東方末妹録   作:えんどう豆TW

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Defeat = Give up
鬼の居る間に大宴会


 

 

 今日も今日とて宴会、最近はやたらと宴会が多い。ワイワイ騒いだかと思えば3日おきにまた宴会。私としてはそんなに気にするものではないがパチュリーなんかは研究が捗らないと文句を垂れていた。

 文句を垂れるなら来なければいい、そう言いたいところだがこれが難しい。まるで磁石のように博麗神社の宴会へと引き寄せられてしまうのだとか。明らかに何らかの力が働いていることは確かだが、害がないだけに霊夢もその他の者も動こうとしない。結果この3日おきの宴会は気づく者、気づかぬ者、それぞれの思惑を交えながら続いていった。

 そんな異変(?)の合間にアリスから私に持ちかけられた話がある。詳しくは聞かされていないが人里で子供相手に人形劇をやるので、それを手伝ってくれないかというものだ。別に断る理由もないので承諾したのだが、今思えば馬鹿なことだ。内容も全く聞かずに契約を交わすなどいくら親しい仲の間とはいえ愚かにもほどがある。

 受けてしまったものは仕方ない、それに人形劇という程度なのだからそんな大層なものでもないだろう。今日の宴会ではアリスとそのことについて話し合うことにしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しかし珍しいですね、アリスがそんな子供思いだとは知りませんでした」

 

 そろそろ宴会のしすぎで紅魔館の財政が傾き始めるのでは、そんな私の心配を余所に宴会は今日も開かれた。レミリアお姉さま曰く紅魔館の未来は明るいとか言っちゃうほどワインが売れているようだが、一任しているので私にわかり得る情報ではない。

 というわけで今回の目的はアリスに事情等を聴収して数日後に迫った人形劇の情報を集めることだ。

 

「あら失礼ね、私って人情がある方なのよ?それに寺子屋から報酬も出るし」

「なるほど、前言撤回ですね」

 

 やはり魔法使いだった。そんなことだろうとは思ったが子供の純粋な目に満面の作り笑顔で応えるアリスを想像して子供たちが哀れになった。

 

「まあ子供はそれなりに好きよ」

「そうですか、まあどっちでもいいんですけどね」

 

 私が聞きたいのはアリスの誠意云々ではなく内容についてだ。人形劇というのは私の経験にないのでどんなものか全く想像がつかない。いや、想像はつくのだが上海人形のような小さな人形を動かすだけならば私が手伝う要素など一つもないのではないかと思うのだ。

 

「手伝うといっても私は何をすればいいんですか?」

「私も今日はその話をしたくてね、はい台本」

 

 アリスの奥敵も私と同じだったらしい。表紙に何も書いてない薄い青色のノートを渡された私はとりあえず開いてみることにした。そこにはこう書かれてあった。

 

『姫様と王子様の恋物語』

 

 悪い魔女役:リリィ・スカーレット

 

「・・・なんですかこれ」

「だから台本よ」

「わかってます。私が聞きたいのはここに書いてある悪い魔女役ってところです」

「ああ、それが今回の貴女の役ってことよ」

 

 悪い魔女のリリィ・スカーレットはここで頭をフル回転させた。まるで周りの世界が止まったようだ。

 まず悪い魔女という悪者役がいるということ、そしてこれが恋物語であることを前提に考えると、私の役は十中八九恋路を邪魔するタイプのアレだろう。しかし私は人形ではない、つまり私は私のこの姿で人形を演じなければならないのだ。

 

「台本に台詞が全部書いてあるからそれを覚えてほしいの。大した量じゃないし、貴女ならその場でも記憶できる程度よ」

「ふむ・・・」

 

『お前の姿を惨めな家畜に変えてやろう!』

『ふははははは!これで王子とは誰もわかるまい!』

 

 一つ一つのセリフに目を通していく。アリスの言う通りセリフを覚えること自体に難はない。私に求められるのは演技力だけだ。

 

「この魔女、テンション高くないですか」

「ええ、そんな役だけど?」

「人形みたいに動くのにテンション高くちゃダメでしょう」

「あー・・・まぁ貴女ならできるって信じてるわ」

「そんな投げやりな・・・」

 

 文句を言っても始まらないのは事実なので、結局私が何とかしなければいけないのに変わりはない。なるべく無表情に喋ってみる。

 

「お前を惨めな家畜の姿に変えてやろう」

「棒読みじゃない、もっと鬼気迫るような迫力で!」

「無茶言わないでください、やってみますけど」

 

 どこかに表情を一切変えずに色々な感情を表現できる者はいないだろうか。いやいないだろうけど。そんなことを考えると肩に何かがのしかかってきた。それを確認するために振り向くと、金色の髪が私を撫ぜた。

 

「ひょっとりりぃ~飲んでないじゃないの~」

「フ、フランお姉さま!?一体どうしてこんなべろべろに・・・」

「おねえさまとのみくられひてたらけよ~」

「いや何してるんですか・・・っていうかレミリアお姉さまは?」

「そこで潰れてるわよ」

 

 酔っぱらったフランお姉さまの呂律が回っていないので中々に聞き取りづらい。そんな中私達のところに霊夢が近づいてきた。

 

「じゃあ負けちゃったんですね」

「ワインばっかり飲んでるからこっちのお酒には弱かったのかしらね」

「私は平気なんですけどねぇ」

 

 ちらりと目を向けるとレミリアお姉さまが仰向けに寝そべっていた。顔は見えないが真っ赤なのだろう、いったい何杯飲んだことやら。

 

「酒樽3つ分の額を請求しても罰は当たらないと思うわ」

「博麗神社にそんな量のお酒があったんですね」

「いや、気づいたらそこにあったわ」

「・・・・・・」

 

 危うく紅魔館の明るい未来の一部をだまし取られるところだった。しかし酒樽なんていったい誰が持ってきたのやら。紫はそんな酒豪ではないし、思い当たる人物が全く浮かばない。となればきっとこの宴会の主催者が持ってきたのだろう、そう思い意識の集まる台所へと目を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・貴女は誰?」

『宴会ではいっつも調理と片付け役に徹してたわね。えらいえらい。でも、誰もその事に気が付いていないわ。誰もあんたに感謝はしていない』

「藪から棒に何を・・・いえ、折角だし話し相手でもしてあげようかしら」

 

 宴会の度に感じる妖気、宴会時にピークを迎えて終わると消える。そしてまた宴会に向けて強まっていく。きっとこいつがこの宴会を開いた者なのだろう。

 

「みんなが盛り上がっている時に片づけをするのは失礼だと思わない?だから誰にも気が付かれないように・・・いえ、違うわね」

 

 相手の姿が見えないので一体どんな表情で私の話を聞いているのかわからないが、私自身はメイドの心構えを教えてやるつもりでいた。しかしここであの方の視線に気づいて話を中断することになった。

 

「私のことをちゃんと見てくれる人はいますわ。今だってほら、私の料理を待ってくれている」

『・・・料理を待っているというより明らかに私を睨みつけているように思えるんだけど』

「動くと撃つ、じゃない?」

 

 あの方自身気づいているかはわからないが、まるで感情の籠もっていない双眸が私の横に向けられている。下手したらあれ自体が魔眼だ。

 

『あんたに手を出してると殺されそうねぇ、怖い怖い』

「案外余裕に見えるけど?」

『そりゃ鬼が新参者にビビってちゃ話にならないさ』

 

 その言葉を残し私の周りから妖気は消えた。私はリリィ様の方を向くと「もうすぐ出来ますよ」と口を動かした。彼女から帰ってきたのは無言の微笑みだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日もこの辺でお開きだな、んじゃまたいつか!」

「どうせまた近々開くんでしょうが」

「そりゃ私の気分次第だな」

 

 幹事の魔理沙からお開きが告げられて今日の宴会も解散。ところが今日はそのまま解散するわけにもいかないのだ。私が目的の人物の下へ行くと、彼女もすぐに気付いたようで振り返った、

 

「紫、お話があります」

「あら、プロポーズかしら?」

「それもいいですけど折角なら満月の夜に。それより私はカリカリしてるので手短に」

「怒っちゃやーよってね」

「最近カリウムが足りてないんです」

「カルシウムでしょ。いや、貴女ならカリウムでも食べそうだけど」

 

 ここまで話してわかったことが2点。1点目は紫が私のは成そうとしていることが何か理解していること。2点目はその上で彼女が話を逸らそうとしていることだ。

 

「人の物に手を出すと泥棒。紅魔館じゃ死刑です」

「突然どうしたのよ」

「わかってるくせに。次はないと伝えておいてください」

「・・・とぼけるのも無駄ね」

 

 紫が目を細めて扇子で口元を隠した。その目は私を見定めるようにとらえている。

 

「どうして私と関係があると思ったのかしら?」

「幻想郷を作った人物が、昔ながらの妖怪を知らないわけがない。ましてや大妖怪ならば少なくとも面識があるはずです」

「次の質問。どうして犯人の正体がわかったの?」

「苦労人の天狗の話を聞いたことがあるだけですよ」

「なるほどね、聡明ですこと」

 

 私の思った通りこの宴会の犯人は紫と面識がある。私自身このまま宴会が続こうがどうでもよかったのだが、咲夜に手を出そうものなら話は別だ。あのまま妖気が高まりでもしたらあの空間ごと固定して押し潰すくらいの気はあった。

 

「まぁ、それとなく伝えておきますわ。でも目をつけられたら戦え戦えって煩いわよ?」

「暫く忙しいので、いつかならお受けしますよ」

「そう、ならいいのだけれど」

 

 なんだかんだ私の身を案じてくれる辺り彼女も優しいものだ。別に鬼だろうが何だろうが基本的に挑戦は受けて立つつもりである。

 

「では、また明々後日?」

「ふふっ、それまでに懲らしめられてなければね」

 

 私と紫はそれだけ告げると別れた。早く戻って皆と合流しようとしたところで、ふと屋根の上に気配を感じて見上げる。しかしそこには霞んだような月が浮かぶだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「というわけですごく怒ってたわよ」

「私もさっき凄い眼で見られたよ、殺気だけに」

「・・・面白くないけど」

 

 幻想郷のどこか、月を眺めながら二人の妖怪が杯を片手に佇んでいた。

 一人は金色の長い髪を風に靡かせ、呆れたような顔持ちで酒を口に含んだ。名を八雲紫、この幻想郷の管理者である。

 もう一人は紫より茶色に近い髪の幼い少女だった。実際は幼く見えるだけだが、背丈は紫の半分より少し高いくらいだ。そして何よりも目を惹くのが頭に生えた2本の角である。

 忘れ去られた種族、鬼。太古から語り継がれる怪力の化身。この少女の名を――――伊吹萃香。

 

「久しぶりに血が騒いだね、是非とも私と喧嘩してほしいもんだ」

「貴女達が暴れたら幻想郷が崩壊してもおかしくないわ。やめていただきたいのだけれど」

「硬い事言うなよ。それにそんな脆く創ってないだろう?私がいつからここに住んでると思ってるんだい」

「割と本気で心配してるんだけど」

「そんなに強いのかい、あのリリィって子は。ますます燃えてくるじゃないか」

 

 紫の話に聞く耳も持たない鬼の少女は、三日月のように口の端を吊り上げて笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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