったんだけど見境なくてね、私も一回全部奪われて死にかけたのよ」

「そういうのは先に言って頂戴」

 

 どうやらこれが解決策のようだ。しかしそれではリリィの魔力を全て吸い取ってしまうのではないだろうか。私達と違って死にはしないだろうが力の大半を奪われるはずだ。

 

「その心配はないわ、魔力の大きいところから吸い取るからそれは大丈夫。だけど問題はあるの」

 

 一呼吸おいてアリスが再び口を開く。

 

「これでも魔界育ちでね、悪魔にはそれなりに詳しいの。恐らくその力を全て吸い取った時点でこの人形を憑代にして顕現するわ」

「顕現?」

「そう、そこでリリィの能力についての話に戻るんだけどね。あの子の能力で扱えるのは主に『傲慢』と『暴食』の罪よ、そして憑りついているのは『憤怒』に象徴される悪魔、つまりは・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「サタンよ」

 

 

 

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 

「な、なななななんで私がこんな目に!?」

「うるさいわね、死ぬか言うことを聞くか選べって言ってんの」

「はたて、ここは大人しくいうことを聞いた方がいいですよ」

「なんで文までそっち側なのよ!?」

 

 なるほど、確かに面倒くさい奴だ。こいつ、他人と喋ったことがあるのか?というくらいに会話が下手くそだし、身振り手振りも大げさでイライラする。

 

「レミリアさん、まあそう怒らずに」

「こいつ見てるとイライラするんだけど。大体こっちには時間がないのよ」

 

 射命丸が宥めてくるがこちらには余裕がないのだ。火に油を注ぐこの馬鹿天狗は本当に殺してしまおうかと思うほどだ。

 

「わかった!言うこと聞くから!」

「最初からそう言えばいいのよ。じゃあ早速お願いするわ、念写だっけ?」

 

 説明不足だったか、姫海棠と呼ばれていた天狗はきょとんとした顔でこちらを見つめ返した。すかさず射命丸がフォローを入れる。

 

「ほら、この間天魔様に呼ばれた時に会ったでしょう?あの吸血鬼の娘ですよ」

「ああ、翼が片方しかないあの子?」

「そうです」

 

 射命丸から話を聞き要領を得たというように拳をもう片方の掌に打ちつける。彼女はおもむろに機械を取り出すと画面に集中し始めた。

 

「むむむむ・・・・・今あの子何してるの?」

「それが知りたくてあんたに頼んだんでしょうが」

「いや、だってこれ・・・」

 

 姫海棠の顔が画面をジッと見つめたまま段々と青ざめていく。そしてついに固まってしまった。

 

「ちょっと、はたて」

「へっ!?あ、ああ・・・まあこういうのは同族に聞くのがいいわよね。これ何してるの?」

 

 そういって機械をこちらに向ける。姫海棠から向けられた画面には『繭』と呼ぶに相応しいものが映っていた。どす黒い魔力で覆われたソレは私が見てもゾッとするほどのものだった。

 

「な、なによこれ・・・何が起こってるの?」

「え、吸血鬼の特性とかじゃないの?」

「こんなの知らないわよ!おい、ここはどこだ!」

「ちょ、苦し・・・」

「レミリアさん落ち着いてください!」

 

 焦りが一気に押し上げてきて思わず胸倉を掴んでしまう。射命丸が慌てて止めに入ったおかげでなんとか落ち着けた。

 

「ここは一体・・・?小屋や墓石のようなものが見えますが、私も行ったことはありませんね」

 

 

 

 

 

「そこは縁者の居ない者の墓場、『無縁塚』ですわ」

 

 

 

 

 

 


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