私は現在図書室にいる。なぜかというとパチュリーが試したい魔法があるというので私が呼び出されたからだ。ちなみに呼び出しに使われたのは美鈴、彼女も苦労が増えて可哀想だと思っていたがそうでもないらしい。曰く、「パチュリー様はお嬢様のご友人ですから、この程度苦でもなんでもありませんよ」。本当に良くできた従者だ、出会った当時は殺してやろうかとも思えるくらい怒りを覚えたが出会い方が違っていたらもっと早く仲良くなれていたのだろうか。
図書館に行く途中にお姉さま達と偶然出くわして事情を説明すると彼女たちもついていくと言い出して、結局少し広い図書室に5人が集まる形となった。
「うへぇ、相変わらずここはかび臭いなぁ、よく耐えられるね」
「慣れれば気にならないわよ、この程度」
「ただでさえ体調悪いんだから少しは気をつけたら?パチェは喘息持ちなんだから、そのうち死んでも知らないわよ」
「あ、お掃除でしたら私手伝いますよ?」
「いいわよ、どうせ時が経てばまた埃被ってかび臭くなるんだから」
「それまでなにもしないつもりですか・・・」
私も小さい頃からここに立ち入っていたので慣れてはいるのだが、それでも喘息持ちのパチュリーには厳しい環境だろう。さっきからゴホゴホと咳をしているのも目に付くしたまにヒューヒュー言いながら図書室から出てくるのも見かける。その度に救護室に運んでいるのだが懲りないらしい。何回彼女の口から「次は気を付けるわ」を聞いたのか覚えてない。
私達からの非難の目も意に介さずパチュリーは一冊の魔導書を取り出して開いた。
「それで、この魔導書なんだけど」
「残念ながらここに魔法に理解のある者は貴女とリリィしかいないわ」
「え?あ、はい、そういうことですか」
お姉さま達と美鈴がこちらを見る、解説よろしくといったところだろう。しかしこの見覚えのある魔法陣は・・・。記憶から引っ張り出してくる、何せこれに似た魔法陣は随分前に見たきりなのだ。
「パチュリー・・・これ、召喚魔法じゃないですか?」
「ええそうよ、流石リリィね」
「なっ、ダ、ダメですよ!この館じゃ召喚魔法は禁止されてるんです!」
「え、そんなこと一言も言ってないけど?」
「・・・・・・・はい?」
パチュリーが開いた魔導書に記されていたのは召喚魔法の魔方陣だった。そう、この魔法陣はかつて私が怪物を生み出した魔法陣に酷似していたのだ。しかし召喚魔法はそれ以来禁止だったはずだが・・・。
「私が禁止したのは『あなたが召喚魔法を使うこと』であって、召喚魔法自体を禁止したわけじゃないのよ」
「な、なんですかそれ!ずるいじゃないですか!」
「何がずるいのよ、あなたは前科持ちじゃない。それにあなたの持つ魔力で暴走召喚なんて起きたら誰が止めるのよ」
「私だって成長したんです!もうあんなことは起こりません!」
「残念ながらあなたの魔法の腕は信用してるけど、あなたの魔法への熱意に対する理性は信用してないの。調子に乗って嬉々として魔獣でこの館を埋め尽くすあなたの姿が容易に想像できるわ」
「う、ぐぅ・・・・」
ぐぅの音くらいしか出なかった。実際自分でも魔法の研究をしている自分が止まることは考えにくい。ここはパチュリーに私の意志を託すことしかできない。
「パチュリー、私の未来は貴女に託します。どうか、この夢を・・・・叶えて・・・・バタッ」
「え、ちょっと、リリィ?大丈夫?」
「あー、いつものことだよ」
突然倒れた私に驚いて慌てて駆け寄るパチュリーを呆れ顔のフランお姉さまに止められる。もうちょっと構ってくれたりしたりしてもいいじゃないか。
ここで逆らえばオシオキが待ってるとしか思えない。大人しく引き下がる私は頭の中で過去の自分を殴り続けることしかできなかった。
「じゃあ始めるわよ」
パチュリーはそう言うと魔導書にてをかざし魔力を集中させ始める。詠唱と共に記された魔法陣は光を放ち大きくなっていく。
やがて光の柱となった魔法陣の中から現れたのは赤髪の少女だった。頭と背中に一対ずつついた蝙蝠のような翼、白いシャツの上から黒のベスト、黒のロングスカート、黒のネクタイとほとんど黒尽くし。どうやら黒がお好きなようだ。
しかし私の時は意味の分からない化け物が出てきたというのになんだこれ、いや私が幼く未熟だったのだそうに違いない。
しかしこの少女、やけに怯えているような気がする。
「ちょっと貴女、私が召喚したのに何も言わないってのはどういうことかしら?それとも喋れないの?」
「はひっ!?ひぇ、あ、えと」
「はぁ・・・これは失敗ね、送還したいのだけど、これどうするのかしら」
「はぇ!?あ、あの、私が召喚に応じて参上仕りました悪魔です!このたびは契約していただきありがとうございます!つ、つきましてはこの私が貴女様にお仕えする身となり全力で奉仕致します!」
「え、これもう契約しちゃってるの?はぁ、わかったわよ・・・」
「ちょ、パチェ!それ多分――――――」
少女が捲し立てるとパチュリーと手を合わせて契約をする。レミリアお姉さまが言い終わる前に契約は完了してしまった。
「はぁ、間に合ってよかっ――――――」
「何が良かったのかしら?」
「ひぃっ!」
少女が安堵の息を漏らすとレミリアお姉さまは少女の顎を掴んで無理やりこちらに顔を向けさせた。
「一応貴女が今無理やり契約をしたのは私の友人なの、どうしてくれるのかしら?」
「え?無理やり?」
「なっななななななな何を仰るんですか!や、やだなー無理やりなんてそんなことあるわけないじゃないですかーちゃんと双方の合意のもとに」
「これでも私悪魔なの、この翼が見えるかしら?」
「ぁ・・・」
レミリアお姉さまが詰め寄ると少女は慌てて誤魔化そうとしたが翼を見た瞬間に表情を固めた。そう、アレはどう考えてもパチュリーを騙して一方的に契約を押し付けたようにしか見えなかったのだ。
追い詰められた悪魔の少女は泣きそうな目でこちらを見てから土下座して早口でさらに捲し立てた。
「ご、ごごごごごごめんなさい!!私は悪魔の中でも下級の者なのであっちではいつも下働きばっかりで、それでやっと召喚令が下ったのでこんな苦しい生活とはおさらばだって張り切ってきたのに明らかに私より力のある人しか周りにいないし送還とか言われるしあんな生活にはもう戻りたくないしそれで、それでどうにか契約してもらわないとって思って」
泣きながら早口で弁解、というよりも頼み込む悪魔の少女。流石にお姉さま達も可哀想だと思ったのかため息をつくとパチュリーの方に向き直って口を開いた。
「これ、貴女がちゃんと面倒見るんでしょうね」
「・・・はぁ、わかったわよ。ほら顔をあげなさい、あなたはここで私のために働いてもらうわ」
「本当でずが!?ありがどうございまず!!」
泣きながらお礼を言う少女、パチュリーは結局彼女と契約を結ぶことを良しとした。
「そういえば貴女、名前はあるの?」
「名前、というものはありませんね。呼ばれたこともなかったので・・・」
「そう、じゃあ下級の小さい悪魔だから貴女は『小悪魔』、どう?」
名前を聞かれて悲しそうに目を伏せた少女にパチュリーは小悪魔と名前を付けた。顔をあげた小悪魔の顔は太陽のように輝いていた。
「小悪魔・・・えへへ、ありがとうございます」
嬉しそうに笑う小悪魔を見て思わず頬を緩めるパチュリー、何とも微笑ましい光景だ。しかし――――――。
「ふぇ?ど、どうかされましたか?」
「あっ・・・いえ、なんでもありません」
気が付くと私は小悪魔の頭を撫でていた。少し戸惑ったようにこちらを見上げる小悪魔。・・・・・・何この子可愛い。無意識のうちに小悪魔を抱き寄せて頭を撫でていた。
「・・・こぁちゃん、こぁちゃんって呼んでもいいですか?」
「へ?あ、はい、お好きに・・・ひぃっ!」
あぁなにこれすごい癒される、出来れば私が召喚したかった。
そんなことを考えているとこぁちゃんがビクンと跳ねて固まった。一方向を見たまま固まるこぁちゃんと同じ方を向くとそこには笑顔のお姉さま達がいた。一言で表すと凄惨、もちろん私の未来がだ。
「小悪魔?今から私の館に住むわけだけど・・・主の妹にいきなり手を出すなんて中々良い度胸してるじゃない」
「へぇ!?いやいやいや、そんなつもりはっていうか私は別に何も」
「言い訳するのかしら?ちょっとあっちのお部屋でお話ししましょう?」
「た、助け・・・」
涙目のこぁちゃんはレミリアお姉さまに連行されていった。ごめんなさいこぁちゃん、私のせいで・・・・。さて、私も自分の部屋に―――――――。
「ちょっとリリィ、どこにいくの?」
「フランお姉さま、そろそろ私も自室に戻ろうかと思いまして」
冷や汗を隠しながら笑顔を向ける。もちろん眩しいほど輝いた笑顔のあなたから逃げるためですよ、と心の中で唱える。
「ふーん・・・ところで他人の召喚したものに手を出すなんて、悪魔としてちょっとどうかと思わない?」
「え?な、何のことでしょうか・・・あはは、やだなぁお姉さまったら冗談でしょう?私はただ・・・そう!ペットを可愛がるような、ええ愛玩動物を見るようなそんな目で見てただけですよ。もちろんやましい気持ちなんて一つもありません」
「それで抱きしめたりするんだ?初対面なのに?これは教育不足だったかなぁ・・・うん、オシオキが必要だよね」
「え!?いやいや本当ですって!本当ですからオシオキだけは」
私が言い終わる前にフランお姉さまは私を捕まえてしまった。こうなると私に逃げ出す手段は残っていない。私の刑は確定してしまった、部屋に戻り次第執行だろう。
藁にも縋る思いでパチュリーと美鈴を見るが二人は目を背けた。ああ、終わった・・・・・。
「シスコンもここまでだと恐怖すら覚えるわね、きっとあの子恋人ができないわ」
「あはは・・・仲良きことは良いことです」
翌日、人形のように動かない私と人形を抱くように眠るフランお姉さまがレミリアお姉さまによって発見された。
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ここは図書室、ここにいるのは私―――パチュリー・ノーレッジと司書の小悪魔だけだ。紅茶を持ってきた小悪魔にお礼を言った後に彼女にひとつ気になっていることを聞くことにした。
「ねぇ小悪魔」
「なんでしょう、パチュリー様」
「貴女この間下級の悪魔って言ったけど、アレ嘘でしょう?」
驚いたように目を見開く小悪魔。
「・・・なぜ、そう思うんです?」
「そんな綺麗な格好で現れる悪魔が下で使い潰されるような下級の悪魔なわけないでしょう?レミィ達もみんな気づいてたと思うわよ」
「・・・下級とまではいきませんけど、それでも大して力はありませんよ。それにあっちでの生活が嫌だったのも貴方達より力が下っていうのも事実です」
「・・・まぁ、そういうことにしといてあげる。でも貴女そんなバレ易い嘘をよく吐く気になれたわね」
私がそういうと彼女は無邪気でどこか意地悪な笑みを浮かべた。
「あくまで小
地の文の質を上げたいです・・・