新社会「イクシーズ」―最弱最低(マイナスニトウリュウ)な俺―   作:里奈方路灯

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エモーショナル・バウンサー13

――地下繁華街中央区、流星公園。先行していたナナイは足を止め、右耳のインカムに問いかけた。

 

「管制塔、状況が欲しい。進んでいいのですか?」

 

『問題無しです。そこから先が西区です、進んでください』

 

 流星公園。ここが丁度、地下繁華街の中での真ん中に当たる。北区、東区、南区、西区――全ての接続地点だ。

 

 イクシーズ中央、統括管理局管制塔からの連絡を受けて状況整理が出来た。ローラー作戦に現状支障は無し。やはりこの先、唯一出入り口が存在しなかった西区が本拠地という事か。いいだろう、先へと――

 

「来たか太陽ォ!構わぬさ、それが神の定めというのなら!!」

 

「ゴロウ!」

 

 夜の公園に鳴り響く声。気が付けば、そこに降り立つ影。坊主頭に白衣、紛う事なき元・統括管理局職員「大宮吾郎」だ。

 

 彼は歩くような早さでナナイに近づくと、数メートル先で足を止めた。

 

「貴方を、超える……!」

 

「その気は無い」

 

 瞬間、ナナイ跳躍。横へと、一瞬の間だった。

 

「神へと寝惚けな。「天降(あもり)天叢雲光剣(あまのむらくものみつるぎ)」」

 

 路地の影で親指で首を掻っ切るような仕草をして、そのままサムズダウン(死の合図)へと指を振り下ろしたシャイン。夜空のスクリーンに混ざり込んだ黒雲から公園に降り注ぐ光の剣の雨。辺り一体を、凶器が襲った。

 

 作戦。ナナイが陽動を受けた。釣った敵を一網打尽。掛かったのは大宮吾郎だ。

 

 眩い程の光の霧散。剣の雨が止んだ後は、まるで昼間のように眩しくて。……大宮吾郎が、空に手を伸ばして無傷で立っていた。

 

「小癪な。しかし意味の無い……シャイン・ジェネシス!貴様では無理だ!!」

 

 空間の歪曲。光の剣全てを何処かへやったらしい。

 

「第二陣、敷くぞ。潰せ」

 

『押忍!!!』

 

 しかしそこまでは予想の範疇。シャインが合図をすると、増援が公園に突入する。ナナイと合流をし、吾郎へと迫る。

 

「数には数を。……敬虔なる信徒よ、奴らを共にねじ伏せようか」

 

『月に願いを!!!』

 

 吾郎の言葉で、背後から湧いてくる月の兎達。再びの乱戦が始まり、夜明けまで、あと少し――

 

――巨大な黒人オーツの巨拳がミシェルへと迫る。

 

 ミシェル、合わせ打ち。体躯をノーモーションのまま、腕から骨の塊を発現させて拳を形どり、オーツの拳に殴り合わせた。

 

「オーウ!ファッキンファンタジスタ!!?」

 

「夢みてーだろ。現実(リアル)だぜ、コイツ」

 

 骨……骸骨?に殴られたオーツはその拳を抑えて後ろに下がった。痛い。瞳の色をさっきまでと180度変えて、目の前の華奢な女の肉体を流し見る。

 

 体重差、およそ100キロ。身長差、およそ50センチ。……その合わせ打ちの結果、こういう感想が生める。「有り得ない」。ただそれだけが脳内を埋める。純粋な疑問だった。

 

 Holy shit(馬鹿じゃねぇか)!??何をした???

 

「力量から見るにSレート……素でAレートってとこか。筋悪くないぜ、アンタ。次に起きた時は全部忘れて真っ当な道を巡りな」

 

「……キルユー!!」

 

 直後、飛び込んだオーツ。対してミシェルが取ったアクションはただ一つ。骨で目の前に壁を作っただけだった。

 

泡沫に沈め(サイレント・ノイズ)

 

 骨が軋む音。それを聞いたオーツは、そのまま意識を失いミシェルの作った骨の壁にもたれ掛かった。ズシン、とその巨躯を骨が微動だにせず支える。

 オーツの骨が軋んだのではない。ミシェルの生み出した骨の塊が音を鳴らしたのだ。

 

「低周波の骨振動……筋肉の壁じゃあ、この音は防げねぇなぁ。ノーミソ夢へと溶け出しちまいそうだろ?って、もう聞こえてねーか」

 

 筋肉を鍛えようが、骨を太くしようが、脳味噌は鍛えようがない、三半規管は存在する。ミシェルはオーツを道の端っこへと除けると、先に進んだ――

 

――青と灰の衝突。ナナイと吾郎の拳がぶつかり合う色。誰の目に見ても分かる。あの二人だけ、ランクが別だった。

 

「ミュンヒハウゼンは何処へ?」

 

「ツれませんね……!今は俺だけを見てくださいよぉ!!」

 

 吾郎の右ストレートをナナイはギリギリ頬スレスレで交わし、右拳を腹部へねじ込んだ。

 

「ゲェッッ!!!」

 

 弾け飛ぶ吾郎。ナナイ、冷静。誘いの追撃に乗らない。その場に立ち、言葉を投げる。

 

「後何回殴ればお前は死ぬ?このまま夜が開けるまでお前を小突き回してもいい」

 

 吾郎が吹っ飛んだ中間地点の空間が、少しして歪な音を立ててねじ切れた。追いかけていたら、あれに飲まれていたろう。

 

 目をひん剥いて、口を大きく開いて、ナナイを向く吾郎。やはり強い。

 

「ハハァ……!大雑把じゃ駄目か……。なら、いいんですよ。この公園一体を、飲み込んでも!!それが大雑把で駄目なら、もっとど派手にイぃィぃィィハハハァあぁぁぁぁ!!!」

 

 両手を大きく広げ、高笑いをしながらさらに疳高く叫ぶ吾郎。空間が、一帯が、歪んでいく。

 

「ッ!ナナイ、ぶち込めェ!「星の宇宙船」起動開始ィ!!」

 

 様子が怪しい吾郎を見てがなるシャイン。月の兎や見方が犇めく周囲の状況を一切合切無視して腰を落とし、拳を地面に付ける。地面に光の円が浮かび上がり、そこから次々と光の剣が宙に浮かび上がった。狙うは吾郎だけ!

 

了解(ヤー)

 

 ナナイ、またただ吾郎にだけ狙いを付けたまま最短距離を突っ走る。右手には「青い拳(カンタータ)」を準備して。

 

 吾郎目掛けて迫る光の剣とナナイ。あれを無視しては駄目だ、奴はこの空間全てを何処かに飛ばすつもりだ。ここで崩さないと、マズい――!!

 

 瞬間。吾郎の前に割って入る月の兎が。白衣と仮面を身に付けたそいつが、吾郎とナナイの間に「見えない壁」を作って「カンタータ」と「光の剣」を防いだと同時に五郎が作った空間の歪みをかき消す。

 

「いかんね、吾郎君。それでは役割を果たせない」

 

「ミュンヒハウゼン……!」

 

 目を細めるナナイ。現れた、佐之・R・ミュンヒハウゼン。次の瞬間。「見えない壁」に罅が入り、割れた。

 

「――覚悟は出来たぞ、佐之。お前は未来に連れていけない」

 

グート(それでいい)。その答えを聞きに来た」

 

 横槍から入ったのはフラグメンツ、浅野深之介。その手にはバッテリー駆動式の「ビームネイル」が握り込まれていた。形状はバグナク(虎の爪)を模したもの。

 

 ミュンヒハウゼンの見えない壁はなんてことない、正体は「電磁フィールド」そのものだ。ならば、光学兵器で壊すまで。


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