東方末妹録   作:えんどう豆TW

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タイトル通り


虹の気、道場破り

 人間は愚かだ。唐突に何をと思うかもしれないが、人間は愚かなのだ。

 私の恐怖は功を奏したようで大規模な反乱は起こらないのだが、それでも吸血鬼を倒せば名を馳せることができると意気込んでくる人間は少なくない。単身、ペア、トリオ、ちょっとした徒党を組んで挑んでくることもある。最初は適当に追い払っていたのだが最近は面倒になってきたので妖精をメイド兼昼間に来る人間のための用心棒として連れてきた。これを提案したのは私ではなくレミリアお姉さまだ。私は魔法の実験ができてよかったのだけど、掃除が大変らしい。街まで試しに行こうとしたら止められた。箱入り娘もつらいものだ。

 というわけで妖精メイドには昼間に来る人間は通すようにしてもらっている、最近は血を操る魔法を獲得したので掃除だって手間がかからない。肉塊は消滅させるだけだし。これが数日前までの私だ。

 現在私はこの館の主様の妹様のベッドに寝かされている。監視には吸血鬼という厳重態勢だ。レミリアお姉さまは執務室でお仕事中だ。

 

「フランお姉さま、私はもう元気ですのでそろそろ・・・」

「何言ってるの?2週間も寝ずに動き回って挙句魔法まで使ってぶっ倒れたのはどこの誰だったかしら、なんならあたしが元気かどうか試してあげようか?」

 

 フランお姉さまが手をわきわきと動かした瞬間体中に悪寒が走る。あのオシオキ以来私はこちょこちょがトラウマになっていた。呼吸困難、身体機能低下、果てに動けなくなり糸の切れた操り人形のようになる。あの後人形のように動かなくなった私はフランお姉さまに抱かれながら涙の夜を過ごしたのだ。

 

「大人しくします・・・」

「よろしい、大体なんであたし達に隠れてそんなことするのかしら?いい加減あなたも70年生きてるんだから子供っぽいことなんてやめたらいいのに」

「フランお姉さまだけには言われたくないです」

「お姉さまに言われてもそういうでしょ?」

「はい」

 

 苦笑するフランお姉さま。結局何十年経っても私たちは変わらなかった、もちろん喜ばしいことだ。姉妹愛は欠けることなく深まる一方だったのだから。

 

「で、どうだったの?魔法の方は」

「研鑚を重ねてきたのですから、当然上達しましたよ。投影魔法だって随分消費を抑えることができるようになりましたし、長年の目標も達成できました」

「あー神話の武器の投影だっけ?」

「はい、ケルト神話の武器をモチーフにして創ってみました。まあ結局は魔力の塊でしかないんですけど、性能や効力を魔法でできる範囲で再現できるようになりました」

「相変わらず魔法に関しては姉妹の中でも断トツねぇ・・・」

「そのうち魔女狩りの対象になってしまうのが心配です」

「どうせ全部血だまりと肉塊に変えるんでしょ?その前にあたしとお姉さまが近づけさせないけどね」

「頼りにしてますよ」

 

 私はこれでも変わった。色んなことをお姉さま達に頼るようになったしたくさん甘えるようになった。それも日常化してしまえば当たり前だが変えようと意気込んでいた当時はなかなか難しかった。

 

「召喚魔法禁止令はいつ解かれるんですか?」

「一生使えないと思った方がいいよ」

 

 永遠に封印されてしまった。

 

「あと、最近は魔工具を創るのが趣味でして」

「魔工具?」

「魔法道具みたいなものです、日用品としては使えませんが」

「要は武器?」

「そういうことです、いろいろと術式を編みこまなければなりませんが」

「えー・・・それって投影魔法じゃダメなの?」

「投影魔法じゃダメなんです、消費がとても激しいんです」

「元から魔法を維持してるってことね」

「そういうことになります、いずれはこの館にも半永続的な防御魔法でも貼りたいですねぇ・・・」

「その時はリリィにお任せするわ」

 

 それにはもう少し魔法の腕前を上げる必要があるな、今も出来そうといえばできそうなんだけど。

 フランお姉さまと談笑を続けているとレミリアお姉さまが仕事を終えて戻ってきた。

 

「やっと終わったわ・・・」

「お疲れ~」

「お疲れ様です」

「ありがとう二人とも」

 

 最近は紅茶を淹れる練習もしている、妖精メイドの淹れる紅茶は不味いとは言わないがどうもこれじゃない感じがする。

 

「はい、紅茶を淹れてみました。お口に合うかわかりませんが・・・」

「あら、いつの間に・・・んぐっ」

「どうですか?お味の方は・・・」

「えぇ、えぇ、これからもっとよくなると思うわ・・・」

「ほんとですか?良かったです」

 

 どうやら成功のようだ。なんだか顔色が良くないように見えるのは気のせいだろうか。

 

 

 

 

 

 

「お姉さま、大丈夫?」

「こっこのくらい、なんでもないわ」

「手が震えてるよ?休む?」

「ふっふふっ、愛が重いわ・・・」

 

 

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 

 

 私は遅寝早起きだ、魔法の試験用生物をみすみす見逃すのは惜しい。

 さて、今日もお客様が来たようだ。しかしこんな夕方に来るのは珍しい、いつもは吸血鬼が弱ってる朝方や昼間を狙ってくるというのに。お姉さま達も今起きたようで眠そうな顔で大広間まで歩いてきた。

 大広間に入ってきたのは東洋の国の格好をした女性だった。隠そうともしていない妖力が溢れ出しているのでおそらく妖怪だろう、しかも今まで見た中でもかなり上の方だ。

 

「まだ妖精メイドの仕事時間中よ?貴女、人間じゃないでしょう?」

「ええ、私は妖怪よ。この館にすごい強い妖怪がいるって聞いてね、いてもたってもいられなくなったわけ」

「ふーん、それであなたは誰と戦いたいの?あたし?」

「ていうか私はもっと怖い強そうな悪魔を想像してたんだけど・・・お子様が三人ってどういうこと?あ、わかった!あなた達のお父さんでしょ?強いって噂の。呼んできてくれな」

 

 目の前の女性が言い終わる前に床にヒビが入る。吸血鬼が3人も力を解放したのだから当然だ。

 

「口を慎め、ただの妖怪風情が。貴様に何の権利があってその口を開いている?」

「・・・失礼しました。あなたが『片翼の紅い悪魔』・・・じゃなさそうね」

「ええ、私の妹のことよ」

「そう、そこの桃色の髪のお嬢さんね?」

 

 私は無言で頷いた。しかしあんなに怒ってるレミリアお姉さまは初めて見た、当たり前といえば当たり前だが。

 

「へぇ、あたし達はおまけってわけ?」

「さっきので強いのはわかったわよ、でも私が話を聞いたのはこの子だし、お願いできるかしら?」

「いいですけど、ルールはどうするんですか?」

「え、ルールとか決めるの?普通に戦って倒れた方が負けじゃないの?」

「それだとあなたにとって不利でしょう。そうですね・・・私が片膝でも床につけたら負けというのはどうでしょう?」

「・・・随分と舐めてくれるのね」

「さっきのお返しですよ」

 

 私と女性の間に不穏な空気が流れる。狙いが私と分かった途端にお姉さま達はやる気を失くしてしまったようだ。

 

「でもいいの?あたし達の中で純粋に戦闘だけだったら一番強いのはリリィだよ?」

「ハードル上げるのやめてくださいよ、これで負けたら恥ずかしいじゃないですか」

「負ける気なんてみじんもないくせに」

「そういう問題じゃないです」

「あなたリリィっていうのね?勝負の前には名乗らないと、私は紅美鈴(ほんめいりん)、中国って国から来た妖怪よ」

「スカーレット家の末女、リリィ・スカーレットでございます。どうかお手柔らかに」

 

 お辞儀も忘れない。お姉さま達の私を見る目が娘の成長を見守る母親のそれになっていた。思えば母親のように私のことを育ててくれたのはお姉さま達だ、彼女達にも母親は必要だったはずなのに――――。

 思考を無理やり現実に引き戻す、今は目の前に集中だ。お姉さま達が見てる前で恥ずかしい勝負はできない。

 

「始めていいかしら?」

「いつでもどうそ」

 

 言い終わると同時に美鈴が床を蹴って跳躍する。ここは冷静に動きを観察する。スピードはそこそこ、妖力も防ぎきれる程度、気になるのは拳に纏う虹色の光だ。あれを受けるのは得策とは言えないが受けない限り効果がわからない。おそらく彼女の能力によるものだろうが避けるのが一番いいか。

 そこまで考えて数歩後ろに下がってから小さく飛んで空中で回転する。美鈴の攻撃を避けたうえでの左肩への踵落とし。小手調べにしては大胆な動きだがどう出るか。

 そこまで考えて私の体は強張った。美鈴の拳は空を切りそこから虹色の気が放たれたのだ。慌てて魔法障壁を展開して防御するがその一撃で障壁にヒビが入った。さらに美鈴は私の踵落としを受け流した。

 

「なるほど、本当に貴女のことを舐めていたようです」

「お互い様ね」

 

 ひとつは彼女の能力について、おそらくあの虹色の気を自在に操ることができるのだろう。威力もかなり高い、直撃は流石に良くない。

 もうひとつは彼女の武術、こちらもかなり高度なものだ。威力の高い一撃より小さいダメージを重ねた方が良さそうだ。

 

 次はこちらからいかせてもらおう。瞬時に美鈴との距離を詰めて、連打を繰り出す。手の形は爪を立てるようにして打撃よりも斬撃に近い形でダメージを与える。インファイターの構えでの攻撃は美鈴にとって相当苦手らしくバックステップで距離を取ろうとする。しかし次の瞬間美鈴の顔が苦痛に歪む。

 

「ぐぅ・・・がはっ」

「チェックメイトです、美鈴」

 

 美鈴の腹部には長剣が3本刺さっていた。美鈴が崩れ落ちたところで投影魔法を解除する。

 

「格闘専門だと思ったのだけれど・・・ごほっ」

「どっちかっていうと魔法の方が得意ですね、近接はフランお姉さまの方が強いですよ」

「なんか失礼なこと言ってない?」

「褒めてるんです」

「ふっ・・・ふふっ・・・完敗、ね・・・煮るなり焼くなり好きにして」

 

 私はお姉さま達の方を見る。レミリアお姉さまは少し考えると美鈴に近づいいて座り込む。

 

「ここで殺すのは簡単、私たちのことも怒らせたしね。でもそれも勿体ないわ・・・あなた、ここで働きなさい」

「は、働く・・・?」

「そうよ、ここで働きなさい。そうね・・・メイド長、うん、メイド長がいいわ。そして死ぬまで私たちのために尽くしなさい。ちなみに拒否権はないわ」

「・・・わかり、ました。今日からこの紅美鈴、あなた達にこの身を捧げます」

 

 レミリアお姉さまが手をかざすと美鈴の背中が赤く光る、契約の紋章だ。

 こうして美鈴が紅魔館のメンバーの一人として加わった。

 

 

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 

 

「美鈴、紅茶を淹れて頂戴」

「かしこまりました、お嬢様」

 

 美鈴はたった半年でこの館に馴染んだ。もともと性格がいいので特に衝突もなかった、天然なのが目立つが。

 美鈴の家事力がとても高いので私の紅茶の練習は無駄に終わってしまった。美鈴の淹れた紅茶を飲んで満足そうに頷くレミリアお姉さま。

 お姉さま達を盗られたようでとても悔しかったので美鈴に何かとちょっかいを出しているとお姉さま達が真似をし出した、特にフランお姉さま。

 

「妹様!前が見えません!」

「美鈴の能力ならこのまま仕事できるでしょ?」

「無理ですよ!リリィお嬢様も見てないで助けてください!」

「力じゃフランお姉さまに勝てないんです、ごめんなさい」

「そんな!手をどけてください妹様!」

「前から気になっていたんですけど、なんでフランお姉さまは『妹様』で私は『リリィお嬢様』なんですか?」

「うーん、最初に名乗られたからですかねぇ、あんまり意識してなかったんですけど。私も気になってたんですが、どうしてリリィお嬢様は私にも敬語を使うんですか?」

「うーん、癖ですかね」

「癖ですか」

 

 現在美鈴は掃除中だ。そこにフランお姉さまがちょっかいを出しに行って私が居合わせたというわけだが、レミリアお姉さまの仕事中は大体美鈴がおもちゃになっている。やっぱりお姉さまを盗られたようにしか思えない。

 さて、私も研究の方を進めよう。久々に一人で研究をするのが少し寂しく、少し嬉しく思えた。

 

 

 




美鈴が仲間に加わった!
これからキャラを増やしていこうと思います

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