:Side Remilia
事の顛末は次の通りだ。
リリィがいつものように呼ばれた後移動中に大人数の人間が襲ってきた。急いでロビーに向かうと既にお父様は私が見たような状態で、執事長と他の執事、リリィで人間の対処をした。お父様を殺した腕の立つ退魔師はお父様と相打ちだったらしく既に人間側にも大きな血だまりができていたそうだ。執事の妖怪は執事長を含めてほぼ全滅、あとから応援に来たものもほとんどがやられ、かろうじて生き延びた者も執事をやめていった。
驚いたのはリリィの戦闘力だ。彼女は実戦経験もないのに大勢の退魔師相手に立ち回ったというのだから吸血鬼の身体能力抜きにしても才能があるのだろう。
なにはともあれリリィが無事だったのだ、私はそれだけでよかった。あとの始末は次期当主、いや当主の私がするべきだろう。
:Side Liliy
後片付けは全てレミリアお姉さまが対処してくれた。出来上がった巨大な肉塊は配下に安価で買い取らせ、使い物にならなくなった本館は建物の一部を除いて取り壊し、土地を下の吸血鬼に与えて財産とした。私とフランお姉さまは尊敬のまなざしで彼女の仕事ぶりを見ていたが、こちらに気付くと恥ずかしそうに眼をそらした。
それから私たち姉妹の中で約束事をいくつか決めた。
一つ、なるべく3人一緒にいること。3歳から3年間も拒み続けてきたのだ、本意ではないとはいえ私たちの中に亀裂ができているのではないかという私の懸念は杞憂に終わった。私の大好きなお姉さま達は私のことを変わらずに愛してくれていた。そのことがただただ嬉しくて最初の約束をしたときに思わず泣いてしまったほどだ。お姉さま達は狼狽えることもなく私を受け止めてくれた。あの暖かい気持ちは二度と忘れないだろう。
もう一つは互いの意思の尊重。これは主に私にという感じだったが、事件の後にお父様の呪縛から解放された私は、お姉さま達からしたらまさに豹変といったところだろう。
今までコミュニケーションがほとんどなかったので気づかれなかったらしいが、私は基本お姉さま至上主義だ。お姉さま達の言うことは絶対だし、お姉さま達の言うことは何でも聞く。それをよく思わなかったのだろう、彼女たちが私に求めてきたのは『対等な関係』だった。つまりは自分の意思や意見は尊重してほしいということだ。なるほど、家族が自分に服従しているような状態は確かに快く思わないだろう。だから私はそれならばと一つだけお願いをした。
それは私の自室に入らないこと。一番の理由は日記を見られたくなかったからだ。私の生涯の軌跡を描いたもの、といったら大げさに聞こえるが要は恥ずかしかったのだ。自分が自分を忘れないようにと書いた日記だ、それは家族にも見られたくなかった。だって――――――。
そのため私は基本的には自室にいない。寝るときに戻って日記を書いて起きたらレミリアお姉さまの部屋に行く。フランお姉さまもいつもレミリアお姉さまの部屋にいるので姉妹の遊び場ということだったのだろう。もっとも最近はレミリアお姉さまが忙しくて執務室にいることが多いのでそっちにいることが増えたが・・・。
とにかく私の生活は変わった。お姉さま達と一緒にいても良いのだ。誰に遠慮することもなく、誰から咎められることもなく・・・・・・・。
「ふぅ・・・」
長々と日記を書いて私はベッドに寝転んだ。もう日が昇っていることだろう、早寝をしないと健康に悪い。私は希望に満ちた明日を思い目を瞑った。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「はぁ~・・・今日の仕事終わり・・・」
「お疲れ様、お姉さま!」
「お疲れ様です、レミリアお姉さま」
「ありがとう、フラン、リリィ」
レミリアお姉さまは最近仕事が忙しい、だから私はフランお姉さまは仕事が終わるまで二人で邪魔にならないように遊んだり談笑したりしている。たまにフランお姉さまはちょっかいを出しに行って私に止められたりするが。
「今日は魔法を教えてくれるんでしょう?なんだっけ、えーと・・・ろうえいだっけ?」
「投影魔法です、魔力で物を作り出す魔法です」
「そうそれ、誰でもできるくらい簡単なの?」
「いえ、センスの有無は結構関係します。お姉さま達なら大丈夫だと思いますが・・・」
「あなたは私たちを過大評価しすぎよ、魔法に関して言えば経験も知識もあなたの方が上じゃない」
今日は私がお姉さま達に投影魔法を教えることになっていた。自分でしくみを理解するよりも人に聞いた方がわかりやすい、ということらしい。フランお姉さまは「お勉強なんてやだ~」と言っていたが私の話は聞きたいらしくやる気になっていた。
「どこから説明しましょうか・・・とりあえず、一番大切なのはイメージすることです」
「イメージ?」
「はい、構造を理解した上でそれを頭に寸分の狂いもなくイメージし魔力で形にする。慣れないうちは勝手に風化するくらい弱いものしか創れませんけどね」
「うわ~大変そう・・・リリィってそんなことしながら戦ってたの?」
「はい、慣れると簡単な剣くらいなら瞬時に創れるようになります」
私が手に短剣を出現させるとフランお姉さまの目が輝いた。
「かっこいい!ねぇねぇ、あたしにも出来るかな!?」
「必ずできますよ、私のお姉さまなんですから。一緒にがんばりましょう」
「うん!」
満面の笑みを浮かべて抱きついてくるフランお姉さま、私は慌てて手の短剣を消す。するとレミリアお姉さまが不満そうな顔でフランお姉さまを私から剥がした。
「危ないでしょ、やめなさい」
「大人げないよお姉さま!羨ましかったんでしょ?ねぇねぇ、姉の威厳とかいろいろ変に意識しちゃってるから、あたしみたいに抱きつけなくて私が羨ましいんでしょ?」
「なっ!何よ!そんなことないわ!私はあなたと違って大人なの、わかる?そんな子供っぽいことはしないの」
「じゃあ邪魔しないでよ大人なんでしょ!」
「リリィが迷惑そうだったから剥がしただけじゃない」
「私は別にそんなことないですよ?むしろもちょっとああやってたかったなーとか・・・」
「ほら!リリィもこう言ってるじゃん!やっぱり子供なのはお姉さまの方ね」
口げんかを始める二人の姉に仲裁に入ろうとしたのだがいつのまにか自分の願望が出てしまった。それにレミリアお姉さまも抱き着いてきてくれたりしたらとてもうれしいんだけど・・・。
「レミリアお姉さまも遠慮しないで、というか来てくれないかなーなんて・・・」
「そっそう?まあリリィが言うんだし、姉として妹のお願いを聞いてあげないわけにはいかないわね!」
そう言ってわずかに躊躇いながら抱きつくレミリアお姉さま。あ、いい匂い・・・。
「ちょっと!お姉さまは大人だからしないんじゃなかったの!?」
「あら、リリィのお願いを聞いてあげただけだよ、なにもおかしくないわ」
「ダメ!そこはあたしの場所なの!」
「独り占めなんて大人げないわね、フラン」
「こっちのセリフだよ!」
再び喧嘩を始める二人。フランお姉さまが引き剥がそうとするがレミリアお姉さまはしっかり抱きついて離さない。ちなみに私は幸福のゲージが最高値を振り切って暴走しているため動くことはできない。
結局二人の場所取り合戦となった。喧嘩する二人を見ながらこの幸せな時間を噛み締めていた。こんな時間が永遠に続けばいいのに・・・。そんなことを考えながら二人を止めに入る。私のために争わないで、なんて。
投影魔法教室は明日に延期になった。
会話を増やしてみました、キャラ同士の辛味は必要不可欠ですよね