何もできない僕の物語   作:必殺うぐいす餅

9 / 20
第9話

-----

僕が再び目を覚ました時、周りには異常な光景が広がっていた。

物言わぬ屍となったよく知った人達、同じようにピクリとも動かない魔物たち。

その先でレオンさん達がライオンの鬣を持つ魔物と剣を合わせていた。

 

「うおぉぉぉぉぉ!!!」

体の大きなフーガさんが自信の身長ほどもある大剣で切りかかり、その横からリリアさんが氷の矢を放つ。

魔物がその矢を切り払った隙を突きレオンさんがすばやく切り込む。

 

こんな状況なのに、思わず見入ってしまうような光景だ。

「気がつきましたか?」

僕の横からリプトさんの柔らかい声がかかる。

「は・・・はい・・・」

リプトさんの方を向きその優しげで、真剣な顔を見た。

「今は何も考えずこの場から動かないで、下手を打てば・・・彼らでも負ける」

僕の横にいながら的確に回復や強化魔法を放っている。きっと僕に意識を傾けるのも大変なんだろう。

 

金属同士が強く打ち合う音がした、その音に僕もそちらに目を向ける。

「ちぃ・・・人間にしてはやる!」

ライオンの魔物がレオンさんたちを弾き距離をとる。

「教えろ、どうやってこの町にたどり着いた。騎士団はどうした!」

レオンさんが魔物に剣を突きつけそう問いを投げた。

魔物はレオンさんを睨みつける。

「なぜ、この俺が貴様ら人間の問いに答えてやらねばならぬ?」

そう言い放ち丸太のように太い腕を組んだ。

「だが、今日は我らにとって目出度き日。その問いに答えてやろう!」

一度組んだ腕を大きく開きその魔物は天を仰いだ。

「我らは新生魔王軍!人間共の恐怖を吸い我等が魔王様が完全なる復活を遂げる!!たとえ大部分の力を封印されていようが魔王様の御力を持ってすれば空間をつなげることなどたやすい。見よ、そして恐怖せよ!それこそが我らの力となる!!」

その声と共に、町の中心から光が拡散する。強く禍々しい光が一気に駆け抜けていく。

「いけない!守護の神よ、その力の一端を持って我らに鉄壁の守りを!」

その光に焼かれる前に、リプトさんの魔法が発動する。

僕らの前に光の壁が現れ中心から広がる何かを防いでくれる。

杖を前に向けたままリプトさんは横にいる僕を抱き寄せる。

「大丈夫、大丈夫だからそのままで」

切羽詰ったような声で、それでも僕を守ろうとしてくれる。

きっと大丈夫だ、そう思った瞬間に魂の底から震え上がるような狂気的な轟音が響く。その音と共に光の壁が壊れ、僕たちは投げ出された。

 

幾度も転がり、石のような何かにぶつかりようやく止まった。

 

「おい、無事かい、少年?」

その声に目を向ける。僕らより前にいたはずのフーガさんが投げ出された僕とリプトさんを捕まえ守ってくれていた。

「は・・・い、なんとか無事です」

なんとかそれだけ搾り出す

「そうかい、なら良かった。」

短く言いい、立ち上がり前を向く。

僕を抱えていてくれたリプトさんも僕を優しく降ろしそれに習う。

僕は全身が痺れうまく立てず顔だけを向ける。レオンさんとリリアさんも無事なようだ。

 

皆の視線の先には町の面影も人間も・・・魔物すらも無い荒野が広がっていた。

その荒野に立つ魔物、あれだけの爆発だところどころ焼けている。

「さすが魔王様よ、だが・・・加減を間違えられたか・・・」

渋い顔をしながら僕らに背を向け傅いた。

「お久しぶりにございます、魔王様。あなた様の忠実なる僕オーストにございます」

 

「久しいな、生きておったか」

その声の先に、黒いマントを羽織った何かを見た。

「だが、あの程度に耐えられぬとは・・・わが軍の質も落ちたものだ」

長い黒髪を横に流し、僕らと変わらない体躯の美丈夫だ。唯一異様に長い耳が人間ではないことを物語っている。

「申し訳ありません、魔王様がお篭りの間、放置しすぎていたようにございます」

「まぁ良い、軍の再編もまた良い暇つぶしになろう」

魔王と呼ばれた男が、僕らを眺め、止まる。視線の先にいるのはレオンさんだ。

「貴様が勇者の血筋とやらか・・・ふむ、面影があるな。1000年ぶりくらいか」

レオンさんがぼろぼろの体で、それでもとても強い目で睨み剣を向ける。

「貴様が・・・魔王!」

「いかにも、我こそが魔王。それで、我が魔王であればなんとする?」

レオンさんは剣を構えなおし、堂々とした態度で言い放った。

「俺の名はレオン、我家に受け継がれた力で今一度貴様を封印する!」

そのまま魔王に斬りかる。

とても満身創痍と思えない速度で魔王に迫り剣を振り下ろす。

魔王は・・・動いていない、反応できていない?

そんな僕の思考そのものが間違いだったと数瞬後には悟った。

 

振り下ろされた剣は魔王に当たることなく不自然に横にそれた。

 

反応する必要すらなかっただけの話なのだ。

 

「ふむ、奴の子孫だというから期待したが・・・我に触れる資格すらない」

 

その言葉と共になぜかレオンさんが後ろに弾き飛ばされる。

高速で殴られた?魔法で弾かれた?僕の目には何も映っていない、詠唱すらしていない何をされたのかわからなかった。

 

 

魔王、御伽噺に描かれる絶対の悪。

かつてただの暇つぶしという理由で人間に戦いを挑み、世界の半分以上を手中に収めた悪魔。

その圧倒的な実力を前に僕はただ、呆然と魔王を見ることしか出来なかった。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。