東方末妹録   作:えんどう豆TW

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月月火水木金金


七つの曜日と魔法使い

 

:Side Meirin

 

 今日も平和な一日だ。お掃除はさっき片付けたし今からお嬢様達のお食事を用意するとしよう。妖精たちは真面目に働いているだろうか?いや、その可能性はかなり低いだろうな。それでもある程度はやってくれているだろうし、リリィ様に見つかったら怒られるのは彼女達なのでサボるとまではいかないだろう。

 妖精メイドの様子を見に行こうか迷っているといつの間にか外の『気配』が変わった。この館に窓は無いが私は能力で外の変化に気付くことができる。

 日が落ちた、もうすぐお嬢様達が起きてくることだろう、そろそろキッチンに行かないと食事に間に合わなくなってしまう。急がなければまたからかわれてしまう、最悪オシオキが待っていることだろう、そう考えた瞬間に体がぶるりと震えた。先月妹様のオシオキを見てからというものトラウマになってしまった、そしてそのことを知った妹様がたまに脅しに使ったりしてくるのだ。未だに受けたことはないがリリィ様の姿を見れば結果は明白、アレだけは回避しなければならない。

 キッチンに向かう途中に妖精メイドの一人が私に向かって飛んできた。慌てた様子なので緊急事態と判断する。

 

「どうしました?」

「め、美鈴さん!えと、その」

「侵入者ですか?」

「いえ、侵入者っていうか、お客様っていうか、なんていうか・・・」

 

 どうにも歯切れの悪い様子である。それにお客様?お客様といえば20年ほど前に来た魔界の使いくらいだ。いったいどういうことだろうか、とりあえず門に行ってみるしかない。

 

 急いで門に向かってみるとこちらに気付いた妖精メイドが一人の少女を連れてやってくる。とりあえず彼女がそのお客様とやらなのだろう。紫色の長髪にボロボロの衣服、『気』でなんとなくわかるがこの少女は人間ではない。

 

「私はこちらの館に仕えております紅美鈴と申します、よければお名前だけでも・・・」

「お願い、私をここに匿って!」

 

 唐突なお願いに少し驚く。なるほどこれは侵入者ともお客さまとも呼べないわけだ。とりあえずお嬢様を呼んでこなければ話が始まらないので少女を玄関で待たせて妖精メイドに見張らせる。万が一侵入者だとしても彼女たちの足止めがあれば私で十分対処ができるだろう。

 私は急いでお嬢様の部屋まで向かうことにした。

 

 

 

 

 

 

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:Side Liliy

 

 私は今大広間にいる。隣にいるのは紫色の髪の少女、彼女は魔法使いらしく魔女狩りに遭ってここまで逃げてきたらしい。向かい側にはお姉さま達、美鈴はお姉さま達の後ろに控えている。

 

「それで?魔法使い殿はここがどこかわかっているのだろうな?」

「ええ、ここはかの有名な紅魔館。吸血鬼の三姉妹が住んでいて恐ろしい噂が後を絶たないところ」

「くくっ、その通りよ。それでここに匿ってほしいっていうからには見返りを求められてもおかしくないだろう?」

「これでも私は魔法の研究を続けて40年、魔法にはかなり自信があるの。この館のために魔法使いとして尽くすわ、それでどう?」

 

 この少女、どうやら相当の自信家らしい。初めて魔法使いに会って私は内心とても嬉しかった。

 

「ふぅん、ところで貴女の隣にいるその子は魔法の研究を続けて100年くらいになるけど」

「・・・本当?」

 

 少女が私を見る。というか私のハードルを簡単にあげてもらっては困る。だが私にも魔法を使う者としてのプライドはある。

 

「ええ、まあ・・・」

「・・・これで私が退くとでも?むしろ余計に退くわけにはいかなくなったわ、貴女にいっぱい話も聞きたいし」

 

 しかし少女の眼に宿る光はより確固たるものになった。その様子を見たレミリアお姉さまは興味深そうに少女を見た後口の端を吊り上げた。

 

「貴女のその貪欲さ、気に入ったわ。ここに住まわせてあげる」

「有難きお言葉、頂戴したわ。魔法使いのパチュリー・ノーレッジよ」

「この館の主、レミリア・スカーレットだ、良い関係を築けることを望むよ」

「あ、話終わった?じゃああたしは部屋に戻るねー」

 

 フランお姉さまは立ち上がり部屋に戻ろうとして振り返った。

 

「フランドール・スカーレット、主様の妹よ」

「同じく主様の妹で妹の妹、リリィ・スカーレットです」

「紅美鈴、お嬢様達にお仕えしております」

「よろしく」

 

 それぞれが挨拶を終えて解散となった。新しい家族が増えたというところだろうか、美鈴の一件からレミリアお姉さまは随分と開放的になった、フランお姉さまは割とどうでもいいらしい。さて、私も図書室に戻ろうかなと立ち上がったところでパチュリーが私の肩を掴む。片手には魔導書。

 

「さっそくお話ししましょう?今私が研究してるのはここの魔法なんだけど・・・」

 

 魔導書を広げて話し始めるパチュリー、仕方なく私も座って彼女の話を聞くことにした。

 ちなみに白熱しすぎて一日中話していたことに気付かずにお姉さま達に呆れられた。

 

 

 

 

 

 

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「私の魔法が見たい、ですか」

「ええ、正確にはあなたが魔法を使ってるところを見たいの、魔法はこの間見せてもらったしね」

「構わないんですが、最近は侵入者もめっきり減って使う機会がないんですよねぇ」

 

 

 現在私は時計塔の下の屋上にいる。ここから見渡す景色はとても好きだ。人数が多くなったのでフランお姉さまが食事はここでとろうと提案したのだ。普段は図書室に籠っているパチュリーも食事の時は出てくる。そして今は夕食、パチュリーを含めた5人でテーブルを囲んでいる。夕食が終わったところでパチュリーが私が魔法で戦っているところを見たいと言い出したのだ。

 

「じゃあさ、あたしと久しぶりに遊ばない?」

「いいですよ、最後にやったのはいつでしたっけ」

「うーん、美鈴がこの館に来る少し前だったかな?」

「二人とも、ほどほどにしときなさいよ」

 

 フランお姉さまと『遊ぶ』のは久しぶりだ。前はフランお姉さまが本気で戦ってみたいとか言い出した時だったか。

 

「組手のようなものですか?」

「美鈴は武術をやってるんでしたね、まあ組手じゃ済まないと思いますけど・・・」

「よくわからないけど、私は貴女の魔法が見れれば何でもいいわ」

「じゃああたし先に言ってるねー」

 

 そう言うとフランお姉さまは下へと飛んで行った、いや降りていった。

 

「フランったらあんなにはしゃいじゃって」

「レミリアお姉さまも今度やりますか?」

「遠慮するわ、疲れるもの」

 

 基本的にレミリアお姉さまは争いごとを好まない、私達が好戦的なだけかもしれないが。

 

「じゃあ私も行きますけど、なるべく離れててくださいね、巻き込みかねないので」

 

 そう言い残すと私も時計塔から急降下した。

 

 

 

 

 

 

 

 

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「準備はいい?」

「はい、いつでも大丈夫です」

「じゃあ始めよっか」

 

 私たちは広めの更地に移動した、と言っても元本館のあった場所だ。結局土地を買い取るものがいなかったのだ、当たり前といえば当たり前だが。

 さて、組手のようなものだが本気の勝負だ。手を抜いたら消し炭といった恐ろしい組手だがそんなことになる手前で止めるだろう。私はフランお姉さまと距離をとって魔力を開放した。

 

「『レーヴァテイン』」

 

 フランお姉さまの手にどこからともなく炎を纏った大剣が出現した。いや、剣というにはあまりにも歪な形をしているアレは何と呼べばいいのだろうか。昔私の教えた投影魔法の応用だろう、今も使ってくれてるとは思わなかったのでとても嬉しかった。私もそれに応えよう。

 

「どう?昔のアドバイス忘れてなかったんだよ」

「ええ素晴らしいです、完成度もとても高い」

「そうでしょ?だからリリィのも見せてよ」

 

 フランお姉さまが待ちきれないといったように力を開放していく。待ちきれないのは私だって同じだ。

 

「『天穿つ死の呪槍(ゲイボルグ)』」

 

 私が投影したのはケルト神話に登場する英雄、クーフーリンの使ったとされる伝説の槍だ。これに纏わせている魔法は相手に当たると相手の内部の魔力、妖力と相殺する一種の呪いだ。本来は使い方が違うのだが槍として使うのには十分。

 張りつめた糸が切れたように私たちは衝突した。

 

 

 

 

 

 大剣を振りかぶるお姉さまを見ながらその手元を狙って突きを繰り出す。しかしその大きな外見からは予想も出来ないようなスピードで繰り出された斬撃に驚いて槍を横にして受け止める。パワーでは当然あちらが上、押しつぶさんとする大剣を受け止めながら横に跳ぶ。すぐさま反応したお姉さまは薙ぎ払うように大剣を振るって炎を撃ち出した。体勢を極限まで低くして火炎を躱しながら次は右肩の下あたりを狙う。お姉さまは地面を勢いよく蹴り後退した。

 

「ふふっ、ふふふふあははははははは!やっぱり楽しいね!こうやって全力出さないと体が腐っちゃいそうだよ!」

「同感です、運動は大事ですね」

 

 再び衝突。しかし次は槍の突きだけではない。側面から長剣や槍を投影してお姉さまに飛ばす。お姉さまは少し下がって私との空間を作ると回転するように大剣で薙ぎ払ってすべてを撃ち落とした。やはりこの程度ではダメか。

 

「『フォーオブアカインド』!」

 

 お姉さまが叫ぶと4人に分身した。あまりの驚きに体が強張り反応が遅れる。慌てて大げさに距離を取るが少しかすり傷を貰った。

 

「初めてみましたよ、こんなの」

「「「「当たり前じゃない、誰にも教えなかったし」」」」

 

 お姉さま()が意地悪な笑みを浮かべる。おそらく分身は本物よりも能力が劣るはずだ、ならば―――――。

 

「「「「・・・?」」」」

 

 更に大げさに距離を取った私に怪訝な顔をするお姉さま。私はスピードを全開にして地を駆けるとゲイボルグを力いっぱい()()()()()した。

 前進してくると構えたお姉さま達は慌てて上空を見て構え直す、しかしその体は完全に硬直した。

 投擲したゲイボルグは無数の槍に姿を変えたのだ。

 

「――――――降り注げ。」

「「「「わっ!ちょちょちょちょ!」」」」

 

 慌てて撃ち返そうとするお姉さま達、しかし無数の槍を撃ち落すことはかなわなかった、本物以外は。

 

「はぁ・・・はぁ・・・なるほどね、こんな武器創ってるんじゃ時間もかかるものね」

「ええ、本当に苦労したんです。何十年かかったことか」

 

 レーヴァテインを構えなおそうとしたお姉さまの顔がさらに驚きの表情に変わる。

 

「嘘・・・なんで?まさか魔力切れ?こんな早く?」

 

 レーヴァテインは風化したようにボロボロになっていた。

 

「私のゲイボルグには魔力を相殺する呪いが纏われているんです。そのレーヴァテインで何本撃ち落しました?それと、何本掠りました?」

 

 私の言葉にはっとして魔力を巡らせようとするお姉さま。やがて魔力を抑えて両手を上げた。

 

「はぁ・・・またあたしの負けかぁ」

「お互いに隠し札を持ってたんですね、私の方が多かったみたいですけど」

「今度は勝てると思ったのにぃぃぃぃ・・・あたしも魔法のお勉強しようかしら」

「そしたら私が勝てなくなるじゃないですか」

 

 『遊び』を終えた私達はパチュリー達が観ていたであろう時計塔まで飛んで行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、どうでした?私達の『遊び』は」

「これで遊びですか・・・・・・・・・」

「・・・・・吸血鬼がどれほど恐ろしいかを理解したわ」

 

 美鈴とパチュリーの顔が引き攣っていた。

 




色々詰め込みすぎたかもしれません・・・

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