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・・・は?
こいつはいったい何を言ったんだ?
すぐに引いた?
街であんなにたくさんの人が亡くなったのに?
騎士団は街を、人を守るためにあるって。
なんで?
思わず立ち上がりそうになったがリプトさんに抑えられてしまった。
「伯爵様、それはどういうことですか?」
レオンさんが伯爵に質問をぶつける。
「街の防衛、住人の避難はどうされたのですか!」
それに一瞥だけ汚い視線を投げてきた。
「わしら騎士団は国の防衛という重責を担っておる、被害が大きくなりそうなら引くのが常識だろうて」
「街にどれだけの被害が出たと思っておいでか!己が身に変えても民を守るのが騎士の・・・」
怒鳴るレオンさんの顔に水の入ったコップが飛んできた。
「だまれぇぇ!!貴様のような木っ端と一緒にするでないわ!!」
伯爵は立ち上がりこちらを睨み付けてくる。
「古くは王家に連なる高貴なわしの身を平民如きと引き換えにせよと、ふざけるのも大概にしろ!」
えほっえほと咽ながら顔を真っ赤にしている。
これが騎士?誇り高く、犠牲を省みず民を国を守護するもの。それが騎士だって・・・
ならこいつは騎士なんかじゃない、こいつが騎士だなんて絶対に認めない!
「お前は!」
そう叫んだ瞬間、僕の目の前には地面があった。同時に鼻を強打したのか血のにおいがする。
「すいません、こいつは平民出身でして。お目こぼしを」
僕の頭を抑えながら、フーガさんが謝罪を口にする。
「平民如きが・・・いや、そうか」
伯爵がにやりと口元をゆがめた。
「本来であれば貴族たるわしに口答えなぞその場で処罰される行為だ・・・だがわしは寛大でな、許してやろう。」
そこで言葉を切りリリアのほうをねめつけた。
「代わりにリリアよ、一晩わしの共をせよ」
ゆっくりと醜い巨体をこちらに寄せてくる。
こいつは・・・どこまで腐ってるんだ・・・!
こんな言葉の発端を作ってしまった怒りと感情に任せて口を出してしまった自己嫌悪とが混ざり涙が出てくる。
「申し訳ありませんが、それは出来ません」
レオンさんが伯爵の前に立ち毅然と言った。
「この小隊のことは私に一任されています。たとえ伯爵様であろうと手出しは許されません」
即座に顔を真っ赤にし醜く太った指でレオンさんの胸倉を掴みあげた。
「小僧が偉そうに!きさ・・・」
「私たちは王命を受けて動いており、急ぎ王都へ戻る必要があります。馬車の供出をお願いいたします」
伯爵は掴んでいた胸倉を乱暴に離し横にあった机を蹴り飛ばした。
「糞ガキが!」
「王命でありますので・・・急ぎご対応をお願いいたします」
「馬車をこいつらにくれてやれ!」
荒々しく椅子に座り大声で告げた。
「糞共が!とっとと消えろ!!」
皆がすばやく立ち上がり一礼して退出していく、僕もリプトさんに引っ張られるように退出していく。
レオンさんが御者台へ、僕たちは馬車に乗り一路王都へと向かう。
その中で、僕はフーガさんに頭を掴まれた。
「おいこら。俺は絶対に喋るなと言ったよな、あ?」
ミシミシと僕の頭蓋が音を立てる。やばい、つぶれる・・・
「フ・・・フーガさn・・・」
「フーガ、やりすぎ。暴力はだめ」
リリアさんがフーガさんの腕を掴みやさしくはがしてくれる。
「わかった、暴力はやめる。だが説教だ!」
腕を組みにらみつけてくる、すさまじいプレッシャーを感じた。
「あの・・・本当にごめんなさい。あいつの話を聞いて、頭に血が上っちゃって」
「気持ちはわかるし、俺たちも憤りを感じる。だがあいつはあんなんでも貴族だ、下手を打てば打ち首だってありえた」
フーガさんはそこで一拍おいてリプトさんに目を向けた。
「そうですね・・・私たちはまだ立場がありますから簡単にどうにかされるってことはないですけど、ヨアン君は違います」
そうだ、僕は平民。ただの商人の息子だ、本来貴族と話すことさえ出来ない身分だ。
「その・・・本当にごめんなさい」
「ブタのことなんて忘れればいい、相手にするだけ無駄」
「はぁ・・・商人の息子として隙は見せられないんだろ?まだガキだが、自分で言ったことくらいはやってのけろ。いいな?」
そういって大きな手で頭を撫でてくれる。
この人はいつも厳しいようで優しい。
「はい、すみませんでした・・・」
「ヨアン君、フーガを嫌わないでやってくださいね?彼、こう見えても子供好きなんです」
フーガさんがすぐに視線を逸らし寝転んだ。
「うっせ、俺はガキでも区別しねぇ。認める奴は認めるってだけだ」
この人はやっぱり優しい、僕みたいな子供でもきちんと男として向き合ってくれる。
「そんなこといって、街でもよく子供と遊んであげてるじゃないですか」
「ロリコンブタ野郎がここにも」
そんな僕の感動をよそにリプトさんだけでなくリリアさんも意地悪くにやけながらフーガさんに追撃をしていく。
フーガさんが勢い良く体を起こしリプトさんたちに指をさした。
「だぁもう!うっせぇな!お前らちょっと黙ってろよ!」
その顔はわずかに赤くなっていた、照れてるんだろうか。
「それにリリア!俺はロリコンじゃねぇ!つかあのブタ野郎と同じ扱いとか冗談でもひでぇぞ!」
「それについては悪いと思ってる」
リリアさんが見事な棒読みで返す。
「もう、リプトさんもリリアさんも人が悪いですよ。フーガさんは僕なんかにも真剣に向き合ってくれるいい人です」
「それだ!」
僕が言った途端フーガさんが僕を指差してきた。
「それ?フーガさんがいい人ってとこですか?」
「違っげぇよ!俺は・・・まぁいい、それは後だ。お前、いちいちさん付けなんかすんな」
「え?さん付けするなって言われても・・・皆さん年上ですし尊敬できる人だし」
僕は首をかしげてフーガさんのほうを見る。尊敬できる人、目上の人を呼ぶ時はさんが常識でしょ。
「俺たちは仲間だ、さん付けなんてちっと他人行儀すぎるぞ。俺のことは呼び捨てでいい」
「えぇ?いやでも」
渋ろうとする僕に皆も同調してきた。
「フーガ、たまにはいい事言う。私もリリアで」
「いいですね、なら私のこともリプトで」
「そういう話なら僕も混ぜてくれよ、レオンって呼び捨てでいいからね」
御者台からも声が上がる、ずっと話に入ってこなかったけど聞いてたのか・・・
でも全員呼び捨てなんて・・・なんというか恐れ多いな・・・
そんな困った顔の僕の頭をリプトさんが優しく撫でてくれる。
「ヨアン君、私たちは仲間です。遠慮なんていりませんよ?」
その優しい笑顔と手つきに照れながらもなんとか言葉を返す。
「ぇっと、すぐには難しいかもしれないですけど・・・がんばります」
「えぇ、ゆっくりといきましょう」
「おう!」
「ヨアンのペースでゆっくりいけばいいさ」
口々にそう言ってくれる。ちゃんと、みんなの仲間になれればいいな。
「私は呼び捨て以外返事しない」
「ええ!?」
ちょっとむくれたような調子でリリアさんに言われて困惑する。
「ほら、皆。盛り上がるのはいいけどちゃんと寝ておかないと王都についてからつらいぞ、御者は僕がやっておくから、今のうちに寝ておきな」
レオンにそう言われ、皆すばやく寝る準備に入った。
お休みと声を掛け合いながら僕も寝る体制に入る。
この人達となら、どんなつらい明日でも乗り越えていける、そんな力強さを感じながら僕の意識は落ちていった。
次週、もし間に合わなければ設定集になるかもしれません・・・
何とか間に合わせるつもりですが何分筆が遅いもので・・・
待っていただいてる方、大変申し訳ないことです・・・