新社会「イクシーズ」―最弱最低(マイナスニトウリュウ)な俺― 作:里奈方路灯
零と零距離の間合い、
神、風神と呼ばれし少女、風切雅は大凪の風の刃を振るった。大きな、大きな風のギロチンが人に喰らいつく。
人、侍としてこの地に立つ少女、天領白鶴は極一刀流により全力を込めた模造刀を、雅に対して下から上に、斜めに突き出した。
低く腰を落とした姿勢から全力で前方に進み、狙うは愚直な突き。型式「牙刀」、剣撃「
『いいか、白鶴。武器を握り立ってどうしようもなくなったら、ただひたすら己を信じて突き進め。そんときゃ、すべての道理はお前の手の中に握られてるもんだ』
この僅かな刻の中で、その言葉がリフレインする。
やれるか?――否。
いけるか?――否。
勝てるか?――否。
欲しいのは「勝った」という、その結果だけ――他の何一つ必要ないのだ!
「貫けェッ!剣撃「婆娑羅」ァッッ!!」
奇しくも、その感情は目の前の少女、風切雅ともシンクロしていた。
……お前はつえーよ、ああ。認めてやる。何が欲しい?栄誉か?名声か?
だからさ、頼むよ……。お願いだからお前は此処でぶっ倒れてくれ!
白鶴の突きに、雅は風のギロチンをぶつけた。確かな手応え、風を貫き剣撃は突進を止めない。
知ってたさ。「英雄剋拠」の娘はそんなタマじゃねぇ。
けどよ……。
ニィッ、と雅はその顔を、歯を食いしばって強ばらせ、歪めた。
私が何のために空中で風の刃を貯めていたと思っている!!
「
次の瞬間には、白鶴に向かって幾多数多の風のギロチン。二度、三度、四度――。これでもかというくらい、殺意の「風切裂雅」。
「ありったけだ!!」
岩をも貫くかと見えた「婆娑羅」。度重なる風のギロチンに切り刻まれ――そして、プロトノブナガは再び、弾き飛ばされた。
強固なる極一刀流、その握力もまた計り知れず、足も地についていた。だが、弾き飛ばしてやった。
くくく、カカカカカカッ!!ざまーみやがれ、やっぱりだ!お前のそれは!弱点があんだよ!!!
雅の目論見、それは「剣撃の速度」にあった。
物体の進行とは遅ければ遅いほど瞬間的に外部からの影響を受けにくく、逆に、速ければ速いほど影響を大きく受ける。これは「速度」を伴うため、通常よりも段々上がりで力が作用するためだ。
白鶴の直突き。雅はその速度を逆に利用した。
「婆娑羅」は避けれない。大きく低く構えた下段から斜め上への直突き、これを回避しても上から大上段としてもう一太刀振り下ろされるためだ。そのため、初見では確実に直突きを「避ける」。そうすると、確実に「負ける」。
だから弾いた。雅は知っていたのだ。イクシーズ最強の男、「天領牙刀」の伝説を。あれは間違いなく、この世界の中心に居る男だ。その男の技、対策しておかない理由など何処にもない。
悪いが、私には負けられない理由がある!
「さあ死ね!今すぐ死ねぇッ!、天領白鶴ウゥゥゥーーーッッッ!」
プロトノブナガは横薙ぎの「風切裂雅」で吹っ飛ばした。雅は風で鋭い爪を作り、それを右手に纏って白鶴へと突き刺そうとした。最速で、威力あるそれを、そう。「突き刺そうとした」。
白鶴の手には何も無い。「何も無い」のだ。
……あ?
いくら直突きが鋭かったとはいえ、大地で侍が、ましてや「極一刀流」が武器を手放すものか。
……なんでだよ。
雅は逸らすだけで十分だった。なぜか刃は手放されていた。白鶴の右手は衝撃を受けて横薙ぎに吹っ飛んでいた。
なんでその位置に「手」があるんだよ。
白鶴は左手を上段に、いや、最上段に構えていた。その手には
なんでお前は武器を持ってん――
「鬼羅一刀閃「
次の瞬間、雅は意識を失った。視界が黒くなる前、刹那に映ったのは日本刀を振り下ろす「悪鬼」の姿だった。