東方末妹録   作:えんどう豆TW

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戦闘は次回


Vampire Jealousy

 

 

 

 晴天。雲一つない日本晴れだった。太陽の光が照りつける中、紅白の巫女服を纏った少女が古びた神社の掃除をしていた。

 掃いても掃いても落ち葉は絶えず、時折舞う風によって掃除はさらに難しくなっていく。そんな様子を見ている影が縁側に四つ。

 

「いやぁ、精が出るねぇ」

「そう思うならあんたの箒で手伝ってくれてもいいんじゃない?」

「私はただの魔法使いで巫女じゃないんでね」

 

 一人は長い金髪を結んだ白黒帽子の少女だった。両腕を頭の後ろで組んでごろんと後ろに倒れた。

 

「咲夜、あんたメイドでしょ?掃除も出来るじゃない」

「私が紅魔館以外の掃除をする意味がないでしょう」

 

 もう一人は銀髪でメイド服の少女。大きな日傘を自分のためではなく、二つの小さな影の上に日光を遮るように差している。

 

「ルーマニア」

「アルコール」

「ルーレット」

「トロール」

「・・・ルードヴィヒ」

「ヒール」

「フラン、大人げないわよ」

「負け惜しみはみっともないよ?お姉さま」

 

 そしてその小さな二つの影はしりとりをしていた。蝙蝠のような翼を持った少女と、羽に宝石のような石のぶら下がった少女だ。この二人は姉妹で、絶賛喧嘩中であった。

 

「あなたにプライドというものはないのかしら?」

「負けて踏みにじられる程度のプライドは生憎持ちあわせていませんの」

「・・・どうやらオシオキが必要みたいね」

 

 まさに一触即発の二人。しかし周りの二人は特に気にした様子はなかった。間もなくその二人の頭には拳骨が落ちてくる。

 

「~~~~っ!」

「いったぁ!何すんの霊夢!」

「お前ら外でやれ!」

 

 紅白の巫女――霊夢の怒りは至極真っ当なものであったので二人は言い返すことが出来なかった。

 

「ていうか、なんであんたら吸血鬼がこんな昼間から神社に居座ってんのよ」

「「暇だし」」

 

 吸血鬼姉妹の返答に霊夢はため息を吐いて掃除に戻った。しかしすぐに箒を投げ捨て縁側に腰を下ろした。

 

「なんだ、もういいのか?」

「埒が開かないんだもの、努力は認めてもらえるでしょ」

「こりゃ駄目巫女だ」

 

 魔理沙からからかわれるが霊夢は全く気に掛ける素振りも見せない。他人から何と言われようと彼女は自分を曲げることはない。

 

「異変が終わってからその主犯に毎日のように入り浸られる神社も考え物ねぇ」

「良いじゃない別に、参拝客もいないんだし」

「叩き出すぞ」

 

 この博麗神社にはそもそも参拝客がほとんど見られなかった。妖怪より怖い巫女がいるのだから当然と言われればその通りなのだが。

 暫くため息とともに目を瞑っていた霊夢だったが、ふと思い出したように目を開きレミリアの方を向いた。

 

「あ、そうだ。近々ここ、博麗神社で宴会をする予定だから」

「随分と歓迎されてるのね」

「まあ費用はあんたら持ちだからね」

「・・・は?」

 

 さも当然のように話す霊夢に一瞬呆けたような顔をしたレミリアだったが、すぐに納得したようだった。

 

「そういえば幻想郷(ここ)はそういう決まりだったわね・・・」

「そういうことだな。よっしゃあ!久々に飲むぜ!」

「あんたはそんなに強くないでしょうが」

 

 魔理沙はとても嬉しそうだったが霊夢は横でため息を吐いている。

 

「そんなにため息ついてたら幸せが逃げちゃうよ?」

「いいわねぇ館のお嬢様は気楽で」

 

 霊夢はニヤニヤと笑みを浮かべながらからかうフランドールを睨みつけた。しかしすぐにレミリアに向き直ると話を続けた。

 

「そんなわけだからよろしくね。持ってくるものは酒と食材だけでいいわよ」

「結局全部じゃないか。ま、どうせ他の奴らも色々持ってくるんだろう?宴会なんて言うんだからこんな小規模だと言ったらタダじゃおかないわよ?」

「そこは心配しなくてもいいわ。呼んでもない奴らがたくさん来るからね」

 

 霊夢の言葉にレミリアは満足そうに頷いたが、すぐに真剣な表情になって霊夢と魔理沙を見た。その表情に思わず魔理沙の肩が跳ねた。

 

「な、なんだよ。私の顔になんかついてるか?」

「いえ、別に。ただ貴女達に頼みたいことがあってね」

「また面倒事?勘弁してよね・・・」

「いやいや何言ってんだよ霊夢、面白そうな事だったら勿体ないだろ?」

 

 だるそうな霊夢と対照的に魔理沙は興味津々といった様子だった。フランドールが横で「そんな調子じゃいつか騙されてひどい目に遭うよ」と呆れていた。

 

「何も面倒事を押し付けようってわけじゃないわ」

「じゃあ何よ、食事集めはそっちでやってよね」

「違うわよ。このままだと宴会に参加できない子がいるから、一緒に遊んできてほしいのよ」

 

 レミリアの言葉に霊夢はさらに怪訝な顔になった。

 

「あんたらが連れてくればいいじゃない」

「私達じゃダメなのよ。何かと強情な子でねぇ」

「で、その強情なヤツを引っ張ってくればいいのね」

「そんな必要ないわ、ただ少し遊んであげるだけでいいの」

「それで、遊ぶって言っても何すればいいんだ?」

 

 魔理沙の言葉にフランドールは得意げな顔になって右の人差し指を立てた。

 

「そこに飛び込む遊び道具・・・弾幕ごっこ」

「ああ、パターン作りごっこね。それは私の得意分野だわ」

 

 うんざりした顔で霊夢は神社の中に消えていった。そして戻ってきたときには右手にお祓い棒を持っていた。

 

「いやぁ、霊夢もすっかりやる気だな」

「誰かさんのおかげでね」

「そりゃ良かった」

 

 魔理沙と霊夢を見るとレミリアは口の端を吊り上げた。

 

「安心して行ってらっしゃいな。神社は私達が守ってあげるわ」

「信用ならないんだけど・・・」

「悪魔は契約を破らないのよ」

 

 ひらひらと手を振るレミリアをジトッと睨みつけた後に霊夢は飛び上がった。魔理沙も霊夢に続いて箒に跨る。

 

「夕飯までには帰ってくるんだよ~」

「お前らも帰れ!」

 

 元気に手を振るフランドールに捨て台詞(?)を吐くと、霊夢と魔理沙は紅魔館へと飛んで行った。

 

「・・・行ったわね」

「お嬢様、よかったのですか?リリィ様には何も伝えていないのでしょう?」

「ええもちろんよ。だってサプライズの方が面白いじゃない」

 

 レミリアが咲夜に向けた笑顔は子供のように無邪気なものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・できた」

 

 大広間に一人ぽつんと座った私は、机の上にカードを広げて眺めていた。

 今回私達が起こした異変、通称『紅霧異変』は博麗の巫女―――博麗霊夢とその友人の魔法使い―――霧雨魔理沙によって解決された。

 私は直接戦ってはいないが、みんなの戦いを見ながら参考になる点を沢山取り入れていった。そしてその記念にスペルカードを数枚作ったのだ。常用の物ではない、文字通り記念品。この紅魔館の住人一人一人をモチーフにしたスペルカードだ。

 別に自分の部屋で作ってもよかったのだが、弾幕を試すには私の部屋は少し狭すぎた。それに部屋の結界の強化は既に朝に一回パチュリーに頼んでしまっているので、そう何回も迷惑をかけるわけにはいかない。それに今日のは最近出ていなかったせいか一段と激しかった。

 

「はぁ・・・」

 

 息を吐いてソファに深く腰掛けた。今日はこんなに悪い天気なのに、お姉さま達は今日もまた博麗神社へと足を運んでいる。異変が終わってからというもの、毎日のようにお姉さま達は神社に行っている。忌々しい太陽が顔を出していようともだ。

 つまるところ、私は嫉妬していた。アリスや幽香のところに足繁く通っていた時に、フランお姉さまが同じ感情を抱いていたのを知りながら触れなかった私が、今やその立場というわけだ。滑稽にもほどがある。

 因果応報、結局私は自分をもっと見てほしくてやったことが仇となって返ってきたわけだ。然るべき報いとして受け止めるのが筋という物だろう。

 私も神社に同行すればよい話なのだが、これがまた難しい。表に出ていない以上私は異変に関わらなかった者となっている。それに私の意思で人間と関わりたくないとしてこの異変から退いたのだ、のこのこと出ていくわけにもいかない。これが最近の私の一番の悩みだった。

 お姉さま達はあの二人をえらく気に入ったようだった。時折咲夜の見せる物憂げな表情の原因も私と同じ理由なのだろう。

 少し寝よう。考えすぎても何もいいことはない。そう目を閉じたとき。膨大な魔力の高まりを感じて目を開いた。これはパチュリーのものだ。

 

「パチュリー!?どうかしましたか!?」

 

 慌てて伝達の魔方陣を起動してパチュリーへと通信を繋ぐ。図書館の物につなげると誰も反応しない可能性があるので、直接パチュリーのものへと通信を試みる。

 

『私にもわからないわよ!いきなり遊びに来たとか言いだして・・・魔理沙!勝手に持ち出すな!』

 

 爆音と同時に通信は切れた。どうやら霧雨魔理沙が図書館に侵入してきたようだ。遊びに来たと言っていたが・・・。まさかお姉さま達の差し金だろうか。それならば美鈴が簡単に門を通したことも考えられる。

 そしてまた一つ爆音が聞こえた。だんだんと近づいてきているように思える。そこで私の魔方陣に反応があった。パチュリーからだ。

 

『こいつら、そっちの大広間に行ったわ!地下通路を通って!』

「つまり狙いは・・・」

『貴女ね。どうせレミィの差し金でしょうけど』

「優しい姉を持って幸せ者ですね、私は」

『・・・ほんと過保護なんだから』

 

 息が切れながらも苦笑するパチュリー。どうせ彼女も狙いが分かった途端にすんなり通したに違いない。

 

「全部お見通しだったのか、それとも最初からこのつもりだったのか・・・」

 

 何百人も入りそうな大広間で一人呟く。吸血鬼は孤独を愛する生物ではないのだ。私だって姉がいてみんながいて、ここまで生きてこれたのだから。

 今日は無理にでも幽香のところまで行こうかと思ったが、やめにした。スカーレット家の当主代理としてお客様に盛大なおもてなしをしなければならない。

 私は机に広げたカードを懐にしまうとソファから立ち上がった。地下階段の前にちょっとしたプレゼントを置いておく。プレゼントと言っても魔道具の試作品だ。

 さて、これから来る人間には私の嫉妬の罪ごとぶつけさせてもらおう。私は無罪、お前らが悪いんだ。これくらい許されるだろう。悪には悪の救世主が必要なのだ、罪人の救済措置だってあるはずだ。尤も私の場合に限っては自己清算だが。

 

「そういえば倉庫にピアノがありましたね」

 

 おもてなしの方法は決まった。後はゆっくりと演奏しながら客人――もとい侵入者を待つだけだ。倉庫から魔法陣を通じてグランドピアノを取り出す。何百年も前にレミリアお姉さまから誕生日プレゼントにもらった物だ。レミリアお姉さまと私は誕生日が同じなので、どちらかというとプレゼント交換に近いかもしれない。

 手に取った譜面のタイトルは『亡き王女の為のセプテット』。趣味でピアノをやっていた時期も百年ほどあったが、うまく弾けるだろうか。私は不安交じりの大きな期待を胸に、鍵盤へと手を付けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




続きます

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