東方末妹録   作:えんどう豆TW

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今回は少し短めに、内容も含めてあまり納得いってないので別のお話も上げたりするかもしれません・・・未定ですが
リリィの話なので何とかいっぱい書きたかったけどEXにまわしても許されるよね・・・?


霧隠れの感情

 

「何よこの部屋、霧が多くて何も見えないじゃない」

 

 私の部屋・・・ではないが私の用意した部屋に入ってきた少女は開口一番悪態をついた。それもそのはず、何せ部屋には今回の異変で霧を出す役割の私がいるのだ。影に溶け込むように気配を消しているのでバレることはないだろうが、残念ながら出ている霧を消すことまでは出来ない。こればっかりは生まれつきの才能によるもので、吸血鬼の基本技能は努力によるところがないのもまた仕方のないことなのだ。

 実際に今使っているのは闇と一体化する魔法とトラップ用に設置した魔法だけなので魔力の消費は無いに等しい。パチュリーからの魔法の供給が不安定になってしまったが、魔法は維持されているので私自体にはそこまで影響はなくパチュリーがやられてしまったということが心配なだけだ。

 

「こんなに霧が立ち込めてるんだから誰かしら居ると踏むのが妥当なんでしょうけど・・・」

 

 紅白の少女は誰にともなく呟いた。恐らくあれが紫の言っていた博麗の巫女とやらだろう。今まで見てきた人間の中で一番強いと断言できるほどの力を持っているのが目に見えてわかる。力を隠そうともしていないのは術がないからか、はたまた隠す必要もないほどに自信があるからなのか、とにかく彼女の体からは溢れんばかりの『霊力』が感じられた。

 霊力とは人間の持つ力のことで、妖怪で言う妖力のようなものだ。退魔師になる者は霊力の扱いに長けていることが必須条件だ。また、もともと持っている霊力の量にも左右される。この博麗の巫女に関して言えば霊力の量は人間とは思えないほどだった。

 咲夜との戦闘も最後の方しか見られなかったので詳しく巫女のことは観察できていないが、私達の館に侵入してくるだけの実力は確かなものだった。

 

「おかしいわね、何の気配も感じない・・・」

 

 巫女は続けて呟く。そりゃそうだ、気配を感じ取られていたら既に私の魔法が看破されているということになる。これでも魔法の扱いにはかなりの自信があるのだ、そうやすやすと破られて堪るものか。

 

「まあ誰もいないなら楽だわ、早いところ通っちゃいましょ」

 

 言葉が終わると同時に巫女は地面を蹴って飛び上がった。しかしながらそういうわけにはいかないというものだ、これから私の用意した罠の数々を楽しんでもらわなければならないのだから。

 私は巫女が飛び上がるのを確認すると早速一つの魔方陣を起動させた。

 

「ッ!?なるほど、そういう部屋ね」

 

 巫女は飛んできた魔力弾を咄嗟に避けて体勢を立て直した。どうやらあちらもこの部屋の概要をすぐに理解してくれたようだ。

 巫女は霧の中飛んでくる魔力弾をきれいに躱していた。勘で避けているのか、それとも魔法陣の位置を正確に探知しているのだろうか。

 

「つまり罠に引っかからないように進めばいいのね」

 

 巫女の独り言を私は心の中で否定する。巫女の位置は私が確認しているので、当然センサー式ではなく手動だ。要するに罠は全て避けては通れないというわけだ。

 しかしあの巫女、さっきからチラチラと落ち着きがない様子で辺りを見回している。罠を探しているようには見えない。

 

「攻撃してる奴が必ずいるはずなんだけど・・・見当もつかないわ」

 

 巫女の言葉に思わず陰から飛び出しそうになってしまった。まさかこちらの存在に気付いているのだろうか?それともただの勘だろうか。どちらにせよ厄介なことになってしまった。警戒されてしまっては迂闊に動くことは出来ない、それにこれは弾幕ごっこではないのだ。私は巫女に決闘の申し込みもしていないし、設置した魔法陣による攻撃以外はしないという約束も紫とした。見つかったらとても面倒だ。

 

「こんなまどろっこしいことしてないで出てきなさいよ!じゃないとこの部屋ごと攻撃するわよ?」

 

 巫女が叫ぶが私は息をひそめてじっと耐える。どうしても見つかるわけにはいかない。

 というかこいつは何てことを言いだすのだ、部屋に無差別攻撃を仕掛けるなど正気の沙汰ではない。もはや人間の所業ですらない。紫が苦笑しながら規格外などと言っていたが限度というものがあるだろう。

 異常に強い人間なら咲夜のおかげで慣れてはいるが、攻め入られるとなるとまた違ってくるものだ。

 とりあえず巫女の攻撃で魔法陣が壊れないように防護魔法の強化を施す。さらに私自身も被害を受けないように巫女の通って来た道の方へと逃げる。霧の中で方向感覚はないだろうが、自分の来た方向は大体把握しているはずだ。そこへの攻撃は薄くなるだろうと予想して影を移す。元々この魔法は小さいころから使っていたので、扱いも慣れていて自由度もかなり高い。吸血鬼の霧状化能力と合わせて使えば闇に溶け込むルーミアの真似事も出来る。

 そうこうしている間にもトラップは発動しているのだが、レーザー、鉄球、火を噴く石像など様々なギミックが次々に巫女に回避されるのを見ていると流石に少し凹む。

 別に手を抜いて作ったわけではないし、ましてや作った時に紫からNGが出るのではないかと悩んだ程だ。一発一発が撃墜するほどの威力を持っているし、同時に発動して高密度の弾幕となるように仕掛けてある魔法陣もいくつかある。

 罠を作るのは初めてなので、熱中しすぎた余り相手を配慮しないような内容になってしまったという自覚はある。それも踏まえた上で紫からOKが出たので最初は怪しんだものだ。

 ところが蓋を開けてみればこれはどういうことだ、繰り出される弾幕を蝶のようにひらりと避ける姿は明らかに人間の動きではない。想定外にも限度があるというものだ。

 更にもう一つの想定外はもう一人の侵入者が来ていないことだ。美鈴を倒した魔法使いは恐らくパチュリーのところへ行って倒したのだろう。しかしそこからどこに行ったのか、この部屋に近づいてくる気配は巫女以外に感じられなかった。

 すでに巫女は部屋の最深部に到達しかけている。ゴーレムが足止めをしているが時間の問題だろう。私はいつ来るかわからない魔法使いへの警戒と魔の前の規格外の対処に板挟みとなってしまったわけだ。こんなことなら意地を張らずに私が直接異変に参加すればよかった。

 

「何よこの人形!無駄に硬いわね!」

 

 巫女から文句が飛んでくる。お前に壊されないように作ったというのに、2体のうち1体は既に足を失ってしまっている。これでは口から土属性の魔弾を放つ固定砲台だ。

 私は属性魔法に適正がないのでパチュリーほど強い魔法が作れなかったのだ。おかげで巫女に攻撃が通ることはなく一方的に攻撃を加えられるサンドバックとなってしまっている。

 

「あと1体!」

 

 いくらなんでも早すぎるだろう。私が見立てた半分の時間で1匹目を突破されてしまった。こいつら本当は人間ではないんじゃないだろうかと思うほどだ。幽香の言葉は文字通りの意味だったというわけだ。そもそも戦闘狂の幽香が面白いというのだから、十中八九戦闘における実力であると何故予想できなかったのだろう。

 いや、今更後悔しても仕方がない。こうなったらゴーレムへの魔力供給を底上げするしかない。魔法使いが来たらその時はその時だ、今考えることではない。

 

「やっぱり操作してる奴がいるわね」

 

 しかしこの選択は間違いだったとすぐに気付いた。臨機応変に対応するために直接監視する形を取ったが、その反応で誰かが操っているということがバレバレではないか。

 そしてこの巫女、何と言っても勘が鋭い。万が一私の隠密行動が失敗してしまったらルール違反だ。

 更に悪いことに私の自室に張った魔法陣から反応があった。この館の者に限ってそれはないので、恐らくもう一人の侵入者の方だろう。最悪のタイミングだ、もしかしてこの二人わざとやっているのではないだろうか。

 私の部屋につながる廊下は大広間と大図書館に

 

『誰ですか?私の部屋に入ろうとしたお馬鹿さんは』

 

 答えは知っているが脅しとして問いかける。あの魔法陣に触れた者は脳内に伝達の魔方陣が複製され、私の言葉が頭に直接響くようになる。

 結局魔法使いに脅しをかけるとすぐに退散していった。あっちの侵入者は左程強くないのかと勘繰ったが、パチュリーも美鈴もまぐれで倒せるほど半端な者達ではない。単純に命の危険を感じ取ってその場から退いたのだろう。

 魔法使いの相手をしていると大きな破壊音が聞こえてそちらに目を向ける。私の視線の先には粉々になったもう1体のゴーレムの姿があった。私からの魔力供給があったゴーレムも難なく退けたようだ。

 

「これで全部かしら?そろそろ出てきたら?」

 

 部屋に巫女の声が響く。しかしここで出ていくはずもなく、私の頭にはいかにして巫女の目をかいくぐり、この部屋から脱出するかという一事しかなかった。

 そして私の心にあるのは屈辱の二文字だ。人間にここまで蹂躙され、あまつさえ逃げることだけを考えている。これほどまでの屈辱は味わったことがなかった。ギリリと歯ぎしりをしたが、口元に手を当てるとそれは三日月のように吊り上っていた。

 

 結局何事もないことを確認した巫女は部屋を出ていった。一人残された私は今自分が抱く感情について考えていたが、頭を振って思考を霧散させた。今はお姉さま達の戦いを見届けるのが優先だ。

 

「レミリアお姉さま、フランお姉さま、頑張ってください」

 

 一人呟く。届くはずのない私の小さな声は、しかし必ず届いているだろうという不思議な自信があった。

 

 

 

 

 

 

 




異変編をどう終わらせようか悩んでいる今日この頃です

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