新社会「イクシーズ」―最弱最低(マイナスニトウリュウ)な俺― 作:里奈方路灯
「わらわらわらわら……うっとおしいたりゃあらせんわ!!「
『あ~~……あ~~』
ミシェルは
ちぃッ!思い当たるフシはある!!
人間は言うまでもなく脳味噌で考えて動く。これを停止させてやるのがこのノイズだ。けれど、もし相手が脳味噌で考えずに動いていたら。思考でなく、反応でなく、反射で。佐之の能力「シンパシー」、これがクローンを動かすトリガーだったとしたら。そりゃ、脳味噌を揺さぶった程度で動きは止まってくれない。
ならば、やるべきは佐之を倒すこと。将を射んと欲すればそのまま将を射よ。単純明快、であるが……。
佐之と交戦する深之介。状況……微妙に不利、か。ならば、もう。ノイズでこの一帯をまとめて……?
ミシェルは襲いかかるクローンを偽骸人で吹っ飛ばして、かつ思考を止めない。クローンの肉片が、赤い液体と共に周りに飛び散った。ありゃ、ただの「タンパク質」だ。心無き肉体を「
無理!ミュンヒハウゼンが電磁フィールドを展開している以上、奴の脳内にノイズが届くっていう補償がない!そうだった場合、浅野深之介も巻き込む事になる!それが一番辛い!!
例えば、この場に味方が誰も居らず、ミシェル一人だった場合。その能力により周り一体を吹っ飛ばす事が出来る。それがミシェルの能力。
ミシェルがもし、自分が死ぬと判断した場合。生存を第一優先にする。その時は能力を惜しみなく行使する。どれだけ周りを壊してもいい。そういうタガを、頭の中で外せる。
けれど、今はそうじゃない。
勝ちがハナから決まっているゲーム。統括管理局は負けない。それだけは分かっている。有象無象の処理、平常運転。今はその為の
故に、落ち着く。一度外したタガは、ハマらない。外れたら……少なくとも、地下繁華街を全壊にしてしまえる。別に街は良い。安い。けれど、統括管理局が観る「能力者」ってのは、そうはいかない。人一人、うっかり殺してしまったじゃ、事故じゃあ済まない。その損害はデカすぎる。今は、まだ、その時を……!勝機は悪くねー、五分と言わずとも、四分……!いや、三……。
ミシェルがクローンに対応している途中だった。深之介が吹っ飛ぶ。地を転がり、直ぐに体勢を直す。が、異変に気付く。
カチッ、カチッ。
「……!」
深之介、表情が強張る。それまで少しは涼しげがあったように見えたその顔に、一気に陰りが押し寄せた。その理由は、直ぐに分かったのだ。
手の中のビーム・ネイルが起動していない。
目の前にミュンヒハウゼンが、とても涼しげな顔で歩み寄っていた。
「私はね、人工的に能力をもう一つ持っている。脳内にチップを埋め込んでね、簡単な物さ。「電力の操作」だ。君のバグナクのバッテリーを奪った。さあ、ここから君はどうする……?」
電力の操作。なるほど、合点が行く。電磁フィールドの展開、というか。その可能性は考慮しておくべきだった。チッ、悠長に出来ねーじゃねーか!
ミシェル、瞬時硬直。もし、このまま深之介が一方的に嬲られるというなら。ミシェルは佐之に向かう以外の方法が無くなる。「深之介を生かしたまま佐之を倒す」という選択肢が無くなる故だ。ならこの状況一切合切無視して屠った方が「安い」。ミシェルがクローンに対応していたのはこれを深之介に近付けないため。乱戦になれば、深之介を殺す自信があった。どう見積もっても守れない、巻き込むしかない。故に。
その瞳を「暗闇」に染めて。ミシェルは深之介を伺った。準備が出来た。その時が訪れるようなら、ただの「タンパク質」と「カルシウム」に変えてしまう覚悟が出来ていた。次に深之介が吹っ飛んだ瞬間、スイッチは入る。
否。吹っ飛んだのは佐之だった。
近づいた佐之の電磁フィールドを、深之介は殴り抜いた。あろう事か、素手で。深之介はその場に腰を据えて立つ。
「俺の本能は……「生きること」だ」
ボロボロになった上着を、汗を吸ったシャツを。不要だろうということか破り脱ぎ捨て去った。
「……!」
きょとんとしたミシェル、刹那。満面の笑み。綺麗な白い歯が覗く。思わず笑いが止まらなかった。
「生きること、戦うことが……俺の
その肉体には痣が刻まれていた。月の兎の紋章が、上半身にくっきりと。彼は受け取ったのだ。佐之を倒す為に、彼のシンパシーを。