新社会「イクシーズ」―最弱最低(マイナスニトウリュウ)な俺― 作:里奈方路灯
「そんな……それ……」
逢坂緑はシャノワール・ミュンヒハウゼンの「シンパシー」を能力によって受けない。そういう話だった筈だ。だから夏恋も苦汁を飲み込んで緑を見送った。安全だった筈なんだ。電気信号によるプロテクトがあれば、と。シンパシーは脳に語りかける能力、夏恋が今回の作戦に参加出来たのもその為だ。本当なら、「顔見知り」であるシャノワールミュンヒハウゼンとの接触は避けなければいけないのに、逢坂緑を心配してやって来た。
――だったら。無理矢理ッ!
夏恋は右手を伸ばした。逢坂緑を連れ戻す為に。彼女の異能「エレキテルパルス」による電磁波を右手に流し込み、起動する。小型の「電磁フィールド」。緑を気絶させてでも、此処は!
夏恋の右腕から発せられる電磁フィールドを、緑は向かってキーホルダーを突きつけた。筒状のホルダーから放たれたのは、黄色い
っ、電磁フィールドの対処方法を!
「つぁっ!!」
人類主席が電磁フィールドを壊す方法を知っているのは至極当然の事だった。電磁フィールドは衝撃に対して反応、展開する。ならば、持続して衝撃を与えてやると常時反応する。迫り来る電磁フィールドはビーム武器で阻害出来る。
相殺した衝撃で、二人は仰け反る。戦闘慣れしているわけでは無い夏恋は大きく反動を受けて、体勢を崩す。対する緑もまたよろめくが、、一人の「月の兎」に抱きとめられた。
「女性がみだりに人前で柔肌を晒すのは関心しません」
「うん、ゴメン」
妙に仲のいい二人。その姿は互いを信頼した友人のように。一体、どういう事だ。まさか緑は、そこまで「月の兎」に……!
「な、待て……!」
「
「……月に臨む方へ」
夏恋の制止の言葉など聞かず、青年は緑に問いかけるとその答えを受け。彼女を両腕で抱き抱えてその場を離れるように飛び跳ねた。夏恋は、ただ信じられない光景を呆然と見ていて――
――「
「
バシリッ、と互いの拳をぶつけ合う吾郎とナナイ。オーラを含んだナナイの拳に対して、吾郎は引かない。互角だ。
殴り合いながらも吾郎は笑う。欲しかった念願をついに手に入れたのだ。
「シュヴィアタの民の身体能力は通常の人間のおよそ三倍を越える!貴方はオーラを含めて四倍だ!「
拳の応酬。地を蹴っての勢い余ったぶつかり合い。引かない。下がらない。
「アルテミスの加護はシュヴィアタの民と並んだ!身体パフォーマンスは見るに同等ッ!「
「「
割っては入れない。高スピードの高火力。他の月の民も警察も、攻めあぐねる程のやり取り。拳のぶつかり合いの衝撃で吹っ飛びかねないほどに周りに影響を与えていた。その飛び火を受けまいと、邪魔をさせまいと、両陣営は故に支援に回らなかった。
「そこに優劣を付けるなら「技」と「才能」……なにより「能力」!」
「空手から派生し中国拳法を取り入れたオリジナル……!強い!と言わざるを得んッ!」
「それを決定づけるのは「本能」だ!貴方に劣情ッ!殺意を催すッ!!」
「ですが勝てない、貴方では!正当性を掲げ、正義として振り下ろさんッ!」
ほんの一瞬だけ、時が止まった。というのは、「傍観者」の観点。次の瞬間には、「死」を意識した。と、後に見ていた警官は語った。「青」の拳と「灰」の拳が交じり合う。
「
吾郎の拳からは空間の断裂が広がった。飲み込んだ物全てを異次元に消し飛ばすような。
「「
ナナイの拳からは澄み渡る大地の力が広がった。衝突した物全てを受け止めるかのような――
――
「人が通常発揮し得る肉体の限界をご存知かな?」
佐之が跳ねた。深之介はナイフで佐之に対応する。狙うは動脈!
「知らん!」
ナイフが見えない壁に阻まれる。手が弾かれ、まともなキックを腹部に受けた。異常な衝撃にその体が宙を舞う。
「ぐっ!」
駄目だ、これでは妨害幻波が届かない!
「「30%」だよ。君はその体の力を30%しか使えていない。対する私は――」
「遅いッ!そんなんじゃー
ギインッ!と佐之の見えない壁に「光の剣」が火花を散らす。能面・般若を付けた白いジャンパーの少女が割って入った……黒咲夜千代か!
「――120%だ!コード・ファウストォッ!!」
「数学しか脳の無ェおちんちんがよぉ。四の五の言わずにかかってきやがれ!」
佐之が手を前に突き出した。駄目だ、またアレが来る。
「夜千代ッ!」
「だァれッ!「流転式」だ!!」
見えない衝撃が夜千代にぶつかる。瞬間、夜千代は二本の「光の剣」でそれを受け流した。
「ほう!」
「ケッ、構えたぞ」
再び夜千代が二本の光の剣を佐之に対して構えた。佐之、一瞬の硬直。慎重だ。
「そんじゃ、動くぜ。ヨガりな」
「――」
ダガンッ!強烈な衝撃音が鳴った。寸前のタイミングで佐野は場から飛び跳ねた。その右肩は肉塊を飛び散らせ、赤い血液を辺りに撒き散らした。
「っぐぐぐ……はははっ!!」
その状態でも追いすがる夜千代を尻目に退避行動を取った。普通なら痛みで気絶、ってところだが。流石に「アルテミスの加護」じゃ別の話か。
「1コンマおせーか……なんて反応しやがる」
夜千代は陽動だ。本当の狙いは遥か後方、騎士隊から――
――「クラウ・ソラス」
二丁のデザートイーグルを放ったのは剛田守だ。安全地帯から能力で空間を接続、瞬時に発砲。直ぐに接続を切り、反撃を許さない。どれだけ離れていてもゼロ距離射撃に近いほどの威力を叩き出せる。
何が起きたのか理解した「月の兎」達が騎士隊に向かってきた。こっちの手を止めようというわけだ。
「それじゃ、行くよ。「
瀧聖夜がそう言い放つと、騎士隊の辺り光が包み込む。光に包まれたシールド持ちの警察官が「月の兎」に向かってシールドバッシュを仕掛けた。盾による打突。すると、いとも簡単に「月の兎」の軍勢が吹き飛んだ。まるで装甲車に弾き飛ばされたかのように。
「この影響下なら問題は無いと思うけど。手の空いてる人、早く医療班へ。彼らを保護するんだ」
『
地面に叩きつけられ気を失った「月の兎」達を、騎士隊が後方へと運ぶ。相手は市民だ。無力化させたなら匿う。
「マモちゃん、次お願い」
「そのつもりで
「うん、それでも牽制にはなるから。後は前衛に任せるしかないね、僕らが行くと足でまといになるし」
一方的な攻撃と防御。これが騎士隊の