「.........む?」
消えかけていた感覚が戻ってきた。
まるで、まだ自分が生きているかのような...。
「!! まだ....私は生きているのか?」
目を開けると、見覚えのない林のような場所にいた。
ここは地球か?
そして、自分が離別したコックピットにいる筈なのに、MSと変わらぬ高さにいる感覚がして、モニターに映すと、
「! サザビーが.....そのまま...」
確かに破壊された筈のサザビーが、造られたばかりの姿で立っていた。
更にそれだけでなく、
「ザク、ズゴック、ゲルググ、ジオング、リック・ディアス、百式.....今まで私の機体全てが揃っている。しかもどれも新品同様ではないか......!!」
しかし、見たことのないMSもあった。いや、正確には見たことはあるのだが。
見た目は若干サザビーに似ているが、全体的にサザビーより重厚なボディをしている。
「ナイチンゲール.....!!既に完成していたのか...!?」
サザビーと共に製造される予定だったのだが、実際には計画だけに終わったと聞いていたのだが.....。
「それに、このMS達は一体....」
「それは貴方が幻想になってしまったからよ」
「!!」
私はカメラを声の方に向けた。
そこには、ジェットパックも背負っていないのにも関わらず、空中に浮かぶ女性の姿。
服装は、紫色のドレスのようだった。
「(一体どのように浮いているのだ?)」
「私は八雲紫。この『幻想郷』を作った者よ」
「幻想郷?」
シャアは周りを見渡す。
だが目に入るのは地球の木々のみ。
「ここは地球なのか?」
「ええ、そうよ。でも貴方のいた地球ではない」
「.....どういうことだ」
「分かりやすく言うと、貴方は別の世界に来てしまったの」
別の世界?
そんなものが存在するのか?
「元の世界で、恐らく貴方は誰もが知るような偉大な人物だったのでしょうね。でも、貴方がいなくなった途端に、その才能、行動、歴史等と、他の誰にもできないことでもあった。だから、貴方という人物が存在していたかさえ、幻想のものとなってしまったのよ」
「そして、私がいないと言うことは、このMSも、と言うことか」
「そういうこと。で、貴方は一体何者かしら?」
「失礼。自己紹介がまだだった。私はシャア・アズナブル。だが、本名はキャスベル・レム・ダイクンという。君は胡散臭くはあるが、信用はできそうだ」
ここにあるMSは、偽物には見えなかった。
だとすれば、彼女の言っていることは真実であり、狙われることはない。
その為、本名を明かした。
「そう。じゃあ私はキャスベルと呼ばせてもらうわ。そっちの方がなんかしっくりきたし」
「できればシャアの方が良かったのだがな。まぁ構わんさ」
そう言って私はサザビーから降りた。
「あら、結構良い顔してるじゃない。モテるでしょう?」
「私が求めた女性は一人だけさ。ともかく、この世界がどういうものかを知りたい。私はもう戻りたいとは思わんからな」
私は......『シャア・アズナブル』を捨てることにした。
赤い彗星やネオ・ジオン総帥でもない。
ただの人間、『キャスベル・レム・ダイクン』として生きる為に。