新社会「イクシーズ」―最弱最低(マイナスニトウリュウ)な俺―   作:里奈方路灯

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白き侍/黒き侍2

 放課後の校内。静かな図書館の中で一人、岡本光輝はパラリパラリと本のページを捲っていた。

 

「……」

 

 ここの解釈は、これで合っているのか?

 

 岡本光輝は心の中で背後霊に語りかける。自身の背後霊「ムサシ」に。

 

『うむ。おおむね合ってるぞ。すこーしだけ、ニュアンスを取り違えてるがな』

 

 よし、そこは詳しく頼む。

 

「あのー、調べ物はまだかかりそうですか?」

 

「おおっ!?」

 

 学校の図書館で本を読みながら心中(しんちゅう)でムサシと語り合っていると、横合いから声をかけられた。光輝の友達でありかつ図書委員のホリィ・ジェネシスだ。

 

「そんなに驚かなくても。私の事嫌いなんでしょうか……?」

 

 シュン、と顔を俯かせるホリィ。慌てて弁解する。

 

「いや、そんな事ないぞ。好きだぞ、好き。どれぐらいかというと、ドリンクバーのメロンソーダぐらい好きだ」

 

「あ、良いですよね、ドリンクバーのメロンソーダ!缶とかペットボトルではないのに映画館やファミレスではあるから、ついつい飲んじゃうんですよねー。それぐらい好きって事は……えへへ」

 

 なんか嬉しそうに笑うホリィ。良かった良かった、機嫌は取れたようだ。

 

「あ、じゃなくてですね。もう図書館閉める時間なんですよ。ほら、外真っ暗です」

 

 そう言ってホリィは壁際の遮光カーテンの端ををピラり、と捲った。なんと、本当に外は真っ暗だ。携帯を取り出して見ると表示された時間は十六時五十五分。なるほど、十二月にもなればこの時間帯では既に日が沈んでいるだろう。

 図書館内にも、光輝とホリィ以外にもう人は居ない。そろそろ帰らなきゃいけないな。

 

「いや、とりあえず今日はもう本を借りて帰るよ。受付、いいかな?」

 

「あ、はい」

 

 そういって光輝とホリィは図書館の受付カウンターまで行き、カウンターにはホリィが入る。ホリィは図書委員であるため、定期的に図書館の受付を承っている。今週はホリィが受付を担当する週なのだそうだ。図書委員は大変そうで嫌だな。ボランティア部は気楽でいい。

 

 ピッ、ピッと本に付けられた貸出用バーコードをバーコードリーダーで読み取っていくホリィ。一度に借りられる本は五冊までという制約があり、本当はもっと借りたいが仕方なく五冊の本を借りる。

 

「えーっと、「日本の歴史・江戸時代の剣豪」、「マンガで分かる!五輪の書」、「放浪者」、「侍道(サムライン)」、「無敵中世魔術師は幕末剣士の夢を見るか?」……なんですかこのラインナップ」

 

 訝しげな顔をするホリィ。それもそうだ。こんなラインナップ、余程時代劇が好きだったりでもしないとまず無い。全てが侍関連の書物、タイトルだけ見れば日本大好きな外国人が借りたのか?と思うレベルだ。侍と忍者、どっちが人気なんだろう。

 

「知らんのか、今世間は絶賛「歴女(れきじょ)」ブームなんだぞ。偉人を制する者は女子(おなご)を制す」

 

「ははぁ、光輝さんもそーゆーの気にするんですね。クリスさんも歴女なんですかねぇ」

 

「……さあな」

 

 むう、ホリィをからかおうと思ったら思わぬカウンターを貰った。クリスが好きな偉人って居るのだろうか。

 

「あ、ちなみに私は西郷どんが好きです。どっしりしてて優しそうですよね」

 

「薩長同盟ぜよってか」

 

 ……西郷さんってどんな喋り方するんだろう。教科書に載ってたっけ。

 

 二人で図書館を出て、昇降口へ向かう。もうほとんど学校に残ってる人は少ない。

 

「家まで送っていこうか。もう遅いだろう」

 

 上を見上げれば夜空には星が輝いている。こんなに暗いと少しホリィが心配だ。

 

「あ、いえ、大丈夫ですよ。携帯をスリータッチすればシエルさんに緊急連絡が行くようになっていますから」

 

「そうか。それなら安心だな」

 

 それはいい。シエルが駆けつければどんな事があっても大丈夫だ。ホリィと別れ、家へ帰る。さて、クリスがちゃんと本を読ませてくれればいいのだが――

 

――「君が私を頼ってくれるなんて、本当に嬉しいな。このままウチの子にならないかい?」

 

「いや、遠慮しておくよ。王座とは姉弟じゃなく親友として接したいからな」

 

「ふふ、どちらにせよありがとう。君からそんな言葉が聞けるなんてね」

 

「さて、それじゃ折角使わせてもらうぜ」

 

 瀧家の地下、五大祭の試合会場と同じ設備を備えた電磁フィールド発生空間。まあ、なんともお金がかかってることで。

 光輝が取り出したのは二振りの黒い特殊警棒。その材質はパンドラ・クォーツであるブラックミスリル製だ。以前、龍神王座より御礼として受け取ったもの。

 それより前に光輝が愛用していた炭素鋼製(カーボンスチール)の特殊警棒に比べ、耐久性は遥かに高く、そして軽い。重さに任せた威力は出なくなったが、携帯性の振り回す武器という点では大きく優れる。……元値が滅茶苦茶高いという欠点はあるのだが。

 

「それでは、見せてもらおうか。今一度、君の力を」

 

「ああ。行くぜ」

 

 ……ムサシ。 

 

 光輝はその身にムサシを魂結合させ、身体能力のフィードバックとEX能力「二天一流(デュアルアクション)」を手に入れる。

 

『まず初めに必要なのは相手へ送る「気配」。気配無しに侍の「立ち回り」は完成せぬ』

 

 ムサシからの立ち回り指南。光輝が読み解いた書物の(すべ)てを脳内で精密にイメージし、超視力でそれを紐解き、動く。百聞は一見に如かず。見て、録し、聞き、動く。イメージとは知識、イメージとは力。

 

 光輝はそれらを理解し、自分なりに「気配」というものを出してみる。……こんな感じか?

 

『うむ。次に、歩法。足は侍の体移動術「摺り足」をベースでいいが、これから試す動きに混ぜるのは、忍の暗殺術「忍び足」ぞ。これで()まれ()る錯覚効果こそが「絶影(ぜつえい)」。これは相手が強者であれば強者であるほど効果が強くなる』

 

 光輝はそこから試しに動いてみる。前へ出るという事を意識しつつ、足はぬらりと滑らせ右斜め前へ。王座は横を通り抜ける光輝を意識出来ず、目の前を注視したまま。光輝は既に王座の斜め後ろに。

 

『ま、手品(トリック)にすぎんがの』

 

 遅れて振り返る王座の喉元に、光輝は特殊警棒を当てる。王座はまだ能力を使っていなかったとはいえ、決着。そもそも忍びの術自体が相手に行動させる前に勝負を終わらせてしまうというスタンスによって作られている。この結果は当然だった。

 

「……凄いな。そういう動きもあるのか。これは端からその気でないとやられてしまうな」

 

 眼をぱちくりとさせながら嬉しそうにする王座。なるほど、これが「武芸百般」か。

 

『まずはファーストレッスン完了だな。まだ先は長い、もっと歩みを進めるべきぞ』

 

 そうだ、まだ試さなければいけない動きは多い。なるほど、これは楽しい。知識を力に。これはもっと王座に付き合ってもらう必要があるようだ――

 

――対面を幾度となくし、休憩。備えられた休憩所にて王座と一緒に一息をつく、のだが……。

 

 汗をかき火照った体の王座は、なんというか……格好良い。水も滴るいい女、というやつだろうか。湿った髪が、服が、とてつもなくセクシャルだ。なるほど、これは俺が女だったら速攻で落ちるな。

 

「しかして、どうして私と対面をしたいだなんて?」

 

 ふと王座からかけられた声。いかんいかん、つい見とれてしまった。

 

「あ、いや、なんていうかさ。俺、これまで人と競いあうとかしてこなかったからさ。一度、戦うって事を競いたくて。それで、力量的に王座が丁度いいかなーって」

 

 光輝は自分への「自信」が欲しかった。「自信」が無ければ、きっと先に進めないのだ。クリスにも応える為に。

 

「なるほどね。……いいよ、君が望むなら私は君に付き合おう。君は強い。まだ先へ進むことが出来る器だ」

 

「ありがとな」

 

 王座は快く承諾してくれた。なんて優しいのだろう。そして格好良くて、強い。

 

「こんな姉が居るなんて、シエルは幸せだな」

 

「ふふ、どうも。……そうそう、この前シエルに対面を挑んだ者が居たらしい」

 

「……マジか」

 

 なんとも、随分命知らずな。まあ、結果は聞くまでもないが。

 

「シエルは無傷だったそうだが、こう言っていた。「いずれ私を脅かすかも知れない」と」

 

 なんと、シエルにそうまで言わせる人物が居るのか。誰だろうか、雄也さんとか?

 

「確か、名前は「天領白鶴」と言ったそうな。能力は「極一刀流」だとか」


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