東方末妹録   作:えんどう豆TW

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幻想となり果てぬ

:Side Liliy

 

 今日は月に一度の報告会の日だ。今回は食事のすぐ後に行われたので屋上での会議となった。

 

「それで、パチュリーは?」

 

 最初に口を開いたのはフランお姉さまだった。彼女の口から出たのは今ここにいない少女の名前だ。

 

「命に別状があるわけじゃないわ、ただこのままだと衰弱する一方ね」

 

 答えたのはレミリアお姉さまだ。今話題に上がっているのは近年になって見られた私達への畏れの減少だった。

 

「そう、まあそんな冷静ってことは何か手があるんでしょ?」

 

 フランお姉さまの問いにレミリアお姉さまは無言で頷いた。

 畏れの減少は私達妖怪にとっては死活問題だ。それはいわば私達にとって食糧難に近い状態である。私達の力が低下したというのはつまりそういうことだった。

 中でも一番影響が大きかったのはパチュリーだった。彼女は生まれが魔法使いなので魔女狩りによる畏れの減少のダメージが一番大きかったのだ。元々の病弱体質もあり今は救護室のベッドで寝ている。先刻心配で様子を見に行ったが特に苦しそうなこともなかったので部屋を後にした。

 

「それで、解決策とは?」

 

 私は一番気になっていたことを聞いた。また人間を襲ってもいずれは繰り返しになるのだからループでしかない。となると恒久的な解決をしなければならないのだが今のところ私の頭にそのような案はない。

 私が質問をするとレミリアお姉さまは良く聞いてくれたというように切り出した。

 

「この世界のどこかに忘れられた者の楽園と呼ばれる場所があるわ」

「忘れられた者の楽園、ですか」

「ええ、その名を『幻想郷』」

 

 忘れられた者の楽園、幻想郷。私が随分昔読んだ本にそんな名前が載っていた覚えがある。その時は確か伝承の一つとして適当に流したが実在するとは思いもしなかった。

 

「曰く、忘れられた者はそこに行き着く。まさに幻想となった者の終着点ってところかしらね。そこには数多の妖怪が存在しているわ」

「つまり、それまで待てと?」

 

 レミリアお姉さまの説明によると人々から忘れられた者は自動的にそこに行くようだ。しかしそれまで待っているというのは危険すぎる。現状からするとおそらく一番最初に幻想郷に送られる―――言い換えると幻想入りするのはパチュリーだ。病弱な彼女が一人で見知らぬ土地に放り出されて無事でいられるとは思えない。

 

「あなたの言いたいことはわかるわ、リリィ。だから私達は幻想郷を侵略することにしたの」

「侵略、ですか」

 

 侵略。つまり相手側からしたらこちらは侵略者であり敵であるということだ。忘れられた者の楽園で全ての妖怪を敵に回すということになる。

 

「表向きはそういうことよ。でも真の目的はあくまで移住。私達がある程度力を持っていることを示してあちらでの生活を有利にするのが今回の侵略の目標よ」

 

 なるほど、ある程度暴れたら条約を結んであちらに腰を据えようという魂胆らしい。

 

「それに私達は吸血鬼といってもまだ500年ほどしか生きてないいわば新参者。歴史に名を残す大妖怪が何匹もいるような土地で頂点に立つのはこの館全員の力を以てしても難しいわ」

「・・・そう、ですか」

 

 プライドの高いレミリアお姉さまが戦う前から勝てない前提でいるということがどれほど重いことかはここにいる全員が理解していた。しかしそれほどの土地で生きていけるのだろうか。私の不安は尽きない。

 私の表情から察したのか、レミリアお姉さまは私の頭に手を置いて優しく声を掛けた。

 

「大丈夫よ、私達の運命はこんなところで終わらないわ」

 

 お姉さまの言葉は冷え切ったように固まった私の心を包み込んでくれるようだった。

 

「決行は3日後、配下にはすべて伝えてあるわ。パチェの力が必要だから多少彼女に無理を強いることになる。リリィ、その分の負担を任せることになるけど・・・」

「大丈夫ですよ、私はお姉さまの妹ですから」

 

 申し訳なさそうな顔のレミリアお姉さまに笑いかける。必ず成功させてみせる、スカーレットの名に懸けて。

 翌日パチュリーが目を覚ましたら作戦会議ということで今日は解散となった。

 

 

 

 

 

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 翌日、こぁちゃんに支えられながら執務室にパチュリーが入ってきて作戦会議は開始した。作戦の大まかな流れは次の通りだ。

 

 まずは私とパチュリーが協力して転移魔法で幻想郷までこの館を敷地ごと移動させる。実はここがこの作戦のかなめであり一番の難点だ。座標の特定は済んでいるらしいのだがもはや別次元への移動に近いものだということが発覚した。

 幻想郷には結界が張ってあるらしくこのままだと強引に入ることはできない。そこでレミリアお姉さまとフランお姉さまが結界に傷をつける際に結界の歪みに乗じて移動させるというものだった。

 

「幻想入りのポイントってのは決まってるらしいわ。そこに妖力の塊を投げつけるだけだもの、朝飯前よ」

 

 私達吸血鬼は夜に起きるので朝飯は存在しない。それでも少しでも私とパチュリーの不安要素を取り除こうとしてくれているのだろう。

 

「・・・で、その魔法は私とリリィで作らなきゃいけないんでしょう?時間が圧倒的に足りないと思うのだけれど」

 

 苦しそうに声を出すパチュリーはすぐに咳き込んでしまう。これは本当に急がなければならない。

 

「それならリリィがもう完成させてるわ、術式を見て覚えるくらいならすぐにできるでしょう?」

「・・・本当?」

 

 レミリアお姉さまの返答に信じられないというようにこちらを見るパチュリー。そもそも転移魔法自体は百年ほど前に完成していたので規模が変わっても魔力の消費を増やすだけだ。後は魔力消費の肩代わりをなるべく私が受け持つだけだ。

 誰からも質問がなくなったところで再びレミリアお姉さまが口を開く。

 

「今回の侵略は貴方達が経験したこともないような激闘になることは間違いないわ。目標は誰一人として欠けることなく幻想入りを果たすこと、いいわね?」

 

 レミリアお姉さまの言葉にそれぞれが反応を示す。

 

「ふふっ、すぐ壊れないといいな」

「最善を尽くします」

「仰せのままに」

「紅魔館の門番として誰一人通しませんよ!」

「・・・喘息が治ってるといいのだけれど」

「せ、僭越ながら私も!」

 

 全員の顔を見てレミリアお姉さまは満足そうに頷いた。

 私も決意を固めるように頷く。決行は明後日だ。

 

 

 

 

 

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「準備は良いですか?パチュリー」

「ええ、なんとか」

 

 少し大きめの魔法陣を敷いた大広間には私とパチュリーの二人がいた。他のメンバーはそれぞれ持ち場についていた。きっと外には部下が待機しているのだろう。美鈴はその部下たちの統制を任されていた。妖精メイドを引っ張っていた彼女なら容易くこなしてくれるだろう。不安要素は、ない。

 屋上で魔力が急激に膨れ上がるのを感じた。きっとお姉さま達のものだろう。ほどなくして爆発音が遠方から響く。

 

「パチュリー!」

「ええ、やってやるわよ」

 

 私とパチュリーが魔力を込めると魔法陣は一気に広がる。おそらく館全体まで届いたはずだ。

 まるで空間ごと振動するような大きな揺れのあと空気が一変した。

 

「だ、大丈夫ですかパチュリー」

 

 頭痛、吐き気、眩暈。色々な異常を訴える体を無視して隣にいた少女を探す。

 

「え、えぇ・・・なん、とか」

 

 肩で息をしながら床に突っ伏すパチュリー。

 

「救護室に運びます」

「その必要はないわ、だってほら」

 

 すぐに救護室に彼女を運ぼうとしたがそこで気づいた。

 

「すごい・・・力が溢れてくる・・・」

「私もすっかり回復しそうだわ。・・・喘息は治らないみたい」

 

 ため息を吐くパチュリーはそれでも先程の顔色の悪さが嘘のように回復し調子を取り戻したようだった。

 

 

「無事成功したようね」

「お疲れ様、二人とも」

 

 上の階からお姉さま達が下りてきた。二人ともとても調子が良さそうだ。

 

「ありがとうございます」

「私は少し休むわ」

 

 それぞれ返事を返す。無事に転移は成功したようだったので私も安堵の息を漏らす。

 

「私は美鈴の方を見てきます」

「わかったわ」

 

 さて、門番の方はどうだろうか。妖力が感じられるので誰一人転送には失敗してないのは確かだがやはりこの目で確かめたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「美鈴、調子はどうですか?」

「頗るいいですよ、ほかの皆さんも同じようです」

 

 部下たちの方をちらりと見て話す美鈴。なるほど確かに血気盛んなまでに妖力を垂れ流す彼らを見れば一目瞭然だ、やはりここは妖怪にとっても楽園のようなものなのだろう。

 

「・・・リリィ様はどう思います?」

「まあ一人も生き残らないと思いますけど」

「思ったより淡白なんですね」

「交流があったわけじゃないので」

 

 美鈴が訊いてきたのは部下のことだろう。あの調子じゃ増長して殺されるのがオチだ。別に助ける義理もないし生き延びて私の得になるわけでもない。これが美鈴なら止めているだろうが。

 

「私は少し散歩してきます」

「お一人で大丈夫ですか?」

「門番は門を出ちゃダメなんですよ」

「では今から私が守るべき門はリリィ様ということで」

「・・・はぁ、わかりましたよ」

 

 一人で様子を見てくるつもりだったがついて来るつもりらしい。ここまで彼女が食い下がるのも珍しいのでこれは断れない。

 美鈴は部下たちに出かける旨と外に出ないよう言い付けると私の元へ戻ってきた。

 

「じゃあ、行きましょうか」

「はい!」

 

 もともとそんなに遠くに出るつもりはないので気負いすることもなく私達は散歩に出かけた。

 

 

 

 

 

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「んー、やっぱり調子がいいですねぇ」

「そうですね、私も絶好調です。山ひとつ吹き飛ばせそうですよ」

「リリィ様が言うと冗談に聞こえないのが怖いです」

 

 私は紅魔館から少し離れた湖の近くで美鈴と会話を交わしながら来た道を引き返していた。あまり長く離れるとお姉さま達が心配する。

 そして紅魔館までもう少しとなった時に異変は起こった。

 

「・・・美鈴」

「わかってます、恐ろしいほどどす黒い『気』を感じます、注意してください」

 

 背中を撫でるような悪寒に襲われ足を止める。隣にいる美鈴は気を感じたらしい。

 ゆっくりと振り返るとそこには幼い少女が浮いていた。ふわふわとどこかつかみどころのない浮遊をする金髪の少女。白黒の服に黒のロングスカート、頭には大きな赤黒いリボン。彼女はその見た目に似つかないほど獰猛な笑みを浮かべていた。

 

「ねぇ、貴方達が今来た侵略者さん?」

「・・・どうしてそう思うのですか?」

「紫が言ってたのよ、近々まあまあ力を持った妖怪が攻めてくるってね。それで顔を見ない貴方達はお引越ししてきた人達でしょう?」

 

 よくわからない人物の名前を出されたが大方彼女の推測は当たっていた。一つ外れていたところは――――――。

 

「ええ、大体当たりです。訂正する箇所があるとすれば『まあまあ』じゃなくて『結構』ですかね」

 

 返答と同時に魔力を開放すると目の前の少女は嬉しそうに笑みを深めた。

 

「今回は封印解いても紫は何も言わないよね?だってお引越ししてきた人達だし」

 

 そういうと彼女の赤黒いリボンは漆黒に染まりとてつもない妖力が溢れ出す。保有量で言えば横にいる美鈴を軽く超える。

 

「美鈴、ここは私が」

 

 美鈴は無言で頷く。彼女でも苦戦すると判断したのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あまり時間をかけられないので」

 

 手をかざし魔法を展開。目の前の少女の上に巨大な正六角柱の鉄塊を出現させる。私が手を振り下ろすと鉄塊は動きを合わせるように墜落した。

 

「へぇ、こんなの初めて見たわ」

 

 金髪の少女は感心したように呟くと避けるでもなくその場に立ち止まったまま鉄塊を見上げていた。少女目掛けて落とされた鉄塊は土煙を上げて地面に突き刺さった。

 油断はしない、あれほどの力を持った妖怪が小手調べの大ぶりな一撃でやられてくれるわけがない。案の定彼女のどす黒い妖力はすぐに感知された。ただし鉄塊の()から。

 地面に突き刺さった鉄塊は黒ずんだ後にやがてぐずぐずになって崩れた。その中から金髪の少女が姿を現す。

 

「それが貴女の能力ですか?」

「ええそうよ、『闇を操る程度の能力』」

 

 闇を操る、ということはこの夜は彼女の支配下にあるということだ。思ったより目の前の少女を甘く見ていたようだった。

 

「次は私から行くよ」

 

 そう言って黒い塊を数個こちらに飛ばしてくる。地面を削りながらこちらに向かってくるソレはおそらく『闇』なのだろう、当たるのは危険だ。

 体を浮かせて弾幕の間を通り抜けると目の前には少女がいた。彼女の右手の手刀が私の腹部目掛けて伸びる。しかしそれが私に届くことはない。私が右腕を切り落としたからだ。

 

「ふぅん、剣も作れるのね」

 

 距離を取った少女は血の噴き出る右腕を特に気にした様子もなく感嘆の声をあげる。私は少女の眼の先にある自分の剣を見るとすぐさまそれを手放した。黒く侵食されたそれは地面に落ちると乾いた音を立てて間もなく崩れた。

 

「じゃあ、こんなのはどうかしら?」

 

 少女が両手を広げると視界が黒く染まった。一片の光も差すことのない完全な暗闇。

 

「美鈴!!」

「大丈夫です!」

 

 美鈴の無事を確認するとすぐに思考を戦いに戻す。この暗闇から逃げる必要があるが無暗に動くのは危険。どうしたものかと考えていると足元の地面が削れるような感覚。

 

「当たった?」

「外れです」

 

 なるほどこの暗闇は彼女にとっても同じものらしい。ただし暗闇の経験はあちらが圧倒的に上だ。早く動かなければいずれは当てられるだろう。

 地面を蹴り空中に浮くと急に視界が晴れた。暗闇が解除されたのだろうか、そう考える私の目の前には無数の黒い球体が浮かんでいた。

 

「リリィ様!」

「あはは!これは避けられるかなァ!?」

 

 目の前に迫りくる闇の弾幕。仕方ないのでここは私も切り札を見せることにしよう。

 手に魔法陣を作ると魔力を集中させる。魔力消費が大きいのでここぞという時にしか見せない大技だ。彼女はそれに値するだけの実力がある。

 

「魔剣『大地を薙ぐ虚無の波動(クラレント)』」

 

 私の手に現れたのは紅と黒の魔力を纏った大剣。これが私の投影できる中でも最も強い力を持つ神話武器の一つだ。一振りすればそれは拡散する”虚無属性”の魔力となって周囲を無へと帰す。

 私の目の前にあるのは大きく削れた大地と肩から左半身を失った少女だった。

 

「・・・今の何?私の闇が()()()()()()なんて初めてだけど」

「私の切り札ですから、当然」

 

 目の前の少女は闇を作って失った部分を補っていた。

 

「私の負けね、まあ楽しかったしいいや」

 

 そう呟くと頭のリボンは真っ赤になった。アレによって力をコントロールしているのだろうか、目の前の彼女からは弱い妖力しか感じない。

 

「私ルーミア、友達になろ?」

 

 ルーミアという少女。彼女から出た言葉に思わず目を丸くした。

 

「友達、ですか?」

「うんうん、やっぱ殺し合いの後は仲良くしないとね」

 

 どうやら幻想郷では殺し合いの後に仲良くなるらしい。そういえば美鈴の時にも結局こういう感じで仲良くなったのかもしれない。

 少し躊躇いがちに口を開く。

 

「・・・リリィ・スカーレットです。お友達になりましょう」

「リリィっていうのねー。そっちの人は?」

「えっ私?わ、私は紅美鈴です、お好きなように」

「美鈴ね、よろしくー」

 

 私達はお互いに自己紹介をして解散した。ルーミアも楽しそうだったしなんだかんだ私も楽しかった。全力でぶつかるというのはいつでも心地の良いものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私達は紅魔館に戻ると咲夜とお姉さま達からお叱りを受けることになったのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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:Side Rumia

 

 私は住んでいるところがない、ホームレスなのだ。妖怪なので特に睡眠を必要としないしそこらで人間を襲って食べるだけで生きられる、特に生きる目的があるわけでもないが。

 だから先程の戦いも何となく戦ってみたかっただけだ。思ったより楽しめたし別に()()のために動いたわけではない。もっとも観察していたのだろうし分析材料の一つにするのだろう。

 ふと思いついたことを口に出してみる。

 

「結果的に貴女に協力したのだし3年間好きに人間を襲っていいとかどうかしら、()?」

 

 虚空に話しかける。傍から見たら危ない奴だが私の声をかけた先に裂け目ができ、気味の悪い空間から金髪の女性が現れる。

 

「封印の解除を黙認してあげたんだからそれでいいでしょう」

「えーずるいじゃん」

 

 別に本心ではない、適当に言葉を並べてみただけだ。

 

「それで、どうだった?彼女と戦ってみて」

「見てたんでしょどうせ、楽しかったよ」

 

 私の返答に対して聞きたいのはそういうことじゃないという顔をする紫。知っている、わざとだ。

 

「百聞は一見に如かず、って言ってね。1回経験する方が100回見るより物事を理解しやすいのよ」

「そーなのかー」

 

 これも適当に返すと紫はため息を吐いた。少し怒っているかもしれない、どうでもいいが。

 

「最後のやつはびっくりしたなぁ、あれなんなんだろ」

「私も知らない魔法だもの、もっとも私は魔法にそんなに詳しくないのだけれど」

 

 そりゃそうだ、妖怪は魔術よりも妖術に長ける者の方が圧倒的に多い。むしろ私が戦ったリリィの方が特異だ。

 

「あれなら紫のスキマも削れる?」

「ええ、見事に侵食されたわ」

「それはよかった」

 

 適当に興味の湧いたことを質問して失せたら適当に返す。よくもまぁこいつも私とまともに話す気になるものだ。

 私の返答に若干気を悪くしたのかそっぽを向いてスキマを開く紫。自身の能力に傷をつけられたのはプライドに障ったのだろうか。

 無言で虚空へ消えた紫のことは既に頭にない。もとより考えるような気質でもないのだ。

 

 

 

「お腹すいたなー」

 

 

 その呟きも虚空に消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ルーミアは自分で封印を解ける説の人です

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