新社会「イクシーズ」―最弱最低(マイナスニトウリュウ)な俺― 作:里奈方路灯
真昼間のイクシーズ市街。太陽の日差しが降り注ぐ中、今日も老若男女人種を問わず多くの人が行き交っている。
その雑踏の中で、際立って目を引く者が在った。若い男、
「……いくらなんでも露骨すぎじゃねーか?」
余りの明らかさまな対応に困惑する男。これではまるで上様だ。
「しょーがないじゃない、ダーリンは有名人なんだもん」
「
「いつの間にできたんだよその常識。本当かよ?」
その男の両脇には、長い金髪を風に靡かせた端正で瓜二つな顔つきの背の低い二人の少女が、それぞれ男の右腕と左腕を抱えて歩いている。傍から見てそれは両手に花。羨ましそうではあるが、とても歩きづらそうだ。しかし、男は嫌がる素振りを見せない。どっちかと言うと無視して歩いているように見える。
「……本当にしろ嘘にしろ、雄也さんは自分の持つ影響力にもっと自覚を持った方がいいと思います」
そして、白金髪の男の背後を歩く、糸目で角刈りの巨漢。身長はおよそ200センチを越え、硬く膨れ上がったガタイはまるで岩のようだ。本当に人間かどうか怪しい肉体。もしかしたら人造人間かサイボーグかもしれない。それがまた、周りからの注意を引いていた。
「
「あの両隣の双子、
「後ろのアイツ、でけ~な~……何センチあんだよ」
回りからの反応から伺っても、非常に個性的な4人組。白銀雄也率いるそのメンバー「
「んー、俺なんてまだまだよ?」
「そんな事言っちゃってー。白金鬼族はもうイクシーズの対面グループでトップ誇ってんのに?」
「周りからも注目されっぱなし。やっぱダーリンは支配者の器を持ってるわ!」
「そうか。そいつぁ嬉しい、もっと褒めていいんだぜ」
中央の男、白銀雄也。白金色の髪がトレードマーク。対面グループ「白金鬼族」を纏める
両となりの背の低めの少女、ジュディ・ブランシャールとジャネット・ブランシャール。双子であり両者共に「白金鬼族」幹部。個々はDレート、タッグでSレート。高校三年生。能力は「ダブルドライブ」。通称J&J。
後ろの巨漢、
巨漢な見た目とは裏腹に一年生の大吾と、小さいが三年生のJ&J。二人共々、イクシーズ
方や大吾は、喧嘩が好き、というよりは対面により自己を高める事を目的としていた。どちらかと言うと真面目な青年で見た目と中身が伴っており、普段は大人しい方である。が、一度闘い出すと止まらない。
方やJ&Jは、もっぱらタッグでの対面を吹っかけては色んな対面グループを荒らしまわっていた。「ダブルドライブ」は双子が揃って真価を発揮する能力であり、肉体強化に加えてかつ、互いの意思疎通が言葉などを介さなくても可能になるというものだ。
この二組に転機が訪れたのは今年の夏の時期だった。外からやってきたという喧嘩少年「白銀雄也」との対面で敗北を喫したからだ。
敗けた、ということ自体はこれまでもあった。しかし、彼の持つ不思議な魅力--いや、それは魔力なのかもしれない。人を惹きつける何か、それが彼にはあった。故に、大吾とJ&Jは白金鬼族に所属した。そして、今は幹部として活動を行っている。
「また今日も
「昼飯ついでにだ。来雷さんが対面に乗ってくれたらそれはそれで大儲け、あそこ美味いし」
「……
雄也達の今の目的地は、中華料理屋「来雷楼」だった。今が昼時なのもあるが、その店の店主「
「さあ、行こうぜ!愛しの「
が、それでもかつて「雷神」と謳われた者。すぐそこに強者が居て挑まぬなど、喧嘩マシーン白銀雄也には有り得ぬ事だった。今日も懲りずに、対面を挑みに行く--
--イクシーズ市街の小道に入った所にある店、「来雷楼」。味は良いと評判ではあるが、いかんせん外見からして目を引くような場所では無かった。辺りは何かあるわけでもなく、その店自体もまるで民家に「来雷楼」と書かれた暖簾を取ってつけてギリギリそれが「店」であることを実感できる程度だ。
この店は最近出来たものだが元々は流行らない居酒屋かなんかだったらしく、その居酒屋が営業を辞めた所を買い取って作ったという噂がある。改装工事にまでは資産の問題で手がまわらず、ほとんど昔の内装のまま営業を続けているそうな。元が飲食店であるため、余り弄らなくても問題がないのは救いか。
「ちわーっす」
ガラガラ、と音が鳴る古いタイプの引き戸を開けて店内に入る四人。店内はランチタイムだというのに空いていて、他の客は3人しか居ない。定食を味わうサラリーマン風のいい歳の男性、拉麺に夢中になっている金髪の少女、餃子と春巻きで一杯やってるヨボヨボのおばあちゃん。とてもじゃないが、流行っている、とは言い難い。
「アイヤー!いらっしゃいアルよ
『どもー、来雷さん』
「……こんちわー、です」
黒い髪を後頭部でお団子にして結った割烹着の女性「来雷娘々」は、ヒマそうに新聞を見ていた目をこちらに向けて元気に挨拶をする。相変わらず胡散臭い喋り方だし、そもそも中国人であるかどうかすら分からない。中華料理をやっていてそれっぽい名前と言えど、彼女の詳しい素性はこの場に居る誰もが知らない。ただ一人、本人を除いては。
「とりあえず来雷炒飯四つお願いします。ねえ来雷さん、今日昼過ぎたら空いてる?どっか遊びに行かない?」
「いい男からの誘いで申し訳ないが残念ネー、今日は昼寝とネット競輪で忙しいヨー」
「そっか、残念です。たまには貴方と
雄也の誘いをさらっと、拒否して流す来雷。しかし、だ。
それは忙しいとは言わない……!
大吾とJ&Jを含め、この場の多くの人間がそう心の中で思った。
「……ん」
ぞわり、と雄也はそこで違和感を感じた。心を駆り立てる感覚。空腹時のそれではない、何か別なもの。
この店に来るといつだって強い奴の波長をビシビシと感じていた。なぜなら、「来雷娘々」が居るからだ。しかし、今の感覚はそれだけじゃない。答えは、そこにあった。
「あ、ちょっとダーリン?」
「席、こっち空いてるけどー」
J&Jの言葉を聞かず、雄也は奥のテーブル席に立つ。席の向かい、正面にはズルズルと拉麺をすする金色の髪の少女。雄也を気にかけず一心不乱に、彼女は食事を口に掻き込む。
「こんにちわ、此処空いてるかい?」
「……」
返事は無い。拉麺を食べるので忙しいようだ。雄也は空白の席に座り込む。
「ビビっと来たぜ、アンタ。まるで飢えた獣のような威圧感。あ、俺の名前は白銀雄也ってんだ」
麺を啜り終えたようで、次はどんぶりに手をかけ、スープを頬張る。なんとも豪快だ。
「いきなりですまないが、その……アンタに、対面を申込みたい。名前を伺っていいか?」
スープをごく、ごくと飲み干していき、少女はタン、と机に空っぽになった拉麺どんぶりを置いた。その青い瞳がようやく、雄也の方に向けられる。
「……イワコフ・ナナイです」