東方末妹録   作:えんどう豆TW

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いろんなキャラとの会話を描きたかったのですが如何せんどこまで出していいものかわからなかったので結局既存のキャラとの会話に・・・


宴会

 

 

 

「っしゃあ!今日は飲むぞ~!」

「ほどほどにしなさいよ」

 

 既に私が博麗神社に着いた時にはかなりの数の人妖が集まっていた。見たことのない妖精、狐の妖怪、天狗、様々な者がこの博麗神社に集っている。その中に見知った顔を見つけた。

 

「あ、リリィ」

「ルーミア、貴女も来てたんですか」

「別にお呼ばれしたわけじゃないけどね」

 

 ていうか宴会で個人をお呼びする習慣はないよ、とルーミアは付け足した。私は魔理沙に個人的に呼ばれたが、主催者たる霊夢には呼ばれていないのでノーカウントというやつだ。

 

「なんだ、お前ら知り合いだったのか」

「魔理沙こそ、ルーミアと知り合いだったんですか」

「ああ、異変の時に見つけたんで吹っ飛ばしておいた」

 

 なんとも乱暴な出会いだった。しかし魔理沙がこんなに軽くいっているということはルーミアはリボンを取っていないということだ。私の不思議そうな視線に気づいたのかルーミアがこちらを向いて口を開いた。

 

「あのね、一応これ封印ってことになってるんだから。何かにつけて取っちゃダメでしょ」

「それもそうですね。よかったら封印された時のこととか聞かせてもらえませんか?」

「あー・・・まぁべつに困ることでもないしいいか」

 

 案外軽い話題だったのか、それとも何か考えがあるのか。どちらにせよルーミアは了承してくれた。魔理沙も興味があるのか話を聞く気満々だった。

 

「費用はリリィ達が持ってくれてるんでしょ?そのお礼みたいなもんだよ」

「はぁ・・・は?」

 

 何気なく聞き流しそうになったが聞き捨てならない言葉が聞こえた。費用は私たち持ちって、それ私聞いていないんだけど。そもそも宴会はみんなで持ち寄ったものを使うとみいていたので基本的に費用はかからないはずだ。しかし私が見た限りですら人数分を遥かに上回る食材が並んでいる。

 

「レミリアお姉さま?」

「な、なにかしら」

「聞こえてましたよね。なぜ私達が宴会の全費用を負担することになっているんでしょうか」

「そ、それは・・・そう!霊夢に脅されたのよ!あんたらが起こした異変でしょって!」

 

 レミリアお姉さまは詰め寄られて一歩退いたが、何とか筋の通った答えを見つけ出したようだ。

 

「咲夜」

「はい、お嬢様は先日博麗神社にて霊夢に胸を張って『宴会費用は全部私達が負担してあげる。だから盛大な宴会にしなさい!』と大見得を切っておりました」

「咲夜!?」

 

 突然の裏切りに目を丸くして咲夜に詰め寄るレミリアお姉さま。しかし私がレミリアお姉さまと咲夜の間に入ってふたりを引き離す。

 

「申し訳ありません、リリィ様のお言葉には逆らえませんので」

「わ、私が姉なのに・・・」

 

 イマイチ落ち込む点がずれている気がするが問題ではない。こうなると財政管理をする者がいなくなってしまう。咲夜にこれ以上押し付けるのは酷、美鈴は門番、パチュリーはそっちのけで魔法の研究、フランお姉さまはお菓子に使いすぎてしまうだろう。かくいう私も無駄遣いが激しいので却下だ。

 

「財政管理はこぁちゃんに・・・」

「これから気を付けるから!ねぇ!」

 

 ついに親友の従者に任せるという結論に至ってしまった私に、慌ててレミリアお姉さまが抱きついて来る。涙目で顔をうずくめる姿には姉の威厳など欠片もないが、破壊力だけは抜群だ。

 

「え、えぇ・・・」

「なるほど、シスコン3姉妹だな」

 

 私達の様子を見て魔理沙は納得したような顔をしていた。シスコンと言われて否定できないが、別に自覚があってやっているので痛いところでもない。

 

「大体揃ったかしら?」

 

 宴会の準備が出来たらしく、霊夢が壇上に上がって右手を掲げる。その手には酒の入ったコップが握られていた。

 

「それでは異変解決を祝して、乾杯!」

「「「「「「「「乾杯!!!!!」」」」」」」」

 

 霊夢の音頭で一斉に宴会が幕を開けた。紅魔館の住人はそれぞれ散り散りになっていた。私もお姉さま達から、今日は色々と顔を合わせてくるように言われている。私は少し迷ってさっきのルーミアのところに戻った。

 

「ルーミア、さっきの話聞かせてもらえますか?」

「いいよー。とは言っても初代の巫女と殴り合いして負けただけなんだけどね」

「初代ですか?」

「うん」

 

 ルーミアは思いの外年長のようだった。しかし初代の巫女と言えば幻想郷が出来てすぐに外から連れてこられたと紫に聞いた。短命だったらしいが詳しい話は聞いていない。初代の話をするとき紫が悲しそうな表情だったからだ。

 

「短命だったんだけど人間とは思えない程の力を持っててね。そういう私も封印されちゃったわけ」

「そのリボンが封印なんですか?」

「うん、初代に貰ったんだ。といってももう効力がなくなりかけてるんだけどね」

「とらないんですか?」

「うーん・・・なんていうか、形見?」

 

 ルーミアも相当初代のことを気に入っていたようだ。何百年も貰った物を大切にしているのだから言わなくてもわかる。

 

「紫も付きっきりで修行に付き合ってたっけなぁ。3代目くらいからは自分の存在を隠したりしてたけど」

「何かあったんですか?」

「妖怪としての畏れが足りなくなったのよ。だから3,4代目の頃は神隠しが一番多かった」

 

 いつの間にかルーミアはリボンを取っていた。もしかしたらあのリボンは記憶も封じているのかもしれない。

 

「そんなことがあったんですか」

「色々あったねぇ・・・リボンついてるときの方が気楽でいいけどね」

「力を封じられているのに?」

「強者は疲れるのよ。リリィにもわかるんじゃない?」

「私は強者ってほどじゃ・・・」

「謙遜しちゃって」

 

 とりとめのない会話を友人と交わして酒を飲む。つい数十年前まで全く考えられなかったことが目の前で起きている。レミリアお姉さまはこの運命が見えていたのだろうか。

 

「どうしたの?ボーっとしちゃって」

「あ、いえ。少し考え事です」

「酒の席に考え事なんて似つかわしくないよ」

「それもそうですね」

 

 確かに、過去がどうであれ今私の目の前に広がっていることは全て現実だ。これまでと変わらずにこれからも現実の日々を謳歌していく。それくらいの気持ちじゃないと永い妖怪生などやってられない。

 

「ほら、お呼ばれしてるよ」

「?」

 

 急にルーミアが肩を叩いて地面を指差した。私がその方向を見てみるとリボンで結ばれた小さな裂け目が私の足元にできている。小さな裂け目からは目玉が一つだけこちらを覗いている。紫のスキマだ。

 

「行ってらっしゃ~い」

「はい、またあとで」

 

 いつの間にかリボンをつけ直したルーミアが私に手を振った。私も手を振りかえすと足元のスキマは私の体を易々と飲み込むほどに大きくなり、そのまま私はスキマの中へと飲まれていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「急に呼び出しちゃって悪いわね」

「ここは?」

「神社の裏手よ」

 

 紫に連れてこられたのは博麗神社の裏らしい。理由を聞こうとしたがその前に見慣れない人物がいることに気付く。一度だけ見たことがあるが紫の従者のようだ。

 

「自己紹介がまだだったな。私は紫様の式の八雲藍だ、これからよろしく頼むよ」

「リリィ・スカーレット、紅魔館の当主の妹です」

 

 お互いに手を差し出し握手をする。私の方は紫から話を聞いていただろう。

 

「このために?」

「いえ、ただお礼が言いたくてね」

 

 紫はこちらに向き直って正座をし、頭を下げた。急なことなので私も藍も驚きのあまり固まってしまう。

 

「紫様!?」

「私は特に何も・・・」

 

 いつまでたっても紫が頭を上げないので私も縁側に座り、紫と向かい合って言葉を掛ける。

 

「私はただ私のやりたいようにやっただけですよ」

「・・・少し目が覚めたの。人間を甘く見ていたのは私の方だったみたい」

「そんなの、お互い様ですよ」

「お互い様・・・ふふっ、そうね」

 

 私の言葉に可笑しそうに笑う紫。いつもは見られない紫の本心からの笑顔だ。そんな彼女を見て藍もまた微笑ましそうな顔をしていた。

 

「貴女だけじゃない、紅魔館には本当に感謝してるわ。これでスペルカードルールを守る者が増えてくれるといいのだけれど・・・」

「私だって楽しそうだからやってるんです。必要かどうかなんて遊びには関係ありませんよ」

「・・・そうね、きっとみんな楽しんでくれるわ」

「ええ」

 

 暫くは紫と喋っていた。昔の話、幻想郷を作った理由、私が外の世界でしていたこと、なんだか思い出を語るのは恥ずかしいような気もした。私と話しているときの紫は本当に楽しそうに笑っていた。幻想郷の管理者ではなく八雲紫という一人の妖怪としてそこに在る彼女。

 

「紫様にはご友人が少ないんだ、私からもよろしく頼むよ」

「ちょっと藍、失礼じゃない?」

 

 藍が式になった時の話も聞いた。元々九尾の妖怪だった藍は紫との勝負に負け、従者となったらしい。少し運命がずれていれば咲夜もそうして我が館のメイドになっていたのかもしれない。そんなことを考えていると突然紫がスキマを開いた。

 

「さて、そろそろ私達はお暇するわ」

「もういっちゃうんですか?」

「ええ、じゃあね」

 

 紫がスキマを閉じると同時に後ろから足音が聞こえ振り返った。私の目線の先にあるのは紅白の巫女服だ。

 

「ちょっとあんた、こんなところでなにしてるのよ」

「・・・一人で飲みたい気分だったんですよ」

「まったく、宴会でつまんないことしてんじゃないわよ。あっちで飲むわよ」

「ちょ、ちょっと。もしかして酔ってます?」

「馬鹿言うんじゃないわよ、あたしのどこが酔っ払いだって?」

 

 酒臭い。顔は真っ赤だし足取りはふらふらしている。霊夢がこの調子ならきっと魔理沙も同じように酔っているのだろう。

 霊夢に連行されている途中でいろんなものが目に入った。踊ったり楽器を演奏する者、メモ帳を片手に走り回る天狗、花火のように魔法を撃ち出して芸をやっている・・・魔理沙。やっぱり酔っぱらってた。

 

「―――以上が私達の起こした異変よ」

「なるほどなるほど、お話ありがとうございます。これで来週の一面は決まりですね」

「つまらない記事を描いたらただじゃおかないわよ?」

「ええ、任せてくださいよ!」

 

 レミリアお姉さまとフランお姉さまは異変についての取材を受けていたらしい。天狗が取材とは珍しい者なのか、それとも天狗とはもとよりこういうものなのか。

 

「あらリリィ、宴会は楽しめてるかしら?」

「魔理沙に魔法教えてあげたらー?」

 

 二人がそれぞれ声を掛けてくれる。私は霊夢を引き剥がすとお姉さま達の下へ歩いて行った。

 

「えぇ、いろんな妖怪がいて面白いですよ。魔理沙には師匠がいるみたいなので私には教えられません」

 

 それは何よりだわ、とレミリアお姉さま。ふーん、とフランお姉さま。そんな二人の間を割ってものすごいスピードで私の下に近づいてきた。

 

「レミリアさんとフランドールさんの妹ですね?私は清く正しい天狗のブン屋、射命丸文です!」

「は、はぁ・・・」

 

 清く正しいのは天狗なのかブン屋なのか彼女なのか。ものすごい早口で捲し立てられ思わず固まってしまう。

 

「早速お話を・・・ってうわ!?」

 

 射命丸文が喋っている間に彼女の後ろには私の愛しい姉二人が立っていた。目には殺意が籠もっている。

 

「リリィに近づくお邪魔虫は殺さないとねぇ」

「ええ、その通りよフラン」

「ちょ、ちょ、ちょっと待ってください!」

 

 慌てて後ずさる文。レミリアお姉さま達はゆっくりと彼女との距離を詰めていく。

 

「私はただリリィさんにお話を伺いたいだけなんです!よ、よろしいですよね!?」

「え、えぇまぁ・・・」

 

 必死の形相の文に同情、というよりも気圧されて取材を了承してしまった。特に聞かれて困ることもないので構わないが。

 

「変なこと聞いたら神社に埋めてあげる」

「無礼を働いてみなさい、このレミリア・スカーレットが魂ごと消し去ってあげる」

「も、もちろんです!記者としてリリィさんのプライバシーは侵害しません!」

 

 もはや訊問どころか拷問に近いが、いつものことなので特に気にしないことにした。

 

「それでは・・・今回の異変は貴女にとってどのようなものでしたか?」

「そうですね・・・転機、でしょうか」

「ほうほう、やはり新しく導入された制度のおかげですか?」

「まあ、それもあるかもしれません」

「なるほど。スペルカードルールを体験してみてどうでしたか?」

「楽しかったですよ。幻想郷で流行ると思います」

「そうですか!取材は以上です、ご協力ありがとうございました」

 

 取材は拍子抜けするほど簡単に終わってしまった。お姉さま達の威圧に耐えられなかったのか、もともと質問がこれだけだったのか。

 文は部屋から出ようとしたが、踵を返して私の方に向き直った。

 

「後これは私の個人的な質問なんですが・・・」

「なんでしょう」

「リリィさんはどうして翼が片方だけなのですか?」

 

 一瞬にして空気が変わった。ピリピリとした威圧感がお姉さま達から放たれる。文は顔を引き攣らせて後ずさった。

 

「おい天狗・・・」

「い、いえ!無理に応える必要は―――」

「生まれつきです」

 

 文の言葉を遮るように私が答える。三人が一斉にこちらを見るが淡々と言葉を続ける。

 

「フランお姉さまの羽根も吸血鬼には見られない珍しい形をしています。私は不完全に生まれたというだけですが・・・要するに個体差はあるということです」

「あ・・・お、お答えいただきありがとうございます」

「いえいえ」

 

 文は頭を下げるとそのまま飛んで行った。お姉さま達には良かったの?という視線を送られる。

 

「別にこのくらい良いじゃないですか」

「でもあなたはそれが原因の一つになってお父様に・・・」

「良いんですよ、過ぎたことですから」

「・・・・・・そうね」

 

 私はそういってお姉さま達に微笑みかける。お姉さま達もまた私に笑いかけてくれる。この笑顔が見れるから、この笑顔が見れるなら、過去のことなんて気にする必要はない。今このときを共に過ごせる幸せを感じられる、それだけでよかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何も知らないあなたに、苦い嘘を一つ―――――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




第三章 人間嫌いの吸血鬼はこれにて終了となります。暫くはまた日常の話を続けたいなと思っています。

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