衛宮さんがセイバーじゃなくて抜剣者を召喚しました。   作:さわZ

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アティ「シロウ君に足りないものぉ、それはっ。知識、技術、人脈、才能、物資、魔力、笑顔、見識力、物事に対する想定力っ。だが何よりもぉおおおっ」

アティ「●●が足りない!」

シロウ(´・ω・`)……

 ●●はネタバレになりますのでこの辺で。



第二話 英雄になるために必要な物

 

 願いを叶える為に七人の英霊を呼び出し殺し合いをさせて、その魂を用いて願いを叶える為の殺し合い。それが聖杯戦争。

 そんな残酷な戦いに巻き込まれたのだと応接間に通した女性とそのサーヴァントから聞かされたシロウは思わず声を上げた。

 

 「そんな、そんなふざけた事が許されるのか!」

 

 つやのある長い黒髪を持つクラスメート。遠坂リンに簡単に説明してもらったシロウは湧き上がる感情を抑え切れなかった。その戦争で無関係な人間を巻き込まないという保証が無いと聞くとセイバーの方も憤りを隠せずにいた。

 

 「それが魔術師という生き物なの。『目的の為ならどんな犠牲を払っても構わない』という考えを持つ生き物で呼び出される英霊も自分の願いを叶える為の糧としか考えていないのがほとんどよ。あと、魔術が使えない人達を見下している節もあるわよ。ちょっとした選民嗜好を持っているわね」

 

 「むっ、同じような術を使っている私としては受け入れがたい人達ですね」

 

 召喚術。アティがいる世界では響命術と呼ばれる魔術が確立している。それは『目的の為に力を合わせる』というもので、誰かをないがしろにするという考えとは真逆に当たる。

 

 「・・・あまり敵が有利になる情報を漏らさない方がいいぞセイバー。敵は何処にいるか分からんのだからな」

 

 絶対人種の力を持つ令呪でマスターであるリン『私の言うことを聞け』という命令を受けた白髪で肌黒の男性の英霊。アーチャーはその命令をそのまま実行した。『障害は正々堂々真正面からぶちぬく』と聖杯戦争の事を碌に理解していないシロウとセイバーに忠告をした。衛宮邸をくぐる前に奇襲を仕掛けるかマスターに申し込んだが却下されたためである。

 

 「はぁ、そうですか。あと私の名前はセイバーじゃなくてア」

 

 「だから待ちなさいって。見るからにあなたは自分の本当の名前。真名をいおうとしているんじゃないかしら?」

 

 「そうですけど?」

 

 本当に分かっているんだろうか、この目の前にいる知人のサーヴァントは。

 リンはのほほんとしているセイバーを見てため息をつく。

 

 「あのね、これは戦争で、貴方は英雄としてよばれた。いわば私達は敵同士。敵の真名が分かれば文献を調べて対処される。つまり相手にあまり情報を渡さない方が有利に事を進められるのよ。本来ならサーヴァント同士の相性もあるからクラスも明かさないのがいいのよ」

 

 「え、でも、リンちゃんは敵じゃないんですよね。だから大丈夫なのでは?」

 

 「あのね、最初に説明したでしょっ、これは戦争で私達は殺し合いをする敵だって!」

 

 「そうなのかっ?」

 

 「そ・う・よ!だー、主従揃って何でこんなにお気楽なのかしら!」

 

 リンは頭を押さえて用意されたお茶を一気に飲み干した。

 が、今度はリンのサーヴァントのアーチャーが呆れる番だった。

 

 「マスター。敵だと思うならその相手が用意したお茶も飲まない方が賢明だと思うが」

 

 「こ、これはっ。い、いいのよっ、どうせこんなのほほんコンビが出したお茶に毒とか入っているはずがないんだから!ていうか止めなさいよ!アーチャー!」

 

 「次から気をつけよう、マスター。あと、私のクラスも出さないでくれるかな」

 

 「な、あ、くぅううううっ。そこもなにニヤニヤしているのよっ」

 

 自らのミスに気が付き後悔し悶えるリンの姿に、アティとシロウは苦笑しながらリンを見守った。

 ああ、目の目にいる少女はやっぱり敵じゃないと。

 

 「遠坂はやっぱり敵じゃないな」

 

 「そうですね、リンちゃんは優しい子です」

 

 「なんなのよ、なんなのよっ!そんな優しい目で私を見るなぁああああっ!!」

 

 居た堪れないリンの声が衛宮邸に響いた。

 

 

 

 場所が変わって、冬木氏にある教会。リンはアティとシロウをこの聖杯戦争の管理人を務めている神父、言峰キレイ。

 彼に聖杯戦争のなんたるかをセイバー陣営に説明してもらう為にリンは二人を連れてやって来た。あれ以上自分のうっかりを出さないためにもキレイに丸投げしたリン。だが、二人が聞かされたのはリンから聞いた通りの殺し合い。

 リンから聞いたことは冗談ではなく現実。それを改めて知らされたシロウは感情を押さえられなかった。

 

 「何をそんなに憤っているのかな、少年。君の夢がようやくかなうのだ。喜びたまえ」

 

 「なにを、言って」

 

 「君のお父上、衛宮切嗣。恒久平和という願いを受け継いだ君ならば、『正義の味方』を目指している君がこの戦争で勝ち抜き、聖杯を手にすればそれは叶うのだ」

 

 冬木市で起こる聖杯戦争の管理人を務めるだけあってキレイはシロウの情報もある程度掴んでいるようだ。そして彼の夢であり目標であるキリツグの事も。

 

 「何も驚くことはない。魔術師同士のつながりは広く深い。まして、君の義父上は魔術師の中ではとても有名だったからね。そんな彼の養子の君の事も多少なり調べがつくさ」

 

 「・・・じいさんが」

 

 「ちょっと、私には知らせてなかったじゃない」

 

 自分の事が、自分の夢までも目の前の管理人に奔られていることに驚くシロウだが、逆にリンの方はそのふてぶてしい態度をそのまま出した。

 

 「知らせるように言われたわけではないのでな」

 

 「という訳でこのあんぽんたん達に細かい説明して」

 

 「本当にいきなりだな、リン。師が今のお前を見たらどう思うだろうな」

 

 優雅たれ。と常に余裕をもって冷静な判断を持っていた彼女の父親であり、自身の師は今の彼女を見てどう思うだろうか。自分が彼女に魔術のあれこれを指南していた時には見せなかった焦りのような物を感じる。

 そんな時アティはふとキレイに何かを感じ取った。それは自分が戦ってきたランサーの気配にも似た者だが、自分が以前にも感じた気配。それこそ神や王族の放つオーラのような物を感じ取った。アーチャーもリンもシロウも感じ取れなかった何かが自分達を見ているような気がしたのだ。まるで自分達を見定めるような何かの視線を。

 

 「どうかしたの、セイバー?」

 

 「あ、いえ。なんとなくここには居ない何かがこちらを見ているような気がして・・・」

 

 正確にはアーチャーとの念話でアティが何かに警戒している事に気が付いたリンは返ってきた言葉に警戒度を上げた。いくら管理人であるキレイが目の前にいるとはいえ、サーヴァント。人智を超越したとも言われる存在にかかれば一瞬の隙に自分達は殺されるだろう。

 そう言われたキレイもまたこれで話しは終わりだといい、この戦争に関わりたくなければ令呪を手放す手続きをすると切り上げた。

 

 「・・・俺がこの戦争を辞めると言ったらその後のセイバーはどうなるんだ?」

 

 「君の身元の安全は保障しようだが、そちらのサーヴァントは自害でもしてもらうしか他ならないな」

 

 「自害って、死ねって事か?!」

 

 「それは、流石に嫌ですね。外道召喚術くらいに理不尽です」

 

 あれ?でもペン太君とういう召喚術を使っていた自分達はどうなるのだろうか?呼び出されるたびに自爆ないし一家心中を実行させてきた自分達はまさに外道なのでは?と別方向に頭を悩ませるアティの様子にリンとアーチャーは呆れ果てていた。

 

 「それが嫌なら勝ち続ければいい。そして君が聖杯を手にすればそこのサーヴァントも助かり、願いも叶う。喜べ青年。君の願いはようやく叶う」

 

 聖杯を手にすればアティが死ぬことなく、また自分の願いも叶う。だが、それを行うというのはリンとアーチャーと戦争を。殺し合いをするということになる。だが、正義の味方を夢見た自分が戦争などという非道な手段を取っていいのかと悩み苦しんでいると、自分の右手にアティの手が触れた。

 

 「大丈夫ですよ、シロウ君。聖杯なんかなくても貴方の願いはかないますよ」

 

 優しく暖かい。まるで太陽の光のような暖かさを持った笑顔を見せるアティがシロウの隣にいた。

 

 「・・・ほう、『正義の味方』を体現するには巨悪の存在が必要となり、戦争という大舞台があればより際絶つ。今の状況程体現しやすいものがあるのかね?」

 

 「自分よりも弱い存在を守る。それだけで『正義の味方』じゃないですか。それに常日頃平和を守る自警団や軍隊や組織。誰かに知られることなく埋もれていく人達は表舞台でなくても立派な『正義の味方』ですよ」

 

 キレイはアティの言う言葉に興味を引かれた。身なりは神父然とした彼にとってアティのような綺麗事を並べるのは妄想のような物だと考え、どのような考えを持っているかと興味を引かれたからだ。

 現に世界は争い事が絶えない。現在進行形で行われている聖杯戦争や遠くの地で巻き起こっている民族紛争から殺人や強盗事件。それらをどう解決するのかと問うてみた。

 愛というのだろうか、仲間だというのか、それとも力というのか。さて、このサーヴァントはどう答えるのかと。

 

 「それはですね。・・・一応最後まで聞いてくれますか?」

 

 何やら自信なさげに言う彼女も戸惑った。いや、その答え自信をいうべきか悩んでいるようだ。

 

 「『いや、やっぱ言うなあああっ!』とか言うのも無しですからね?」

 

 「やけに念押しするわね。一応最後まで聞いてあげるから言ってみなさいって」

 

 リンとアーチャー。キレイはここまで来たなら最後まで聞いてやるかとアティの妄言に付き合おうと思った。このお人好しというかのほほんとした存在が『平和に必要なものは何か?正義の味方に必要な物は何か?』という答えを待った。

 それは彼女のマスターでもあるシロウも同じ。自分の理想に、自分の養父が夢描いた存在が、彼女のような存在に必要なものは何かと。自分に足りないものが何かを示してくれるそんな気がしてならないのだ。

 

 「平和に必要な物。そして正義の味方なるために必要な物。それは」

 

 「それは?」

 

 「お金です!」

 

 「「いや、やっぱ言うなあああっ!」」

 

 シロウとリンのツッコミが冬木市にある教会に響いた。

 アーチャーとキレイももう少しでツッコミをするところだった。

 

 「いえ、ですね。短期的、中期的、長期的に考えてお金は必要なんですよっ」

 

 短期的。

 まず争いをする輩を鎮圧させるために傭兵や組織といった力を得るために使うお金。これは言い換えてみればお金が無くてもそれだけの戦力があれば別になくてもいい。力が足りないなら人(お金)で賄えばいい。また、その被害に遭った人達の衣食住を提供するにもお金が必要となる。強奪や略奪など本末転倒であり、報酬が出ればその分やる気も出てより良い物が出来上がる。

 

 中期的。

 争いの原因となった物の解決案や妥協案。物資や貧困の格差などお金自体が争いの引き金になったのならそれを解決するための専門家を募って話し合いを行い実施させる。また、それらについて不備が無いようにその地域に学校のような物を立てて知識の底上げを狙う。宗教的な問題は別にして。というか誰かと争うような宗教っていらないよね?

 また、この争いが起きないように、もしくはその予防策を自分達で練り上げる為の知識と技術を提供させるためにも、その施設の開発、人材、環境を整える為にもお金が必要だ。

 ただ与えるのではなく自分達で生み出せるようにしてあげるのが狙い目。

 

 長期的。

 短期・中期で積み上げて来た物を持続させるために費用。そして、それを奪いに来ようとする存在から自分を守るための防衛力を養い持続させるために必要な物。やっぱりお金。

 そしてそのお金を捻出できるだけの知識や技術。人脈などを維持するためにもお金がかかる。

 

 

 「と、まあ。簡単に言うとこんな感じですね。『英雄』というのはこの短期的平和を成就させた人間で、中期的平和を完遂させた存在を『教育者』、長期的な平和を持続させる存在を『王族・貴族』または『政治家』という存在で彼等皆『正義の味方』と私は認識してますね」

 

 いつの間にかメガネをかけたアティが分かりやすく説明していた。

 なるほど彼女はロマンチストではなくリアリストだった。一見すると守銭奴のようにも聞こえるが彼女はお金の使い方まで説明している。

 

 「私はどちらかといえば中期的平和。と胸を張って言いたいんですけど、ちょっと力をつけすぎた所為で、あまりできていないんですけどね」

 

 とほほ。と若干涙目になりながら説明したアティに対してシロウは戸惑いを隠せなかった。そんなシロウに対してアティは優しく微笑んだ。

 

 「シロウ君。貴方が思い描いた『正義の味方』は今説明した中には無かったかもしれません。だけど、知っていてほしいんです。貴方が思い描いた『正義の味方』以外にも『正義の味方』がいることを。そしてそれが間違いだと思ったのならその間違いを一つずつ潰していってください。そうやって残った物が貴方の『正義の味方』です。自分がよしとしたモノだけを取って行ってください。否定するだけじゃない。肯定するだけじゃない。いろんなところからいろんな人達の経験。歴史。知識。技術の良いところを取り込んでいってください。悪く言えばいいとこ取りですね。でも、それが貴方の『正義の味方』なんですから。あ、でも自分より弱い存在を苛めるのはいけませんよ。特に何も知らない子ども苛めるなってもってのほかです。もしそうしようとしたら私はあなたの前に立ちふさがりますからね」

 

 優しく諭すようにアティは告げた。自分の言う事を受け入れて欲しいが受け止めなくてもいい。そう言った彼女は最後に付け加えた。

 

 「あ、あと最後に誰かを助けた後、誰かを助け続けたいと思うのなら心の底から助けられてよかったという笑顔でいてください。助けた人達に心配されている用事じゃ半人前以下ですからね。私もそれを校長先生に怒られました。それ以上に情けなかったんです。子ども達に『先生に笑顔を返してください』と子ども達がお祈りしている所はとても情けなかったなぁ・・・」

 

 これだけ自分の好きなようにしてもいいと言っておいて最後にこう締めくくるアティはきっと、子ども達にとっての『正義の味方』なんだろう。

 アティが注意する姿は自分が今まで聞いて来た英雄然とした威厳が全く感じない。どちらかといえば優しいお姉さん。または先生の様にも感じ取れた。だが、シロウはそんな彼女だからこそ改めて『正義の味方』になろうと思うのであった。

 




シロウが夢見る『正義の味方』が漠然としすぎて分からない。
この作品で出てきているアティ先生の持論は作者が色んな漫画から見た『正義の味方』とはというものに基づいております。原作のアティ先生ならもっとわかりやすくいんでしょうけど、作者的にはこれが精いっぱいです。

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