新社会「イクシーズ」―最弱最低(マイナスニトウリュウ)な俺― 作:里奈方路灯
身長は172cm、体重67キロ。学問上の中、「不可無く可有り」、それなりに出来る奴という自負がある。周りからの評価は良く、人付き合いもいい。酒は
生きていく上で第一に「情」、第二に「金」を信条にしている。人間関係は全てを作る、そしてそれを支えるのは金だ。そんな彼が選んだ就職先というのは「警察官」だった。
給料が良い、人の為に働ける。ならば、就職するしかないだろう。良い事づくしの人生だ。自分という男を役立てて、この世の為に尽くす。正直、自分は高水準の人間だ。俺には出来る、人を幸せに!それが俺の正義だ!
この日、彼は目の前で「理不尽」を目撃する事になる。
「マジかよ」
目の前で飛び跳ねる青い瞳の少女。黄色い短髪を忙しなく靡かせて、夜の地下繁華街の街並みを「飛んでいた」……。文字通り、「飛んでいた」のだ。
人は飛ばない。鳥じゃないから。人は飛ばない。飛行機じゃないから。人は飛ばない。スーパーマンじゃないから。そんな「常識」って奴は、現実を目の当たりにするといとも簡単に崩れ去ってしまうものだ。
「フウゥゥゥゥゥゥ……!!」
腹式呼吸のような何かだろうか。少女は口からそのように呼吸音を鈍く響かせて、周りの月の兎を次々と蹴散らす。蹴ったり、殴り飛ばしたり、跳ねたり、撥ねたり。飛んでいる理屈は分かる。「建物」と「建物」の間を、壁を蹴って行ったり来たりすれば飛べるだろう。
いやいや、理屈上で分かってても実際に出来るのとは違う。水の上を走る方法が分かってても出来ないのと一緒だ。右足が沈むより早く左足を前に進ませれば、それを繰り返して理論上走ることが出来る……?「馬鹿か」と。
そんな彼女に次々と吹き飛ばされる月の兎達ってのは、一人を相手するのにAレート一人付きっきりでなんとか有利に倒せる、というものの筈だ。篠萩は体験していた。数合わせの雑魚じゃない。レート評定およそE~D程の市民、しかしアルテミスの加護による身体能力向上が凄まじい。故に実質「Aレート」……の筈なんだ。シャノワール・ミュンヒハウゼンは驚異なんだと知らしめるほどに。「阿呆か」と。
イワコフ・ナナイ。19歳の少女。能力1判定。たかだかそれだけの存在。それが彼女だ。
「国士無双」。麻雀でそういう役がある。篠萩勝正が趣味でやる麻雀の中でも、特別好きな役だ。個別の十三牌に加えて一牌からなる役、クラスは「役満」。役として最高のクラスだ。条件を整えればさらに二倍。言葉の意味としては、「最強の者」。単純明快に格好いいのだ。
目の前の少女は、その「国士無双」に値する――!!
「ナナイの邪魔はすんな!自由にさせてやれーーッ!!」
『押忍!!!』
Sレート「
シャインですら、ナナイに付いて行くなんてのは無理だ。邪魔をしないように立ち回る。ああなったイワコフ・ナナイは止まらない。追いつくのだけで周りはわりかし精一杯だ。
『月に願いを!!!』
「
着地したナナイに、一人一人では勝てないと悟った月の兎達は揃って飛びかかる。数は十では済まない。
この光景、勝負を確信したものが居た。シャイン・ジェネシスは、その光景をまるで
「
無論、篠萩にすら結末は見えた。「あ、勝ちだ」と。
「
地から伝わる力を足から腕へ。全身を体躯して放つ渾身の一撃、「
はじけ飛ぶ、軍勢。そして道が開ける。故に「国士無双」。これがシュヴィアタの一騎当千、「
吹き飛ばされた者達の後には、追撃が無い。この辺りの月の兎はここまでのようか。
「道が開いた……」
篠萩勝正は、ただそれを眺めていただけ。Aレート評定を貰っている彼自慢の「パイロキネシス」は一切発動する機会を貰えなかった。そういうレベルで、戦いについて行けない。
それが、彼女の姿。齢19歳、小さな背中が、とても大きく見えた――
――北口、地下繁華街内部。浅野深之介は隊長である「エリザベス・ロドリゲス」に着いて行った。
少数の高機動編成。後方からのバックアップは他班に任せて、今はとにかく前へ進む。
「……
浅野と並走する褐色肌に癖のある髪を後ろで括った女、エリザベス。イクシーズの人間じゃない。CIAからの応援、しかも「特殊Sレート郡」の人間だ。俗に言えば「化物」とも。媚を売る。
「よく知ってるね。そういう私も、お前をよく知ってんのさ。LAじゃ暴れなかったのかい?」
シェイド、テログループの一人「ミカエル・アーサー」。今は違えど、当時はそうだった。
「暴れれなかったんだ。LAには悪魔が出るってな。……おっと、いや、なんの話だかな。俺は「浅野深之介」だ」
「殊勝だね。あたいは「エリザベス・ロドリゲス」だ。気軽に
深之介とミシェルとの談笑中、空中から何かが降ってきた。二人はそれを避ける。地響きを起こして、何かはその場に現れた。ミシェルは特段驚いた様子もなく問う。
「おっと、何用や?」
巨大な体躯、威圧的なドレッドヘアー、黒い肌色、筋骨隆々。大きな拳が地面にめり込んでいる。明らかに只者でない男が降って沸いた。
「ミー、ここでキサマら足止めシマース。キサマら、此処でデッドオアダーイ」
ノシ、ノシと重い足音。近くで見れば見るほど……デカい。その図体、目測250cmオーバー。
「……
「
深之介がミシェル班を連れて行くと、此処は巨漢、以外に素直。それを見送った。
巨漢はミシェルの方を向き、ニカリと笑う。
「お前、良い匂いする。グッドスメル。血と、硝煙と、油っ臭さと、死の香り。……
拙い日本語で話す巨漢。その様は、むしろ恐怖を煽るものである。……ミシェル以外なら。
「オ~ラ~イ、シェーシェー。日本の方じゃねぇのさね。そういうのは
「俺の名、ボラリタール・モーリス・ゲイリー・ジ・オーツ。お前、
「めんどいからお前ボブな」