何もできない僕の物語   作:必殺うぐいす餅

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第1話

静謐な朝の空気が消え人の動きが最高潮に達する昼時、町には様々な音が響いていた。

人や馬車が通り過ぎる音、売り買いする声、どうでもいいような雑談。

 

 

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サザラント王国。

穏やかな気候から多くの作物に恵まれ、世界屈指の軍事国家であり、人類の敵である魔物たちの国と国境を接する国。

 

そして最前線から遠く、交易によって栄えた町フラング。

王都から馬で1日と程近く、また街道の交差点にあり人も物も溢れたとても豊かな町。

 

そんな賑やかな町の雑貨屋に一人の少年の姿があった。

短く刈った栗色の髪と綺麗な黒い瞳、友達によくからかわれるとても小柄な体躯。

周りと同じような地味な服を纏い、今日も父の店の手伝いに汗を流していた。

 

「父さん、荷物届いたよ!」

今届いたばかりの木箱を台車に乗せ、小太りの人の良さそうな中年、父親であるヴァレルに声をかけた。

「おう、届いたか。店の奥に置いといてくれヨアン」

そう声をかけられた少年、ヨアンは元気にうなずき台車を店の奥に向けた。

台車から隅へと木箱置く、ちょうど置いたタイミングで父さんに声をかけられた。

「そうだ、ついでといっちゃなんだが手紙を届けにいってくれんか?」

「手紙?いいよ、何処に持っていくの?」

僕は台車を片付けながら父さんの方に歩いていく。

「ちょっと待ってろ・・・あぁ、あった、これだ」

父さんには珍しく蝋で封までしてある。

「ちょっと父さん、これ重要な手紙なんじゃないの?」

僕は少し驚きながらも手紙を受け取った。

「あぁ、まぁ隣町の商会までだからな。場所わかるか?」

「わかるけどさぁ・・・行商さんには頼めなかったの?」

父さんは頭を掻きながらばつが悪そうに言う。

「いや、頼めなかったわけじゃないんだけどなぁ・・・」

「どうせ父さんのことだし、期日間際に書いて渡し忘れたとかでしょ?」

それを聞いて父さんは急に腕を組み僕ににらみを聞かせながら怒ったように言った。

「そういうのいいから!行ってくれんだろ?今から馬車に乗れば夕方には向こうに付くだろ、はよいけ!」

手を払いまるで追い出すように言って来る、こいつ・・・本当に父親かよ。

「父さん、行くのはいいけど日帰りは無理だ。宿代と馬車代くらいくれよ、あとお駄賃ね」

にっこりと笑いきちんと請求すべき物を請求する。断じて僕の小遣いから出してなるものか。

「はぁ・・・ちゃっかりしやがって、誰に似たんだか」

机から財布を取り出し硬貨を何枚か渡してくる。

「これで十分だろ。釣りが駄賃だ、行ってこい」

僕はさらに笑顔を深めてことさら感謝した風を装う。

「ありがとうございます!ヨアン、行ってまいります!...ちなみに笑顔は親父の真似だよ」

父さんはまたもや頭をかきながら困り顔で言って来る。

「あぁそうかい、まったく将来が楽しみだよちくしょう。気をつけてな!」

 

 

僕の父さんはこの町で商人をしている。商会の直属の店であり、様々な商品を扱っている関係で町での顔も広い。この町で父さんの、ヴァレルの子だといえば大体通じる。

そのせいか普通に歩いているだけでも周りからたくさん声をかけられる、いつもできる限りにこやかに返すがこういう急いでいる時は少し困りものだ。

 

僕は城門近くの馬車乗り場へと急ぎ足で向かう、この時間ならまだ間に合うだろう。

 

その後も何人かに挨拶をされながら馬車乗り場へとやってきた。

行き先は城塞都市オラドゥール。強固な城壁に囲また最前線への中間地点となる町だ。

 

何台か止まっている馬車の中で2頭立てで幌付きの、長距離用と思われる馬車に声をかけた。

「すみません、これってオラドゥール行きですか?」

僕の声を聞き御者のおじさんがちょっと怖い顔を向けてきた。

「そうだが・・・坊主が行くのか、今日中には戻ってこないぞ?」

僕は笑顔でうなづいた。

「はい!ちゃんと宿の宛てもありますし、明日の朝一で馬車に乗って帰ってきますから!」

「そうか・・・なら乗りな、料金は先払いだ」

僕は規定の料金を払い馬車に乗り込んだ。

中には恰幅の良い男性と寄り添っている奥さんと思われる女性に若くガッチリした体格のお兄さん、眼帯をつけ鎧を着込んだ凄く強そうな人が乗っていた。

その中の恰幅の良い男性が話しかけてきた。

「おや、坊ちゃん。お使いの帰りかな?」

どうやらこれから帰るところだと思ってるらしい、僕みたいな子供が泊まりで出かけるとは考えづらいんだろうなぁ・・・

だから僕はこう言ってやる。

「いえ、これから行くところです、オラドゥールで父の用事を済ませて朝一番の馬車で帰ってきます。こう見えてもう14ですから、子供じゃありません」

ツンと済まして言い放つ

恰幅の良い男性はその様子を見て笑い出した、失礼な。

「いやいや!すまなかったね。ほら砂糖菓子をあげよう、これで許してくれるかい?」

そういって腰の袋から綺麗な色をしたお菓子を取り出した。

お菓子で僕の機嫌をとろうとは、何度も言うが僕はそんなに子供じゃない。

恰幅の良い男性の手からお菓子を取り口に含む、甘くてとても美味しい。

まぁ・・・お菓子に罪はない、この甘さに免じて許してあげよう。

「ふん、もういいです許してあげます。ぁ、お菓子ありがとうございます」

ちゃんと物をもらったお礼はしないとね、大人だから。

「ははは、ありがとう。オラドゥールまで時間がかかる、また欲しくなったら言いなさい」

そう優しい言葉をかけてくれる。

むぅ・・・この人、良い人かもしれない・・・

 

 

そして御者台から声がかかった。

「そろそろ出発します、あまり快適ではないかもしれませんが・・・皆様どうぞごゆるりと!」

僕の方をちらりと見ながら言ってくる、御者の人まで子ども扱いか・・・

すこし釈然としない、そんな思いを乗せて馬車は進み始めた。

 

こうして、僕の短い『はず』だった冒険が始まったのだ。




初投稿処女作、かなり緊張しています。
誤字脱字がないか、ストーリー上の矛盾がないか自己チェックはしたつもりですが何かありましたら是非ご意見ください。

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