東方末妹録   作:えんどう豆TW

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日環ランキング7位、UA50000、お気に入り700等嬉しいこと尽くしです。これも読者の皆様のおかげです。まだまだ続きますので応援よろしくお願いします。


我らが為に鐘は鳴る

 

 

 

 12月31日。日本ではこの日を大晦日というらしい。元々は晦日(三十日)は月の最後の日を意味するらしく、それが歳の最後の日となっているので「大」がついて大晦日となったらしい。

 図書館にもいつの間にか日本についての本が多くなり、私の認識範囲をとうの昔に越えてしまった。パチュリーは外にいた頃からいろんな本を取り入れていたようなので、それなりに私よりも雑学に長けている。私は大人しく脳筋のごとく魔法だけを磨くことにしよう。それだけが私の取り柄だ。

 元々はかっこいいなんて単純な理由だった。具現化魔法だって■■■の真似事から始まったものだ。そこから私独自に改造して今の投影魔法に至るわけだ。能力を使わない戦い方のために最大限に自身の魔法を鍛える、そうやって生きてきた。アリスとの出会いは私の魔法を飛躍的に発展させたし、幽香には妖力の使い方を教わった。色んなところでたくさんの出会いがあり、私は成長することが出来た。

 異変があったという意味では、とても賑やかな一年だった。人間に対する認識を改めることが出来た。いや、受け入れることが出来た、というべきだろうか。幻想郷(ここ)に来てから友達もたくさんできた。館の中に引き篭もりがちだった私は、一転してアクティブな女の子になってしまったというわけだ。お姉さま方は心配こそすれど、変わっていく私を寂しげに、そして嬉しそうに見つめる節が見られた。

 

「・・・今日は調子がいいですね」

 

 今年最後の日の朝、私は起床してから暫く、ベッドから出ずに今までを振り返って考え事をしていた。時計の針は9の数字を差している。そろそろ起きないと、朝食までに目が覚めない。

 私はベッドから這い出ると、天井をぼーっと見上げた。無数のひっかき傷に、ひび割れや血痕、クレーター。どうやってつけたかは覚えてもいないが、全て私がやったという点は確かだ。前こそこの傷を見てはため息を吐いていたものだが、最近はそうでもない。煙草のおかげか、はたまた私に寄り添ってくれる仲間のおかげか。答えの出ている問いを自分に投げかけ、小さく笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時刻は午後3時、おやつの時間だ。今日はサプライズで私が焼き菓子を作ろうと思った。思ったのだが・・・。

 

「やはりエビを入れたのは良くなかったですかね?咲夜」

「・・・・・・」

 

 味見係の咲夜はあまりの美味しさに卒倒してしまったようだ。しかし皆に出すにはまだ量が足りないことに気付いて、一人で唸ってしまう。

 

「・・・殺人現場に立ち会ってしまったわ」

「っ!・・・なんだ、紫ですか。驚かせないでくださいよ」

 

 私と咲夜以外の声が聞こえないはずのキッチンで、第三者の声が響く。驚いた私が振り返ると、スキマの大妖怪・八雲紫が半分だけ体を出していた。

 

「大体甘いお菓子に海老なんて合うわけないじゃない。甘海老ですらお菓子には・・・・・・ナニソレ」

 

 私がエビを取り出すと喋っていた紫の表情は固まった。一体どうしただろう。エビの両手のハサミを持ち上げながら紫の方へ向くと、その表情は苦痛で歪められたように感じられた。

 

「え、エビですが」

「日本では甲殻類の海老をよく料理に使うのだけれど、外国では別の生物を海老と呼んでいたのね」

「はい、魔力合成甲殻海虫種・エビデンシュタイン。通称エビです。こう見えて血液が甘いんですよ」

 

 紫に見えるように背中の青紫色の甲殻に生えた棘を見せつけると、彼女はさらに顰め面になった。生きているエビデンシュタインは6つの目で紫のことを見つめていた。

 

「とりあえず、それは恐らく料理に使わないわ。可及的速やかにエビデンシュタイン及びそれを使用した料理を廃棄することをオススメしますわ」

「良い案だと思ったのですが・・・残念です」

「いやどこが良い案なのよ、そこのメイドさっきから白目剥いて動かないじゃない。口も半開きで小さく痙攣してるし・・・」

「大丈夫ですよ、あと数分すれば意識を取り戻しますから」

 

 いつものことなのでスルーしていたが、もしやこれは人間の咲夜にとって毒なのだろうか。まあ仮にそうだったとしても取り除いて内臓を元の状態に戻してあげれば何の問題もない、はず。

 

「貴女、意外にひどい人なのね」

「紫ほど陰険じゃないですよ」

「あらあら」

 

 とりとめのない棘のある言葉を交わす。しかし私の部屋以外に紫が訪れるなんて珍しいこともあるものだ。そう考えていると紫がこちらの意図に気付いたのか、小さく笑って手招きをした。私はそれに応じるため半分だけの体に近づいた。

 

「今日はお友達を家に招待しようと思ってね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スキマを越えた先にあったのはいかにも和風と言った屋敷だった。通称「八雲邸」、紅魔館と違って横に広い日本的な屋敷だ。日本では家に入るときに靴を脱ぐらしいので靴は縁側に置いてきた。

 

「藍、お茶出して」

「かしこまりました」

 

 外を見ると化け猫の妖怪が遊んでいた。ここで飼っているペットのようなものだろうと推測し、茶の間に入った。

 茶の間にある机も紅魔館の物と違い足が短い。更には床に布を直接敷いてその上に座っている。なんとも不思議な文化だ。

 

「紫の部屋ってどこですか?」

「教えるわけないじゃない。乙女の部屋を覗くなんて何を考えてるの?」

「紫だって私の部屋に何の断りもなしに入ってくるじゃないですか」

「そ、それはそうだけど・・・」

「それに乙女じゃ通らない年齢でしょうに」

「あら、そんなことないわよ?ゆかりんってば永遠に少女なんだから♪」

「おえっ」

 

 

 

 

 

 

 気が付くと私は茶の間に敷かれた布団の上に横たわっていた。頭が少々痛む上に記憶が曖昧だ。確か紫と話していたはずなのだが・・・。

 

「あら、気が付いた?」

「ええ・・・前後の記憶が欠けていますが」

「貴女急に倒れるからびっくりしたのよ?慌てて布団に寝かせておいたけど」

「すいません、ありがとうございます」

 

 紫が心配そうに見つめている。奥では藍が目を伏せて座っている。ついでに床に敷く布は座布団というらしい。

 

「ところで今日は何故お呼ばれしたんでしょう」

「え、理由がなきゃダメだったかしら?」

「いえ、そんなことは・・・ただ大晦日に呼ばれたので理由があるのかと」

「ないわよそんなの。まあ今日はゆっくりしていってくださいな」

 

 紫が何も理由なしに家に呼ぶなど考えもしなかったのでついつい疑ってしまう。疑いを拭い去りきれずにいると、藍が耳打ちをしてきた。

 

「紫様も久しぶりに友達が出来てはしゃいでるんだ、付き合ってやってくれないか?」

「ああ、そういうことですか」

「ちょっと貴女達、聞こえてるわよ」

 

 藍と笑い合っているところに怖い顔をした紫が顔を近づけてきた。主にも物怖じしない藍からは咲夜と似たような匂いがする。尤もそういう風に仕えさせてきたのは私達なのだが。遠慮のない分会議などでもいい意見を出してくれたりする、いい部下とはそういうものだ。

 しかし前から気になっていたことがある。恐らく紫は幻想郷の創設者かそれに近い存在であると私は踏んでいる。そんな昔から居る妖怪が友好関係が狭いとは思えないのだ。ただ失礼な質問であることに変わりはないので、聞きそびれていたのだ。

 

「紫はどうして友達が出来ないんですか?」

「・・・直球ですわね」

 

 質問の仕方を間違えてしまった。当初の予定よりだいぶ失礼な質問になってしまったが、気を取り直して聞き直す。

 

「間違えました。紫はどうして友達が数無いんですか?」

「あ、あんまり変わってない気がするのだけど・・・」

 

 友達が出来ないのではなく、少ない。それはつまり故人のことを聞くことにもなるのだが、果たして彼女は答えてくれるのだろうか。

 

「・・・・・・藍、暫くの間席を外してくれるかしら」

「・・・御意」

 

 あまり人に話したがらないものらしい。申し訳なくなるが、それでも敢えて知りたかった。霊夢を影で支えながらも決して表には出ず、人間側へも姿を見せない。妖怪としての力が弱まると聞いたが、それ以上の理由があるのではないかと勘繰ってしまう。

 

「強がりじゃなくてね、昔はそれなりに友人と呼べる者がいたわ」

 

 紫はそう切り出した。私は黙って聞き役に徹する。

 

「でも昔から私は幻想郷という理想郷を創るために生きてきたの。それこそ何よりも優先にしてきた。他の者がどうなろうと、自分がどうなろうとこの理想郷を作ることが私の使命だと思っていたの」

 

 そう語る紫の目に後悔は見えない。きっとそれが正しかったと今も思っているのだろう。

 

「月面戦争って知ってる?」

「月面・・・いえ」

 

 紫が唐突に私に問うた。月面での戦争、私の知らないことだ。大図書館にはその資料が置いてあるのだろうか。

 

「月の勢力を支配下に入れるために幻想郷の妖怪は月に戦争を挑んだの。かつてないほどの激戦、今まであれよりひどい戦いを私は見たがことないわ。でも結果は幻想郷側の惨敗、私達は負けたの。多くの妖怪が殺され、姿を消した。その中には私が友人と呼んでいた者もたくさんいた」

 

 先程とは打って変わって紫の表情は沈んでいた。私は黙って彼女の話の続きを待った。

 

「今でも間違ってなかったと言えるわ。あの戦争が無ければ今の幻想郷はなかった、そう確信を持って言える。でもね」

 

 紫が少し目に涙をためながらこちらを向いた。彼女のこんな顔を見るのは初めてだ。

 

「彼女達を失わない選択肢もあったんじゃないか・・・そう思うとどうしても自分が許せなくって、今でも足が止まりそうになるの。それこそ彼女達に失礼な話なのにね」

「・・・私は」

 

 言葉が出なかった。私は紫の目をジッと見つめ、ただそこに座ることしかできなかった。

 

「私は、簡単に死にませんよ。吸血鬼ですから」

「・・・ええ、ありがとう。友達って大切ね」

 

 普段見せないような胡散臭くない少女の笑み。私にだけ見せてくれるようで少しうれしかった。

 

「でも、全くいないわけじゃないのよ?貴女の館に行った亡霊のお姫様とか、鬼とか、いろいろいるんだから」

「ああ・・・咲夜が二度と会いたくないとか言ってましたね」

 

 亡霊のお姫様にはナイフが届かないとか何とか。私は直接会ってないのでよくわからない。

 

「そろそろ暗くなってきたわね。貴女達も神社に行くの?」

「神社に?」

「ああ・・・日本では除夜の鐘っていうのを大晦日の終わりにつきに行くのよ。来年の目標を掲げたりするのよ」

 

 本来はお寺にあるんだけどね、と紫は付け足した。知らなかった、帰ったらお姉さま方に伝えよう。紅魔館総員で出向こうとするに違いない。

 

「今日はありがとうございました、たくさん話も聞かせてもらって」

「いいのよ、大切な友達ですものね」

 

 紫は小さく微笑んだ。きっと来年まで会うことはないのだろう。藍から聞いた話によるといつもは冬眠している時期ということらしいので、わざわざ私のために時間を作ってくれたのだろう。

 日本でする年の終わりの挨拶。覚えたてだが紫に届くといいな。そう思いながらぎこちなく言葉を掛けた。

 

「ヨイオトシヲ」

「・・・ぷっ。ええ、良いお年を」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「流石に人が多いわね」

「そうですね。フランお姉さま、迷子にならないでくださいよ?」

「ちょ、ちょっと最近扱いがひどくない?子供じゃないんだから」

「パチュリー様、大丈夫ですか?」

「貴女も随分舐めてくれるのね、契約主に向かってそんなゲホゴホゲホッ!」

「お嬢様、一応日傘をお持ちいたしました」

「あ、あれじゃないですか?」

 

 賑やか如く神社の階段を上っていく。鐘を見つけた美鈴が指を差してはしゃいでいた。彼女は普段外に出ないので珍しいのかもしれない。

 

「お願いはもう決めた?」

「もちろん!あたしもお姉さまも同じでしょう?」

「ふふっ、そうね」

 

 私達の番が来た。ここまで人間達に正体がばれていない辺り、ここの住人も余程単純なのか。はたまた妖力とまではいかず十気配を感じ取れるのだろうか。どちらにせよ妖力を隠すだけで正体は隠すことが出来るということがわかった。

 私も決めた。別に除夜の鐘をつくために決めたわけではなくいつも願っていること。きっとレミリアお姉さまもフランお姉さまも同じ願いだろう。私達三人は顔を合わせると三人で一緒に鐘をついた。

 

「今年もみんなで幸せに暮らせますように―――――」

 

 闇夜に鐘が一つ鳴り響く。その音がとても心地よくて、目を閉じる。鐘のねはいつまでも私の中で反響していた。

 

 

 

 

 

 

 

 




第四章 誰が為に鐘は鳴る はこれにて終了です。

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