新社会「イクシーズ」―最弱最低(マイナスニトウリュウ)な俺― 作:里奈方路灯
――地下繁華街中央区、流星公園。先行していたナナイは足を止め、右耳のインカムに問いかけた。
「管制塔、状況が欲しい。進んでいいのですか?」
『問題無しです。そこから先が西区です、進んでください』
流星公園。ここが丁度、地下繁華街の中での真ん中に当たる。北区、東区、南区、西区――全ての接続地点だ。
イクシーズ中央、統括管理局管制塔からの連絡を受けて状況整理が出来た。ローラー作戦に現状支障は無し。やはりこの先、唯一出入り口が存在しなかった西区が本拠地という事か。いいだろう、先へと――
「来たか太陽ォ!構わぬさ、それが神の定めというのなら!!」
「ゴロウ!」
夜の公園に鳴り響く声。気が付けば、そこに降り立つ影。坊主頭に白衣、紛う事なき元・統括管理局職員「大宮吾郎」だ。
彼は歩くような早さでナナイに近づくと、数メートル先で足を止めた。
「貴方を、超える……!」
「その気は無い」
瞬間、ナナイ跳躍。横へと、一瞬の間だった。
「神へと寝惚けな。「
路地の影で親指で首を掻っ切るような仕草をして、そのまま
作戦。ナナイが陽動を受けた。釣った敵を一網打尽。掛かったのは大宮吾郎だ。
眩い程の光の霧散。剣の雨が止んだ後は、まるで昼間のように眩しくて。……大宮吾郎が、空に手を伸ばして無傷で立っていた。
「小癪な。しかし意味の無い……シャイン・ジェネシス!貴様では無理だ!!」
空間の歪曲。光の剣全てを何処かへやったらしい。
「第二陣、敷くぞ。潰せ」
『押忍!!!』
しかしそこまでは予想の範疇。シャインが合図をすると、増援が公園に突入する。ナナイと合流をし、吾郎へと迫る。
「数には数を。……敬虔なる信徒よ、奴らを共にねじ伏せようか」
『月に願いを!!!』
吾郎の言葉で、背後から湧いてくる月の兎達。再びの乱戦が始まり、夜明けまで、あと少し――
――巨大な黒人オーツの巨拳がミシェルへと迫る。
ミシェル、合わせ打ち。体躯をノーモーションのまま、腕から骨の塊を発現させて拳を形どり、オーツの拳に殴り合わせた。
「オーウ!ファッキンファンタジスタ!!?」
「夢みてーだろ。
骨……骸骨?に殴られたオーツはその拳を抑えて後ろに下がった。痛い。瞳の色をさっきまでと180度変えて、目の前の華奢な女の肉体を流し見る。
体重差、およそ100キロ。身長差、およそ50センチ。……その合わせ打ちの結果、こういう感想が生める。「有り得ない」。ただそれだけが脳内を埋める。純粋な疑問だった。
Holy shit(馬鹿じゃねぇか)!??何をした???
「力量から見るにSレート……素でAレートってとこか。筋悪くないぜ、アンタ。次に起きた時は全部忘れて真っ当な道を巡りな」
「……キルユー!!」
直後、飛び込んだオーツ。対してミシェルが取ったアクションはただ一つ。骨で目の前に壁を作っただけだった。
「
骨が軋む音。それを聞いたオーツは、そのまま意識を失いミシェルの作った骨の壁にもたれ掛かった。ズシン、とその巨躯を骨が微動だにせず支える。
オーツの骨が軋んだのではない。ミシェルの生み出した骨の塊が音を鳴らしたのだ。
「低周波の骨振動……筋肉の壁じゃあ、この音は防げねぇなぁ。ノーミソ夢へと溶け出しちまいそうだろ?って、もう聞こえてねーか」
筋肉を鍛えようが、骨を太くしようが、脳味噌は鍛えようがない、三半規管は存在する。ミシェルはオーツを道の端っこへと除けると、先に進んだ――
――青と灰の衝突。ナナイと吾郎の拳がぶつかり合う色。誰の目に見ても分かる。あの二人だけ、ランクが別だった。
「ミュンヒハウゼンは何処へ?」
「ツれませんね……!今は俺だけを見てくださいよぉ!!」
吾郎の右ストレートをナナイはギリギリ頬スレスレで交わし、右拳を腹部へねじ込んだ。
「ゲェッッ!!!」
弾け飛ぶ吾郎。ナナイ、冷静。誘いの追撃に乗らない。その場に立ち、言葉を投げる。
「後何回殴ればお前は死ぬ?このまま夜が開けるまでお前を小突き回してもいい」
吾郎が吹っ飛んだ中間地点の空間が、少しして歪な音を立ててねじ切れた。追いかけていたら、あれに飲まれていたろう。
目をひん剥いて、口を大きく開いて、ナナイを向く吾郎。やはり強い。
「ハハァ……!大雑把じゃ駄目か……。なら、いいんですよ。この公園一体を、飲み込んでも!!それが大雑把で駄目なら、もっとど派手にイぃィぃィィハハハァあぁぁぁぁ!!!」
両手を大きく広げ、高笑いをしながらさらに疳高く叫ぶ吾郎。空間が、一帯が、歪んでいく。
「ッ!ナナイ、ぶち込めェ!「星の宇宙船」起動開始ィ!!」
様子が怪しい吾郎を見てがなるシャイン。月の兎や見方が犇めく周囲の状況を一切合切無視して腰を落とし、拳を地面に付ける。地面に光の円が浮かび上がり、そこから次々と光の剣が宙に浮かび上がった。狙うは吾郎だけ!
「
ナナイ、またただ吾郎にだけ狙いを付けたまま最短距離を突っ走る。右手には「
吾郎目掛けて迫る光の剣とナナイ。あれを無視しては駄目だ、奴はこの空間全てを何処かに飛ばすつもりだ。ここで崩さないと、マズい――!!
瞬間。吾郎の前に割って入る月の兎が。白衣と仮面を身に付けたそいつが、吾郎とナナイの間に「見えない壁」を作って「カンタータ」と「光の剣」を防いだと同時に五郎が作った空間の歪みをかき消す。
「いかんね、吾郎君。それでは役割を果たせない」
「ミュンヒハウゼン……!」
目を細めるナナイ。現れた、佐之・R・ミュンヒハウゼン。次の瞬間。「見えない壁」に罅が入り、割れた。
「――覚悟は出来たぞ、佐之。お前は未来に連れていけない」
「
横槍から入ったのはフラグメンツ、浅野深之介。その手にはバッテリー駆動式の「ビームネイル」が握り込まれていた。形状は
ミュンヒハウゼンの見えない壁はなんてことない、正体は「電磁フィールド」そのものだ。ならば、光学兵器で壊すまで。