東方末妹録   作:えんどう豆TW

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更新遅れました、大変申し訳ありません


喪失

 

 

 

 あれから数日、宴会の頻度が下がっていたので神社に様子を見に来た。思った通り異変は解決していたらしい。文ではないがとりあえず異変について聞いてみることにしよう、きっと彼女は今回の異変に関しては触れたくないだろうから。

 

「それで、宴会異変は解決したんですか?」

「概ねってところね、おかげで異変の元凶が暫くウチに住みつくことになったわけだけど」

「・・・というと?」

「言葉の通りよ」

「そういうわけ、こうして対面するのは初めてかな?」

 

 霊夢と私が話している時に隣の部屋から一人の少女が入ってきた。特徴的な二本の長い角に見合わない小さな体。拍子抜けというかなんというか、もっとグロテスクな想像をしていたので私は暫く呆気にとられていた。

 

「なんだい、ジロジロ見て」

「あ、いえ。想像と違ったので少し呆けていました」

「見た目で相手を判断するのは良くないなぁ。大体あんただって見た目幼子だろうに」

 

 言われてみればその通りだ。流石に見た目云々の話は幻想郷(ここ)では不毛と言わざるを得ないだろう。見目麗しき少女達が流血沙汰を日常茶飯事で行っているのだから。

 

「しかしその鼻につく喋り方はなんとかならないのかい?見た目に合っちゃいるがあんたには似合わないよ」

「・・・と言いますと?」

「それだよそれ、その畏まったような口調。私は嘘が大嫌いなのさ。自分に嘘を吐く奴もね」

「そう言われましても、必要なことなので」

「必要?」

「別に、貴女には関係ないことなので」

「・・・ふーん」

 

 目の前の鬼、伊吹萃香の挑発的な言葉が気に障ったわけではない。ただ何も知らない者がまるで全て見透かしているかのように語るのが許せなかったのだ。私のことを何も知らないくせに嘘吐きだとか気に入らないだとか、勝手に評価を下してくれるとは実に傲慢ではないか。

 と、部屋の空気が重くなったところで両者―――私と萃香に拳骨が入った。もちろん制裁を下したのはこの部屋の残りの一人、霊夢である。

 

「喧嘩するなら出ていって頂戴」

「なんだよーマジに怒ることないじゃん」

「すいません、少し熱くなりすぎました」

「ほらまたそうやって」

 

 これ以上萃香の相手をしているとただでさえ脆い外側がすぐに剥がれてしまいそうだ。そう判断した私は神社を足早に出て紅魔館へ戻ることにした。

 

「あ、そうだ!今度私と一戦やってくれよ!紫がべた褒めするなんて珍しいし、中々見れたもんじゃないからな!」

「気が向いたら。暫くは忙しいので」

「連れないなー。ま、気長に待つとするか」

 

 紫がべた褒めとは料理のこと・・・ではないだろうな。確かに戦闘において人から良く評価されることはあるが、紫ほどの実力者がそんなに傾いたことを言うだろうか。彼女はいつも冷静に見えてちょっと甘いのかもしれない。

 

「ところで忙しいってあの人形師のところの?」

「アリスの?・・・ああ、確かに劇の練習もしなくてはいけませんね」

「あんなもん私にかかればこうちょちょいっと・・・」

 

 萃香はそういうと霧のようなものを発生させた。するとその中から小さな萃香たちがたくさん出てきた。分身?というより一つ一つが”伊吹萃香”としての意志を持っているように見える。

 

「中々鋭いねえ、ご察しの通りだよ」

「・・・心が読めるんですか?」

「んなわけないじゃん。でも分身と私を交互に見比べられたら何考えてるか大体わかるよ」

 

 お前は顔に出やすいタイプだしね、と付け加えられた。そんなに顔に出やすいだろうか、もしそうだとしたらひどく戦いで不利な気がする。

 

「あっはは、心配しなさんな。それくらいの方がバランスいいよ。怖いだけの奴なんて誰も寄り付かないだろう?」

「まぁ、それもそうですね」

 

 少し考えたが要は顔に出ても負けないくらいの力があれば何も問題ないじゃないか。私の懸念は一瞬で霧散した。

 

「で、それが貴女の能力ですか?『小人を作る程度の能力』?」

「なんでそんな限定的な能力になるかな・・・。私は密と疎、つまり密度を操れるのさ」

 

 その言葉を聞いたとき、私は萃香の肩を無意識に掴んでいた。萃香も予想外だったようできょとんとした表情を浮かべている。私は自分の頬に汗が伝うのを感じながらも喉から音を絞り出した。

 

「そっそれは・・・どんな密度でも可能ですか?」

「い、いや、流石にどんなものもとは言わないけど・・・ほら、人口密度とかなら宴会の時に集めてみせただろう?」

「そ、そうですよね・・・すいません取り乱しちゃって」

「いいよ別に。それよりお前さん何をしようとしてるんだ?密度を欲しがるなんて普通に考えたらあり得ないことだよ」

「・・・倒したい奴がいるの、そのために力が欲しいだけ」

「おや素が出たよ。やっぱそっちの方が似合ってるね」

 

 いつの間にか表側が壊れてしまっていた。日常会話をしているだけで壊れてしまうほど弱っているのか、それとも興奮して壊れただけなのか。どのみちもう限界であることに変わりはない。人格自体が自我を以て持ち堪えているのは驚きだ。

 

「どうせすぐにこれが普通になるよ・・・してみせる」

「大した決意だねぇ・・・まぁ私は見守ってることにするよ」

 

 萃香はそれ以上深く聞かなかった。私にとってもその方がよかった。きっとこのまま聞かれればすべて話してしまうだろう、それくらいに今は無防備だった。

 と、そこで私はあることに気付いた。いつも必死に戻ろうとする表側の気配が感じられなかったのだ。

 

「・・・あれ?」

 

 気づいた時にはすでに遅かった。萃香を呼び戻すわけにもいかず、一人誰もいないところに逃げるために知らない道を選んで走り出した。

 

 

 

 

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 リリィが失踪してから3日が経った。霊夢の話では鬼と神社を出たところまではいつもと特に変わらなかったそうだ。その鬼にも訊いて見たが少し話をして別れたところまでしか知らないということだ。いつも勝手に行動する子だとは思っていたが、流石にこんなに長く連絡もよこさないことはなかった。今回はなぜか胸騒ぎがする。

 

「お姉さま、少し聞いて回ったけど誰も見てないみたい」

「私も聞いて回ったけど見た者はいないみたい。アリスが家を飛び出していったからまた情報があるかもしれないわ」

「申し訳ありません、私の方も・・・」

「そう・・・ありがとう」

 

 他人との交流はほとんど持たなかったので人伝に聞いて回る役は他の者に任せたが、収穫はなかったようだ。

 

「私も手当たり次第探してみるわ。貴女達も引き続き捜索を続けて頂戴」

 

 全員が頷くのを確認して私も席を立った。焦りばかりが積もっていくのを感じながら私は紅魔館を出た。いつもなら咲夜や美鈴をお供につけるが、今は人手が足りないのだ。少数精鋭にした仇がこんなところに回ってくるとは思いもしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「止まれ」

 

 私が最初に来た場所でいきなり歓迎を受けた。私自身この場所と交流があるわけではないが、よくリリィが回っていたのではないかと予想される場所は虱潰しに調べるつもりだった。

 目の前には剣を構えて佇む白髪の少女・・・と言っても見た目は私よりも大きい。後ろには白い毛の尻尾が見え隠れする。うちのとは違って働き者の監視のようだ。

 

「ここに用があるの。通してもらうわよ」

「出来ないな。今日は来客の予定も伝えられていない」

 

 彼女の纏う雰囲気は険悪なものだが、私にも時間がない。ここは実力の差を見せつけて強引にどいてもらうことにしよう。

 

「そう。客じゃないから当たり前ね」

「そういうわけだ。お引き取り願おう」

「何を勘違いしているのか知らないけど、私は貴女に許可を貰うつもりはないわ。『通る』という意思を示したの。そこに貴女の介在の余地はない」

「そうか、ならば侵入者だな」

 

 交渉はもとよりしていないが決裂だ。白髪の少女が笛を吹くとあたりから同じような見た目の仲間が次々と出てきた。一人では敵わないと判断したのだろう。

 

「一度だけ言うわよ・・・・・・私の邪魔をするな」

「こちらのセリフだ」

 

 他の物は怯えて足が震えているのに対し、リーダーと見える少女はそれなりに場数を踏んできたのか落ち着いて見える。そういえば妖怪の山の監視役の話はリリィがいていたかもしれない。

 そしてその話を思い出して私は攻撃しようとしていた手を止めた。

 

「・・・どうした、かかって来ないのか」

「私のセリフだけど・・・そこの貴女、千里眼を持っているのよね?」

「何故それを?」

 

 どうやら正解のようだ。ならば話は早い、私は彼女まで一気に距離を詰めて魔槍を突きつけた。突然の出来事にその場の誰もが反応出来ない。

 

「この山に私の妹はいないかしら。この山にたまに来てた吸血鬼がいたでしょう?」

「貴様・・・吸血鬼か!」

「今更ね。いいから探しなさい、さもなくば殺すわ」

「っ・・・ふん、貴様の言うことなど聞きたくないが私はこれでも仕事熱心なタイプでな。今日は貴様が初めての侵入者だよ」

「・・・そう、ならいいわ。私の名はレミリア・スカーレット、紅魔館の当主よ。早急に天狗の長とコンタクトが取れるように計らってきなさい」

 

 どうやらここには来ていないらしい。初めから当てもないのでこんなところで失望するわけにもいかない。こうなったらより多くの者から情報を集めて絞っていくしかない。

 

「ちっ・・・契約には従わねばならん。お前たち、そこでこの者を見張っていろ。私は天魔様に伝えに行く」

 

 部下と思しき者達がその場で頷くと白髪の少女は上空に向かって跳躍した。スムーズに事を済ませるための手段だったが、待たされる間にも焦りは積もっていく。

 

 

 

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「・・・紫様」

「わかっているわ、藍」

 

 ここは名もなき空間と空間の『スキマ』。この空間に入ることのできる者は限られている。そこにいるのは九尾の妖怪と金髪の少女だった。そこから見える景色は何もない閑散とした地だけである。

 

「今回も危険と見なして切り捨てるのが正しいのかしら、ねぇ藍」

 

 紫の問いに藍は答えられない。彼女の頭脳は賢明という言葉では足りないほどだが、その彼女ですら答えを出すことは出来なかった。

 

「私わからないの。今まで信じてきたことがまるで嘘みたいで、初めて怖いと感じたわ」

「私にはわかりかねます。恐怖という感情は沢山経験してきましたので、最初のことなんて覚えてませんよ」

 

 不安げに瞳を揺らす紫に対し、九尾は後ろで控えて淡々と言葉を述べた。藍は紫の決定に反することは出来ないからだ。

 正直なところ、自分の主をここまで変えてくれたある意味での恩人を失うことは極力避けたかった。今まで切り捨ててきた、主が嘗て友人と呼んでいた者達の話をするたびに紫の顔は曇っていたからだ。

 同じように繰り返すことが果たして正しいのか。しかし失敗することが招く悲劇がどれほどか、ということもまた彼女達の計算通りに行くものではない。

 

「・・・最初から諦めれば、その時点で未来は潰えます。私ではどうなるか予想することすら出来ませんが、それでもあの者を救おうと今まで諦めなかった者達がいるのではないでしょうか?」

 

 藍の出した答えは今までの主の否定だった。停滞は何も生まない、それどころか少しずつ日常を侵食していく。

 

「・・・私に出来るかしら」

「頷けません。が、紫様だけではないでしょう?」

「そう・・・ね、そうよね」

 

 まだ不安の残る彼女の表情は、それでも昔見せた決意をどこかに秘めていた。

 

 

 

 

 

 

 


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