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あの小さな女の子の足元に、ぼろぼろになった魔物が倒れていた。
「心配しなくて良いぜ、こいつら強さは折り紙つきだ性格は察してやってくれ」
「いや、察してってそんな・・・」
そこまで言った僕の目の前にごつい手が差し出された。
「俺はフーガ、このパーティーの前衛の一人だ。立てるか少年?」
赤い髪を逆立たせ、額にバンダナを巻いたワイルドな男性がいた。
「ぁ、はい。ありがとうございます」
そして手を借り立ち上がるとリリアと呼ばれていた少女が歩いてきた。
「私はリリア・・・おそくなって・・・ごめんなさい・・・」
リリアさんが手を差し出してくる。
「あ・・・えっとよ、よろしくお願いします!」
握手をしようとして、自分の手が汚れているのに気がつき一度服で手をふいてから握手をした。
小さくて、柔らかい、華奢な手だった。その感触に、僕は顔が少し熱くなった気がした。
フーガさんが僕の肩を抱き耳元でささやいてきた。
「おい、坊主・・・お前リリアに惚れたか?安心しな、あいつまだ誰とも付き合ったこと無いはずだぜ」
唐突な言葉にさらに顔が熱くなる。
「ちょ、いきなり何を!」
あぁ・・・絶対顔が赤くなってる・・・
僕がそんな事を思っている時、魔物の声が聞こえた。
「ガァ・・・おもちゃ如きガ・・・絶対許さネェゾ・・・おもちゃ共如きがよぉ・・・」
怨嗟が満ち、殺さんとする気が声だけで伝わってくる。
「ヒッ・・・!まだ・・・生きて・・・」
おびえる僕の前にリリアさんが立ってくれた。
「まだ・・・やる?」
僕らに向けていた柔らかい笑みを消し、無表情で敵を見下ろしていた。
「クソが・・・ぜってぇ・・・ゆるさねぇ・・・今は逃げの屈辱を受けてやる・・・だが!絶対に殺してやるからなァァ!!」
そういうと魔物は黒い光の柱に包まれ姿を消した。
「逃げたか・・・とりあえず和むのもここまでだ、事情を聞かせてくれるかな、ヨアン君」
レオンさんが僕に優しい笑顔を向けてくる。
「そうだ!魔物が・・・魔物の軍勢が僕の町に!」
「そっちのほうはもう大丈夫だよ、避難は始まっているはずだし王都から駐留騎士団が街道を下っている。聞きたいのは魔物の規模や指揮官、どの程度のレベルかってとこかな」
よかった・・・町は無事なんだ・・・
「少しは安心してくれたかな?とりあえず移動しながら話をしようか。僕らも騎士団に合流しなくちゃいけないからね」
騎士団が王都から、そしてこのお兄さん達がここから向かう。
あれだけの数の魔物が相手といえどもそれだけの戦力があればきっと勝てる、そう思える。
「はい!僕のわかることであればいくらでも!」
お兄さん達と一緒に僕も街道のほうへ歩いていく。
あぁ・・・はやく町に戻りたい。きっと町に戻れば前と変わらない日常が戻ってくる、そう信じて。
「悪いが、俺はこの町に残る」
歩き出した僕らの後ろから聞こえた。
「まだ怪我人や生き残りがいる、戦いが終わった後での救助じゃ助けられないかもしれないからな・・・動ける奴を集めて先にはじめておくよ」
「そうか、こっちは任せるぜ、マルコ?」
「おう!お前らはとっとと魔物殲滅して騎士団連れてきてくれよな、レオン!」
マルコさんとレオンさんが拳を作りぶつけあう。
すぐに傭兵さんがこっちを見た。
「坊主はどうする?この町に残るか、レオンについていくか」
それを聞いて少し悩む、レオンさんたちについていけば早くフラングに帰れるし避難所にも送ってもらえるだろうけど、魔物と会ってしまう可能性がある。オラドゥールにいれば魔物と会う可能性はかなり低いがいつ町に帰れるかわからない。
ぼくは・・・
「俺としてはヨアン君にはついてきて欲しいと思ってる。どうだろうか」
レオンさんが僕を誘ってくる。
「でも・・・僕がついていってもきっと何も出来ないし邪魔に・・・」
「良いと思う」
リリアさんが僕が言い終わる前にかぶせて来た。
フーガさんが珍しい物を見たと言わんばかりに目を丸くした
「ヒュ~、珍しいなリリア。いつもどうでも良いとか言うくせによ」
リプトさんも、言いだしたレオンさんも目を丸くしている。
「別に・・・どうでもいいけど・・・どうでもいいならついてくれば良い。ここにいても、いつ帰れるかわからないし」
フーガさんは僕の肩を抱き寄せた。
「お前・・・リリアに何した?お気に入りってレベルじゃねぇぞ・・・?」
一気に顔が熱くなる
「えぇ!?ぼ・・ぼくは別になにも!」
ちらりとリリアさんのほうを見る。
ものすごく無表情だ・・・心なしか嫌そうな顔にも見える。
「どうでもいいって言った。私達の近くにいれば確実に守れる、早く家に帰れる。それだけ」
そんな様子を微笑ましそうにリプトさんが見てる。
「ほら、あんまりからかわないであげて。問題が無いなら早く出発しますよ」
「よっしゃ!ちゃちゃっと魔物を片付けに行こうぜ!」
「行こう、フラングへ!」