新社会「イクシーズ」―最弱最低(マイナスニトウリュウ)な俺―   作:里奈方路灯

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聖夜祭ファイナル3 限界ブッチギリバトル!!

 跳ねたのは白銀雄也だ。(おびただ)しい程の水蒸気を帯びて、天領白鶴に向かって食らいつくように向かった。

 大振りの回し蹴り、左拳をスイングさせて遠心力を乗っけての殴り、右拳のストレート、白鶴が勢いで吹っ飛ばされた所にさらに追撃で飛び込んで()()ねた。

 

 人知を超えた無法のラッシュ。それら総てを極一刀流の「風の刀」で全部防ぐ。……というか、防ぐ事しか出来なかった。全てすんでのところでの防御だ。

 

 白鶴は戦慄した。今まで幾程もの強者と戦ってきた。けれど、そのどれらの敵よりも彼の動きは……

 

 読めないっ!!我武者羅すぎる!道理が無いんだ、暴走した体の赴くままに動いているんだ!いや、違う……動かされている!

 

 白鶴の考え、それはおおむね正しかった。白銀雄也の今の状態、異常に発熱した体が唸りをサイレンのように轟かせて暴走させた。そこにはルールなんて無い、道理がなく、動きが理想形として紡がれていない。故に――そこに(いびつ)さという美しさを孕んだ。

 

 要するに、考えるより先に体がオーバーフライングして動いてる。天下の無縫者。白銀雄也は、止まらない。

 

『彼の能力、「不屈のソウル」にこんな能力は無い……!データにも載ってない、統計が取れてない……?』

 

 今の不可思議の状況を目の当たりにして驚愕しつつ考察する解説の岡本光輝。そう、それが今回の一番の問題だ。白銀雄也のその状態は「これまで観測されなかった」。一体、どういう事だというのだ。

 白銀雄也のステータスはパワー5、スピード1、タフネス5、スタミナ3だ。防御と攻撃に総てを割いて、その代償として素早さを払った。彼の「不屈のソウル」は、ただ防御力を高めるだけのもの。そこに素早さは伴わない。だが、どうだ。今の彼の状態はスピード5の評定で間違いない。

 

 イクシーズのデータベースに乗ってない。ならば、彼の「EXスキル」では無い。解説の岡本光輝、彼はEXスキルを無理矢理別途で発現させる方法を知っていたが、彼がその超視力で白銀雄也を見ても、反応が無い。

 

 しかして。もし、これが異能で無いと言うなら、一体なんだというのだ。

 

『もしかしてスキルがシフトして……?いや違う、不屈のソウルは発現している、だとするなら、あれは……』

 

『岡本さん、一体……』

 

『あの人の、人としての可能性……?』

 

 スキルというのは、見たままの使い方だけとは限らない。岡本光輝の「超視力」のように、瀧シエルの「精霊の加護」のように、はたまた「極一刀流」のそれのように、本人の考察、開花、工夫で新たなる一歩を踏み出すことが出来る。

 

 彼は何かしらの方法で一歩を踏み出したんだ。それがなんなのか、分からない。けれど一つだけ言えることがあった。それは。

 

 白銀雄也のレーティングは、Aレートなんてもんじゃ済まない。正真正銘の、「Sレート」だ……ッ!

 

 白銀雄也の圧倒的な爆発力。その動力源がどこに有るのか分からない。しかし、相手がそんなに速いのだというなら!

 

 いきり立った天領白鶴は、一瞬の防御を捨て、白銀雄也の一撃をその身で受け、吹っ飛んだ。

 

 重いパンチ……!左なら軽いとか、思ったが……重すぎる!!いや、左で良かった!もう既に内蔵が飛び出そうだ!空から堕ちる浮遊感で、口から内蔵が出てきそうだ……!

 

(かぁ)っツ!!」

 

 一瞬の防御の隙を捨てたのは、次の一撃の全ての準備を用意するため。腹筋に力を入れ、口から言霊(ことだま)を吐いた。吹っ飛んだ、距離は目測5メートル。相手は向かって来る、迎撃体制、良し!

 

 全身の筋肉をフルで稼働させ、白鶴は体躯を促した。形は大下段、剣撃「婆娑羅」の準備だ。最高峰の直突き。雄也のあの速度、そのままブチ込む!

 

「いざ、「婆娑羅」!!」

 

「っ、来いヤッ!!」

 

 脚を動かし、雄也へと突っ込んだ白鶴。神域にも到達する直突きを、そのまま突っ込んできた雄也の腹部にねじ込んだ。下手すれば、そのまま風穴を開けてもおかしくない状況だ。それこそ、彼の背中から内蔵が飛び出るくらいに。

 

 ……が。

 

「っかっ、足んねぇ足んねぇ。なァ?オイッ!!」

 

「――!!?」

 

 雄也の腹筋に到達したその「風の刀」は、彼の両手で握り絞められ、腹部の表面に突き立てれた程度で、貫けなど出来なかった。あろうことか白銀雄也は、掴んだ「風の刀」をぶん回して白鶴と共に放り投げた。

 

 宙を舞う白鶴。地面に受身も出来ず、脳天からぶち当たった。天地を逆さまに感じ飛びそうな意識の中で、その状況を必至にリフレインした。

 

 何が?なぜ貫けない?あの感触、服の上から、水気、サラシ、新聞紙……筋肉、それと……脂肪??

 

 その状況を傍から見ていた一人の人物が、ついに断片の答えを見つけた。

 

 そうか、あのエネルギー量、耐久力、そういう事か……!

 

『体脂肪率……』

 

『え?』

 

 困惑するマック。それはそうだ、岡本光輝ですらこの答えを紐解くのにどれだけの混線を掻い潜ったか。

 

『一般のアスリート、備えた圧倒的筋肉量に付加される体脂肪率、それは1ケタがザラ……格闘技者も然り、階級(ウェイト)がある、彼らは必要最低限な体脂肪だけしか付けない』

 

 しかし、彼は違う。

 

『フリーの喧嘩屋、なるほど合点が行った……っ!彼の住んできた世界に階級(ウェイト)は無いッ!圧倒的耐久力!圧倒的爆発力!その全ては……「体脂肪」によるものだっ!!』

 

 体脂肪。時代から排他された、忌まわしき存在。痩せてる方が健康的だ、太ると醜い。そんな理由から、疎まれてきた存在。

 しかし実のところ、あれは筋肉を外部から守る「防御壁」に成りうる。トップアスリートですら、持久力の為に体脂肪を僅かながら意図的に増やす者も居る。しかし増やしすぎると運動力の低下が危惧するため、必要最低限で、だ。競技によっては階級で不利になる。外観も損なわれる……。

 

 が、そんな体脂肪を「意図的に」「大量に」増やすスポーツが存在する。それは奇しくも、日本の国技と名高い、美しいスポーツ「相撲」だった。彼らはその大量の筋肉を相手の激しい攻撃から守るために、その上からさらに大量の脂肪を着けた。その世界には、重量階級が無い。

 

 白銀雄也の本日の最初の体脂肪率は20%より上だった。しかし、その体脂肪を燃焼し、暴走し、その体脂肪率は既に10%を切っていた。それがどういう事か。

 

 これまで白銀雄也を縛っていた「枷」が消えた。そこには本物の悪魔が居る。

 

「くぁばら、くわばら……っ」

 

 涙目になりながらも、天領白鶴は目前の悪魔を見据えた。


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