東方末妹録   作:えんどう豆TW

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早くにパッチェさんを出してしまったので人間の彼女が生まれるまでの時間稼ぎ・・・
ちなみにパッチェさん公式では100歳くらいのようです・・・どうしよう


魔法少女談義と嘘吐きの罪

 

「リリィに見てほしいものがあるの」

「私にですか?」

「ええ」

 

 ここは図書室ではなく紅魔館の隣にある更地もとい実験場。私の隣を歩く少女はパチュリー・ノーレッジ、魔法使いだ。彼女との付き合いは200年以上になるがこういうことは今までにもよくあった。彼女が私を突然呼んでは魔法の実験に付き合わせる、幾度となくあったことだ。そして―――――。

 

「こぁちゃ~ん!」

「リリィ様、こんにちわぷっ」

「会いたかったですよぉ~」

 

 数少ない私がこぁちゃんに会える機会でもある。癒し成分を補充、これがないと私はもう生きていけない気がする。最近はフランお姉さまも適当に館内を徘徊しいるしレミリアお姉さまも図書室で調べ物をしているので、こうしてこぁちゃんに気兼ねなく抱きつける機会がめっきり減ってしまったのだ。なにせ私たちは禁断の恋仲――――ではないが抱きついてるとお姉さま達からお叱りを受けるのだ。ちなみにこぁちゃんは自分の意思で動いたことはないのでとんだとばっちりである。そういえば前にフランお姉さまに訊かれたことがあった。

 

『どうしてリリィは小悪魔にあんなに抱きつきたがるの?私ならいつでもいいのに』

『うーん・・・妹みたいだから、でしょうか?わからないですけど、私に妹がいたらこんな感じなのかなって・・・そんな気がするんです』

『ふーん・・・妹、かぁ。私がリリィに抱きつくのをお姉さまに止められたら、確かに怒るなぁ』

『え、じゃあこれからはいいんですか?』

『うん?もちろんダメだよ』

『えー・・・』

『どうせ私達が見てないところでやってるんでしょ?だったらその分で我慢して』

『うっ・・・はーい』

 

 結局半ば公認くらいにはなったのだろうか、とにかく全くダメというわけでもないらしい。フランお姉さま曰く目の前でいちゃつかれるとドカーンってしたくなるらしいが。

 

「貴方達、そろそろいいかしら?」

「あ、はい大丈夫です」

 

 若干イラついたような目で見るパチュリー。なるほど他人のパチュリーですらこの目だ、ましてやシスコンのお姉さま達ならこれに嫉妬と憎悪と羨望を混ぜた感情が芽生えるのだろう。今でも十分甘えているつもりなのだが・・・。

 とにかく今はパチュリーの魔法を見るのが最優先だ。魔導書を手に詠唱を始めるパチュリーの前に魔法陣が現れた。魔法陣からは火と水の魔法が撃ち出された。

 

「『フロギスティックレイン』」

 

 二つの相反する魔法は互いに打ち消しあうことなく虚空へと放たれた。

 

「ぜぇ・・・ぜぇ・・・ど、どう・・・?」

「ふむ・・・まずは救護室に行ってから話しましょうか」

 

 とりあえず彼女を救護室運ぶことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まず感想から言いましょう、正直とても驚きました。私は属性魔法に疎いので詳しいことはわかりませんが相乗効果はおそらく今まで見た中で最も高いでしょう」

「そうでしょう?相反する二つの属性は打ち消しあうことなく混ぜ合わせることができれば二つが推進し合うように効果が高まる。これはおそらく他の属性魔法にも応用できるはず」

「すごいこと考えますね・・・」

「貴女が言うと嫌味にしか聞こえないわ。それで、貴女の成果も見せてくれるんでしょう?」

 

 これもいつものことだった。私が勝手に呼び出され私が一方的に見せられその後に成果を見せろと言われる、いわば発表会のようなものだった。律儀なものだ、と私は思う。魔法が見たいと言われれば断るつもりはないのにパチュリーは絶対に自分が見せる時じゃないとそれを望まない。

 パチュリーが言うにはこの世界は等価交換の法則で成り立っているらしい。以前パチュリーとした会話を思い出す。

 

 

 

 

『別に、魔法を見せてほしかったらいつでも言って良いんですよ?』

『まるで私の先を言っているような余裕のある発言ね、まぁ事実なのは認めるけど・・・それでも私は嫌、等価交換に反するもの』

『等価交換、ですか』

『ええそうよ。別に誰に教わったわけじゃない、でも魔法使いとして本能的に理解してるの。何かを求めるならば、何かを手にするならば必ずその代償が必要になる。もしそれを理解していなくても、その時見返りを求められてなくても、後から代償は必ずやってくるの。逃れることはできない、決してね。だから私は必ず何かに対して見返りを求めるし、私に何かしてくれたら必ずそれを返すことにしているの。だって後から私も知らないような代償が追いかけてきたら怖いでしょう?』

『代償・・・ですか』

『ええ、後は私個人のプライドもあるけどね』

 

 

 

 

 

 少し思い出に浸りながらお披露目の準備をする。

 

「ふっふっふ、今日の私はすごいものを作ってきました」

「あら、それは楽しみね」

 

 私は大見得を切って懐から拳銃を取り出した。

 

「これは・・・人間の使ってる武器ね」

「リボルバーといいます」

「そう、それでこれは何の魔法に使われるの?」

「ここじゃ危ないですね、もう大丈夫ですか?」

「無理してでも行くわよ」

 

 私たちは再び実験場に移動した。

 

「この引き金を引くと・・・」

 

 私が魔力を通して引き金を引くと虚空に魔法陣が現れて爆発した。今の魔法は衝撃波を生み出す魔法だ、威力はそこまで高くないが手軽に使える初級魔法だ。これが上級になると空間を振動させるような魔法になるので流石にこの魔工具では扱えない。

 

「魔法を普通に使ったようにしか見えなかったけど・・・」

「まだまだですねパチュリーも、これに魔力を通して狙いを定めて引き金を引く、それだけでいいんです」

 

 不満顔のパチュリーは私と同じように魔力を込めて引き金を引いた。先ほどと同じように虚空に魔法が放たれる。

 

「・・・なるほどね、もともと術式が入ってるから式を編みこむ必要がないのね。やるじゃない」

「その通りです。さらに媒体によってはそれなりの魔法を撃つことができます」

 

 私はそういうと懐から別の拳銃を取り出して虚空に向けて放つ。今度は火柱が誕生した。

 

「素材によって変わるのね、それは何?」

「うーん・・・名前がわからないんですけどとても変化しやすいんです、それこそ水に入れたら泡立って消滅するくらいには」

「・・・それ、大丈夫なの?」

「魔法で防護してあるので一応大丈夫です、結構便利でしょう?お安くしておきますよ?」

「・・・後で個体の窒素をあげる、それでどう?」

「成立ですね」

 

 たまに商談も起こる。

 

 

 

 

 

 

 

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「で、その窒素は何に使ったの?」

「空気の魔法の研究です、もうちょっと言えば空気の固形化の魔法です」

「ふーん」

 

 ここはフランお姉さまの部屋、今はフランお姉さまと二人でお話をしている。最近は二人で話すことがなかったので久しぶりにと呼ばれたのだ。お互いの近況を報告して談笑、いつまでも変わらない姉妹愛とその在り方がそこにはあった。

 

「しかし最近レミリアお姉さまはずっと図書室に入り浸ってますよね、何か知りませんか?」

「なんか移住先を調べてるらしいよ、この先もしものことがあったらって言ってた」

「移住ですか、そうなるとこの館ごとのおつもりですよね」

「だろうねー何か手があるんじゃないかとは思ってるけど」

「ふむ・・・転移魔法、そういえばまだ研究が終わってませんでしたね」

 

 随分前に転移魔法を研究していたのだがその必要性のなさから自然に離れていったのを思い出した。これは再熱のきっかけにでもなるかもしれない。

 

「じゃあそろそろあたしは寝るね」

「はい、おやすみなさいお姉さま」

 

 それから少し話をしてフランお姉さまは眠りについた。私も少しやることをやったら寝るとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 私の前には燃え続ける灰色の焔、そして隣には黒いナニカ。ここは実験場だ。

 このよくわからない力を私は『罪の力』と呼んでいる。この焔やナニカの原動力は私自身が背負った罪だからだ。そもそも私は自身の能力を『罪悪感を操る程度の能力』として認識していない。あくまで私の能力でできることを言語化しただけだ。

 私は『あの時』からずっと嘘を吐き続けている。お姉さま達にも、美鈴やパチュリーやこぁちゃんにも――――――。その罪が私の能力の原動力であり、私が手にした『幸せ』の『代償』だったのだから。これは『代償』、忌むべき力だ。それでもこの力で皆を守れるなら――――――。

 

「ッ!?~~~~~~~ッッッ!!!!!」

 

 思考を深めていると突如激痛が私を襲った。地面にのた打ち回りそうになるのを必死で抑えて喉を掴む。抑えろ、抑えろ、抑えろ―――――。

 

「がはっ!はぁ・・・はぁ・・・・ごほっ!」

 

 咳に血が混じる。この力はどうやら私には過ぎた力らしい、体中が悲鳴を上げる。全身が軋むような感覚に耐えながら焔とナニカを消滅させる。早く戻らなければとおぼつかない足取りで館へと歩いた。しかし最後にぐらりと体が揺れるような感覚を覚えて私は意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

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「ぅ・・・・・ここは?」

「ッ!?はぁ・・・よかった、気が付いたのね」

「レミリアお姉さま・・・?」

「リリィ!!よかった・・・!本当に・・・全然目を覚まさないから心配したんだよ!!」

「フランお姉さま・・・」

 

 どうやらここはレミリアお姉さまの部屋らしい。目を開けると涙目のお姉さま達が私を見下ろしていた。

 

「すみません、心配かけました」

「まったくよ。でもあなたがあんなところで倒れるなんてどうしたの?あなたの血もそこら中に巻き散らかされてたけど・・・まさか、誰かにやられたの!?」

「違いますよ、少し実験に失敗してしまいまして・・・あ、アレは血の魔法なので気にしないでください」

「ならいいけど・・・無理はしないでね、本当に」

「はい、わかってます」

 

 まだまだ何か問い詰めたそうな二人だったが私の言うことを信じてとりあえず下がってくれた。私は内心で安堵して体を起こした。

 心配そうな目で見る二人に笑顔を向ける。きっと無理のある笑顔だったんだろう、彼女達の表情は変わらない。胸の中に湧き上がる罪悪感を抑えつけてレミリアお姉さまの部屋を後にした。ごめんなさい―――――――。

 




お待たせしてすみません、次はちゃんとお話を進めます

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