新社会「イクシーズ」―最弱最低(マイナスニトウリュウ)な俺―   作:里奈方路灯

70 / 152
その男、不注視につき2

 バチバチ、と体に電撃を纏わせて、後藤征四郎は地に着地した。背後ではドサリ、と音を立てて地に倒れ伏す風切雅。

 

「小雨師匠直伝、これぞ、奥義……」

 

『こッ、これは……ッ!電磁投射砲斬鉄剣だァーーーーーッッッ!!勝負あり!勝者、後藤征四郎選手!』

 

 瞬間、拍手喝采の嵐。まるで、夕立のような賛辞。征四郎はそれを受けて、観客席に手を振り返す。

 

「いやー、どーもどーも!」

 

 彼への注目、期待はこの瞬間で、一気に膨れ上がった。それもその筈、「電磁投射砲斬鉄剣」を行ったのは過去では三嶋小雨が初であり、放たれたのは今日で二回目。だとするなら、人々はこういう期待を抱くものだ。

 

 彼は三嶋流斬鉄剣(みしまりゅうざんてつけん)の担い手では無いのか?と。

 

 速さをウリにした、侍スタイル。体躯の小ささ。レートの低さ。どれもが、かの三嶋小雨を彷彿とさせた。

 

 そして、もしそうだったのなら、これまでの常識が覆る。

 

 三嶋小雨に弟子が居ない、という常識が――

 

――意識の無い風切雅はタンカで運ばれたが、身体に深刻なダメージは無かったようだった。

 

 「オータムパティー」は無事に大会工程を終え、表彰式へと移る。ステージには、後藤征四郎とMCマックが。

 

『それでは、優勝者、後藤征四郎選手には、「大聖霊祭」への出場権と、データベースから二つ名が贈られる事になります!後藤選手に与えられる二つ名は……!』

 

 会場の皆、観客席も、ステージの征四郎もが緊張をする。一体、どんな二つ名が付くのだろうか。

 

『見えざる者、注意を配れぬ者、ダークホース!そういう意味を込めて、「不注視(ノーマーク)」!三嶋小雨さんのかの異名「無双(ノーバディ)」に準(なぞら)えて、「不注視」の二つ名が送られます!』

 

 色めき立つ会場。無理もない。二年前、三嶋小雨がオータムパーティーで優勝した。そしてその次、現在のオータムパーティー。此処に三嶋小雨の影が現る。

 

 誰がどう見ても、その姿はかつての「無双」に瓜二つ。違うのは、男であることと、お調子者のようなところ、そしてその手に持たれたのが日本刀、ということだろうか。三嶋小雨の武器は、忍者刀だった。

 

『えー、それでは優勝した後藤選手に一言を頂きたいのですが……』

 

 司会のMCマックはマイク越しにゴクリ、と唾を飲む声を鳴らす。緊張しているのが手に取るように分かった。MCという役割を持ったベテランの彼が、だ。

 

『インタビューを、お伺いして良いですか?』

 

『ん?いーぜ。いくらでも』

 

『ありがとうございます!』

 

 インタビュー。本来なら一言のとこを、特例として。征四郎は快く引き受ける。

 

 それは、どうしようもなく、多くの人間が知りたいだろう。Dレートである、後藤征四郎の素性を。

 

『それでは、まず……。剣技は、独学ですか?』

 

 先ずは、確信へ。多くの人間が気になる事実。それはMCマックも、例外でなく。これ以上にないほど、そわそわしている。

 

『違うよ。師匠に教わった』

 

 師匠。清四郎には、剣技を教えた人物が居る。

 

『師匠と言うのは……』

 

『三嶋小雨師匠。あっ、ホラ。今降りてくる』

 

 次の瞬間、ステージにズサッ、と降り立った人影。遥か遠くの観客席から飛び跳ねてきた。長い黒髪を赤いリボンで束ねた、黒いシャツに赤いジャケット、デニム生地のショートパンツからは細くしなやかに、黒いストッキングに包まれた脚が主張をする、黒いサングラスをかけた背の低い少女。その背は、ただでさえ背の低い後藤征四郎よりも、少し背が低い。しかしその風貌に幼さはなく、堂々たる風格があった。

 

 少観客席がざわつく中、少女はサングラスを外す。その姿はこの会場の殆どが知っていた。三嶋小雨。能力は「脚の強化」。イクシーズの中でも最強の一人と謳われる少女だ。

 

『征四郎。余計な事を答えてる暇があるなら食って鍛えろ』

 

『あっ、すんません。そこまで頭行きませんでした』

 

『あ、あのー……』

 

 司会がどうすべきか、という表情をしていると、小雨はマイクを奪って言った。

 

『此処の全員に告ぐ。私はこの間、弟子を取った。唯一のだ』

 

 ざわり、と会場で雑音が動く。それもそのはず、三嶋小雨はこれまで弟子を一切取らなかったのだから。

 

『生憎、私は二人も弟子を取る余裕がない。そもそも、コイツ程に私なりの才能がある奴を知らない。だから、これを機にまた弟子になろうとする奴は、悪いが全員追い返す。申し訳ないが、その気で』

 

 小雨は自ら大胆な宣言をしていく。彼女に遠慮など、無いのだろう。彼女は自分の為に人生を生きているのだから。それが最強に許された道。

 

『震えろ、強者ども。今年の大聖霊祭も、弱者が頂いていく』

 

 その言葉を最後に小雨はマックへとマイクを返し、ステージを後にした。それは、三嶋小雨の宣戦布告。観客席に居る多くの人物が、その光景を見ていた――

 

――「ワオ!大胆ネ、小雨!」

 

「まあ、いいんじゃないでしょうか。大聖霊祭が楽しみです」

 

 来雷娘々と、イワコフ・ナナイ――

 

――「はっはは!あの「無双」の弟子か!これはこれは、随分と大きな師を持ったものだよ、後藤クン!」

 

「……マジか」

 

「……らしいぞ」

 

 瀧シエルと、岡本光輝と、黒咲夜千代――

 

――「……熱いな」

 

 厚木血汐――

 

――『うわー、これすっごいよねー。ダーリンに伝えたらすっごい喜ぶんじゃないかしら』

 

「……総長(ヘッド)、絶対喜ぶね」

 

 J&Jと、巌城大吾。白金鬼族の幹部二人。しかし、総長の白銀雄也はその場に居ない。なぜなら、彼は――

 

――対峙する、白い羽織袴に身を包み模造刀を構えた、長い黒髪をポニーテールの形で結った少女と、白金髪が特徴的な、白地に金の刺繍で背中に「白金鬼族二代目総長」と書かれた特攻服を着た、暴走族のような男。

 

 二人は周りに誰も居ぬ中、見合っていた。

 

「本当に良かったのですか?」

 

「当たりめェだろ。アンタの誘いを断っちゃ、男が(すた)る」

 

「……それはなんとも嬉しいことです」

 

「それに、五大祭はまだ一回ある。聖夜祭で優勝できなきゃ、俺の器はそこまでヨ」

 

「潔いんですね」

 

「そんなことより、今は対面を楽しもうゼ」

 

「ええ」

 

 二人の若者はお互いの瞳を見据える。互いに敵意を剥き出した、猛獣のような瞳。

 

「極一刀流、第六天魔王の娘、天領白鶴。貴殿の力、見せていただこう」

 

「白金鬼族二代目総長、白銀雄也ァ!三千世界をねじ伏せてイザ、罷り通る!」


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。