東方末妹録   作:えんどう豆TW

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リリィVS主人公勢、エキストラステージです


ずっとこの日を待っていた

 

 

 鍵盤の上で指を滑らせながら私はこのピアノを貰った日のことを思い出していた。まだ咲夜が館にいない頃、懐かしい美鈴のメイド服姿は今でも鮮明に思い出せる。

 美鈴から貰った物は腕輪だった。青銅の腕輪は思わず感嘆の声を上げるほどの物で、しつこく貰っていいのか聞き返したっけ。

 パチュリーからは毎年本を貰う。その年に貰ったのは恋愛小説だった気がする。確か最近研究に没頭しすぎて女として見過ごせない生活を送っていると指摘されたため送られたものだった。パチュリーにだけは言われたくないと思ったのを覚えている。

 フランお姉さまからは象のぬいぐるみをもらった。毎年色々なぬいぐるみを貰っているが、その前の年までは存在するかどうかも不確かな動物のぬいぐるみを貰っていたので何かあったのかと疑った。

 レミリアお姉さまからはピアノを貰った。私が上げたのは腕に巻くレースだった。裁縫は初めてで上手くできるか心配だったが、美鈴が手伝ってくれたのと比較的小さかったためそれなりに上手くできた。レースを貰った時の、レミリアお姉さまの嬉しそうな顔は今でも忘れていない。

 私が思い出に浸っている間に地下通路へと繋がる扉が開き、中から二人の人間が出てきた。しかし私は演奏を続けた。ここで黙って聴けないようなら即座に外の花壇の肥料になってもらおう。

 結局二人は最後まで私から目を逸らさずに演奏を聴いてくれた。演奏が終わったので椅子から降り、二人の方を向いて一礼する。

 

「今日はようこそお越しくださいました、私は当主代理のリリィ・スカーレットと申します」

「おっとこれはご丁寧に。普通の魔法使いの霧雨魔理沙だぜ」

「博麗霊夢。あんたの姉が居座ってて迷惑なんだけど、なんとかしてくれない?」

 

 それぞれ挨拶を交わす私達。開口一番に文句が出てきた辺り相当迷惑なのだろう。まあ妖怪が神社に居座ったら迷惑なのは明白なのだが。

 

「それで、今日はどういったご用件で?」

「ああ、遊びに来たぜ」

「いや伝わらないでしょ」

 

 私の質問に快活な笑みを浮かべながら答える魔理沙だったが、隣の霊夢からため息混じりの突込みをもらっていた。

 

「あんたの姉に言われたのよ、遊んできなさいって」

「ああ、そういうことでしたか。一緒にピアノでも弾きますか?」

「おいおい、わかってて焦らすのは質が悪いってもんだろ?」

 

 私の答えは魔理沙にとってお気に召すものではなかったようだ。彼女の好戦的な笑みは言外に早く勝負したいと訴えていた。私も元からそのつもりだったので一向に構わない。

 

「ああそういやメイドはお前のことをやけに買ってたな」

「咲夜が?」

「ああ、ありゃ崇拝ってレベルだぜ」

「それは言いすぎだと思いますが・・・」

 

 魔理沙は博麗神社を出る前に、咲夜が二人を引き留めたことを話してくれた。

 

『待ちなさい』

『お、なんだよ咲夜』

『リリィ様は強いわ、それこそ私じゃ比べ物にならないくらいにね』

『ふぅん、忠告ありがとね』

『最後まで聞きなさい二人とも。恐らくないとは思うけど、もしリリィ様が力加減を誤ったら貴女達は一瞬で消し炭よ。命の危険が無いと思ってると大変なことになるわ』

『つまり油断するなってことか?あのレミリアとフランの妹なんだから油断なんてこれっぽちもしてないぜ』

『油断とかそういうんじゃないわよ。命だけは何としても守りなさいと言ってるの』

『はぁ・・・ま、肝に銘じておくわ』

『ええ、そうして頂戴。リリィ様に人殺しなんてさせられないのだから』

 

「ってわけだ。最後のセリフはよくわからなかったがな」

「過保護な親ですか全く・・・でもまあ、間違ってはないですけどね」

 

 その気になれば人間一人殺すことなんて造作もない。だからと言って理由もなく殺すこともない。

 

「折角遊びに来てくれたお客様を殺すなんてことはしませんよ、私の意思では」

「最後の物言いに引っかかりを覚えるんだけど」

「気にしたら負けですよ」

 

 霊夢がとても納得していない顔をしているが私は適当に受け流した。そろそろ待ちきれないといった表情をした魔理沙がこちらを見ていたからだ。

 

「遊んでやるんだ、対価は払ってもらわないとな」

 

 なるほど、彼女も魔法使いだ。私も魔法を使う者として然るべき振る舞いをしなければなるまい。

 

「コインいっこ」

 

 挑発の意味で懐からコインを一枚取出し、上に放り投げた。わざと子供らしい口調で相手を煽る。

 

「一個じゃ人命も買えないぜ」

 

 負けじと魔理沙も返してくる。そこで私はコインに魔力を込めて親指ではじいた。直線状に飛んだコインは二人の右斜め後ろの床に着弾し、小規模のクレーターを作った。それを見た魔理沙の顔が引き攣る。

 

「一個でも人命は壊せますよ」

 

 私の顔は彼女達の瞳には映らない。吸血鬼はどちらかというと概念的なものに近いため、肉体の状態が常に不安定なのだ。よって再生もしやすいし肉体の状態も簡単に変えられる。不老不死に限りなく近いと言っても過言ではない。尤も眷属となった者や力の弱い者にも通じる理屈かどうかはわからない。

 それでも彼女の瞳に映るのは恐怖の色。当然だ、そうでなくちゃ妖怪として成り立たない。舐められていては堪ったものではない。

 

「冗談ですよ、そんな怖い顔しないでください」

「脅す気満々だったくせによく言うぜ・・・」

 

 ここでもわざとおどけてみせる。先刻まで恐怖の色が濃かった魔理沙の顔は、来た時の好戦的で不敵な笑みに戻っていた。隣の霊夢に至っては終始だるそうな顔をしていたが、彼女は少し特別なのだろう。

 

「対価はそうですね・・・・・・極上のひと時、というのはどうでしょうか」

「へへっ、いいじゃないか。つまらなかったら承知しないぜ」

「ええもちろん。きっと隣の無愛想な巫女も満足してくれるでしょう」

「余計なお世話よ」

 

 思ったより表情豊かなようだ、不機嫌な顔をした霊夢に思わず笑みがこぼれてしまう。

 これ以上焦らしても仕方がない。私だって戦いたくてうずうずしていたのを抑えてデキる女を演じていたのだ。そろそろ我慢の限界だ。

 

「その箱は貴女達にあげます。でも開けるのは終わってからですよ」

「へぇ、気が利くじゃないか」

「喜んでいただけたら幸いです。じゃあ、そろそろ始めましょうか」

 

 体内の魔力の巡りを確認。・・・うん、今日は調子がいい。

 

「2対1でいいですよ、枚数はどうします?」

「随分舐めてくれるのね。お返しにあんたは無制限でいいわよ」

「・・・へぇ」

 

 こちらの提示した条件にハンデをつけて返してくれるとは嬉しいことをしてくれるじゃないか。完全に魔力が垂れ流しになっているがもはや気にする必要などない。

 

「高くつきますよ、そのハンデの代償は!!」

 

 飛翔。魔力を最大限まで高めて一気に開放する。向こうの二人もそれぞれ自分の武器を手に取って飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2対1ではやはり弾幕の密度がとても濃いため逃げ道が少ない。特に魔理沙の質量弾幕が道を塞いで、間を縫って霊夢のホーミングが飛んでくると回避も困難になる。

 だがそれはあくまで見た目の評価だ。弾幕ごっこは見た目がとても重視されるのでそれも重要だが、ちゃんと避けることが可能な弾幕でなければならないというルールがある。したがって霊夢の弾幕は当たる直前に移動すればホーミングと言えど不可避の弾幕ではないのだ。

 回避に徹するのも面白くないのでそろそろ私からも仕掛けよう。スピードを上げて私の通り道に投影魔法で短剣を作る。それらを時間差で照射、しかし相手を直接狙うことはしない。狙う場所がわかっていて避けやすいのであれば、最初から相手を狙わずに質量を大きくしてしまえばいいのだ。この方法ならば相手の回避エリアを制限し、尚且つ無差別攻撃による被弾を狙うことも出来る。

 

「おい霊夢、これって」

「ええ、実物じゃないわ」

 

 早速私の魔法に気付いてくれたようだ。投影魔法は私の数百年の生の中で最も時間をかけて磨き上げた魔法だ。魔法使いにとってここまで洗練された魔法は興味深いものに違いない。

 投影魔法とはあくまで自分の頭の中に描いたものを魔力によって具現化する魔法なので、それによって創られた剣や盾は実物ではない。ただし実体を持つそれらは私によって実物と同等の再現がされている。

 あちらの二人はそろそろ避けるのに慣れてきたのか、剣の雨を躱しながらこちらに前進してくる。ワンパターンじゃ面白くなかっただろうか、ならば先程作ったスペルカードのお披露目といこう。記念品にするつもりだったがやはり使わないと作った意味がない。

 

「舞闘『虹色の関門』」

 

 私のスペル宣言と同時に色とりどりの魔力弾が私の周りを飛び交う。まるで舞を踊るようにゆったりとした動きのそれらは、却って霊夢と魔理沙の回避エリアを制限する。特に大回りな動きを魔理沙は苦悶の表情を浮かべていた。

 

「ええい鬱陶しい!」

「焦るな!しっかり見極めて最小限の動きで躱しなさい!」

「細かい動きは性に合わないんだよ!」

 

 狙い通りだ、まずは相手の疲弊を狙う最初のスペルカード。しかし避けること自体はそこまで難しくない。神経を使うという精神的な疲労だ。

 

時間切れ(ブレイク)!今度はこっちの番だぜ!」

 

――――魔符『スターダストレヴァリエ』

 

 魔理沙の得意とするスペルカードの一つなのだろう。先の異変でもかなりの頻度で使用していた一枚だ。魔理沙の星を象った弾幕は見た目通りパワーとスピードに長けている。操作性に欠けるが当たれば手痛い一撃となるだろう。しかし――――。

 

「これで魔法使いとは呆れますね、全く基礎がなっていない」

 

 独学で一から習ったのか、はたまた大分偏見に満ちた魔法使いを師に持ってしまったのか。どちらにせよ彼女の魔法は性質が偏り過ぎている、魔法陣が展開されていないのがいい証拠だ。

 

「魔法の基礎を叩きこんであげますよ」

 

 魔理沙の大弾幕を一気に旋回して回避、その後二枚目のスペルカードを展開した。次はパチュリーをモチーフに作ったカードだ。大量の魔法陣を背に魔導書を開く。

 

「錬金『土壊オリハルコン』」

 

 土属性の魔法。それによって生み出された疑似オリハルコンが一斉に飛んでいく。中には途中で衝突して細かい弾幕へと変わるものもあるので規則性を見極めるのは不可能だ。

 

「まずっ!」

 

 これもまた無差別に飛ぶ弾幕なので偶然相手を取り囲む形になる場合がある。霊夢は疑似オリハルコンに囲まれ被弾を免れ得ない状態へと追い込まれていた。

 

「霊符『夢想封印』!」

 

 これは彼女の切り札の一つなのだろう。疑似オリハルコンは一瞬にして消滅し、残りの弾幕は私のところまで飛んできた。少し魔法陣をずらし疑似オリハルコンを集中させることで被弾を避けた。

 

「ちょっと反則じゃない?」

「偶然ですよ偶然、避けれたしいいじゃないですか」

「避けたっていうか・・・」

 

 次の弾幕はどんな風に避けてくれるんだろう。楽しみで仕方がない。この戦いが楽しくて仕方がない。

 

「吸血鬼秘技『ヴァンパイア・プライベート』」

 

 私のとっておきのスペルを披露してあげよう。口の端が吊り上がるのを感じながら次のスペルカードを掲げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




前後編にわかれることになりました・・・

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