衛宮さんがセイバーじゃなくて抜剣者を召喚しました。   作:さわZ

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第四話 英雄と狂った守護者

 少女は不幸の渦中にあった。幼い頃に母とは死に別れ、助けに来ると思っていた父は来ず、不気味な術式や儀式が生活にリズムに組み込まれた。そして、聖杯戦争が起こった。だが、少女程人生の殆どを費やしたというのに彼女の呼び出そうとしたソレはガラクタの山だった、それは西洋の騎士の物だと思われる黒い籠手。兜。鎧といった物が無造作に転がっているだけだった。正道に近い色合いをしていたそれらのガラクタはまるで彼女の実の父親を思わせるカラーリングだった。

彼女が閉じ込められていた洋館。その際奥で行われたサーヴァント召還だったが故に彼女とその時目にしていた者達は失望と絶望が織り交ざった物を見せていた。

 

少女が願ってやまない『カゾク』への想いがこの『黒いガラクタ』を呼び出したのかと。

 よく見ればガラクタの中に細長い棒のようなもの混ざっていた。剣にしては細すぎる。槍にしては短すぎる。ナイフや短刀にしては少しばかり長い。そもそも殺傷能力になりそうな『刃』が無かった。

 

 少女の召喚の一部始終を見ていた者達。魔術師たちは彼女を始末することにした。やはり道具は道具として『ヒト』を混ぜるものではないのだと、処分することにした。処分されると知った少女は屋敷から飛び出した。それが無駄だとはわかっていても地獄のような生活をしていても微かに残っている優しい母親とほんの僅かだが優しく接してくれた父との思い出が少女を突き動かした。だが、その生きたいという衝動も計算のうちなのか彼女に処分を下した者達はせめて自分達が調教。いや、魔術で生き物としてではなく道具として能力を調整した猟犬の実験体にすることにした。誰もが今ここで少女の命が尽きるのだと思っていた。魔術とは非情なものだと。用済みは処分する。だからこそ気が付かない。

 

 自分達とはある意味正反対の位置に存在している『黒いガラクタ』。その兜の瞳にあたる部分に緑色の光が点灯した事に。

 

 走る走る。ひたすら走る。自分の命を脅かす存在から逃げる為に靴も履かず飛び出した少女が見たのは雪原の白とかれた森の木と地面の土茶色。朝でも夜でもないまるで灰色の夜空だった。

 灰色の空から降ってくる雪で少女がいた洋館の外は雪原が広がっていた。雪で皮膚が凍傷を起こしたのか、それとも雪の下にある石か枝で傷つけたのか白い雪原に点々とついている少女の足跡に赤い血が混ざっていた。

 誰か来てっ。まだ死にたくない。誰か私を守ってと。だが誰も助けはしない。彼女を助けようとする『人間』も『元人間』も、自分を助けてくれる信じていた父も自分の叫びには答えなかった。だが、答えてくれる存在があった。

 少女を守るかのように抱きかかえたのはあの『黒いガラクタ』だった。あのガラクタの山は彼女の助けていう『想い』と、彼女が呼び出したモノに限度がある奇跡を執行させる紋章。『令呪』の一画を消費して短距離ワープを思わせるような現象を引き起こし、彼女を助け出したのだ。その思いと力は『黒いガラクタ』を全長二メートルはある『騎士甲冑』へと変貌させたのだ。

 少女の喉上にあと一歩の所まで迫っていた猟犬の牙はその起こされた奇跡により文字通り召喚された騎士甲冑の籠手にあたる部分で塞がれた。本来なら人の腕だけでなく警棒や現代比べて粗雑に作られた中世の籠手などもかみ砕けるその牙が召喚された籠手に噛みついたことで逆に砕けた。それと同時に少女に噛みつこうとした猟犬を騎士甲冑が吹っ飛ばす。

 突如現れたその騎士甲冑から滲み出る人で出せないだろう威圧感に猟犬達は後ずさる。それは甲冑の肩に乗せられた少女すらも驚いていた。何故ならこの騎士甲冑の中に人と思える物ではなくまるで車のようなエンジン音が静かにだが熱く鳴り響いていたから。

 その驚きと共になんと騎士甲冑から声が聞こえた。目の前にいる。いや、接している甲冑の中からではないまるで鎧の外。表面上から聞こえてくる声に少女や猟犬。その異常事態に気が付き現場へとやって来た少女を処分しようとしていた人間達が目を剥いた。あれは何だ。まるで、意志を持った鎧かと。

そんな驚きも数秒、猟犬達はその騎士甲冑の警告も無視して、自分達に下された命令を実行するために少女と少女を守る騎士甲冑に襲い掛かるがその分厚い小手とすね当て。兜によって殴られ蹴られ頭突きでその牙や爪を砕かれる。分厚いその鋼鉄の塊を見に纏っているのにまるで嵐の様にだがその中心にいる少女はまるで被害にあっていない。あっていると言えば目の前に広がる雪のように白い髪がその勢いで巻き起こった風によって髪が乱れたくらいあろうか。

その光景に驚き恐怖した魔術師の一人が宝石を用いた魔術で出来た魔弾『ガント』を撃ち込もうとした瞬間、甲冑からカタコトな言葉が聞こえた後、銃による発砲音が雪原に広がった。基本的に魔術師は文明の利器をあまり利用したがらない。その為、魔術ではなく科学で作られた銃などは無粋と考えているのでそれが銃から聞こえた音だと認識するのに時間がかかった。何よりその出所がおかしかった。何故ならばそれは騎士甲冑の肘にあたる部分から聞こえたのだから。その証拠に微かに黒い黒煙が騎士甲冑から立ち上っていた。

 その撃ちだされた物。場所。そしてその狙撃により自身の体に激痛が走り悲鳴を上げた自分達の仲間の一人が負傷した。次は自分が目の前に現れた元『黒いガラクタ』にやられるかもしれない。そう考えた瞬間に魔術師たちはまだ無事な猟犬に命令を下し、自分達も魔術を使い目の前の障害を排除しようとした。そこからあまりにも一方的な虐殺激。いや、駆除が行われた。

 

 少女が召喚した『黒いガラクタ』は彼女を地面に降ろすと彼女を背にして迫りくる魔術を正面から受け止め、猟犬達の爪と牙を受けた。だが、無傷。これがサーヴァントという物か。それとも彼が身にしている鎧の性能か。迫りくる魔術を、牙を、爪を。その身一つで砕き粉砕する。それだけで猟犬は命を散らした。魔術師は『黒いガラクタ』が持つ銃によってその武器である魔術を中断され、その全員が撃ち殺されることになった。奇しくもそれは少女の助けと少女が持つ令呪によって命じられた救いを求める言葉を体現するものとなった。そして、それはまるで自分が助けを求めていた父親の背中に想いを乗せていた頃の自分の夢を体現していた者だった。

 

 その時から彼女の生活は一変した。

 まず自分を調整してくれた輩と場所を自分が呼び出したサーヴァントと共に一掃した。信じられる者達を傍に置き自分の世話を焼かせた。それにより陰鬱とした魔術とは程遠い、まるでお嬢様のような生活が始まった。そこから少しずつ自分は本当の意味で笑えるようになったのかもしれない。それは自分が呼び出した『黒いガラクタ』、サーヴァントのおかげ。

 それは戦力的な意味も兼ね備えているがそれを実感したのは呼び出したその日だけ。自分が今の生活を確立させた頃になんとサーヴァント自ら少女と彼女が自ら選んだ従者の二人に『お手伝い』を願い出たのだ。だが、その『お手伝い』が役に立ち、楽になったから少女が笑えたのではない。むしろその逆であり、少女やその従者を困らせ怒らせたからだ。

 二メートル近いその巨体からは見た目通りの不器用さとその風貌にあるまじきうっかり癖を見せて手伝いを申し出たその日にベッドシーツを二枚、お皿を十枚、何故か何もないところで躓き、豪華なテーブルといすを一つずつ破壊。頑丈なはずの屋敷の内壁どころか外壁を突き破り、整備していた花壇を一面にまるで昔の漫画の様に人型の穴を形成する。その所業に少女の従者のみならず、命の恩人であるはずのサーヴァントに怒る少女に縮こまるそれはまるで大きな弟を叱りつけている小さな姉のような光景だった。

 だが、自分の感情をそのまま出すことに繋がり少女は笑うようになった。

 この聖杯戦争とそれに関与する魔術師の所為で自分の運命は狂った。だけど同じく狂ったサーヴァント、狂戦士(バーサーカー)に助けられた。この狂った世界と運命のおかげで自分は新しい家族と強いけど手のかかる素直な弟を手に入れた少女は幸せだった。

 我が身に宿る困難は山ほどあるが自分が呼び出した弟と従者がいるのならこの戦争も勝ち残れる。なにせ、自分が呼び出した存在は魔術とはかけ離れている存在だが、とても優しく強い。遠近両用の戦いが使い分けることが出来る最高の戦士だと感じ取ったから。自分の願いは叶うのだと信じていたから。

 

 また呼び出された『黒いガラクタ』、バーサーカーにも願いがあった。その願いは自分を召喚した少女を守る事。彼女の願いを叶える事だ。まるで忠誠を誓う騎士そのもの。本当にこの存在は狂っているのかと疑わずにはいられない存在だったが、その実、ある意味バーサーカーというにふさわしい存在。ある意味狂っているからこその願いであり存在である彼。

その根本にあるのは自分を助けてくれたあの人の意志。あの人の力になりたいと思いながら心半ばで消えていったはずの自分の存在を召喚という形で機会をくれた少女への恩返しもあっての事だ。そう、あの人の事を自分はこう呼んでいた。

 

 

 

 

 

 

 『・・・教官ドノ?』

 

 「・・・もしかしてヴァルゼルド、ですかっ?!」

 

 数百年以上の時を越えてバーサーカー。狂った機械。ヴァルゼルドは自分が守りたかった人と冬木市で聖杯戦争という舞台の上で再び出会う。

 


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