新社会「イクシーズ」―最弱最低(マイナスニトウリュウ)な俺―   作:里奈方路灯

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魂踊れや、赴くままに

 岡本光輝が横たわっていた布団の端にザン!と一つの刃が突き刺さる。黄色く光る光線のような剣、黒咲夜千代の「過去の遺物(オーパーツ)」から生まれし「光の剣(ジエッジ)」だ。投擲された。光輝はその危機に顔を青ざめる。

 

「私のダチは従妹のロリに手ェ出すペドさんだったとさ。いよし、未練はねー。遠慮なく逝け。後藤征四郎が泣いて喜ぶロリコンだ」

 

「まーて待て待て待てやっちんよ!お前は何か勘違いをしてる!俺とコイツは二歳しか変わらんぞ、ペドじゃない!ギリロリコンになるのかもしれんが!」

 

 ズシ、と庭から縁側へと土足で上がってくる妙に笑顔な夜千代に対して光輝は必死に静止の声をかける。犯罪じゃない、同意の上なら犯罪じゃないぞ!ちょっ……それ以上来ないで怖い!

 

「なんとも不忠たる背徳。不逞も不貞、よろしくねぇな。ふてえやつだ、こりゃクリス・ド・レイに靡かん訳だ……安心しろ岡本、此処は天国だ。死んでもなんとかなるんじゃね?」

 

「そんな曖昧な定義で俺を殺すな!おい、クリス!ちょっと待って……コイツ止めて!」

 

「知りません」

 

 悲痛に助けを求めた光輝だが、庭で凍った表情のクリス・ド・レイはまるで石化したロボットのように動かない。ただ、その口から悲しげに声を漏らすだけだ。

 

 夜千代が近付く。終わったと思った。しかし、その時。光輝の上に跨っていた人物が立ち上がった。

 

 巫女服を着直して、夜千代の前に立つ。鬼灯暁だ。まるで女神のように。煌めいてやがる。

 

「貴方誰ですか?何で此処に居るんですか?」

 

「あたしゃソイツのダチだ。何で此処に居るか分からんから帰り道を聞くために此処に来た。そしたらどうだ、なんやらガキと乳繰り合ってる。気に食わねんだよ」

 

 暁は夜千代をじっくりと視る。夜千代は笑顔だ。「黒い」笑顔だ。対する暁は睨みつけるように。光輝はただ、事が収まるのを願いつつわたわたするしかない。

 

「貴方……人間ですね。霊障でも受けたのでしょうか?私が門を開いたときにうっかり作用したのかも。ええ、先に帰しますとも。私にはそれが出来る。私はこうくんと此処でやる事やってから帰るんで。文句ありませんよね?」

 

「なんだ、お前さんが光輝を此処に連れ込んでたのかい。そのとばっちりを私らは受けたと。カカ、伊勢はパワースポットだ。八百万の神の舞台……奇跡を起こせるのなら不思議じゃねー、有り得んな。おいお前、過ぎた力は身を滅ぼす。気が変わった、私はお前をぶちのめすよ」

 

 夜千代は、まるで喧嘩を売るように言の葉を紡いで暁の胸ぐらを掴んだ。別に何ら、彼女に対して不安感を募らせるようなことはなく。夜千代も経験からか知らないが、肝は座っているようだ。しかし暁は怯まない。

 

「は?貴方ガイキチですか?善良な一般市民捕まえて何言ってるのですか?」

 

「善良な市民様は他人に迷惑をかけない奴の事を言う。私は安眠を阻害されてね……だとしたらお前は悪そのものだろ?」

 

 そう言い終えて、夜千代はそのまま暁を庭へと放り投げた。暁は自身の足に靴を「願い」で履かせて、そのまま砂利へ押し滑るように着地した。それを追うように、夜千代もまた庭へと降りる。

 

 いや、待て待て。その様は明らかに「輩」である。因縁を振っかけた。とてもじゃないが、褒められたものじゃない。と、思って、夜千代の過去を思い出す……あ、元々あーいうやつだ。

 

「悪は叩く。この世の灰汁(アク)だ。要らない物はポイと匙ごと投げてやるのがせめてもの礼儀だ。手向けの花束とでも思っとけ、彼岸花(ひがんばな)ほど大層なもんじゃねーがな。……ヴィレヴァンにシュネッケンが売ってた、供花にくれてやる」

 

「傲慢な奴ね……我が名は暁月(ぎょうげつ)、屠月の明!汝に押し付けるは不在証明の烙印よ!」

 

 世の中で気に入らない奴全てに喧嘩を売っていくスタイル、敵は居るだけ居た方が元気が出るようだ。それが、黒咲夜千代。彼女は張り合うのでなく、張っ倒して生きていく。一方的に。

 

「澄んだ、いい魂の色だぁ……恍惚するね。そんな無垢でいたいけな邪悪を知らない少女の泣き顔を見るのもまた、オツなのかもねぇ。そんじゃ、泣いて喚け。見せてくれよ」

 

「You can't see me(見えっこねぇ)」

 

 夜千代はまるで微笑みかけるように、暁は右手を自身の眼前で振って挑発するように。相手を向かい立つ、二人の少女。もう止まらないだろう、アレは。そんな風に思いつつ、光輝は縁側で座ってその光景を見てた。

 

 その隣で、ようやく時が動き出す人物が。クリス・ド・レイが、なんとかその隣に並んで座る。

 

「あの……止めなくていいんですか?」

 

「止まるわけねーだろ。岡本光輝は一般人だ、神の意思の代行者と過去の遺物を司る天才の間に板挟みされてみろ。金印のチューブワサビみたいにすり下ろされた状態になる」

 

「……貧乳が好みなんですか?まな板系ですか?」

 

「馬鹿言え。俺はクリスのDカップが大好きだ。ロリコンじゃない、むしろお姉さん系が大好きだ」

 

 ……って、あれ。俺何言ってんだ。弁明をしようとして、どんどんぬかるみにハマって行ってる。おいおい、岡本光輝よ。そりゃぶっ飛び過ぎだぜい。

 

「カップ数、分かるんですか?」

 

「超視力舐めんな」

 

 もう、敢えて開き直った。ここまで墓穴ほると後戻りは出来ん。……さて、後の問題は。

 

「私は天才だ!「光の剣(ジエッジ)」!!」

 

 あそこの二人にどうやって仲良くしてもらうかだよな。……うーん、どうしよ。


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