結果として、私たちの休日は次に持ち越しとなった。
あの蛇娘とロケット女の事もあるが、解析班が新たな特異点になりそうな揺らぎを観測したのだ。
それを知ったマスターはすぐさま揺らぎのある時代へレイシフトし、私たちは居残り組として残ることになった。
未だ特異点になっていないとはいえ、慎重に修復しなければどんな影響があるかわからない。そのため、1週間はマスターは戻らないという。
全く、事件は私たちを待ってはくれないとはいえ、少しくらい融通がきいても良いではないか、とため息をつきたくなる。
「…それで、なぜ俺のところに話しに来た」
相変わらずの仏頂面でこちらを睨むのは、クー・フーリン・オルタ。あの青い槍兵の別側面ーーーいや、此奴の場合は願望の具現か。 第五特異点で私たちの前に立ちはだかったことのある男だ。
「貴様とも長い付き合いだからな。少しくらい話しに付き合え」
何せ、青い方の此奴とはそれなりに出会っている。冬木での邂逅から、月の聖杯、アーネンエルベ、そしてカルデア。
あの弓兵ほどではないが、私もやはりこの男とはなにかしらの縁を感じずにはいられない。
「断る。戦い以外のことに興味はない。
貴様は俺に話しかけるより、あの未熟な貴様に王のあり方を説くべきだろう」
「そんなものはあの娘が勝手に学んでゆく。私が教えたところで暴君の治世として反面教師にしかならん。そしてあの娘は既に理解している」
「ならば修行でもつけてやれ。 弱いままでは遠くないうちに捻り潰されるだろう」
「ならば修行不足として、また鍛錬に励むだろうさ。 それに非常に不本意だが、マーリンもいる。私の剣術の師でもある夢魔だ。
彼奴ならば、適切な修行の仕方を教えるだろうよ」
次々に出される問いを1つ1つ潰していく。ーーーそれほどまでに私と会話をするのが嫌なのか、眉間にしわを寄せて考え始めた。
と、ちょうどそこへ自動ドアがスライドする。
「いたわね。ちゃんと連れてきたわよ、どういうことか説明してちょうだい」
「あっ、サンタじゃない方のオルタさん!
こんにちは!」
「もぐもぐ…む、貴様もいたのか。
ターキーが欲しければ此奴に言うといい。
私の方をじっと見てもくれてやらんぞ」
「俺にふるんじゃない。頼まれたところで作りはしないからな」
「作れないと言わないあたり、作ることそのものはできるのだな。流石は錬鉄の英霊。
たとえ中身が腐っても培った技術は失われないものだな」
「では、きっとお菓子も作れますよね。
私はみたらし団子と水羊羹を所望します」
ぞろぞろとやってきたのは、それぞれの英霊の【オルタナティブ】と呼ばれるものたち。
ジャンヌ・オルタ。 JDASL。
サンタオルタ。 エミヤ・オルタ。
ランサー・オルタ。 謎のヒロインXオルタ。
半数が自分の別側面ーーまたは別時空の自分だがーーであることに頭痛を感じつつ、
あの突撃女に返答する。
「良くやったな、ご苦労。さて、今回私が貴様たちを集めたのは、とある理由のためだ」
「とある理由…ですか?」
「そう。これは我々サーヴァントにおいて重要なことであり、今後の関係性にも影響を与えるであろう命題だ」
その言葉に全員の顔つきが変わる。
ジャンヌリリィは目を輝かせ、槍の私はニヤリと笑みを浮かべる。学生服の私は持参した菓子をつまみながらアホ毛をゆらゆらと動かし、クー・フーリンオルタ口の端を髪に歪める。ーー彼奴は本当にサーヴァントから好かれているな…なぜだか面白くはないが。
心の中にもやもやした感情が渦巻くが、それを払うように頭を振り、机に手をつく。
「それはーーーー
『マスターがどのオルタが一番気に入っているか』
だ!」
「あんた馬鹿なの?!シェイクスピアに騙されたの、それか狂化付与されたの!?」
顔を真っ赤にした爆撃女が怒鳴る。まったく、失礼な奴だ。私は狂化もなければ劇作家と会話すらしていないというのに。
「それなら当然私でしょう。マスターさんといつもマイルームでイチャイチャしてますし」
「私も、トナカイさんとナーサリーやジャックと一緒にお茶会してますよ!ですので、私が一番お気に入りでしょう!論理的です♪」
「俺や狂王が気にいられると思うか?
確かに目をかけているようだが、それはなんの理由にもなりはしない。俺は下がらせてもらおうか」
「好きにしろ。私の場合は部屋で…おっと、言わぬ方が良いか。子供には刺激が強すぎるか」フッ
「ほう。疾く答えるが良い、槍の私よ。
私のトナカイに手を出すとは、いい度胸をしているな。
我が聖剣もその答えを待ちわびているようだ」
「…くだらねえ」
「あんた達も何やってんのよ!?まだ理性的なメンツが色黒アーチャーとバーサーカーってどういう事よ?!」
周りのオルタたちも悪ノリしだした。
うむ、私が焚きつけたのが原因だが、私の別側面もいい具合に頭のネジが飛んでいるな。
頭が痛くなってきた。
「あんたも何『頭痛が…』って言わんばかりにこめかみ揉んでるのよ!?あんたが原因でしょうが!?」
「キャンキャンうるさいぞ貴様。カヴァス二世を思い出して見習え、あれ程までに見事に躾けられた犬はいなかったぞ」
「え、これ私がおかしいの?なんでアンタ達まで『早く認めれば良いのに…』みたいな顔してるのよ!?」
うああああ!?と取り乱す突撃女。
だが助けない。放置している方が面白い反応を返してくれるからだ。
「誰が一番強いのか、だと思っていたのだが…はずれたか。俺もそこの弓兵と同じだ、辞退させてもらう」
「いえ、是非ともあなたも一緒に話をしてくれませんか? みたらし団子あげるので、お願いします」
「…それだけか?」
「むぅ、欲張りですね…じゃあ後で赤い人に抹茶パフェお願いするので、それをお渡ししましょう」
「いいだろう。選ばれることはないだろうが、話には乗ってやる」
「ちょっと、セーラー服のアンタも黒ケルトを巻き込まないでくださる?もう手一杯なんだからほんとやめて!?」
と、今までだんまりを決めていた別宇宙の私が狂王を仲間に引き入れていた。
ふむ、抜け目ないな…流石は私の別側面。
「全く。男女の睦事を聞き出そうとは、礼節がなっていないぞ、サンタの私よ。
そこの小さい聖女よ、貴様はどう思うか?」
「えっと…それは、その…」
「おい、まだこいつには早いだろう。小さいの、ターキーを食堂からもってこい。赤い弓兵に言えば三ケースほど持たせてくれるはずだ」
「あっ、はい!わかりました!」
あのサンタの小娘はサンタの私にパシリをさせられていた。まあ内容が子供には早いとしてパシッたのだろうが…やり方が大人気なくないか?
「それで?結局誰が一番なのかね?」
と、そこで静観をしていた黒いアーチャーが切り込んだ。
ふふん、と、胸を張って堂々と宣言するように告げる。
「勿論私だ。第一特異点から亜種特異点まで、あの男を支えてきたのだからな」
「ふん、よく言うわ。第六特異点では専ら出番がなくて暇そうにしていたって聞いてるわよ。その点、私は第五特異点からとはいえ、殆どの敵に等倍で強力なダメージを与えられますから、一番信頼されてると言っても過言じゃない?」
「それを言うなら、私とクーオルタさんもそうですが。バーサーカークラスだから打たれ弱いけど、相性でカバーできます。クーオルタさんは生存能力が高い上、火力も十分。私は特殊スキルで皆さんをサポートしつつセイバーに特攻。バッチリです」
「バスターブレイブチェインもできぬ小娘が大きく出たものだな。全体宝具でバスターブレイブ、更にクリティカル強化+バスター強化の私こそ信頼されるに足るだろう」
「それならば私が一番だろう。単体回復スキルを持ち、バスター強化にクラス補正によるスター集中、スター獲得もできる上、宝具倍率も非常に強力だ。私が選ばれぬはずがない」
「「「「「…………………埒があかない(ですね)(わね)(な)」」」」」
「……念のために言っておく。戦闘はレイシフトしてからにしろ。拠点を味方が壊すなど笑えねえ冗談だ」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「…それで、また勝手にレイシフトしたと。
そして人里には被害はないが、山の中をメチャクチャにしてきたと。ふーん…」
あの後、レイシフトした私たちはマスターの言う通り、人里から離れた山にて大ゲンカを行なっていた。
しかし、その事を問題に思った職員がマスターに連絡したのか、とんぼ返りで戻ってきたマスターに令呪を使われ全員で正座をしていた。
「「「「その…マスター(さん)(トナカイ)(〇〇)?怒ってる(ます?)(のか)?」」」」
「おこだよ。激おこだよ。てか私的なレイシフト一回分で俺の給料も半分吹っ飛ぶんだからマジでやめて?や、ホントに」
「その、トナカイさん。私が止めてれば…ゴメンなさい!」
「ジャンヌサンタは謝らなくていいよ。
全く、誰が一番信頼してるかなんて、分かり切ってるだろうに」
「「「「……は?」」」」
「みんなそれぞれ役割違うんだから、全員等しく信頼してるに決まってるだろ?
この争いは、果物で言えばリンゴとブドウとモモとサクランボでどれが一番美味いか、なんて言ってるようものだぞ?
どれも味どころか種類もサイズも、ましてや食べる人の好みすら違うのに、争う理由なんてないでしょ?」
「それも、そうだが…」
「そもそもなんでこんな争いを始めたん?
オルタニキとエミヤオルタに聞いても答えてくれないし」
「……話したくありません」
「…そう。ならいいかな。じゃあ罰として、今後1週間、君たちには俺の抱き枕となってもらおうかな」
「「「「ファッ!?///」」」」
「嫌なら断っていいよ。けど、その場合は食事抜き1ヶ月になるけどね」
「ま、マスターさん。ほ、本気…ですか?
そにょ、抱き枕…っていうのは///」
「おう。異論がないならこれで終わり!
罰は今夜から、夜になったら呼びに行くから待っているように。順番は俺が決めるから、もう喧嘩するんじゃないよ」
そう言い残すと、部屋を出ていった。
……あの男が?私たちをどうすると?
………………………………………………………。
「…ちょっと?どうしたのよ?」
「おやおや、思考停止してますね。思考回路がオーバーヒートしてしまったのでしょう。
ちゃんと糖分をとっていないからです。
その点私は常に補給してるので問題ないです。やりました、ぶいぶい」
「お前は少し節制しろ。あいつが甘味の出費が激しすぎると嘆いていたぞ」
「…湯浴みをしてこなければ。あの錬金術師も呼ばなくてはならぬ」
「おいあの男を呼んでどうするつもりだ貴様。事と次第によっては–––「貴様も混ざるか?」–––仕方ないな、おかしな事をしないよう、見張っているとしよう」
「全く、なんという変わり身の早さだ。芸人になれるんじゃないか?2ヶ月と持たないだろうがな」
やいのやいのと騒ぐ私以外のオルタたち。
しかし、私の頭は先ほどの言葉でいっぱいだった。
ヤツは、私たちを抱き枕にするといった…つ、つまり…!
『いつまでそこに突っ立ってるんだ、オルタ。ほら、俺の隣においで……』
「〜〜〜〜〜〜ッ!!!/////(ボフン!)」
「うわっ、顔赤くしたと思ったら爆発した!?」
「いったいどんなことを想像したんですかね。ちょっと気になります。
ネクロカリバーで頭を開いてもいいですか?」
「そのまま座に帰るかもしれないからやめておけ。誰か医者を呼んで–––『患者はここですかッ!』–––ヒィッ、ナイチンゲール!?」
「患者の容体は!?原因はなんですか!?」
「どうせマスターの発言を深読みしたのだろう。病や怪我が原因ではないさ。
しばらく放っておけば頭が冷えるだろうよ」
「なら………と、マス………」
「了……おい、そ……………ま……」
だんだんと声が遠くなっていく。
ああ、全く。あいつの声が耳から離れぬ。
『夜になったら呼びにいくから』
クハッ…なら、部屋で眠りながら待っているとしよう。はやく、くるのだぞ…まって、いるぞ。マ、ス…ター………。
その後、オルタを抱えた少年がマイルームに入っていったが、何があったかは誰も知らない。ただわかるのは、その日からしばらく
セイバーオルタの姿が見えなくなったこと。そしてオルタの女性陣の顔がしばらく赤いままだったということだけである–––––––––
もう絶対一話完結の話しか書かない、そう決めた作者です。
小説を何度か書き直している間に、FGO ではいろんなイベントが起きてましたね。復刻羅生門&鬼ヶ島、CCCイベ、そしてアガルタ…目白押しでした。
FGO のストーリーはホントよく出来てる。改めてそう実感しました。とくにアガルタとCCC。那須さんと運営に感謝。
さて、次のお話は《女神》たちのお話です。
自由気ままな彼女たちは日々を送っているのか…。