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昼下がりの森の中、僕達は馬車で街道を進んでいく。
あの後、徒歩より良いと使えそうな馬車を調達した。馬は宿屋に留めてあったのが生きていたので拝借した。
ごめんなさい・・・いつか返せたら返します・・・
そんな事を心で思っていた。
真っ赤な髪を天に向かって撫で付けながらフーガさんが言った。
「おかしいな・・・魔物たちは徒歩で向かってんだろ、ならもうじき追いついちまうんじゃないか?」
この髪、ずいぶん長いけどどうやって立たせてるんだろう・・・
そんなくだらないことよりも魔物のことだ。確かに徒歩で向かっていたはずなのに・・・
その言葉に御者をしていたレオンさんが顔をしかめる。
「夜通し歩いていたとしてももう追いついていてもおかしくない・・・」
その言葉に僕は最悪を考えた、既に魔物が自分の町に着きオラドゥールと同じことになっているんじゃないかと。
「は・・・はは。そんな、じゃあ、もう町について・・・町が・・・」
青ざめ、動揺する僕の頭が優しく撫でられた。
「最悪、町は襲われているかもしれません。でもヨアン君、大丈夫ですよ。私達が王都を出た時点で避難の指示、そして騎士団の編成が始まっていますから。人が無事なら、すぐに復興できます」
そう優しく、安心する声音でリプトさんが話しかけてくる。
「そう・・・ですよね、町が無くなっちゃうのは辛いですけど・・・皆が生きていればすぐに元通りですよね!」
僕は勤めて元気に言う、自分に言い聞かせるように。
「とにかく、ここからは気を張っていこう。最悪市街戦になる・・・皆、準備だけはしっかりと」
レオンさんのその言葉を皮切りに皆の顔が真剣な物に変わる。この人達に任せていれば安心できる。そう思わせるだけの風格と力強さがあった。
無言の僕たちを乗せ馬車は森を抜けた。森を抜ければすぐに門が見えてくるはずだ。
だけどそこに門はなかった。
見えたのは門だった物、崩れ瓦礫と化した物。
僕が毎日のように見ていた、頼もしかった城壁はもうそこにはなかった。
そして、中では目を覆いたくなるような・・・凄惨な光景が広がっていた。
崩れた城門のすぐ下で倒れ伏す兵士、そのすぐ先に倒れるたくさんの人、人、人
普通の町人の格好をした人達。
僕はわけがわからなかった、町に避難指示が出ている?ならどうしてこんな光景が広がっているのだろう。
少し先に倒れているおばあさん、いつも門前広場の花に水をあげていたのを覚えてる。
わからない
わからない
わからない
皆避難をしたはずだ、だってそうだろ?避難指示が出てた、騎士団も向かっていた、『最悪』の場合でも町の人は無事なはずだ。
そうだ、僕はきっと馬車の中で眠ってしまったんだ。それでこんな悪夢を見てしまったんだ。
あはは、そうだ、これは夢だ。そうに違いない、それ以外であってたまるものか。
だけど現実はいろんな情報を僕に伝えてくる。
未だ燃える町の熱、オラドゥールでも嗅いだ・・・血の匂い。
ああ
あああ
「あああああああああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!」
僕は、この現実に耐えられない。耐えられなかった。