新社会「イクシーズ」―最弱最低(マイナスニトウリュウ)な俺― 作:里奈方路灯
バチバチ、と体に電撃を纏わせて、後藤征四郎は地に着地した。背後ではドサリ、と音を立てて地に倒れ伏す風切雅。
「小雨師匠直伝、これぞ、奥義……」
『こッ、これは……ッ!電磁投射砲斬鉄剣だァーーーーーッッッ!!勝負あり!勝者、後藤征四郎選手!』
瞬間、拍手喝采の嵐。まるで、夕立のような賛辞。征四郎はそれを受けて、観客席に手を振り返す。
「いやー、どーもどーも!」
彼への注目、期待はこの瞬間で、一気に膨れ上がった。それもその筈、「電磁投射砲斬鉄剣」を行ったのは過去では三嶋小雨が初であり、放たれたのは今日で二回目。だとするなら、人々はこういう期待を抱くものだ。
彼は
速さをウリにした、侍スタイル。体躯の小ささ。レートの低さ。どれもが、かの三嶋小雨を彷彿とさせた。
そして、もしそうだったのなら、これまでの常識が覆る。
三嶋小雨に弟子が居ない、という常識が――
――意識の無い風切雅はタンカで運ばれたが、身体に深刻なダメージは無かったようだった。
「オータムパティー」は無事に大会工程を終え、表彰式へと移る。ステージには、後藤征四郎とMCマックが。
『それでは、優勝者、後藤征四郎選手には、「大聖霊祭」への出場権と、データベースから二つ名が贈られる事になります!後藤選手に与えられる二つ名は……!』
会場の皆、観客席も、ステージの征四郎もが緊張をする。一体、どんな二つ名が付くのだろうか。
『見えざる者、注意を配れぬ者、ダークホース!そういう意味を込めて、「
色めき立つ会場。無理もない。二年前、三嶋小雨がオータムパーティーで優勝した。そしてその次、現在のオータムパーティー。此処に三嶋小雨の影が現る。
誰がどう見ても、その姿はかつての「無双」に瓜二つ。違うのは、男であることと、お調子者のようなところ、そしてその手に持たれたのが日本刀、ということだろうか。三嶋小雨の武器は、忍者刀だった。
『えー、それでは優勝した後藤選手に一言を頂きたいのですが……』
司会のMCマックはマイク越しにゴクリ、と唾を飲む声を鳴らす。緊張しているのが手に取るように分かった。MCという役割を持ったベテランの彼が、だ。
『インタビューを、お伺いして良いですか?』
『ん?いーぜ。いくらでも』
『ありがとうございます!』
インタビュー。本来なら一言のとこを、特例として。征四郎は快く引き受ける。
それは、どうしようもなく、多くの人間が知りたいだろう。Dレートである、後藤征四郎の素性を。
『それでは、まず……。剣技は、独学ですか?』
先ずは、確信へ。多くの人間が気になる事実。それはMCマックも、例外でなく。これ以上にないほど、そわそわしている。
『違うよ。師匠に教わった』
師匠。清四郎には、剣技を教えた人物が居る。
『師匠と言うのは……』
『三嶋小雨師匠。あっ、ホラ。今降りてくる』
次の瞬間、ステージにズサッ、と降り立った人影。遥か遠くの観客席から飛び跳ねてきた。長い黒髪を赤いリボンで束ねた、黒いシャツに赤いジャケット、デニム生地のショートパンツからは細くしなやかに、黒いストッキングに包まれた脚が主張をする、黒いサングラスをかけた背の低い少女。その背は、ただでさえ背の低い後藤征四郎よりも、少し背が低い。しかしその風貌に幼さはなく、堂々たる風格があった。
少観客席がざわつく中、少女はサングラスを外す。その姿はこの会場の殆どが知っていた。三嶋小雨。能力は「脚の強化」。イクシーズの中でも最強の一人と謳われる少女だ。
『征四郎。余計な事を答えてる暇があるなら食って鍛えろ』
『あっ、すんません。そこまで頭行きませんでした』
『あ、あのー……』
司会がどうすべきか、という表情をしていると、小雨はマイクを奪って言った。
『此処の全員に告ぐ。私はこの間、弟子を取った。唯一のだ』
ざわり、と会場で雑音が動く。それもそのはず、三嶋小雨はこれまで弟子を一切取らなかったのだから。
『生憎、私は二人も弟子を取る余裕がない。そもそも、コイツ程に私なりの才能がある奴を知らない。だから、これを機にまた弟子になろうとする奴は、悪いが全員追い返す。申し訳ないが、その気で』
小雨は自ら大胆な宣言をしていく。彼女に遠慮など、無いのだろう。彼女は自分の為に人生を生きているのだから。それが最強に許された道。
『震えろ、強者ども。今年の大聖霊祭も、弱者が頂いていく』
その言葉を最後に小雨はマックへとマイクを返し、ステージを後にした。それは、三嶋小雨の宣戦布告。観客席に居る多くの人物が、その光景を見ていた――
――「ワオ!大胆ネ、小雨!」
「まあ、いいんじゃないでしょうか。大聖霊祭が楽しみです」
来雷娘々と、イワコフ・ナナイ――
――「はっはは!あの「無双」の弟子か!これはこれは、随分と大きな師を持ったものだよ、後藤クン!」
「……マジか」
「……らしいぞ」
瀧シエルと、岡本光輝と、黒咲夜千代――
――「……熱いな」
厚木血汐――
――『うわー、これすっごいよねー。ダーリンに伝えたらすっごい喜ぶんじゃないかしら』
「……
J&Jと、巌城大吾。白金鬼族の幹部二人。しかし、総長の白銀雄也はその場に居ない。なぜなら、彼は――
――対峙する、白い羽織袴に身を包み模造刀を構えた、長い黒髪をポニーテールの形で結った少女と、白金髪が特徴的な、白地に金の刺繍で背中に「白金鬼族二代目総長」と書かれた特攻服を着た、暴走族のような男。
二人は周りに誰も居ぬ中、見合っていた。
「本当に良かったのですか?」
「当たりめェだろ。アンタの誘いを断っちゃ、男が
「……それはなんとも嬉しいことです」
「それに、五大祭はまだ一回ある。聖夜祭で優勝できなきゃ、俺の器はそこまでヨ」
「潔いんですね」
「そんなことより、今は対面を楽しもうゼ」
「ええ」
二人の若者はお互いの瞳を見据える。互いに敵意を剥き出した、猛獣のような瞳。
「極一刀流、第六天魔王の娘、天領白鶴。貴殿の力、見せていただこう」
「白金鬼族二代目総長、白銀雄也ァ!三千世界をねじ伏せてイザ、罷り通る!」