うるう年とはなんなのだろう…
聖櫻学園2年生の僕は気になって図書館に調べに来た。
うるう年について調べるため、そして大好きな先輩に会うために。

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ハピナさん主催のSS小説コンテスト応募作品です。
…という口実で前々から書いてみたかったGF(仮)作品を書けたぜ!マジでハピナさん感謝感謝です。
こういうイベントもいいですね。
素敵なイベントを企画してくれたハピナさん、本当にありがとうございました!


手を取り合って

《2016年2月28日 日曜日》

春の陽気が漂い始めた聖櫻学園の休日の図書館。そこに人気はなく、シンと静まりかえっていた。

そんな図書館のカウンターでは一人の少女が静かに本を読んでいる。彼女を見た僕は、思わず頬が赤くなったのを感じた。

聖櫻学園の図書委員であり、図書館のヌシ。そして僕の大好きな先輩、村上先輩だ。

 

「こんにちは、村上先輩。」

「あ、この前の。えっと、どんな本をお探しですか?いつも通り調べ物ですか?」

「はい、そうです。」

 

僕が先輩に声をかけると、村上先輩は手に持っていた本に栞を挟んで、聞いてくる。その問いかけに僕ははにかんでこたえた。

 

僕は気になったことはすぐ図書館で調べるので、図書館の利用回数は多いほうだ。だから村上先輩は僕の顔や名前を覚えているし、そのうちのほとんどが調べ物であることも知っている。村上先輩に調べ物を手伝って貰うことも多い。

そして僕は、村上先輩がとても素敵なことを知っている。見た目もそうだけど、村上先輩は1冊2冊の本以上の知識があって、本を読むより先輩の解説を聞いた方がわかることも多い。そして、時折見せてくれる笑顔が誰よりも輝いている。

 

「今日は何を調べるんですか?」

「それは…「村上サーン!」あれ、クロエさん?」

 

僕が調べ物について話そうとした所で、僕の背後にある図書館の玄関から特徴的な声が聞こえた。フランスからの留学生、クロエさんの声だ。

ちなみにクロエさんは村上先輩のクラスメイト、つまり僕の先輩にあたる。先輩をつけないのは…なんでだろ。

 

「村上サン!今年はウルー年デスヨ!1日得した気分デスネ!」

「ええっと、『うるう年』のことですか?」

 

ハイテンションなクロエさんに村上先輩は戸惑った様子で聞く。

 

「ハイ!そこでウルー年のウルーとはナンなのか…調べにキマシタ。」

「なるほど、『うるう年』について調べるのですね。奥から2番目の棚に天文学についての本が並べてあります。そのなかにうるう年について書かれた本があったかと…」

「ワカリマシタ!村上サン、ありがとうゴザイマス!」

 

大きくうなずくクロエさんに、村上先輩は素早く的確に本の場所を教える。僕の知る限り村上先輩に聞いた本の場所が間違っていたことは一度もない。本当に村上先輩はスゴいと思う。

本の場所を教えて貰ったクロエさんは教えて貰った所へタッタッタッと駆けていった。

 

「それで、あなたはどんな本を?」

 

唖然としていた僕に村上先輩が聞いてくる。

 

「あ、えっと、クロエさんと同じです。うるう年について調べようかと…」

「そうなんですか。先程言ったように、奥から2番目の棚にあると思います。」

 

僕もクロエさんと同じことを言おうとしていた。頭をかきながらバツが悪い気分で言う僕に村上先輩は同じ返答をする。

 

そこで僕はあることを思いつく。

 

「いっしょにクロエさんを手伝いましょうよ。一人より二人、二人より三人です。」

「えっ?」

 

突然の提案に驚く村上先輩。

 

「僕の調べ物とクロエさんの調べ物が同じですから、いっしょにやったほうが効率がいいですし、村上先輩の解説ってとても分かりやすいですから…嫌、ですか?」

「!嫌なんて、そんなことはないです!」

「そういってくれると思ってました。」

 

そして僕は村上先輩の手を引いて、奥のテーブルで本を開きながらウンウン唸っているクロエさんのもとへと向かうのだった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

うるう年についての本と先輩の解説を読み終わった頃には夕方になっていた。僕はクロエさんと別れ、村上先輩とともに帰ることにした。というのも、村上先輩と家に帰る方向が一緒なのだ。

僕達は夕日を背に並んであるいた。

 

「なんで『うるう年』は1日多いのか疑問でしたが、まさか一年が365日じゃないなんて…」

 

「ふふっ、初めて知った時は驚きますよね。」

 

そう、正確には一年は365日ではない。そのズレを修正するために2月に29日…『うるう日』をつくる。この『うるう日』が入れられる年のことを『うるう年』と言うのだ。

ちなみにいままで『うるう年』と言ってきたが、閏年(うるうどし)と漢字で書くことも出来るらしい。

 

「やっぱり先輩の解説分かりやすいです。今日も手伝ってくれて、本当にありがとうございます。」

「いえ、そんな…本のおかげですよ。」

 

僕がお礼をすると、村上先輩は顔を赤くしてうつむく。

照れている先輩もスゴく絵になっている。

 

パシャッ!

「「!?」」

 

僕達は突然のシャッター音に驚いて、反射的に音がした方向に顔を向ける。するとカメラを手にした女性がウットリした顔で立っていた。

 

「うふふふふふ。流石文緒ちゃんね、照れてる顔も可愛いわぁ」

「も、望月さん!撮影ならまた今度伺いますから!」

「えー?歩いていたらたまたま二人が仲良く並んで歩いているのを見かけたから撮っただけよ?ねぇ、もう少し撮らせて貰ってもいいかしら?」

「そ、それはちょっと困ります…」

 

村上先輩と彼女の名は望月先輩。写真部でよく村上先輩の写真を撮っている。ちなみに、望月先輩も村上先輩のクラスメイトだ。

ちょうど反対車線を曲がっていく黒く長い髪をもった女性の姿が見えた。あれは鳳歌院高校の制服だろう。ちょうどいい。

 

「あ、望月先輩。あっちに可愛い女の子が歩いてますよ。」

「ホントだ?うふふ、早く撮りにいかなくちゃ!」

 

先輩はアッと言う間に僕が指さした方向へと消えた。

 

「突然現れて写真撮られても困りますよね、村上先輩。…村上先輩?」

 

僕が先輩に話かけると、村上先輩はムッとした表情で僕を見ていた。僕はハッと気づいて理由を述べる。

 

「あの、村上先輩が困ってる様子だったので望月先輩を適当な方向へ誘導しただけですよ?」

「…………でもあの時女性の姿が見えました。」

 

まずい、村上先輩に嫌われるのだけは避けたい。

 

「ええっと、信頼性のある所に誘導した方がいいじゃないですか。後で何を言われるかを考えると怖いですから。それに、村上先輩のこと好きですし…」

「えっ?」

「あっ…」

 

しどろもどろになりながら必死に弁明すると、うっかり口を滑らせてしまう。…僕のバカ

村上先輩は顔を赤くして僕に背を向ける。その肩は震えていた。いきなり「好きだ」なんて言ってしまったのだ、怒っているに決まってる。

 

「む、村上先輩、ごめん!」

「ふふっ。いえ、怒ってなんていないですよ?」

 

振り向いた彼女の顔は朱に染まりながらも、笑っていた。怒ってはいないようだ。

 

「でも、全くデリカシーのないことを…」

「ふふっ、別にいいですよ。それより、その…もう少し話したいです。」

 

つまり、許して貰えたのだろう。僕は緊張がとけて、ホッとする。

 

「そうですね。時間もありますし、もっと話しましょう。」

「よかった。じゃあ…えっと、うるう日が2月にある理由ですが、わかりますか?」

「2月の日数が少ないから…とか?」

「いいえ。古代ローマの時代、2月と言うのは年末だったそうです。そのため、年末の2月にうるう年の調整が行われていました。それが、今に引き継がれているみたいです。」

「へぇー!」

 

その後も、村上先輩は1冊や2冊の本を読んだだけではわからない解説をしてくれた。

そんな解説をする村上先輩はいつもの解説をするときより輝いているように感じた。

いつのまにか、二人で手を繋いで歩いていたことに気づくのはもう少し後の話…



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