東方末妹録   作:えんどう豆TW

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下が長すぎて3話分に・・・


リリィの奇妙な探検~中~

 

「幻想郷って言っても広いじゃないですか、プランはあるんですか?」

「ええ、もちろん」

 

 紅魔館から出てすぐの森の中を歩いていく。隣を歩くアリスにペースを合わせているが森を無計画に進んでいるようにしか思えない。

 この森はルーミアと初めて会った場所だ。ルーミアは吸血鬼異変後はアリスと共に偶に遊びに来てくれている。美鈴の話によると彼女の命の危機を救ってくれたという、本当に感謝感謝に堪えない。今日も誘おうかと思ったのだが如何せん彼女に放浪癖(?)があるので鉢合わせるか遊びに来る時しか会えないのだ。そんなわけでルーミアを誘うのは断念した。

 

「なるべく人里を通らないルートがいいですね」

「そう?じゃあ少し予定を変更しようかしら」

 

 どうやら人里に行く予定だったらしい。先に言っておいてよかった。

 私は人間が嫌いだ。学習せず失敗を繰り返す愚かな生物、そんなイメージしかない。せっかく私が人間をわざと惨たらしく殺しているというのに、あの肉塊を見て尚吸血鬼の恐ろしさを忘れようとする。何処までも罪深く大罪を全て抱え込んだような種族、それが人間だ。

 

「ちょっと、凄い顔してるわよ?」

「すみません、人間は大嫌いなので」

 

 どうやら人間への憎悪に囚われていたらしい。そんなことすら時間の無駄だ、そう考えて思考を閉じた。

 

「私はたまに人里で人形劇をしたりするけど」

「そんなことで嫌いになりませんよ、アリスはアリスで人間は人間です」

 

 アリスが悪戯っぽく微笑んでからかってくるが、私の返答を聞くと一瞬驚いてそのあと優しく微笑んだ。

 

「大人なのね」

「伊達に500年近く生きてませんから」

 

 そもそもここに来る前は紅魔館でワインを作って人間に売っていたのだ。直接紅魔館の名前を出していたわけではないが、裏の社会の中で浸透していた高級ブランドとして私達の財源の一つになっていたのは確かだ。そういったところで自分の感情を切り離せないと生きていくことなんて到底できない。

 

「今日はどこに行くつもりだったんですか?」

 

 私の質問にアリスは手を顎に当てて暫し思案する。私の我儘で行先を変えたのだから自分勝手にもほどがあるというものだが、場合によっては人里を経験するのも必要かと思ったのだ。

 

 

 

 

「本当は人里でお買い物の後に妖怪の山に行こうかと思っていたんだけど・・・そうね、”太陽の畑”にでも行きましょうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アリスの住む”魔法の森”という場所があるらしい。そこを抜けると知り合いの店があるそうだ。そこには何でも外の世界から来た道具が置いてあるとかで、そこに寄った後に太陽の畑というとてもきれいな花畑に行くというプランになった。

 そしてこの目の前にある”香霖堂”という店なのだろう。商品に勝手に触れなければ特にうるさくはないということらしい。早速入ってみることにする。

 

「こんにちは。霖之助さん、いるかしら?」

 

 霖之助、というのがこの店の主人の名前らしい。名前からするに男なのだろう、幻想郷に男の妖怪はめずらしいのだそうだ。

 

「やあ、アリスか。それと・・・君は初めましてだね」

「はい、リリィ・スカーレットと申します」

「ああ、最近引っ越してきた吸血鬼の名前だったか・・・おや?」

 

 どうやら吸血鬼異変のことは幻想郷中に広まっているようで、スカーレットの名前を出すとすぐに気付いてもらうことが出来た。しかし霖之助さんはこちらを訝しげに見ている。

 

「どうかしましたか?」

「いや・・・吸血鬼は一対の翼を持つと聞いたが、これは」

「本当、貴女って翼が片方だけなのね」

「今更ですねアリス・・・これは生まれつきなんです、別に飛ぶのに不自由はしてません」

「あれ、私が戦った時はちゃんと両方あったような気がするんだけど・・・」

「気のせいじゃないですか?」

 

 霖之助さんはしばらく何かを考えるような仕草をした後に思い出したように手を叩いた。

 

「いつか本で読んだことがあったんだが、『片翼の吸血鬼』というのはもしや君のことかい?」

「懐かしい響きですね、それ」

「いやぁ残虐非道の殺人吸血鬼と書いてあったからどんな化物かと思ったら、まさかかわいらしいお嬢さんだったとはね」

「失礼な、これでも500年近く生きてるんですよ」

 

 霖之助さんはどこか感心したようにも取れる顔をしている。子ども扱いされたような気がして年齢を誇張したのは今日で二度目な気がする。

 というか今のセリフは女性を口説くようなものであってそんな簡単に吐いていいものではない。フランお嬢様がこの場にいたら今頃目の前の男は原型を失くしていただろう。

 私のひそかな安堵をよそに霖之助さんは片方しかない私の翼をまじまじと見つめている。すると横からアリスがジトッとした目で脇腹をつついた。

 

「ちょっと、レディをジロジロ見るのは紳士的じゃないわよ」

「ああ、すまない。中々珍しいものを見たので、ついね」

 

 珍しいもの扱いされたので少しムッとする。しかし店内を見回してみると使用用途も種類もばらばらで統一性のないものばかり、どうやら珍しいものに目がない性格をしているようだ。

 

「失礼を働いたお詫びだ、安くしておくよ」

 

 私が商品が気になっているのに気付いたのだろう、霖之助さんは視線から外れて店の椅子に腰かけた。

 改めて店内を見回してみると大小様々なものが置いてある。

 私は置いてある小物の一つを手に取ってみた。長年魔法の研究をしてきたので手に取れば大体の構造と素材がわかる。鉄が主成分の二つ折りの小物で、開いてみると数字や記号が書かれたボタンが下側に、上にはかなり希少な素材を使ったツルツルした面が組み込まれている。しかしさっぱり使い方がわからない。

 

「これ、なんて道具なんですか?」

「それは”携帯電話”という機械だ。同じ物を持つ者と通信が出来るんだ」

「そうなんですか、詳しいんですね」

「それが僕の能力だからね」

 

 携帯電話なる機械は他者と離れていても通信が出来るらしい。一見便利な道具だが同じものを持つ必要があるという欠点を抱えている。

 しかし私の興味は既に携帯電話から離れていた。

 

「能力、ですか」

「ああ、僕の能力は『道具の名前と用途が判る程度の能力』と言ってね、まあ文字通りなんだけど」

 

 私が興味を惹かれたのは霖之助さんの能力についてだ。曰く、『道具の名前と用途が判る程度の能力』。文字通りというのはそういうことだろう、彼の発見した外の世界の道具は彼の能力によってしか判らないのだ。

 なるほど、いい商売だと感心した。いわば外からの道具は他者の知識がない限り全てと言って良いほど彼にしか価値が判らず彼の専売特許にすらなり得る。競争相手が全くと言って良いほどいない商売なのだ。もっとも儲かっているようには見えないが。

 そもそも価値が判らないものを買う客もいないか、と結論付けて私は思考を打ち切った。

 

「僕は人間と妖怪のハーフだからね、売れなくても生活に困ることはないのさ」

「すみません、顔に出ていましたか・・・」

「いや、経験からなんとなくわかるだけさ」

 

 霖之助さんは私の心を読んでいるように苦笑した。私のように失礼なことを考える輩は多いようだ。

 それによく見れば日用品のようなもの、例えば服なども売っており一概に売れていない偏屈なお店というわけでもないらしい。

 私はこれ以上変なことを考えないよう、品物探しに専念することにした。

 

「霖之助さん、頼んでおいたものは出来てるかしら?」

「ああ、裁縫用の布地だったね。いくつか色があるけれどどうする?」

「じゃあ見せてもらおうかしら、奥に入ってもいいかしら?」

「構わないよ」

 

 後ろからアリスと霖之助さんの会話が聞こえる。どうやらここは依頼のような形でも受けてくれるらしい。もしからこれから先お世話になるかもしれない。

 私は小物のところから本のスペースへと移動した。すると一冊の本が目に留まる。

 本には『悪魔図鑑』と書いてある。前書きを見てみるとどうやら魔界で名を馳せた大悪魔のことが詳しく書いてあるようだ。

 

「その本は魔界の物だから君のことは載ってないよ」

 

 いつの間にか戻ってきた霖之助さんが後ろから声をかける。

 

「いえ、私のことじゃなくて私の身内のことについて。身内に一人凄い悪魔がいるんですよ」

「そりゃあ恐ろしい館だね。吸血鬼に悪魔か」

「どっちも同一視されたりしますけどね」

 

 実際に悪魔の派生の一部で吸血鬼があるといっても過言ではない。しかし今はそんなことはどうでもいいのだ。

 私は一つ一つページをめくっていく。そして一つのページで手が止まる。

 

『価値無き者、魔称”ベリアル”』

 

 ベリアル。パチュリーから聞いたこぁちゃんの魔界での名前だ。私の目はそのページの下部へと進んでいく。

 

 

 

 魔界の中で五本の指に入るほどの実力を持つ悪魔。その力はルシファーに劣らず魔界の大都市を数分で荒野に変えたと言われている。他の悪魔と違って自らの力を誇示するような事例が少ないためデータも少ない。

 

 

 

 他のページと比べて圧倒的に文の量が少ない。私は小さく舌打ちをしてその本を棚に戻した。

 

「役に立たなかったかい?」

「ええ、肝心なところだけ靄がかかっているような感じです」

「ハハッ、よくあることだ」

「ええ、本当に」

 

 不機嫌な私とは対称的にどこか楽しそうな霖之助さんに、無意識に恨めしげな視線を向けてしまう。すると霖之助さんはそれに気が付き慌てて訂正した。

 

「勘違いしないでくれ、別に君の不幸を喜んでいるわけじゃない。能力故に不明という事態に中々遭わなくてね、少し羨ましいのさ。もちろんそのベリアルとやらについては僕も知らないけどね」

 

 私はしばし呆然としてしまった。一見便利に見える能力もその人にとっては悩みのタネにもなり得るのだ。もちろん私も例外ではない。

 

「すみません」

「どうして君が謝るんだい。その人の触れてほしくない部分なんて初対面で分かるわけないだろう?」

 

 霖之助さんは特に何も感じていないような顔で苦笑いしながらフォローを出してくれた。

 今まで身内でもない他人を気遣うなんてしなかった私が随分変わったものだ。アリスと出会ったからか、それとももっと前に咲夜が来た時からか、それよりも前からか。少し大人になったな、などと自画自賛をして霖之助さんにお礼を言った。

 それから先程小物のところで見つけた綺麗な石を買った。これは無縁塚――霖之助さんがいつも道具を拾いに行くところではなく、そこに至るまでに拾ったただの石ころだそうだ。私は記念にと買いたかったのだがそんなものでお金を取るつもりもないらしく、次は買い物に来てね、とだけ告げて私に石を渡した。

 アリスが藍色の布地を手に持ってきたので私達は香霖堂を後にして”太陽の畑”に向かうことにした。

 私は香霖堂の主人、森近霖之助。飄々としてつかみどころのない彼について少し考察する。

 能力は至って生活的なもので性格も温厚。まず人と争うことを考えない人だろう。しかし私の昔の名前を知っていたことから、私より長生きであることや私よりも知識があることが考えられる。そしてそれを知っていて尚物怖じしないところを見ると彼自身そんな簡単にやられるような程度の妖怪ではないのだろう。

 聡明且つ温厚。こんな人ばかりなら私もどれだけ心地よく幻想郷(ここ)で暮らせるだろうか。そう思う自分の中にもう一人、彼と戦ってみたいという考えを持つ野蛮な自分が存在する。

 コイツは私であり、私もまたコイツ。正反対の性格を持つ人格が同じ体を取り合うように入れ替わる。きっと私の作った別人格(かめん)もすぐに剥がれてしまう。そう思うと焦りがこみあげてきて今にでも狂ってしまいそうになる。

 私は知らぬ間に肩が震えていたらしい。アリスが私の肩に手を置く。

 

「大丈夫よ、霖之助さんは別に貴女を襲ったりするような人じゃないわ」

「・・・知ってますよ、そんなの」

 

 きっとアリスにはわからない。もしかしたら誰にもわからない、私一人の苦しみかもしれない。そう思うと言い表せないような寂しさに襲われる。

 アリスは私の肩から手を離さなかった。震えは止まっている、それでもその暖かい手は私の心を包むように――――。

 

「私に貴女の心は読めないけど・・・。そんな思いつめたような顔しないで、貴女は独りじゃないんだから」

「・・・ありがとうございます」

 

 この手の温もりが愛おしくて、私はアリスの手に自分の手を重ねた。

 

 

 

 

 

 

 

 




一週間で仲良くなったゆr・・・お友達。アリスは個人的に好きなキャラなので推し推しです。

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