新社会「イクシーズ」―最弱最低(マイナスニトウリュウ)な俺― 作:里奈方路灯
選手用の通路を歩いていく、白い羽織袴で身を飾り帯刀をした、ポニーテールの少女。その名は「天領白鶴」、今宵の祭り「聖夜祭」の出場者の一人だった。
十二月二十五日、クリスマス当日。スタジアムの外では白い雪がこんこんと降り、空を、街を白く染めていく。ホワイトクリスマスそのものだ。
特別な日だ、皆それぞれに用事があるのだろう。しかしそんな中で、私たち「もの好き」はこぞってこの場所に集う。この日が最後の「大聖霊祭」への切符を手にする事が出来る日。それを尊重する者も居る。
だからこういう別名もある。「
もの好き。それでいいのだ。私らは戦いたくて闘いたくてしょうがない。そういう奴らのたまり場、それが「五大祭」。
「進むのは邪魔しないよ」
通路の端に、知っている人物を見た。多々羅二之助。白鶴の友人の一人だ。
「答えは出たの?」
白鶴はその前を、通り過ぎる。一つの言葉を残して。
「某なりのならな」
「うん、なら――行って来い!」
「感謝痛み入る」
多々羅は白鶴を満面の笑みで送り出した。白鶴もまた、満面の笑みで足を進める。ドアの前に立つ。
『それでは、第一試合選手入場ォーーッッ!』
司会の合図を受け、そして、ステージへのドアを臆する事無く開けた――
――五大祭のスタジアム、常に満員であるはずのそれは、あろう事かいつもの半分の席数しか埋まって居ない。
それもその筈。今日は「クリスマス」だ。誰も彼もに用事があろうである日。そんな中、この場に居るのは選手も観客も含めて「もの好き」だけ。
『それではやってまいりましたァッ!今年最後の五大祭「聖夜祭」!司会は相も変わらずこの私めMCマックでございまァーーッす!!』
オオオォォーーーッッ!!と歓声が上がるスタジアム内。人がいつもより大幅に少ないにも関わらず、その声は大きい。なぜなら、この場に居る人達全員がそういう人種だから。根っからのバトルマニア。純粋に闘争を楽しむ者だけが此処に居る。
『そして解説はなんとッ!前回の優勝者、後藤征四郎選手に変わって!その友人であり「超視力」を持つこれまたバトルマニア、「岡本光輝」さんがやってくれる事になりましたァーーッ!』
『はい、今日は皆さんが楽しめるように、全力で解説をしていきたいと思います。よろしくお願いします』
イエエエェェーーーイッッ!!と色めき立つ会場内。視力補正系統の能力はその手の人種にとても評価が高い。戦闘を余す事なく拝むことが出来るから。そんな能力を持ったバトルマニアが解説につくとなれば、会場は盛り上がる。
なお、岡本光輝の心中には二つの思いがあった。こんな大舞台の解説を出来る嬉しさと、そんなめんどくさい事を押し付けてきた後藤征四郎への恨みだ。それらが半々でせめぎ合っている。いや、この場にいる時点でもう諦めて楽しむしかないのだが。
なお、征四郎はスタジアムに居ない。多分、三嶋小雨と一緒だ。特訓かなんかやってるんじゃないかな。
『それでは、第一試合選手入場ォーーッッ!』
司会の合図と共に、ステージへの入場口が開いた。
入ってきたのは、白い羽織袴の姿に腰に携えた日本刀、黒く長い髪をポニーテールで結った凛々しい少女の姿だった。
『親はなんとあの「英雄剋拠」!受け継がれたるは
少女は入場と共に鞘から刀を抜き出し、その鞘を会場の端に捨て去る。極一刀流の立ち回りの一つだ。
『……あれは「プロトノブナガ」ですね』
『プロトノブナガ?』
白鶴の刀を見てそう言った光輝に、マックが問う。
『有名な名刀「オービタル・ノブナガ」のレプリカの中でも最初期に作られたものです。当時の再現度はそこまででもなかったんですけれど逆にそのオリジナリティに惹かれた人が多くて根強い人気を未だに誇るコレクターズアイテムです。マニアの中では「キッポウシ」って名で取引されてることが多いですね』
『ほー、よくご存知ですねー』
『あの武器は実践向きでもありますからね。結構知ってる人も多いかと思われます』
刀の造形を見れば、何処のメーカーのどういうものかなど光輝の目の前ではその場で辞書を引くような物だった。メーカーは「
……まあ、彼女のメインの模造刀をへし折ったのは俺なのだが。
光輝は心の中で少しだけ、気まずい気持ちになる。
そこで、一つの事に気が付く。まだ、もう一人の入場が終わっていない。
『……と、まだ片方の選手が入場していませんね』
入場の門が空いていない。まだ準備が終わっていないのだろうか――
――門の前で、彼女は踏み出せずに居た。その門を、押せないのだ。
「不安なのか?」
少女の背後から声がかけられる。少女の友人だ、本来なら此処に居ないはずの。何故此処に。
「……どうして此処に居る。妹と過ごすんじゃなかったのか」
その少年は自分のメガネをクイ、と中指と薬指で上げると、その問いに答える。
「少しだけ時間を貰った。お前に差し入れがあってな」
少年はポケットから一つの小袋を取り出すと、少女に
「お前に「頑張れ」とか「負けるな」とかそういう言葉で応援する気は一切無い。けれどこれだけは言う」
「……あんだよ」
少年の顔に表情はない。彼はいつだってポーカーフェイスだ。その雰囲気だけはクールそのもの。
「優勝したお前の姿を楽しみにしている」
「ハッ」
何を思ってるのか読みづらい少年の言葉を受けた少女は駄菓子の袋を開け、冷却されガチガチに固まったそのチューイングキャンディをガブりと噛み、とにかく硬いそれをそして引きちぎった。
「言われなくたって」
残りの破片も口内に放り込み、少女はドアを開けた。今日もまた、少女の闘いが始まる。
『来たァーーーッ!最初っからクライマックス!これが第一試合なのか!?「風神」、風切雅選手の入場だァーーーッッ!!』
身に纏うは花柄の浴衣、その手には二振りの薄桃色の鉄扇。
仏頂面の彼女の眼が目前の白鶴を見据える。
「悪いけど、今日は手加減出来ないからそのつもりで」
「……。」