新社会「イクシーズ」―最弱最低(マイナスニトウリュウ)な俺―   作:里奈方路灯

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聖夜祭ファイナル2

 とーおりゃんせ、とおりゃんせ。

 

 二つの門が開き、いざ混じり合うは夢か現か、類い稀なり。

 

「よーう、久しぶりだな「白鬼(びゃっき)」。……あ、今お前、街の対面グループでは裏でそう呼ばれてんだよ」

 

「ほう、それは嬉しいことを聞いた。二つ名……私も有名になったものだ。なあ、百鬼夜行の頭目(とうもく)よ」

 

 逢魔、邂逅するは二つの物怪(もののけ)

 

「ああ。本当にな。今日って日、このタイミング……乞い焦がれたぜ。懐かしいんだこの感覚」

 

「して、その感覚とは」

 

 白きモノと白きモノ。その存在が(たがい)を喰らえと今、大口を開けた。

 

「負けてたって感覚だヨ。清算させて貰うぜ、勘定だ……白銀雄也、罷り通る」

 

「天領白鶴。六天を斬り伏せ、いざ白夜を(わた)(ある)かん」

 

――第七章「白夜満つる街、諸人こぞりて」 聖夜祭決勝戦 白銀雄也 対 天領白鶴――

 

 岡本光輝は実況席から、その光景を眼を凝らして注視していた。

 

 その場に立っていたのは二人の人。背中に「白金鬼族二代目総長」と金で刺繍を入れた白色の特攻服を身に纏いし白金髪の男と、白の羽織袴で身を包みポニーテールで髪を結った少女。

 

 この二人が今日一番輝いている二人。静かな世を五月蝿き夜に。神すら止められぬ無法者だ。

 

 まずは牽制、腹の探り合い。互いに準備運動のような、軽いどつき合いだ。叩いて、叩かれて、防いで、防がれて。 

 

『お互いに、一歩も譲らない!ここまで来た猛者だけの事はあります!』

 

 MCマックの声。マイクから放たれる、会場内に響く拡声された声。しかし、それすら耳に届かないほどには目の前の出来事に熱中していて。

 

『……始まります、彼らの「戦い」が』

 

 異変にいち早く気づいたのは、当事者の二人以外では光輝が初だった。変わったのだ。空気の流れが。

 

 白鶴の出す気迫(きはく)が変わったのだ。

 

「鬼羅、無尽……ッ!」

 

 鬼迫(きはく)。果たして人のそれであろうか。眼付、表情、振舞……。高名な戦国の侍が現代に居たら、きっとこう(・・)なんだろう。見ただけで逃げたくなるような、まさに物怪。

 

 怖い。そう感じたのは観客だ。

 

 白銀雄也は全く別の事を考えていた。

 

 ……違うな、前の立ち回りとは全く違う。前はもっと静かで、賢しくて、それこそ幽霊のような立ち回りだった。

 

 以前雄也が白鶴に負けたとき、白鶴は闇討ちに徹した。こんなに荒々しく立ち回らなかった。だから雄也は対策を立てた。その対策はあったのだ。

 

 そりゃそうだ。タネが割れてる手で勝とうなんて、そこまで卑しい性格じゃあないか。

 

 次の刹那。雄也の目が白鶴を捉えそこねた。これまでの比じゃない荒々しさ。また例の歩き方……っ?違う、「錯覚」じゃない。純粋に「速度」で出し抜かれた。彼女が「居た」地面には、オービタル・ノブナガが転がっていた。切り裂かれたのは、雄也の腕の装甲。

 

 勝ちたいからこそ、この女は別の手を持ってきた――!

 

『ッッ!?これは一体どういう事でしょーーーう!!?天領選手が手から刀を離しましたーーー!!!』

 

 不可解。彼女が武器から手を離すわけがなかった。彼女の能力は「極一刀流」。その手に武器を持たねば、彼女はその能力を使えないというのに。

 

『……いや』

 

 だが、しかし。岡本光輝の超視力は、その光景を理解し、捉えていた。

 

 彼女の手の中には、確かにある。「見栄」ではない、「本物」の刀が。

 

『風の刀……っ!!』

 

「これが某の「可能性」の具現化。……心の刃、とでも言おうか」

 

 彼女は握り締めていた。それは「風の刀」。彼女が想像し、意識し、練り上げた心の具現化だ。

 

「極一刀流っ、扱えるものは「武器だけに非ず」……ってか!」

 

「飲み込みが速い。ここから先は修羅の門よ、とおりゃんせ」

 

「っっ!」

 

 さらに速度を上げる天領白鶴。それもその筈、その風に重量は無い。軽い、というか、無手だ。実質無手である。

 ともすれば、刀を握るよりそりゃ速く。極一刀流と摺り足による高速移動、ただでさえスピードが遅い雄也は彼女に攻撃を当てれない。ただひたすら、敵の刃をすんでのところで受けてダメージの軽減を図るばかり。

 

 チッ、おいつけねぇ。ハハッ、こりゃお手上げか。

 

 為すすべなくなった雄也。一度、棒立ちをする。

 

 白鶴の刃が迫る。

 

「だからだよ」

 

 ギィンッ、と鈍い音。白鶴の風の刀と雄也の拳が衝突した。それもすごい速度で。

 

「アガるぜ――!」

 

「……!」

 

 眼を見開く白鶴。手に痺れが残る。風の刃が受けた衝撃が、確かにその手のひらに残った。

 白銀雄也の速度が上がった。いや、上がったなんて言葉で済まされるものじゃない。

 別物。これでもかというぐらい、全く以ての別物。その速度は、白鶴の速さに届いて――いや、超越している。

 

 追撃のボディーブロー。白鶴はそれを反応し、刀の腹で受け、吹っ飛ばされた。遥か遠く、なんとか足で状態を残す。

 

 不可解!有り得ぬ!なんだその力は!ただの野蛮なそれじゃない!もっと気高く、そして崇高で、まるで覇気を感じた……美しくもある。

 

 気が付けば、白銀雄也の体からは白い粒子が発せられていた。その仰々しさたるや、まるで白き鬼の様。

 

『なんですっ、あれは!?あれは……オーラってヤツですかッッッ!??』

 

 シュウゥゥゥ……、と(ほとばし)る白く輝く粒子。驚愕するマック。いや、マックだけじゃない。この会場の全ての人々がざわついた。そう、それは白銀雄也の新しい姿。それを誰も見たことがない。

 

 その中で、冷静に自体を把握しようと躍起になった者が居た。

 

『いや、違う!あれは……』

 

 岡本光輝。彼の視力が、知識が、その粒子の正体を捉え、理解(わか)った。

 

『「水蒸気」だ……』

 

『「すいじょうきィーーーッッ!!??」』

 

 白銀雄也の体から迸るそれの正体を突き止めた岡本光輝。誰もが驚愕した筈だ。そうだ、誰だって体から蒸気が見えるという光景は知っている。

 

 でもそれは。だって冬だから。だって寒いから。少量だから。あり得るものだとして考えていた。

 

 でも違う。今はだって違う。だってこれは。冬だけど、室内で、常温で。

 

 ――あんなに大量の水蒸気、人間は出せない!!

 

 歩き出した白銀雄也。それはまるで雲の中から現れたのかと錯覚する程の光景。

 

「決めようや、クライマックス。なあ、白鬼」

 

「……鬼はどちらよ」

 

 食うか食われるか、最終局面。二人は魔へへと、足を進ませた。


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